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第7章
西王
「話って?」
深夜のミーティングの後、さらに呼び出されたゼロだが、特に何も気にする様子もなく話を切り出した。戦っていない分、疲労度は少ないのかもしれない。
レリムの部屋のソファーに無断で腰をかける。彼女は、というと執務机の椅子に座っている。二人の距離は、3,4メートルといったところだ。
「ここでの初陣となったわけですが、どうでした?」
これが呼びだれた理由ではないだろうが、ゼロも言いたいことがあったので普通に答えることにした。
「そうだな、何ていうか、ゆるい戦いだな」
“ゆるい”の一言に、レリムは少々首をかしげた。うまく言葉の意味を捉えられなかったようだ。
「俺らは兵を使った戦争をやってたからな、何かに欠けるように感じるな。それと、1回の戦いで1度しか勝負を挑めない、っていうのはどうかと思うぞ」
あぁ、といった風にレリムは頷いた。
「逆に言わせてもらえば、私たちは数対数の戦いは分かりませんので、そこは納得してもらうしかないですね。それに、以前も言いましたが、ここでは戦いの規則は絶対ですし、それを上手く利用すれば――」
「分かったよ。郷に入っては郷に従えって言うんだろ?」
「残念ながら」
「だったら寄り道せずにすぐ本題に入ってくれ」
呆れたゼロを見て、レリムはクスリと笑った。
「では、お言葉の通りに」
少し和やかだった空気が、一瞬にして冷え切った。
「先程言った“神魔団”のことなのですが、私は正直彼らと戦って“死なない”が確実に出来るのは、私とダイフォルガー、そしてゼロ、貴方の3人だけだと見ています」
断言的な言葉に、ゼロは目を細めた。
「先日“森の守護者”が“神魔団”に襲撃されたらしいのですが、守護者の中で2番目の実力者であるロゥ・バルバトスも全く歯が立たず敗退したとのことです」
誰か分からない人のことを言われても、正直ピンとこないのだが、とりあえずゼロはレリムが言おうとしていることは予想できた。
「レリム」
ゼロは彼女の話を切った。
「次の戦い、俺も出ればいいんだろ?」
「いいのですか?」
彼女が求めた言葉だったが、彼の口から言わせる形になったことに対して、彼女は少し気が引けたようだった。その反面、自分からは言い出しにくかったことなので、ゼロが言ってくれて助かった、という面もある。
「あんたやミュアン、ゼリューダには恩があるしな。それに、最初の約束を破ることになっても仲間が死なないで済むなら、それに越したことはないだろ」
うっすらとゼロは笑みを浮かべた。“男に二言はない”とは言えないが“仲間のために”という意志は強いようだ。
「その心、感謝します」
レリムは、深く頭を垂れた。
澄み切った夜空に、星が一つ流れた。
ゼロがレイの待つ家へと辿り着いた頃には、既に朝日が顔を出そうとするような時間となっていた。前もってレイに渡されていた合鍵で扉を開け、極力音を立てないように家の中に入る。朝日が昇ろうとする時刻とはいえ、家の中はまだまだ真っ暗だ。
「こりゃまたえらい遅いお帰りやな、ゼロ」
不意をつかれる形で声をかけられ、ゼロはつい身構えてしまった。ランプを片手に寝室からレイが姿を現す。その目の色から睡眠欲が窺えた。
「眠いなら、寝たほうがいいぞ」
それなりに親切心で言ったつもりだったが、レイには呆れられてしまった。両手を上げ、首を振る。同時にランプも持ち上げられ、彼の顔が光に当てられ輝いた。
「ゼロの帰りを待っとったんやで? 俺は」
「それは、悪かったな」
その言葉を聞き、決まりの悪そうに返事をする。
「まぁええわ。まず横になろうで」
そう言い、再び寝室へと戻るレイ。うまく彼の言動の意味を掴めないゼロだが、後を追うように寝室へと入っていった。
「ゼロ、演技下手やなぁ……」
ベッドに横になり、レイは欠伸と一緒に今の言葉を吐き出した。
「お前が巧すぎるんだろうが」
ゼロもレイと同様に、ベッドの上で大の字になり、首を傾げレイの方を見ていた。
まだまだ目が冴えていて、寝付けそうに無い。
「あれくらい出来へんと世の中渡っていけへんて」
「まぁ……これからなんとかするよ」
「まぁ、それはもうええわ」
レイは一呼吸を置いた。それとほぼ同時に、ランプの火が消えて、室内が暗闇に包まれる。だが、二人とも何も言わなかった。
「ゼロ」
声に真剣みが帯びる。記憶に薄い、レイの真面目な声。
「守護者と十天使の同盟を結ぶために、俺に協力せんか?」
ゼロはすぐには答えなかった。
「拒否はしない。だが、同盟っていうのは言うほど簡単なものじゃないぞ? 双方の利益は、まぁ打倒“神魔団”だろうが、問題はその後だ」
ゼロの頭の中に、東西南北統一以前、西と南が結んだ同盟が過ぎった。自分は直接同盟への過程に参加はしなかったが、今は亡き父ウォービルが東奔西走、いや、南奔西走の如く動き回っていたのを思い出す。たしかあの時は絶対の協力戦線を約束し、戦時出費に関してはその3割を同盟国が負担するという条件だったはずだ。その後についての取り決めは、なかったが。
「“神魔団”を倒せば、覇権はもう目と鼻の先だろ? そのケースでは、守護者と十天使のどちらが覇権を手にするんだ?」
「関係あらへんよ」
「は?」
「だから、関係あらへんて」
意外すぎるレイの発言をゼロは理解できなかった。
「“神魔団”を倒したら、俺らは同盟から抜けるんや」
「おいおい」
レイは自信たっぷりな声なのだが、どこからそんな考えが浮かぶのか、ゼロには理解不能だった。
「もともとここには居るべきやない存在やんか。構わへんやろ。だから、適当なことでも言っておけば大丈夫や」
久々に、自分はここの人間でないということを実感する。そう、本来ならば二人はここにいるべきではないのだ。
「そんで、抜けたあとはシーナ・ロードを倒して西に帰還。っていう予定や。どや? 悪い話やないやろ?」
―――伸るか反るか……。
真っ暗な部屋の天井を仰ぐ。右手を伸ばし、固く拳を握り締めた。
「簡単に言ってくれるな」
「何をや?」
「シーナ・ロードは、中央最強なんだろ? 俺ら二人で勝てると思うか?」
「なんや、自信ないんか?」
「そういうわけじゃない。ただ甘く考えすぎじゃないか、って言っているんだ」
「俺から言わせれば、東西南北最強の“死神ゼロ”ともあろうもんが何を恐れる必要があるねん、って感じやで」
ゼロにはレイの言葉が信じられなかった。眠気故に頭の回転がよくないのかもしれないが、言葉があまりに雑すぎるのだ。
「協力はする。だが、利用させはしない」
無意識に、ゼロも棘のある物言いになってしまった。
「シーナに勝つために最後まで残って、最後の覇権を争うに巻き込まれたら洒落にならんで?」
今話している彼こそが、本当のレイ・クラックスという人物なのかもしれない。そんな考えがゼロの脳裏を過ぎった。
「たしかにお前はウォーさんに、俺はレリムへ恩がある。だがお前が言ったように俺たちは“在らざる者”だ。二人のどちらかに覇権を任せたいと思うかもしれないが、シーナ・ロードが“神魔団”のような危険思想も持っているとは限らないぞ? お前が会ったことがあるって言うなら別だが」
―――やっぱ……ゼロは強いなぁ。
レイは密かにため息をついた。
「まぁ……ここで俺らがケンカしてもしゃーない。ひとまず、当面は同盟のために粉骨砕身しようや」
「……そうだな」
お互い満足のいく結論に至らなかったが、身体は正直で、二人はどちらがもう何も言うこともなく眠りへと落ちていった。
ゼロは森の中を疾走していた。だが依然として追い迫る相手と距離がひらいたようには感じられない。ゼロは無意識に舌打ちした。
先日レリムから“神魔団”の話を聞いてから3日後、準備中の“エルフ十天使”の砦へその“神魔団”の方から攻めてきたのだ。実際の所、ゼロは砦へ向かう途中を襲撃されたのだが。
そういった経緯で、彼は今走っているのだ。
―――もう少し、拓けた場所があればいいんだが……。
チラッと後ろを振り返った彼の視界には、彼と同じくらいの速さで追って来る女性が映った。
―――速ッ……!
さらに速度を上げようとしたゼロだったが、突如視界が開けたためにその足を止めた。
先程の相手の速度を計算に入れて、振り向きざま流れを切らさずに愛刀を振りぬく。何の躊躇いもなく振り切ったのだが、手ごたえはなかった。
「逃げてるのかと思ったら、場所を変えてただけだったのね」
改めて自分を追っていた相手を観察してみて、ゼロは納得がいった。
その姿だけを見れば多くの者は首を傾げるであろうが、ゼロは相手の美しい容姿の中に、背筋が凍るような感覚を覚えた。年齢はおそらくゼロとそう変わらないであろう、完成されかかった美貌の中にわずかながら幼さが窺える。病的なまでに白い肌と合わさった青いロングヘアーが、なんとも形容しがたい優美さを表していた。そしてなによりプレッシャーを与える要因は、お嬢様然とした彼女が持っているにもかかわらず、何の違和感も覚えさせないハルヴァードだった。平凡な庶民などが武器はおろか農具を持っていることにさえ大抵の人は何らかの印象を受ける。だが、彼女の持つそれはまるで彼女の身体の一部のように馴染んでいた。それは、ハルヴァードを持つことが生活の一部になっていることを如実に表していた。
流石のゼロと彼の愛刀も、そのレベルにはまだ至っていない。
「逃げれるに越したことはなかったんだがな」
刀を握ったまま、ゼロは答えた。相手は女といえども、あの重い武器を持ったまま俊足のゼロに劣らぬ速さで追って来た相手である。足腰の強さや体力はゼロ自身の方が劣っていると判断するに難くなかった。少々彼にとっては情けなく思えるが。
「冗談。東西南北最強の死神さんにそんなこと言われるとは思わなかったよ」
「なんだ、俺も意外に有名なのか?」
「ま、あのムーンを倒したって噂はどの派閥にも伝わってると思うけど」
彼女のさっぱりした口調に、ゼロは敵と認識した上でさほどの嫌悪感を抱かなかった。かと言って油断するようなことはないが。
「私としては、実力云々の前に、君の噂以上の美貌の方が嬉しいけどね」
美貌、そう形容されるのはどこか歯がゆい感じがした。ゼロ自身自分の見た目を“男らしい”と自負したことは生まれてこのかた一度たりとも無いが、そうはっきりと言われていい思いはしなかった。
「俺の見た目と、お前のアビリティはなんか関係でもあるのか?」
あえて彼女の言葉に突っ込みはいれず、ゼロは相手の戦略を探るために質問した。
「う~ん、私個人的な問題かな。やっぱり下僕にするなら、カッコイイ人のがいいじゃない?」
「勝手なことを言ってくれるな」
「ま、私が勝ったらの話だけどね。私が勝ったら、私のアビリティ“誘惑”で下僕になってもらうよ」
淡々と述べていく彼女だが、その言葉の一つ一つにゼロは内心舌を巻いていた。
「あ、申し遅れたね。私は“神魔団”のシルヴィア・シェアー。戦いは、どちらかが死ぬまでやめないのがモットーだよ」
彼女――シルヴィアが地を蹴り正面から突っ込んでくる。その様を、ゼロはひどく冷静に見つめていた。
―――なんだ……なんか、身体が……?
ここ数ヶ月、真剣に誰かと相対していなかったゼロの身体は、何故か不思議と軽く動いた。悠々とシルヴィアのハルヴァードを避け、彼女の背後を取る。
「く?!」
慌てて振り返るシルヴィアを、ゼロはひどく冷めた目で見ていた。今の一瞬で彼女を殺すことも出来たはずだが、ゼロの黒刀は彼の右手に握られ、刃先を地面に向けたままだった。
「流石……“最強”は伊達じゃないね……」
ぼーっとした、年上女性からならば『可愛い』と称せられるような表情を見せるゼロに対して、シルヴィアは先程までの余裕を失い、冷や汗を流していた。やはり噂以上の美貌よりも、噂以上、想像以上の実力といった感じだ。
―――まるで、身体が戦いを求めてて、戦えて嬉しいみたいだな……。
客観的に自分の身体を判断するゼロだが、その自己結論にゼロは呆れざるを得なかった。
―――なんだかなぁ……。
慎重に、攻めあぐねる様子でハルヴァードを構えるシルヴィアに対し、今度は先程とは逆にゼロから攻めていった。
力強く大地を蹴り、一気に距離を縮めるゼロの動きに対し、シルヴィアはハルヴァードの横薙ぎで牽制をすることで対処した。流石に“神魔団”の一員、速さだけで自分を見失ったりするということはないようであった。
お互いの武器を伸ばしても届かない程度に距離を置いて、二人は対峙した。悠然とし、まるで散歩でもしているかのようなゼロと、全身に気を巡らせ、隙を見せないように武器を構えるシルヴィア。不自然な状態の二人は、打つ手を探すように沈黙し、辺りに血の気もよだつような静寂が訪れた。
―――あの足腰だ。正面から行っても力負けするだろうな……。さっきの動きからしてあんまり戦闘スピードは速くないから、そこを衝くしかないか。
ゼロがすっと姿勢を変えた。右半身を前にし、刀身に身を隠すようにする、一分の隙もない、ゼロの構えの一つだった。
タイミングを計るため、また静寂が訪れる。先程からずっと隙を見せないようにしているシルヴィアには、この時間が恐ろしく長く感じられた。実際には数分なのに、まるで何日間もこの姿勢を保っているような、そんな緊張感だった。
彼女が静かに、ゆっくりと息を吐く瞬間をゼロは見逃さなかった。先程よりも速いスピードで接近する。それに合わせて彼女も先程と同じようにハルヴァードを振るうが、あろうことかゼロはそのハルヴァードの細い柄に飛び乗り、勢いの止まらないハルヴァードは一つの攻撃を終え、彼を乗せたまま彼女のすぐ側へと戻ってきた。
「くぅ!」
間を置かずに振り下ろされたゼロの刀から逃れるため、彼女は武器を手放し前方へと身を投げ出した。間髪の差で背中から袈裟切りにされるのを避けたのだが、剣圧で彼女の左肩の皮膚が裂け、血が滲んでいた。到底致命傷などに及ぶものではなかったが。
「はぁ……はぁ……」
仰向けになり、酸素を求めるように息をする。
基礎体力の面ではゼロを凌駕するはずの彼女だが、今は圧倒的に立場が逆であった。最強と称せられているとはいえ、アビリティも持たず、基本スペックも劣るはずの東西南北のエルフである彼と、“神魔団”の一員であり、中央でも十本指に入る自分との間にここまで明白な実力の差はあるとは思いもしなかった。
―――これが……死神ゼロ・アリオーシュという男ってことね……。
このまま自分が殺されてこの勝負も終わるのだろう、そう考えたシルヴィアに、死に対する恐怖はなく、『あぁ、やっときたんだ』というような、半ば諦めに近い感情が生まれていた。彼女にとって“実力”とは絶対の価値であり、実力の差が故の悔しさや涙などは、敗者の戯言に過ぎないのだ。そう思うくらいなら、実力を磨いておけばいい。彼女からすれば、ただそれだけのことだった。
だが。
「大した反応速度だな」
あろうことか、彼女が今戦っている男は彼女の得物であるハルヴァードを彼女の方へと投げて寄越した。数キロあるその物体が彼女のすぐ側へ落下し、地面が少し凹んだ。
「情けのつもり?」
上半身を起こし、ゼロを睨む。
「無抵抗の奴を躊躇いもなく殺せるような度胸を持ち合わせてないだけさ」
「嘘。それで何が“死神”よ」
「周りがそう言うのは周りの勝手だろ?」
「………………」
シルヴィアは立ち上がり、寄越されたハルヴァードを再び手に取った。
「同情されようがどうしようが、私は貴方を殺す。それに変わりはないよ」
再び自分と対峙する彼女を見て、ゼロは野獣の如き獰猛な笑みを薄く浮かべた。本当に、戦うことを楽しんでいるかのように。
「別に礼を言われたくて殺さなかったわけじゃないぞ」
「望まれたって、礼などするものか!」
先程まで彼女が持っていたゼロに対する恐怖は怒りによって消え去り、先程よりも鋭い軌跡を描き、ハルヴァードがゼロを襲った。ある程度は予想していたが、その予想を超える速度にゼロは刀を振るい勢いの相殺を狙った、が。
「ッ!!」
やはりゼロの予想通り、ゼロのスピードを持ってしても彼女のハルヴァードの重量を伴った一撃相手では押されてしまうようである。刀とハルヴァードが合わさった瞬間それを理解したゼロは、自ら後方へと飛び退くことで衝撃を和らげたのだが、続けざまにシルヴィアの連撃が繰り出された。
彼女は、体勢を立て直しながら吹き飛ぶゼロの首を狙って得物を横に薙ぐ。それに対し刀で攻撃を防がんとしたゼロだが、足場のない空中では踏ん張りが利かず、刀とは別の方向にゼロの華奢とも言える身体が激しく吹き飛んだ。
ゼロは上手く受身を取り彼女の次なる攻撃を見切ろうとした。例え刀を手放したとしても彼は戦闘中ということを忘れない。冷静に、第三者のように戦局を見極める。もしかしたらそれが彼を“死神”と呼ばせる所以の一つなのかもしれない。
彼女が着地したと思われる地点に彼女の姿はなく、ゼロはすぐさま身体を前方へと投げ出した。コンマ数秒の後に、ゼロがいた場所に彼女のハルヴァードが振り下ろされた。彼は彼女の姿が視界にいないことを勝手に不思議に思わず、相手を探すこともなく冷静に頭上だと判断したのだ。長い実戦経験と卓越したセンスがもたらした九死の一生であった。
成り行きとはいえ一時的にも彼女の背後を取ったゼロは、着地後まだ姿勢の十分ではない彼女の足を払うように思いっきり蹴り、彼女が体勢を崩している間に手放していた刀を再び握った。
「正直に、貴方の実力を恐ろしく思うよ」
彼女が体勢を立て直す間に、すっかり体勢を立て直していたゼロに気付き、シルヴィアは言った。
「俺の帰りを待ってる人がいる。そのために死ぬわけにはいかなくてな」
ゼロは刀を両手で握り、正眼に構えた。
「帰りを待ってる人……か」
彼女の呟きがゼロの耳に入ったかどうかは定かではないが、彼女は確かにそう呟いた。
「そろそろ終わりにさせてもらうよ」
「残念だが、そうするしかないみたいだな」
今度は二人同時に動いた。ゼロは刀を左腰に回し、極限まで相手の動きを見ることに努める。対してシルヴィアは、ハルヴァードの射程距離ギリギリで振り始め、ゼロの射程外で勝負を決めようとした。
それに対しゼロは一瞬の間を突いて彼女と交差する。彼の刀を振るう姿を捉えることのできるものがどれほどいるであろうか。それほどまでに極めた速さ。
「え?」
立ち位置が逆になったあと、シルヴィアは何か違和感を覚えた。
「それでもまだやるか?」
背後から聞こえたゼロの声で、彼女ははっとした。ハルヴァードの刃を含む上半分が綺麗に消え失せていた。鋼で出来ているはずの、まず折れることなどないと思われる武器があろうことか彼のような、非力と称しても問題ないような男に破壊されるとは。ゼロのスピードがシルヴィアのパワーを勝った瞬間であった。
彼女は自分の完全な敗北を悟った。
「お生憎様、他の武器は持ってないし、素手で戦ったことはないの。私の負けね」
残った柄の部分を手放し、両手の平を天へと向け敗北を示す。今度こそ本当に終わりだ、そう思ったのだが。
「まだアビリティってのがあるんじゃないのか?」
またしても予想外の言動を取るゼロに対し、彼女は呆れるばかりだった。
「試して見る?」
「構わないぞ」
この男は完膚なきまでに自分を潰そうと思っているのか、そうだとすれば見た目に反して相当腹黒いんだな、などと思いつつも、彼女は自分のアビリティ、“誘惑”を発動させる。彼女のアビリティの発動条件は、両手を相手の方へ向けること。それにより、自我の弱い相手ならば己を見失い彼女の手駒となるのだが。
ゼロは少し表情を歪めただけで、彼女はやはり、とでも言いたげに首を振った。
「これでホントにもう打つ手なしよ」
彼女は諦めた表情でゼロを見た。
―――素直な表情……。ホントにこの人が死神だっていうの……?
「敗者らしく勝者に従う気はあるか?」
真っ直ぐにシルヴィアを見たまま、ゼロは彼女にそう告げた。
「ええ、死ねと言われれば大人しく死ぬわ」
「じゃあ、もう誰も殺すな」
「は?」
またしても、3度目の予想外の言葉に彼女は情けない声で聞き返した。
「“神魔団”から抜けて、これから誰も殺さない生き方をしてみろ」
「何よそれ? 私を殺さないっていうの?」
「あぁ」
ゼロの言葉に、嘘は感じられなかった。
「まぁ、正直なところ俺の我侭なんだけどな。こんなところまで来て、人殺しはしたくないさ」
シルヴィアは小さくクスッと笑った。もしかしたらこんな風に笑ったのは生まれて初めてかもしれない。事情により生まれてすぐ親に棄てられ、“神魔団”のリーダーヴァリスに拾われた彼女は物心つくまえから武器をもたらせ、ただ敵を殺すことを、“神魔団”の思想を叩き込まれてきたのだ。
「それが死神の言うことなのかしら?」
「“死神”というより、“西王”の言葉として取ってくれ」
「……いいわ、私は敗者だもの。大人しく聞いてあげる」
―――そういう生き方も、ありかな……。
「じゃあな」
ゼロは素っ気無くそういい残すと、力無く地面に座り込んだシルヴィアを残し戦場を後にした。
彼女は呆然と、去り行くゼロの背中を見つめていた。
ゼロがシルヴィアと戦い始めたのとほぼ同じ時間。
十天使のセルナスとシューベルクも砦へ向かう途中に、“神魔団”の襲撃を受けていた。
「おい、こいつはちょいとやべぇんじゃねぇか?」
「あぁ……流石に死ぬかもな……」
シューベルクは愛剣を抜き、恐怖に震える肩を必死に押さえようとしていた。セルナスも、拳にナックルを装着し顔の高さまで両手を上げ軽くフットワークを踏む。全ては恐怖を紛らわすためだ。
今二人の前に立ちはだかる男は、“神魔団”の副団長を誇る中央最強の拳闘士、ブラッド・ダーク。すらっとした長身だが、部分部分を固める筋肉から、彼の恐るべきボディバランスが見て取れる。鋭い目つきと鋭い眼光から、彼の強さが見て取れた。
十天使の二人は勢いよく攻撃を仕掛けた。本能では、逃げろ、止めろ、などと危険信号が鳴り響き、すぐに訪れる死を理解していた。現状ではどうやっても埋められない実力の差を理解しているのだ。
「雑魚が」
ブラッドは二人の攻撃をいとも簡単に避けてみせ、お返しと言わんばかりに二人に拳を返した。
二人は、胸部から聞こえる嫌な音を耳にした。即死という自体は避けたものの、立ち上がった二人の口からは鮮血が溢れた。先程の拳で、胸骨を砕かれ、内臓もやられたようだ。それは明らかな致命傷で、遅かれ早かれ二人の死は確定的だった。
「苦しみは短い方がいいだろう?」
その声が二人の耳に届いたかは定かではない。ブラッドの速過ぎる動き、重すぎる拳の前に、“エルフ十天使”所属の天使セルナス・ジーフォンと、同シューベルク・ムッコートは再び砦へと辿り着くことなくその生涯を終えた。
そして事を終えたブラッドは何気なくシューベルクの剣を拾うと、その現場から悠然と姿を消していった。
砦へ向かう途中に十天使のメンバーが襲撃を受けていたように、“エルフ十天使”の砦
自体も“神魔団”の襲撃を受けていた。
覇権を争うにおいて、各派閥のリーダー格が敗れることがその派閥の敗北になるのは勿論のこと、砦の陥落も無論その派閥の敗北である。
そして今回“エルフ十天使”の砦へと放たれた“神魔団”の戦士は、“森の守護者”に所属している“独創者”レイ・クラックスを完膚なきまでに破ったゴーストと呼ばれる男だった。
「慌ててはなりません。如何に相手が強大でも、付け入る隙というものはあります」
“エルフ十天使”のリーダー、天師レリムは砦の中にいる彼女を除く3人に指示を送っていた。
「ダイフォルガー、ゴーストの相手に行ってくれますか?」
静かに告げる彼女の声には、“エルフ十天使”を創設当初から支えてくれた男への信頼が込められていた。
「分かった」
その返事を聞き、彼女が頷く。そして他の二人、ゼリューダとナナの方を向いた。
「ゼリューダ、貴方は私と共に他の敵がいないか警戒してください」
「はい」
「“神魔団”に、私たちの力を見せてあげましょう」
レリムの言葉に、3人は頷いた。
「ダイフォルガー・ギッターガイア、貴方が俺の相手というわけか」
砦へ攻撃をしたりするわけでもなく、ゴーストはただ砦の外で誰かが出てくるのを待っていたようだった。
「不服か?」
「いや、そんなことはない」
平静を装うダイフォルガーだが、ゴーストから発せられる威圧感――彼のアビリティ“恐怖”――に冷や汗が流れた。
両者が武器を手に取り、構える。
先に動いたのはダイフォルガーだった。
その巨体からは想像もつかない速さで接近し、得物の大剣を振り下ろす。彼の肩口から振り下ろされた剣は、一撃必殺の破壊力を伴ってゴーストへと振り下ろされる。
だが、ゴーストはその攻撃に怯む事無く彼の武器である戦斧で止めた。力と力の正面衝突に、大気が震えた。
レイとは違い、ダイフォルガーには恐怖にすくむことからくる躊躇いなどはなく、ゴーストを殺さんとする勢いがあった。いや、それさえも恐怖を隠すための意志なのかもしれないが。
ダイフォルガーはいったん間合いを取り、相手の隙を窺った。だが、ゴーストからは一分の隙の隙も見当たらない。それはおろか、自分の全てを狙われているような錯覚を覚える。迂闊に攻め込むわけにもいかず、ダイフォルガーはゆっくりと息を整えた。
彼が攻撃に転じないからか、今度はゴーストが先に動いた。彼の速さにダイフォルガーは反応できず、巨大な戦斧がダイフォルガーの肩に斜めから入ったのだが、金属同士がぶつかったような鈍い音がし、ゴーストの手に手応えはなかった。
ゴーストは怪訝に思い間合いを取ったところで、ダイフォルガーはゆっくりと息をついた。
「それが貴方のアビリティというわけか」
「そうだ」
ダイフォルガーは無闇やたらに自分の手の内を明かすようなことはしない。例えそれが相手にとって知っていようがいまいがどうでもいいことでも、彼がよしと判断しない限り教えることはない。“エルフ十天使”のダイフォルガー・ギッターガイアという男は、そんな男だった。
「貴方のアビリティの察しはついた。だが長期戦は避けたいのでね、今日は早々に退散させてもらうとしよう」
そう言いゴーストはダイフォルガーの視界から消えていった。
彼はこの報をレリムへ伝えるべく、砦へと戻っていった。
ゼロとの戦いに敗れたシルヴィアは、未だ力の入らない身体をゆっくりと起こした。休んでいる間しばらく考えた末、彼女はエルフの森を出ようと決意していた。森を出てどうすると決めているわけではないが、森には、少なくとも中央にはいられない気がするのだった。
―――砦と反対の方が、たしか東……。そこでしばらく休んだら、森の外に出て行こう……。この腕があれば、それなりに食べていけるかな……。
だが、彼女の思いなど露も知らず、厄介な男が彼女の姿を捉えていた。
「どこへ行く? 砦はそっちではないぞ」
背後から聞こえた声に対して鋭く振り返る。
彼女は背筋が凍るような感覚を覚えた。今までに感じたことのないような、感覚。それは、恐怖を知らない“神魔団”から抜けようと決意したからこそ感じられる“恐怖”だった。
「ブラッド……」
頭が上手く回らない。言い訳さえも浮かばない。
「ん? お前武器はどうした?」
彼女のことなどお構いなしに話しかけてくる彼のことを、シルヴィアは睨みつけるように見つめていた。おそらく、彼は彼女が何をしようとしたか既に察したはずだ。
「負けたのよ、“西王”に」
「“死神”に?」
あえてゼロのことを“西王”と称した彼女の意図に気付き、ブラッドは皮肉るように聞き返した。彼がゆっくりとシルヴィアに近付く。
「弱者などいらん」
その場に立ち竦み、睨みつけるだけの彼女に向かって彼は持っていた剣を振り下ろした。何故彼が剣を持っていたか、ほんの少しだけ疑問に思ったが、その後の思考は続くことは無かった。
―――ちょっとだけ……ほんのちょっとだけでいいから……あいつが言った生き方……してみたかったな……。
儚い希望を胸に、シルヴィアは二度と覚めることのない眠りについた。
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