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November 28, 2022
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エピソード 25

「社長、お昼ごはんはどうなさいますか?こちらにデリバリーするのは危険な気がするので、何か買ってきましょうか?」
「そうだな。三田村さんはどうするの?」
「私は、お弁当を持ってきました。」

 ぽかんとした美月には、お弁当を持ってくると言う発想がなかった。

「それ、僕に譲ってもらえない? その代り、好きなランチを食べてきていいよ。僕がごちそうする」
「え? 私のお弁当なんて、社長のお口に合うかどうか…」

 戸惑う新人秘書に、社長は両手を合わせて頼み込む。

「お願い!これから一週間外食出来ないんだよ。ステーキでもなんでも食べてきてくれていいから、ね!」



「さすがに女性のお弁当だけでは足りないか。食後でいいから、大きめのサラダを買ってきてくれないかな」
「分かりました。では、出かけてきます。」

 新人秘書が出ていくのを見送りながら、ふと今まで気づいていなかったことに思い至った。

「そうか、これじゃあ晩御飯もデリバリーできないな。」


 志保はコンビニの前で途方に暮れていた。あふれんばかりの会社員がコンビニの外にまで並んでいたのだ。

「あら、新しい秘書さんですよね。どうされました?」
「あ、受付の…」
「はい、受付嬢の七瀬です。この前はありがとうございました。例の吉川さんの件」
「あ~、困りますよねぇ。」

 そのまま一緒にコンビニに入ると、慣れた様子の七瀬と共にコンビニ弁当とサラダを購入した。

「私、ずっとお弁当だったので、こんなに混雑しているなんてしりませんでした。」


 社屋内に到着すると、それぞれの持ち場へと別れていく。志保は、仲良くなれそうな人が一人増えて、ご機嫌で秘書室に戻ってきた。

「ただいま戻りました。社長、こちらのサラダでよろしかったですか?」
「ああ、ありがとう。あれ、外で食べて来たんじゃないの?」
「はい、どちらもいっぱいで…。」

 外食に気後れしたと言うのは、なんとなく躊躇われた。自分の席で食事を終えて、片付けていると、美月が給湯室にやってきた。


「お口に合いませんでしたか?」
「ああ、そうじゃなくて。うちは、両親とも忙しい人たちで、子どものころから親子でそろって食事することなんてほとんどなかったんだ。母も家事をしない人だったしね。だから、家庭料理には縁がなかったんだよね。おいしかったよ。ありがとう」
「あ、あの…。私の料理でよろしければ、作ってきます。この1週間、社長はここにいないことになっているんですよね。デリバリーもできないのなら…。もちろん、どなたか作ってくださる方がいらっしゃるなら、いいのですが」

 きょとんとした顔の美月を見て、しまった、っと後悔する志保だったが、次の瞬間には両肩をガシっと掴まれていた。

「それ、ナイスアイデア! だけど、三田村さんの負担が増えてしまうけど、いいのかな?」
「大丈夫です。一人分も二人分も手間は同じですから」
「そうか、じゃあ、お願いするよ。好き嫌いはないし、食べられない物もない。食材を買ったら、レシートは全部こちらに回してくれる?」

早速、食事の手配を頼むことにした。これで食事の心配も無くなった上に、高級レストランにはない、ほっこりとした料理が食べられる。美月は上機嫌だった。

 その日、美月が体調を崩した話は、瞬く間に広がり、事務所内にはお見舞いの電話が続いていた。受付にも、お見舞いの品なども届き、美月の人気の高さを物語っていた。
 5時の退社時間を過ぎた頃、志保は一旦会社を出て、いつものようにスーパーに寄り道した。

「メニューはいつも君が食べている物でいい。いや、そっちの方がいい!」

 妙に力説する社長を思い出して、ふと笑みがこぼれた。あの会社に入社して、あっという間の出来事だったが、今まで持っていたイメージをことごとく覆されている。

 料理をタッパーに詰めながら、ふと、美月の食事の量を確認しなかったことに気が付いた。

「仕方ないわ。少し多い目に入れておこう。」

 カバンに出来立ての料理を詰めて、志保は再び会社へと向かった。秘書室前まで来ると、エレベータを乗り換える。そこで、秘書室にまだ明かりがついていることに気が付いた志保は、中を確かめることにした。

「あの、どなたかいらっしゃるのですか?」

 そろりと覗くと、美月と榊が打ち合わせしているところだった。

「ああ、悪いね。助かるよ」
「え? 社長、どういうことですか?」

 明らかに戸惑う様子の榊に、にやりと笑って志保のカバンを指さした。

「僕の晩御飯だよ。外食もできないし、三田村さんにお願いしたんだ。今日のメニューは何?」
「えっと、豚肉の生姜焼きとほうれん草の白和え、それに具沢山のお味噌汁です」
「うわ、うまそう。それ、社長の分だけにしては多くない?」

 榊の目が爛爛と輝いている。

「社長がどのぐらい召し上がるか分からなかったので、少し多い目にお持ちしました」

 そういいながら、カバンの中身を少し開いて見せると、香ばしい生姜焼きの匂いがふわっと広がった。榊は思わず生唾を飲み下す。

「うん、いい匂いだ。大丈夫、全部食べるよ。さて、榊。さっさと終わらせよう。三田村さん、そこに置いててくれる。ありがとう。帰り、気を付けてね。」
「はい。では、失礼します」

 志保はカバンごとソファの横のテーブルに置くと、そっと秘書室を出た。エレベータを出て家路につく中、なんとなく物足りなさを感じていた。何を期待していたんだろう。社長が食べているところをじっと見ているわけにもいかないのに。自分の中の妙な期待が外れて、不思議な感覚に陥っていた。

つづく





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最終更新日  November 28, 2022 09:40:08 AM
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