5. 効かない薬

2人目出産顛末記


5.効かない薬

 15時になり、6錠目、最後の錠剤を服用した。強い陣痛が来るのを静かに待つ。
 ……でも来なかった。
 30分という時間はあっという間に過ぎ、とうとう陣痛促進剤の点滴を追加することになった。「3滴」という先生の指示のもと、看護師さんが点滴の薬を入れ替えた。

 分娩室にはこれまでも誰かしら看護師さんがいる状態ではあったが、常にそばにいるわけではなかった。ところが陣痛促進剤を点滴で入れ始めてから、2人の看護師さんが目の前に立ち、その場から動こうとしない。
 「薬が入って効いてくるまで20分くらいかかるかもね」
 なんて言いながら、私の様子をずっと見ているのである。

 なんだか落ち着かなくて、
 「点滴を打つと急に強い痛みがドンと来るんですか?」
 と聞くと、
 「うーん、人によるんだけどね」との答え。
 そもそもたいていの人は錠剤2~3錠で効いてくるらしい。
 「でも、なかにはあまり効かない人がいて…」
 って、またかい。子宮口が開いていれば「お産は早そう」、おしるしが来れば「一両日中にはお産になる」、「でもなかにはそうならない人もいる」。私はずっと「なかには…」のパターンだ。ここまできて、またそのフレーズを聞くことになるとは。

 「でも経産婦さんの場合、一度進みだすと早いから油断ができないのよね。それまで普通に会話していたのに、ちょっと準備しようと思って背を向けている間に破水して、赤ちゃんの頭が出かかってたなんてこともよくあるから」。
 そんなわけで、一時たりとも油断ができないと、看護師さんたちは私の前から離れられないらしい。

 無言で顔を突き合わせているのもお互いにきゅうくつなので、そのまま世間話に突入した。私は里帰りしてきているので、自宅周辺の環境や上の子の育児のことなど、いろいろ話した。分娩室とは思えないなごやかさである。

 16時。陣痛は少し強まってはきたものの、まだ世間話が続けられるほどに余裕がある。そこで点滴を「5滴」に強めることに。やれやれ、どれだけ薬を入れたら本格的な陣痛になってくれるんだろう…とぼんやり考えていた、その時。

 キューッとそれまでにないほどの強く長い痛みが突然襲ってきたと思ったら、股のあたりで「バチン」と何かが大きな音を立てた。バチン…? 驚いて体を少し動かすと、水が流れる感覚。たまたま背を向けていた看護師さんに、
 「もしかして、破水したかも…。いま、バチンという音が」
 と伝えると、1cm四方ほどの小さい試験紙を当てて調べてくれた。
 「本当だ、破水ですね」。
 時刻は16時5分だった。


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