親しき仲にも礼儀あり

blkmoon

親しき仲にも礼儀あり

親がとても大きく見えたころ 
幼くて何の責任感も抱いていなかったころ 
あのころがとても懐かしい 

子供はどこか親を馬鹿にしてるのさ 
と親父が言ったのを思い出す。 

親と対等に話をするようになり 
意見の相違に声を荒立てて反発する年頃を経て 
自分が親と同じラインに「大人」いることに気がつく 

母親を泣かした。 

それはあたしが 
「親しき仲にも礼儀あり」 
を忘れたことが原因だ。 

彼女を傷つけ 
彼女もあたしを傷つけた。 

昔、めったになかった家族団欒のときに 
親父は言った。 

「自分の行動は自分で責任を取れよ。 
 いいか、俺たちは家族であって赤の他人なんだぞ 
 甘えるんじゃねえ。 
 わかったか。」と。 

父親が出て行ってから13年間 
13年前と同じ場所にいる人間が存在した。 

それは母親。 

13年間ひたすら親父の帰りを待つ母親 

あんたたちは何もしてくれなかったじゃない! 
と声を荒げる彼女。 

あんたも自立しなよ 
いつまでも同じ場所に停滞しててどうするのさ 
と母親に言ってしまったあたし。 

あたしと彼女の関係にひびが入った。 

彼女は泣いていた。 
あたしが親父にそっくりだと。 

昔のあの強気なあんたはどこにいっちまったんだ? 
泣かされたら泣かし返す勢いはなくなっちまったのか? 

泣いてる彼女を見て 
彼女をあんなふうに泣かしてしまうことができる自分に怯えた。 

彼女の後を必死で追いかけてたころを思い出す。 
今では自分のほうが彼女の先を歩いてしまっているのか。 

彼女の手を引いてやらなきゃいけないんだと反省した。 

昔のようになんの責任もなくただ甘えているだけの子供でい続けることはできないんだと 
少し寂しくなった。 

2日間と半日 
あたしと彼女の間で冷戦が繰り広げられていたが 

それは 
あたしの「腹減った」と 
彼女の「不貞腐れて損するのはあんただよ」 
の言葉で終戦を迎えた。 

お互いにその話題に触れることはしなかった 
謝罪の言葉も出さなかったが 
あたしと彼女は二人で黙々と飯を食べた。 

「あんたもっとゆっくり食べなよ。相当腹すかしてたんだろ、もう限界だったのか?」 
と笑ってる彼女を横目に見てあたしの目頭は熱くなった。 
「ひどいこと言って悪かった。あんたは最高の母親だよ」 
と口にしていえなかったけれどあたしは心の中で何度も何度も謝罪した。 

生意気なこと言っても 
やっぱあたしもまだまだ甘いなあ・・ 
母親にはまだまだ勝てないやと実感した今日この頃だった。


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