~戎光祥出版、 2018 年~
横溝正史さんの幻の長編作品です。『新潟毎日新聞』『新潟日日新聞』に 1941 年 6 月 12 日から 12 月 29 日まで連載されていました。(この作品が見つかった経緯は、山口直孝さんの解題に詳しいです。)
執筆時期の時代背景から、本書は、殺人事件が起こったりトリックがあったりといった探偵小説ではなく、横溝さんが「初めて挑んだ通俗小説」 (430 頁 ) です。
しかし、ストーリーテリングの面白さはやはり抜群です。
主人公は、上諏訪の町に住む緒方有為子さん。婚礼を目前にして、婚約者側から破談がもちかけられ、父親の順造さんは激怒し、その後亡くなります。既に母を失っていた有為子さんは一人になってしまいますが、破談の理由は、有為子さんの出生の秘密にあるようで…。
町で敬愛されている山崎先生からある手紙を受け取り、また先生のすすめもあり、有為子さんは東京に出ます。しかし、東京で有為子さんが下宿することになっていたのは、順造さんに恩がありながら有為子さんの財産を奪おうとする夫婦でした。
苦しみながら、仕事を探す有為子さんですが、彼女は事故にあってしまいます。
その後、彼女を助けてくれたのは、高名な画家・五味楓香先生の娘、美奈子さん、その友人(?)の蓮見邦彦さん、そして楓香先生の一番弟子の賀川仁吾さんでした。
美奈子さんたちの人間関係にも悩む有為子さんですが、やがて、大きな転機が訪れます。
…と、こういった流れなのですが、その後も有為子さんには辛いことがいくつも待ち受けています。
戦時中の作品ということで、いろいろ時局を反映した(時局に配慮した?)展開もありますが、解題にもあるとおりさほどそこに重きはなく、有為子さんを取り巻く展開にどきどきしながら読み進めました。
また、上でも少しふれましたが、解題にある本作発見の経緯なども興味深く読みました。
良い読書体験でした。
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