海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(4)


 {あらすじ}堺の交易商人、甲比丹助左衛門は南海丸で、帰る途中、海賊と遭遇、海戦になる。

  (4)

 助左衛門と同じ歳の六兵衛自身の出で立ちは、顔が映るほどぴかぴかに磨きあげられた南蛮胴丸具足に腰には脇差、トマホークのような闘斧が二本差してあり、左手には大きな鉞(まさかり)二挺をひっつかみ右手はぎゅっと握りしめている。ざんばら髪を白鉢巻きできりりとまとめ、髭面に大きな眼、もひとつ大きな鼻の穴を全開させて敵をにらみつける。
 「久しぶりの戦で腕がなるのう」
 「六兵衛は腕が鳴っても、わしのは指がなるだけじゃい」
 将監が鉄砲の引き金をひく人差し指をまげて見せた。
 「将監よ、今日は鉄砲だけでは終わらんで。あの長い刀の世話になるやろ。用意しとるやろな」
 「背中にかついどるわい」
 六兵衛に背中の刀を見せた。
 敵の第一陣が船縁を軽々と飛び越えてなだれ込んできた。種子島が一斉に火を吹く。ばたばたと敵は倒れるが、生き残った者共は大声をあげて突っ込んでくる。弓隊がこれを撃ち、槍隊が阻止する。すり抜けて六兵衛のところまで達したものは二挺のぐるぐると振り回される鉞(まさかり)の餌食となってたちまちのうちに倒れた。鉄砲を持ち込んで、狙いを定めようとした敵の一人に闘斧を投げて倒した。助左衛門は一太刀で突っ込んできた髭武者を倒した。
 第二陣は火矢を放ってなだれこんできた。水夫たちが急いで海草のむしろをかぶせた。
 「味方を撃つなよ」
 将監が若い鉄砲足軽の一人に言った。乱戦状態の中では味方の鉄砲に撃たれることもあるのだ。鉄砲弾が、矢が飛び交い、槍が突き出された。
 応援に駆けつけた大砲組頭の吉野東風斎は、左手に鎖、右手に大鎌を握り運のいい奴は鎖の先の分銅で頭をかち割られ、運の悪い奴は鎌で首を切られた。
 「東風斎よ、一人づつでは時刻(とき)ばかり過ぎてどもならんで」
 「六角坊はいいわな、槍は突いても引いても、切ってもええんやから」
 背中あわせで闘いながらも、言い合いしてはまた敵に突っ込んで行った。二人とも二十七、八歳位で若々しく生気に満ち、力があふれている。
                       (続く)


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