海洋冒険小説の家

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(6)忍者の舟に爆撃、炎上



 何度も紙焙烙丸を落として、舟に近づいて行った。上から見る舟は本当に小さい。
 「もうすこし船を下げよう。敦盛殿! 炎を小さくして下され」
 船はだんだん高度を下げていった。その間も、焙烙丸が落ちてゆき、暗い夏空を彩る美しい花火大会になった。そして、そのうち焙烙丸の一つが凧の紐が外れて真っ直ぐ下に落ちてゆき、偶然にも下の忍者の舟のなかで爆発し、舟が燃え上がるのがみえた。
 「おう、あたったか。きゃつら、大慌てで逃げ出したことであろう。ふあっはっはっは」
 公秀殿は嬉しそうに笑った。次に落とした焙烙丸の光で舟のまわりを見たが、燃えている舟には誰も乗っておらず、全員湖に飛び込んだものとみえる。「かぐやひめ丸」の全員が、
 「オーオーオー」
 勝鬨を上げた。次郎丸は、足を動かしながら、手を上にあげ、勝鬨をあげ、忙しい仕事をこなしていた。
 「次郎、変わろうか」
 助左衛門が言ったが、
 「まだやれます」
 元気のある所を示した。公秀殿に聞いた。
 「この船は安土の町まで戻れますか」
 「今日は風がないようだから、そんなに難しいことではない。それでは助左衛門殿を下ろして、わしたちは京までふあふあと帰ることにするか」
 「しかし、こんなに暗いのに方角は分かりまっか」
 「かぐやひめ丸にも磁針(じしゃく)はついておる。まあなんとかなるじゃろう」

 安土の旅宿に、六兵衛とともに着くと、菅屋九衛門が待っており、
 「お館さまは一部始終を見ておられて、舟に火がかかった時は、大層お喜びになりもうした。琵琶湖の回りは、要所を固めましたゆえ、間もなく忍者どもは捕らえることが出来ましょう。礼を申す」
 頭を下げた。
 「明朝、お館さまがお目にかかりたいと申しておられる。で、使いのものと城へ来ていただきたい。たしかにお伝えしましたぞ」
 言うだけ言うと帰っていった。礼を言われるだけでいいのだが。さて、なにが飛び出すか。とっくに腹はくくっているので、平静であられた。六兵衛はいつも平静だ。そして行動は素早い。さあ、飯でも食って湯につかり寝るとするか。
                    (続く)




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