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2-7 律子の告白
律子の告白
起きると、天気は快晴だった。脇を見ると、レイナはもうすでにい
なかった。
「NBRランドなんて、何年ぶりなんだか」
おれは起き出して適当なTシャツを着てジーンズをはき、リビングに
出た。
「おはようございます、タカシ」
「ん、おはよ。レイナから何か伝言ある?」
「楽しんできて、だそうです」
「やれやれ。プレッシャーをありがとうって返しておいてくれ」
「返信しておきました」
おいおい、と突っ込む気力もわかなかった。今朝はホットケーキとフ
ルーツサラダの朝食だった。
それからジムに降りてしばし汗をかき、部屋に戻ってシャワーを浴び
て準備すると、約束の時間になった。
「浮気の場所へ恋人に送ってもらうってどうなんだろね?」
AIは生真面目に答えた。
「浮気かそうでないかは私達には判断できません。それに、本日のイベ
ントは浮ついた趣旨だけで開かれる物でもありませんし」
「どんな趣旨だっての?」
「表向きは、2012年の関東大震災時に崩壊・水没していたDZNランドを買
い取り、NBRランドとして再建して10周年記念として関係者を集めた貸し
切りイベントです。新アトラクションも初公開されますが、主旨はそこ
にはありません」
「じゃあ、何なのさ?」
「顔見せ会です。世界中の耐性保持者、1/10万以上の方達の大半が集め
られています」
「良く、そんな事が出来たもんだ。出したがらない国もいたろうに。そ
れでも何万人かくらいにはなるんだろ?」
「約7万5千人の該当者の内、個人的信条などで召集を拒絶された1万人
くらいの方を除けば、ほぼ全員が来場されています」
「二緒さんは、そこのホスト役ってか。その相手をするって・・・」
ようやく自分の役回りを理解した。
「相子殿下と奈良橋議員は、スペシャルゲストとも言える存在です。こ
の3日間、全ての国がこのイベントで発生するかも知れないカップル、
つがいと子供に注目しています」
「じゃあ、拒絶した人の大半は、耐性保持者じゃないパートナーがすで
にいる人たちだったとか?」
「そうです」
「集団見合いもいいとこだろ。ぞっとしないけど、それなら、レイナは
何で」来ないんだと言いかけて、思いとどまった。あいつはもう自分を
供出することを止めたんだった。
「人類唯一の完全耐性者のタカシは一番の注目の的ですよ」
「くじを引いて、当たりが出た人と一晩過ごさせるってか?さすがにそ
れは無い、よね・・・?」
「予定はされておりませんでしたが、悪くないアイディアかと思われま
す。実践されるなら、至急用意致しますが?」
「かあさん、AIだから仕方無いけど、冗談は冗談として受け取るなりス
ルーして欲しいな」
「申し訳ございません」
「いいって。でもさ、おれとか二緒さんとか相子殿下とか奈良橋さんが
まとまって動けるわけ?日本人に限ったって、何百人かは来てる計算に
なるわけだろ?」
「その点については対策済みです。ご心配には及びません」
「どう対策したっての?うちらだけ透明人間になるとでも?」
「詳しくは今日という日が終わってからお伝えします。それまではお伝
えできません」
「どうしてもってお願いしても?」
「どうしても、です」
それからしばらくして、目の前の風景が都心から、海沿いのレジャー
ランドに切り替わった。どこかのホテルのロイヤルスイートなのだろう
豪勢な部屋に、相子殿下と奈良橋さん、そして二緒さんが揃っていた。
「おお、来た来た。ありがとな、タカシ君」
奈良橋さんが寄ってきて肩に手を回されて、ぐいぐいと二緒さんの側
に連れて行かれてしまった。
面と向かい合うと、いやその前から、二緒さんは顔を反対側へ向けて、
こっちを見てくれなかった。
「あ、あの昨日はお見苦しいところを・・・」
と言いかけていたのを、相子様の大声で上書きされてしまった。
「律子ったら、何すねてるのよ」
隣にどさりと腰を降ろした相子様の声に二緒さんは答えた。
「べ、別にすねてなんかいないわ。ただ・・・」
「ただ、何よ。白木君のナニが目に焼き付いちゃって離れないの?いい
のよ、二人でここで一日過ごしてても。挨拶とか面倒なのはAIに任せ
ちゃってさ」
「なななにバカな事言ってるのよ、相子ったら!そんなわけ行かないで
しょ!」
まぁまぁとなだめていた相子様が、ちらりと奈良橋さんの方を見た。
マズイ!、と思った次の瞬間には、おれは二緒さんに向かって後ろか
ら突き飛ばされていた。
二緒さんとの間につかまるものなんてなく、ソファの背に向かって手
を伸ばすのが精一杯だった。その開いた腕の内側で二緒さんが驚いた表
情でこちらを見つめていて・・・。
何とか頭同士のガチンコは避けられたが、受け止めようとしてくれた
二緒さんと抱き合うような形になってしまった。
顔を真っ赤にした二緒さんと見つめ合うこと数秒。
「なななにするんですか!」
そう叫んで身を引き離そうとしたが、その前にカチャリという音が二
組響いていた。手首を見ると、プラスチック製の腕輪のようなものが、
おれと二緒さんの手首に取り付けられていた。
二緒さんが真っ青と真っ赤になりながら叫んでいた。
「こ、これってLovers Lock?あなた達、悪ふざけにしても何てものを!」
「な、何なんです、これ?」
「さて何でしょう?」
相子様がいたずらっこみたいに瞳を輝かせながらにやにや笑っていた。
「最先端の手錠技術を利用した恋人たちの為の、ま、健全な大人のおも
ちゃいうとこやな」
「お、大人のおもちゃ・・・?」
「だいじょうぶよ。これは設定した距離以上に相手が離れないよう拘束
する為のものだから」
「離れたら、どうなるんです?」
「相手と自分に激痛が・・・」
「ト、トイレとかどうするんです?事故とかあって片方と強制的に離れ
ばなれになっちゃったら?」
「一定時間は一定距離離れていても大丈夫。その間の痛みは耐えられる
くらいだけど、それ以上経つと大変なことに・・・」
「一番いいのは、二人ともくっついてることや。手握ってれば痛みは流
れない設定にしておくさかい」
「あ、あなた達・・・」
「ちなみにGPSでお互いの位置を確認できるようになってるから、逃げて
も無駄よ。無理に取ろうとすると、手首から先が大変なことに・・・」
おれはさーっと青ざめた。
「わい達もついてるさかい。だいじょぶだいじょぶ」
「何がどうしてだいじょうぶなんですかぁ!?」
「どうしても二人がいやって言うなら、今すぐベッドインすれば外して
あげるけど?」
「そんなななな・・・」
「あはは、冗談冗談。でもね、律子、これはあなたにとって必要なの。
だから白木君も協力してね。お願い」
真顔に戻られて頭を下げられて、おれは言い返せなくなってしまった。
「そ、まずは中学生レベルのデートから。お手手つないで仲良く遊園地。
健全やなぁ。さ、そろそろ行こうかい」
奈良橋さんは相子さんの腰に手を回して部屋の入り口の方へと二人で
去ってしまった。
「なんて強引な人たちなんでしょうね」
「同感だわ。全く・・・」
まだ二緒さんと体を重ね合わせるようになっていたので、慌てて立ち
上がった。すると、二人の距離は1メートルも離れていなかったのに、
手首がずきずきと痛んだ。
「健全な大人のおもちゃにしてはお痛が過ぎますね・・・」
「ごめんなさいね。巻き込んでしまって」
「いえ、もういいですよ。さ、行きましょうよ」
おれはレイナからの言葉も思い出して、二緒さんに手を伸ばした。
ソファに背を埋めていた二緒さんは、恐る恐るといった感じで、手を
伸ばしてきて、ためらうように引っ込めてしまった。
おれは引き戻される手を強引に掴んで、二緒さんの体を引き寄せた。
「なるほど。手を握ってると痛みは無くなるんですね」
「そ、そうみたいね」
「おーい、お二人さん、はよ行こうや!」
入り口の方から声がかかったので、おれは二緒さんの手を引いて動こ
うとした。が、二緒さんはまるで何かに怯えたように立ちすくんでいた。
「私、私には、そんな資格なんて、無い、の・・・」
「話は今日が終わってから聞きますよ。そうでないとあの二人から手錠
を外してもらえなさそうだし」
「だめなの。楽しい夢の後には、悪夢が待ってて・・・。あなたも、
やっぱり、私を許してはくれないの・・・・・」
「何の事です?」
二緒さんはじっとおれを見つめて、何かを告白しようと口を何度か開
けては、また何も言えずに閉じてしまっていた。
「二緒さん、何かお話があるなら、まずお聞きしますけど。相子様達に
は先に行っててもらいましょう」
こちらを心配そうにのぞき込んでいた二人に視線を送り、ソファに並
んで座ったこちらを見て何かを納得して、二人は部屋の外へと出ていった。
青ざめた二緒さんの手を握りながら、何と声をかけようかと迷った。
少し離れたところにAI達が控えていたので、何か落ち着く飲み物をと頼ん
で、少ししてから紅茶が供された。
空いた方の手でティーカップをつかみ、何口か飲むと落ち着いてきた。
二緒さんもおれに倣うみたいに、紅茶を口に運んで、顔色も大分落ち着
いてきた。
「お話、ぼくからしていいですか?」
「え、ええ」
「婚約指輪を渡す渡さないって話をした時のこと、覚えてます?」
「もちろん・・・」
「二緒さん、その、本当に、ぼくなんかと、あの、一緒になりたいと、
思ったんですか?」
「だ、だから勘違いしないでって言ったじゃないの!」
二緒さんが顔をそらしてしまったので、その顎先を指でつかまえて、
強引にこちらを向かせた。もうヤケに近かった。
「でも、でも、良子さんが昨日言ってた事を考えると、その・・・」
「りょ、良子は良子でしょ!私は私なの!」
「じゃあもうストレートにお聞きしますよ。二緒さんは、ぼくをどうし
たいんですか?ぼくとどうなりたいんですか?
以前、部屋から出る時に言ってたじゃないですか。ぼくを中目零那に
任せきりになんてしたく無いんだって!」
ド真ん中への直球に、二緒さんは固まってしまった。
二緒さんはしどろもどろになりながら、言葉にならないつぶやきをも
らしていた。耳の先まで真っ赤に染めてあうあうとしていたので、試し
に顔を近づけてふっと息をかけ、昨日された様にその耳たぶを軽く唇で
はさんでみた。
「ひうっ」と言葉が漏れたが、手で押し返されはしなかった。本気でい
やがっている様子も、パニックになってる風でも無かった。
おれはそのまま耳から首筋に唇を這わせながら、二緒さんの上半身を
自分の膝の上へと抱き抱えた。首筋から鎖骨へと舌先でなぞっていく。
ここから先を続けるかどうかで迷った。二緒さんの胸にそっと手を添
えてみたが、手首を掴まれて、だめ、と囁かれてしまった。
おれは首筋から顎先へと唇を移動させ、そしてまつげが触れ合うほど
の距離で言った。
「ここから先、続けるのであれば、二緒さんからキスして下さい。もし
続けないのなら、手だけつないで奈良橋さん達と一緒に健全なデートに
徹しましょう。一日が終われば、さすがに解放してくれるでしょうし」
「キスして。それだけ。ずっと。お願い・・・」
「それだけで、二緒さんの願いは叶うんですか?違うんじゃないんです
か?」
「違う。違うけど、今は、こうしてるだけで精一杯なの。胸がどきどき
し過ぎてて、それに、それに楽しい夢の後には・・・」
おれは二緒さんの頭を抱き抱えるようにして自分の胸に押し付けた。
「ぼら、ぼくのだってどきどきしてますよ。ぎりぎりなんですから、こっ
ちだって」
そのまま二緒さんはおれにぎゅっと抱きついてきたので、背中を抱い
て支えた。
「悪夢って何なんですか?」
「言えない。ごめんなさい。言えないの、どうしても・・・」
胸に顔を埋めたまま、二緒さんはしくしくと泣き出した。
普通に考えるなら、二緒さんの最悪の体験が何か関連してるのだろう
とは想像できた。そこでおれに言えない事となれば、まぁ、両親の事し
か無い。そこに二緒さんが絡んでるから、だから言えない。
言えないと言うのは、言えない理由を言ってるのと同じ事だった。で
もだからと言っておれがそれを気にしないと言うのも真実では無かった
し無理があった。だから、おれは言った。
「二緒さんの口から言えなくとも、中目が教えてくれるかも知れません。
二緒さんは、どっちがいいですか?」
え?、という感じで二緒さんは顔を上げた。無防備に、戸惑っていた。
「もう、前に言いましたよね。ぼくの両親が二緒さんをあの悲劇に突き
落としたのなら、その報いとして二人が、そうですね、最悪の罰を与え
られたとしても、それは、仕方の無い事かも、知れませんね・・・」
二緒さんは何も答えられなかったけど、おれから瞳を逸らさなかった。
「二緒さん、決めて下さい。あなたは、ぼくにどうして欲しいんですか?」
「私を、私だけを、愛して欲しいの!」
二緒さんはそれから不器用に、唇を重ねてきた。
おれは少し間を空けてから、二緒さんの両肩を掴んで引き離した。
「それは、できません。レイナがいるし、これから他の人とも体を重ね
なくちゃいけないかも知れないし。でも、二緒さんは、本当にぼくが欲
しいんですか?」
「ほ、ほ、ほ・・・」
「昨日だって、一つになってたのは良子さんじゃなくて、二緒さんだっ
たかも知れなかった。そしたら話は又ぜんぜん違っていたでしょうし、
良子さんだってあんな無理をせず、泣かないで済んだのに。それに、相
子様達だって、こんな手錠をぼく達にかける必要も無かったのに」
「私が、私が悪いって言うの?」
「そう言って欲しいんですか?なら、言いますよ。そうです。他の誰で
もない、あなたのせいです。二緒さん。ぼくの両親が何をしたにせよ、
ぼくから取り上げてしまったのは、あなたです、二緒さん。あなた自身
がそう言ったんですから」
二緒さんが怯えた目つきになっていたが、もう止められなかった。
「あなたはそれでいて、償いをしたいんじゃない。認めたくもないんだ。
その事実をでも忘れたくもなくて、でもぼくからは許して欲しいと思っ
てる。例え両親をぼくの手から永遠に手の届かない存在にしてしまった
としても、その罪はあなたには無いと思っている。違いますか、二緒さ
ん?」
まな板の上に乗せられて目を千本抜きで差し止められた魚のようだっ
た。三枚に降ろすも煮るも焼くも思いのまま。このまま押し倒しても、
何も抵抗できないだろう。けど、それは自分の望みでも無かった。
「ぼくに愛して欲しいだなんて大嘘です。あなたはぼくに罰して欲しい
だけなんです。おそらく、二緒さんが体験した最悪のやり方で・・・」
「いや、いやいやぁぁぁ!それは、それだけは許してぇぇぇっっっ!」
おれはぺちんと軽く二緒さんの頬を叩いて黙らせた。
「落ち着いて下さい。ぼくも、実はその時の画像は見ました。でもね、
ぼくは同じ事をあなたに対してしようとは思いません。ほら、立って、
ついてきて下さい」
半ば強引に立たせて、部屋の扉を次々と開けていく。どこにも、部屋
の外の廊下にも、洗面所にも、クローゼットにも、誰も隠れていはしな
かった。
その内、おれは手を離して、二緒さんがふらふらとさまようのに任せ
た。手首がずきずきと痛んだが、一定の距離を保っていられたし、二緒
さんも部屋の外に走り出ていこうともしなかった。
おれは先にソファへと戻り、AI達に紅茶のお代わりを頼んだ。それか
らしばらくして、二緒さんはふらふらと戻ってきて、ソファに埋まり込
んだ。
「悪い夢は、起こらないの?」
「あなたがそれを望まない限り。夜寝ている時に見る夢は、ぼくにはど
うしようも無いですけど」
「じゃあ、じゃあ、隆君は、私を許してくれるの?」
「さぁ、それは何とも言えませんけどね。覚悟だけはしてますよ」
「あのね、あのね・・・・」
それから二緒さんは必死になって口をぱくぱくさせていたが、何も声
になって出ては来なかった。
「無理しなくていいですよ、二緒さん」
「言いたいの、でも本当に、声になって出てこないの。どうして、どう
して・・・」
流れ、か。おれは二緒さんを抱きしめてキスしてみた。そしてそのまま
ソファに倒れ込むように体を重ねて押し倒してみた。
二緒さんの瞳が恐怖に歪み、ぎゅっと閉じられた。
体を重ねたまま、耳元で囁く。
「あなたを許せるかどうかなんてわかりません。どんな罪が犯され、ど
んな罰が与えられたのか、語られても語られなくても、それをぼくが受
け入れようが受け入れまいが、起こってしまったことはもう取り返しが
つかないんですから。
でも、これからのことはまだ起こってませんから、取り返しはつきま
す。
あなたはぼくが差し出した婚約指輪を受け取らなかった。桶口さんが
提供した状況も譲り受けなかった。ぼくがさっき提供した機会もパスし
てしまった。
何とかの顔も三度までって言いますけど、だからこれは最期の機会で
す。
あなたはぼくが欲しいんですか、欲しくないんですか?罰として受け
たいというならそれでも何でも言い訳は好きな様に付けて下さい。
あなたがぼくを欲しいというなら、ぼくはあなたを抱きます。でも、
あなただけを愛することはできません。それでもいいのなら、ぼくを抱
きしめて下さい。いえ、自分で服を脱いで下さい。それだけは言い訳を
しないように。もし無理なら、ぼくは奈良橋さん達を呼び戻して事情を
説明して、ここを去ります。
そしていいですか?どちらにせよ、悪夢はもう起こらないんです!そ
れだけは、ぼくを信じて下さい!」
もう破れかぶれもいいとこだった。とっとと部屋の外に走り出て、手
首の先がもげようがどうしようがかまうもんかという心境になりかけて
いた。
だから、二緒さんがおれを押し退けるようにソファから立ち上がった
時は、正直ほっとした。いや、正確に言えば、ほっとしかけた。何でか
というと、二緒さんがこう言ったからだ。
「AI達、私と白木君を二人きりにして下さい。そしてしばらく、誰も入っ
て来させないで。カーテンを閉め切って、明かりも消して」
AI達はてきぱきと指示に従い、暗くなった部屋の中を物音も立てずに
去ってしまった。
「脱ぎます。脱げば、後は任せていいんですよね?」
何かを言い返す間も与えずに、二緒さんは羽織っていたカーディガン
のボタンを外し、床に落とすとシャツを脱ぎ捨て、スカートまで降ろし
てしまった。靴下を脱ぎ、ブラジャーまで外したところで少しだけ躊躇っ
た後、パンツまで脱いで、完全な裸になった。
おれの心臓も爆発寸前だったが、なるべく平静を装って言った。
「ベッドにまで行きますか?それともここで?」
「ここで。決心を鈍らせたくないから。だから、早く、抱いて・・・」
消え入りそうな声を聞いて、おれは立ち上がって、ぱっぱと手早く衣
服を脱ぎ捨てた。
床は毛深い絨毯だったので、そこに二緒さんを横たえさせて、後はも
う勢いと流れに任せた。
セカンドバージンと言うらしいが、おそらく二緒さんはそれだった。
初めてがあれだったから、そこから先も今まで無かったのだろう。
だから丁寧に時間をかけて全身を愛撫して、秘部は舌でじっくりと舐
め、指でスポットを掻いた。
二緒さんが顔を左右に打ち降り、十分に下準備ができてから、おれは
二緒さんの中に入った。
焦らず、少しずつ、ゆっくりと動きながら、二緒さんの腰がジレる様
に動き出すのにリズムを合わせた。
正常位から座位、騎乗位、そして後背位になって、おれは二緒さんの
髪に見とれた。その髪を指に絡めながら、そして顔を埋めながら、後ろ
から二緒さんを押しつぶすように腰を動かし、二人で一緒に達して終わっ
た。
二人とも汗まみれのまま床に重なってしばらくして、二緒さんが言っ
た。
「ありがとう、そしてごめんなさい。私は、あなたのお父さんを、殺し
てしまったの。この手で・・・」
「よくないけど、もういいですよ、想像はついてましたから」
「あなたのお母さんについては、私も知らないの。中目さんに処理を任
せてしまったから」
「わかりました。きっと、全部語られるのは全てが起こってからなんで
しょうね。そう、覚悟してますよ」
「あのね、悪夢だと、私があなたに罪を告白してから、あの時の男達が
わらわらと出てきて、あの時と同じことを私にするの」
「それで、ぼくはどうしてました?」
二緒さんはおれを振り返り、じっと見つめてきてから、微笑んで言っ
た。
「とてもとても冷たい表情に変わって、私から離れて、ドアを開けてい
くの。そして男達は私を乱暴して、あなたと中目さんは部屋の反対側で
私に見せつけるように愛し合うの。それが、ずっと続くの」
「なるほど、それは確かに悪夢ですね。中目が突然現れるかも知れない
のは勘弁ですが、それ以外は確かめてみましょうか?」
おれは立ち上がり、二緒さんに手を差し出した。二緒さんはびくびく
していたが、おれの表情を見て決心した様におれの手を取って、脇に並
んで立った。
そうしてからおれはさっきと同じ様に、扉を次々に開けていき、誰も
いない事を一緒に見て行った。
ただ、一つだけ違ったのは廊下への扉の外には、AI達だけでなく、奈
良橋さんと相子様が廊下に座り込んで扉の前でひっつきあってべたべた
していたことだった。
「何やってるんですか、こんなとこで?」
「おおー、その様子だと済んだんか。いやいや、やっぱりタカシ君はわ
いの見込んだ通りや。イイ女たらしになれるで!」
それを聞いた相子様は奈良橋さんの耳を引っ張り上げていた。いや本
当に取れてしまわないか心配になるくらいに。
相子様は立ち上がっておれの後ろに隠れていた二緒さんの姿を見て言っ
た。
「二人を待っている間暇だからここでべたべたしてたの。フロア貸し切
りだから誰も上がって来ないしね」
相子様はそのままおれの脇を通り過ぎ、二緒さんを抱き締めた。泣き
出した二緒さんに、うん、良かったね、律子、良かったね、と囁きかけ
ながら。
「まぁ麗しい光景なんやろうけど、男のケツはあんま見たくないかも知
れんの」
その言葉でおれはようやっと裸だったのを思い出した。
おれは衣服の脱ぎ捨てられた辺りに取って返し、急いで服を着て、二
緒さんの服も持って行った。
それからしばらくは相子様に二人だけにしてと言われて廊下で待たさ
れた。
その間ずっと奈良橋さんはにやにやしながら、だけど何も言わなかっ
た。
「何かおっしゃりたいことがあるんなら、どうぞ。黙ってられる方が不
気味です」
「いんやぁ。タカシ君のその照れた顔を見てるだけでお腹一杯やけん。
くけけけ」
バイなのか?という想像も浮かんだが、それは必死で封じ込めた。い
くら何でもそっちは相手にしたくない。断固拒否する!
そんなこんなしてる内に相子様と二緒さんが出てきた。
「さ、午前はつぶれちゃったけど、ちょうどお昼時ね。何か食べてから、
アトラクション回りましょ!あ、白木君、まだ腕輪は有効だからね、注
意するように!」
二人が部屋に籠もっている間は収まっていた痛みが再びぶり返してき
た。
二緒さんがおずおずと、でもきっぱりと手を握ってきて、痛みは収まっ
た。
「もうこれは必要無いと思うんだけど、相子?」
「ううん。でもおもしろいから着けておいてみて。じゃ、行こー!」
そしてようやく、おそらく健全な、ダブルデートは開始したのだった。
<次へ>
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