横溝正史『双生児は囁く』
~角川書店、 1999
年~
角川文庫などに未収録だった作品を集めた短編集です。
20
頁程度の短編から、 90
頁程度の中編(表題作)まで、収録作の長さも雰囲気もバラエティに富んだ、7編の作品が収録されています。
―――
「汁粉屋の娘」
汁粉屋の有名な姉妹が言い争っているのを目撃した主人公。後日、姉妹の一人が殺され、一緒に店に行った友人が警察につかまってしまう。
「三年の命」
暗室で食事のみ与えられ、歩けないまま大きくなった青年が、篠山博士の邸宅近くにうずくまっていた。やがて青年は、その奇妙な経歴から有名になるが、青年と暮らす篠山家の関係者には、何者かから脅迫状めいたものが渡される。青年の命はあと三年だというのだが…。
「空家の怪死体」
紳士が借りたものの誰も住んでいなかった空き家から、死体が発見される。現場付近では、女性が目撃されていた。また、関係者と思しき人物も失踪しており…。
「怪犯人」
大地震で火災に襲われた宿から、男の死体が発見される。男は何者かに殺されていた。宿で働くお君は、火事の中、大切なものを取りに行こうとして、拳銃を持った男を目撃していた。宿から失踪した客が、果たして犯人なのか…。
「蟹」
演奏旅行に出た友人のアパートを借りることになった五郎が部屋に戻ると、女性が部屋を物色していた。酒の勢いで強気に出たが、女は「悪党!」と叫び五郎にケガを負わせ逃げていった。しかし彼女のことを、警察にはあいまいに説明した。彼女には、幼少期に出会った、倉に住む少女と同じ入れ墨があった…。友人のおかした悪事と、倉の少女との関係とは。
「心」
人を殺したと言って警察に入ってきた男。しかし男がいう事件を起こした日付は、そのときから 22
年も前の話で…。
「双生児は囁く」
真珠王・加納が開催した真珠の展覧会では、真珠は檻の中に陳列されていた。中でも「人魚の涙」と名付けられた真珠はあまりにも高価で、新興財閥・白井がどんな手段を使っても入手したいというほどだった。しかし、加納の使いでやってきたという女の策略で、「人魚の涙」は盗まれてしまう。さらに、その直後、檻の中で作品の紹介を担当していた「檻の中の男」が殺されているのが発見され…。双子の夏彦と冬彦が真相解明に挑む。
―――
特に印象的だったのは「怪犯人」「蟹」「双生児は囁く」の3編でした。
「怪犯人」は、冒頭の大災害の衝撃から始まり、お君の数奇な運命が印象的。「蟹」では、幼少期の思い出が悲しい現実につながっていきます。表題作は、上の内容紹介では省略しましたが、冒頭は入れ墨師の彫亀さんが経験した奇妙な体験から始まり、最近紹介した 『金田一耕助の新冒険』
所収「ハートのクイン」、 『スペードの女王』
へと通じるエピソードですし、双子による謎解きも面白いです。
バラエティに富んだ作品集です。
(2023.03.23 読了 )
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