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「復讐のガンマン」(1967) THE BIG GUNDOWN監督 セルジオ・ソリーマ製作 アルベルト・グリマルディ原作 フランコ・ソリナス フェルナンド・モランディ脚本 セルジオ・ソリーマ セルジオ・ドナティ撮影 カルロ・カルリーニ音楽 エンニオ・モリコーネ出演 リー・ヴァン・クリーフ、トーマス・ミリアン ウォルター・バーンズ、ニエヴェス・ナヴァロ フェルナンド・サンチョ、ジェラルド・ハーター 本編90分 総天然色 シネマスコープサイズ「狼の挽歌」(70)のセルジオ・ソリーマ監督にとって初西部劇作品。このあと「血斗のジャンゴ」(67)、「続・復讐のガンマン 走れ、男、走れ!」(68 日本未公開)と、同監督の西部劇はこの3本のみのようです。「復讐のガンマン」の日本公開は1968年11月。私が見たのは翌1969年1月12日の日曜日で雪が降っていた。金沢ロキシー劇場で「荒鷲の要塞」(68)との2本立てでした。 公開が1968年なので1968年作品と書いたサイトがあるけれども、本国イタリアでは1967年3月の公開だから製作年は1967年とすべきです。 腕利きの賞金稼ぎコーベット(リー・ヴァン・クリーフ)は大実業家ブロクストン(ウォルター・バーンズ)主催のパーティ席上で、彼から少女暴行殺人犯のメキシコ人 クチーヨ(トーマス・ミリアン)の追跡と逮捕を命じられます。追う者と追われる者2人の男が描かれるのですが、コーベットは獲物のクチーヨを追い詰めながらも毎度してやられて取り逃がしてしまう。 保安官あがりの賞金稼ぎであるコーベットは法を犯す者には容赦がなく、貧しいメキシコ人であるクチーヨを「野獣」だと罵る。するとクチーヨは「いったいどっちが野獣なんだ!、権力者の意のままに、命じられるままになんの疑問も抱かずに唯々諾々と従っているお前のほうがよほど野獣ではないか」と云う。 クチーヨは12才の少女を暴行して殺した犯人とされて追われるけれど、もし本当の犯人ではなく他に真犯人がいるとしたらどうなのだ? コーベットはそんな疑いをいだくことなく、権力者である大実業家ブロクストンの言葉をそのまま信じていた。クチーヨに「おまえこそ野獣ではないか」と云われて、コーベットは「もしかすると?」と疑惑を抱くようになる。この「復讐のガンマン」はこれで4回くらい見ているのですが、最初はそれほど面白いとは感じなかったのに、しだいに良さがわかるようになって、今では名作とはいかずとも秀作の1本ではないかと思っています。 独裁的な資本家、大実業家、大富豪。そういう私利私欲で肥え太った特権階級の悪事に挑戦する貧しい者たち、メキシコの虐げられる階級の人たちの側に立っての戦い。 メキシコを舞台にした、こういうテーマはマカロニ西部劇ならではのもので、アメリカの本場西部劇にはなかったテーマです。 賞金稼ぎコーベットを演じるリー・ヴァン・クリーフにとっては「夕陽のガンマン」(65)「続夕陽のガンマン」(66)に次いでのマカロニ西部劇出演だろうか。 拳銃ではなくナイフ投げのクチーヨ役のトーマス・ミリアンが個性的で好演。全体に出演者が豪華で、メキシコの警察署長(大尉)をフェルナンド・サンチョが演じている。いつもは山賊の親分ばかりなのに、ここでは見猿聞か猿の事なかれ主義の署長を面白そうに演じています。 ほかに、夫亡き後の牧場を経営するエロ未亡人役で、あのニエヴェス・ナヴァロさんが。 大実業家ブロクストンの娘婿を演じているのは何という名前の俳優かわからない。マカロニ西部劇でよく顔を見る人なのですが。 クライマックスの決闘は最高の盛り上がりを見せます。 ブロクストンの娘婿とクチーヨの拳銃対ナイフの決闘。コーベットとオーストリア男爵(ジェラルド・ハーター)の決闘。背景にエンニオ・モリコーネの、「エリーゼのために」をアレンジした音楽が流れ、この決闘シーンはマカロニ西部劇屈指の名場面です。
2016年01月30日
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「血斗のジャンゴ」(1967) FACCIA A FACCIA監督 セルジオ・ソリーマ製作 アルベルト・グリマルディ脚本 セルジオ・ドナティ セルジオ・ソリーマ撮影 ラファエル・パチェコ音楽 エンニオ・モリコーネ出演 ジャン・マリア・ヴォロンテ、トーマス・ミリアン ウィリアム・バーガー、ヨランダ・モディオ、アルド・サンブレル 本編97分 総天然色 シネマスコープサイズ マカロニ・アクション「狼の挽歌」(1970)のセルジオ・ソリーマ監督によるマカロニ西部劇です。 西部劇は3本撮っていて、他に「復讐のガンマン」(66)「続・復讐のガンマン 走れ、男、走れ!」(68・日本未公開)がある。 昨年の4月頃にイマジカBSで放送された時に録画してブルーレイにダビングしたもので、画質はかなり上々です。日本での配給は大映第一で、1968年11月公開。 ボストンの大学で教鞭をとっていた教授ブレット(ジャン・マリア・ヴォロンテ)は肺を病んだことから職を辞し、テキサスへ療養に向かう。 そこで無法者ボー・ベネット(トーマス・ミリアン)と出会って、彼の仲間に加わって同行することになる。 駅馬車強盗、列車強盗、銀行強盗と悪事を重ねるボーと、かたや東部出身の虫も殺せない善良なインテリ男の二人。 粗野なボーになぜか惹かれるブレット。自分にはない教養を身につけたブレットに一目おくボー。 やがてボーはピンカートン探偵社の策略にはまって捕らえられてしまうのですが、ブレットのほうはしだいに悪と暴力に目覚めて、ボーの留守中に、その手下たちを暴力と恐怖で支配するようになってゆく。 大学教授だったブレットはかつて、学生たちに、「将来もしも、正義と悪の選択に迷うことがあったら、その時は自分の心に問え」と教えていた。それがその本人がその選択の岐路に立った時、悪の道を選んでしまう。 アクション映画「狼の挽歌」で、ブロンソン演じる主人公ジェフが投獄された時、その同房の男が語ります。「家庭を持ち、良き夫であり良き父であり、おとなしい良き市民だった男が、ある日、銃を持ちだして、通行人を射殺しはじめた。人々はあんなに善良だった人がなぜそんな恐ろしいことをしたのか?、と不思議がったが、そうではない。彼は生まれつきの殺人者だったというだけさ」と。「血斗のジャンゴ」の場合、善人であったはずの大学教授ブレットは悪人になってしまう。善人だったのは見かけだけで、真の彼は生まれつきの悪人だった。 一方の無法者ボーは数々の悪事を働いてきた凶悪犯だが、しだいに悪事に懐疑的になって、良心に目覚める。真の彼は、生まれつき善人だった。 善人と悪人。マカロニ西部劇らしからぬテーマ性を持った秀作でした。
2016年01月29日
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「狼の挽歌」(1970) VIOLENT CITY監督 セルジオ・ソリーマ製作 ピエロ・ドナーティ アリゴ・コロンボ脚本 セルジオ・ソリーマ サウロ・スカヴォリーニ ジャンフランコ・カリガリッチ リナ・ウェルトミューラー撮影 アルド・トンティ音楽 エンニオ・モリコーネ出演 チャールズ・ブロンソン、ジル・アイアランド テリー・サヴァラス、ミシェル・コンスタンタン、ウンベルト・オルシーニ 本編110分 総天然色 シネマスコープサイズ 昨27日(水)午後1時にNHKのBSプレミアムで映画「狼の挽歌」(1970)が放送されました。 これまでにも何度か放送されているので、ご覧になったかたが多いのでは? 日本公開は1970年12月で、当時はチャールズ・ブロンソンさん人気が頂点だった頃でもあって大ヒットした作品です。(金沢では金沢ロキシー劇場で上映。併映はアラン・ドロン主演「仁義」) 1971年外国映画興行成績。 金額は配給収入。1位 「ある愛の詩」 3億2,792万円 2位 「エルビス・オン・ステージ」 2億6,106万円 3位 「栄光のル・マン」 2億5,365万円 4位 「チャイコフスキー物語」 2億1,502万円 5位 「小さな恋のメロディ」 2億636万円 6位 「トラ・トラ・トラ!」 1億9,422万円 7位 「狼の挽歌」 1億6,666万円 8位 「アラビアのロレンス」 1億5,936万円 NHKのBSではかなり以前のアナログ時代にも放送されていて、その時はトリミングサイズの短縮96分版で英語音声でした。今回の放送は見ていないので定かではないけれど、昨年4月のときにはイタリア語版だったので今回も同じものではないでしょうか。 英語版だとブロンソンさんご本人の声ですが、イタリア語版だと吹替えられていて、どちらが良いのか?、それぞれ雰囲気が異なるので両方ともに味わいがあるといえるようです。 現在発売されているDVDソフトは「狼の挽歌 デラックス版」で、英語、イタリア語、日本語の3カ国語で収録されていて、このように選べると良いのですが。 一匹狼の殺し屋ジェフ(チャールズ・ブロンソン)は愛人ヴァネッサとヴァージン諸島の観光地で逢瀬を楽しんでいたが、何者かが乗った車に執拗に追われる。 大型のアメ車によるカーチェイス場面で、このようなカーアクションはこの数年前の「ブリット」(68)や「汚れた七人」(68)あたりが始めたもので、それをさっそくイタリア映画が採り入れた。 狭い道や坂道で展開されるカーチェイスは見応えある場面で、今の時代に見ても充分な迫力です。 ジェフは愛人ヴァネッサ(ジル・アイアランド)を車から降ろすが、その時に現れたのが以前に億万長者の叔父を殺害する仕事を依頼されたカーレーサーのクーガンという男。思わず安心して近寄ったジェフはクーガンに撃たれる。 追跡者の3人組と銃撃戦になり、なんとか3人を倒すがジェフは撃たれた傷のために気を失ってしまう。警察に捕らえられた彼は監獄送りとなる。 クーガンとヴァネッサに裏切られたことを知ったジェフは、組織のお抱え弁護士スティーブ(ウンベルト・オルシーニ)の協力を得て釈放されたのち、アメリカのニューオーリンズへと向かう。旧友(ミシェル・コンスタンタン)にクーガンの居所を調べてもらったジェフはレース中のクーガンを狙撃する。しかし、その狙撃現場が写真に撮られていた。 組織のボス ウェーバー(テリー・サヴァラス)はジェフの腕を買っていて、組織に入れと誘う。 今の時代は一匹狼では通用しない、何らかの後ろ盾が必要なのだと。 このボスを演じるテリー・サヴァラスさんですが、チャールズ・ブロンソンと同じく脇役専門俳優だった人です。「バルジ大作戦」(65)と「特攻大作戦」(67)でも2人が共演していて、「特攻大作戦」でのテリー・サヴァラスさんは決して良い役とはいえない(変質者の役)ものでした。それから数年後の本作では出番は少ないけれど、存在感のある演技はさすがです。「女王陛下の007」(69)ではスペクター首領のブロフェルド役を、この組織ボスと同じようなノリで演じている。「マッケンナの黄金」(69)の騎兵隊軍曹、「戦略大作戦」(70)の軍曹役など、1970年頃になってようやくテリー・サヴァラスさんにも日の目が当たったといえるようです。 殺し屋ジェフはとんでもない悪女に恋してしまった。悪女ヴァネッサに踊らされているジェフ。 彼女はジェフがボスのウェーバーを殺すことも計算に入れていて、野心のために男を利用する。 殺人マシーンであるはずの殺し屋が女に惚れて、彼女に裏切られても裏切られても、忘れることができずに破滅への道を進む。 マカロニウエスタンの「復讐のガンマン」(67)を手際よく演出したセルジオ・ソリーマ監督の、現代版アクション映画の秀作です。 低音が畳みかけるように響くエンニオ・モリコーネのテーマ曲も良いですね。
2016年01月28日
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戦艦や巡洋艦が航空攻撃を受ければ、本来なら自分を守るだけで手いっぱいのはずで、空母や他艦などかまっていられないはずなのに。 それがアメリカの戦艦(だけでなく巡洋艦、駆逐艦も)に可能だったのは、レーダーによる早期警戒システムと迎撃機を効率的に運用したこと、アメリカ海軍が標準装備とした5インチ高角砲と40ミリ4連装機関砲の存在。レーダー射撃装置と5インチ砲弾に極秘の新兵器VT信管(近接信管)を用いたことです。 戦艦アイオワ級には二連装5インチ砲が10基20門。40ミリ4連装機関砲15〜20基60〜80門。単装20ミリ機関砲50〜60挺を搭載していました。 5インチ砲弾にはVT信管が取り付けられている。通常の対空砲弾は時限信管で、発射後に目覚まし時計のように設定されて炸裂する。その炸裂に敵機が飛び込むというぐあいで、なかなか当たるものではない。 それが、VT信管はレーダーが内蔵されていて、砲弾のほうが敵機を感知して10〜15メートルの距離内に入ると炸裂する。日本の艦攻の幅を約15メートルとすれば、その幅が約45メートルになったのと同じこと。ジャンボジェット旅客機くらいに膨れ上がった日本機を撃つ理屈になります。 このVT信管が5インチ対空砲弾に、のちには40ミリ機関砲弾にも取り付けられて猛威をふるった。「日本はレーダーとVT信管の開発に遅れを取った」、と書かれた本を先日読みましたが、この書き方はおかしい。レーダー開発はともかく、これだと日本も近接信管を研究していたようなニュアンスです。 VT信管など日本では想像もできなかったはず。日本の攻撃隊がなぜバタバタと片っ端しから撃ち落とされるのか理由が最後までわからず、VT信管の存在を知ったのは戦後になってからではないか。 VT信管は極秘とされていて、海上に向けて撃つ以外の発砲を禁じていたそうです。陸上で使って、その不発弾が日本軍の手に入って秘密がもれるのを警戒した。 Variable Time Fuse。「自動式時限信管」は、ただの時限信管だと思わせる意味で、「マジックヒューズ」とも呼ばれた。 超小型レーダーを備えていて、砲弾が目標から一定の距離に近づくか、一定距離範囲を通過すると作動して自動的に炸裂する。その炸裂破片や爆発力によって敵機を撃墜する。 この新兵器を対空砲のレーダー照準装置と組み合わせることで従来の3倍以上(10倍とも)の撃墜率となった。 大戦末期になると、日本の攻撃隊はアメリカ軍の防空能力になすすべがなく、通常の攻撃手段では通用しないので、だからしゃにむに突っ込んで体当たりする特攻しかなくなっていた。 マリアナ沖海戦では「マリアナ沖の七面鳥撃ち」と、アメリカ軍のパイロットにあざけられるまでになっていました。
2016年01月25日
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昭和14年、豊後水道を単縦陣で航行する戦艦長門、伊勢、扶桑に対して航空隊の雷撃訓練がおこなわれたそうです。 実戦ではないので中攻隊の攻撃時刻はあらかじめ分かっており、艦上では待ちかまえていた。 「教練対空戦闘」のラッパがなり、全対空火器を使って懸命の応戦だが、一見鈍重な大きな双発陸上機が少しも鈍重でない。72機の九六陸攻が「突撃体形ツクレ」から、低空で魚雷を投下して退避して行くまで、その手並みの鮮やかさは、この世のものとは思えなかった。 四方から突っ込んでくる陸攻に狙いが定まらず、高角砲も高角機銃も全部あさっての方角を向いている。 (「軍艦長門の生涯」阿川弘之 新潮文庫) その訓練の判定は、長門に魚雷36本命中、瞬時にて轟沈。伊勢も魚雷十数本命中、短時間のうちに転覆沈没。扶桑だけが被雷数3で戦闘能力喪失したまま辛うじて浮かんでいる、という結果。 空から襲いかかる九六陸攻に、戦艦の対空火器が手も足も出ずに右往左往する様子が目に見えるようです。 昭和16年12月10日。マレー沖で日本海軍の九六陸攻と一式陸攻が英国海軍の戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスの2隻を、こちらは実戦で撃沈している。 49機の九六陸攻と26機の一式陸攻が参加。プリンス・オブ・ウェールズに魚雷5本、500キロ爆弾1発が命中。レパルスに魚雷5本と250キロ爆弾1発が命中し、両艦とも沈めました。 日本側の損害は九六陸攻が1機、一式陸攻が2機の合計3機が撃ち落とされた。 戦艦2隻沈没に対して、わずか3機という、この割に合わない大きな損害率は、そのまま戦艦は高速で襲いかかる航空攻撃に弱いという現れです。 のちの昭和20年4月7日、戦艦大和が沖縄へ特攻出撃してアメリカ海軍機の猛攻を受けて沈められたのも同様で、こちらは大和と軽巡矢矧、駆逐艦4隻を沈められ、それに対して撃ち落とした米軍機はわずか6機でしかない。これも攻守が変わっただけで同じことの再現です。 ところが、日本の戦艦が最後まで航空攻撃に弱かったのに、アメリカの戦艦が空母機動部隊の対空護衛艦として成功したのはどういうことなのか。 日本軍の航空攻撃から空母を守る盾である対空要塞として成功したのはなぜか。 もちろん日本の攻撃隊や特攻機の大多数を撃ち落としたのは戦闘機グラマンF6Fヘルキャットの迎撃によるものであり、その迎撃網を突破した少数の機が敵機動部隊の攻撃をおこなったわけで、それを戦艦や巡洋艦、駆逐艦からなる輪形陣を組んだ護衛艦の防空火器が応対する。 戦艦や巡洋艦が航空攻撃を受ければ、本来なら自分を守るだけで手いっぱいのはずで、空母や他艦などかまっていられないはずなのに。 つづく。
2016年01月24日
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艦名 竣工年 基準排水量(t) 全長(m) 速力(ノット)金剛 1913/8/16 31720 222.6 30.3比叡 1914/8/4 32156 222.6 30.5榛名 1915/4/19 32156 222.1 30.5霧島 1915/4/19 31980 222.7 29.8扶桑 1915/11/8 34700 212.7 22.5山城 1917/3/31 34500 212.7 22.5伊勢 1917/12/15 35350 219.6 23.0日向 1918/4/30 36000 215.8 23.0長門 1920/11/25 39130 224.9 25.0陸奥 1921/10/24 39050 224.9 25.0大和 1941/12/16 64000 263.0 27.0武蔵 1942/8/5 64000 263.0 27.0 太平洋戦争での日本が保有した戦艦12隻です。 昭和16年(1941)12月8日の真珠湾攻撃から始まった戦争ですが、昭和20年8月までの間で、これらの戦艦はまったく、ほとんどと言って良いほどに働いていないのはなぜだろうか。 戦艦大和などは、世界最強の戦艦と形容されたりしますが、本当に世界最強なのだろうか? アメリカの戦艦と一度も砲火をかわすことがなかったのに、世界最強と決めつけていいものか。 世界最強の戦艦というならば、アメリカ海軍のアイオワ級こそが最強ではないか。 大和と一対一で対戦したならば、大和には勝ち目がないだろう。晴天の日ばかりではなく、曇天雨天の場合もあるだろうし、煙幕を展張するかもしれない。雲が低く垂れ込めて海上の視界が悪い場合、光学照準の大和はどうやって主砲を撃つのだろう? アメリカ海軍はとっくにレーダー照準射撃を実用化していて、天候が悪くても夜間の真っ暗闇でも、遠距離から正確に命中弾を放ってくる。これでは大和は一方的に撃たれてボコボコにされるばかりです。 日本の戦艦12隻のなかで、最も働いたのは、最も老朽艦である金剛、比叡、榛名、霧島の4隻のみです。 なぜなのか?、他の8隻はなぜ働き場がなかったのか? 金剛など4隻は、日本の戦艦では最速の速力30ノットであり、空母機動部隊の護衛を務めることができた、という理由があるかもしれないけれども、大きな理由は艦齢30年になろうとする老朽艦だったので、海戦で失われてもそれほど惜しくないということだったのではないか。 昭和17年10月、11月に、金剛と榛名、比叡と霧島がペアを組んでガダルカナル島のヘンダーソン飛行場を砲撃するために2度の出撃した。戦艦を夜間にガダルカナル島沖へ接近させて敵の飛行場を艦砲射撃させる作戦ですが、海軍の中には強行に反対する人たちがいたそうです。 貴重な戦艦を危険にさらすことができないと、艦隊決戦の幻想にとらわれている人たちによる大反対です。 兵器というものは使ってこそ意義のある存在であるのに、使わないで温存する。この温存主義というか温存しようとする思想というか、このために日本の戦艦が第一線に出ることがなかった。 敵に制空権を奪われて、敗戦がまじかになってからようやく戦艦を自殺的な作戦に繰り出して、空からの一方的な攻撃にあって沈められてしまうことになった。 アメリカ海軍の場合は、真珠湾で大きな被害を出した戦艦を、湾内の浅い海から引き揚げて修理し、近代化改装をおこなって、次々と最前線に送り出した。 さらにアイオワ級などの最新鋭艦を製造し、日本では戦艦が役立たずの存在に成り果てているのに、それらを有効に活用しています。 VT信管(近接信管)を開発して40ミリ機関砲と5インチ高角砲でハリネズミのように武装したアメリカの戦艦を機動部隊の護衛役とした。海上防空要塞としての活用です。 島嶼への上陸作戦では、その主砲での猛烈な艦砲射撃をおこなった。そこには日本艦隊との艦隊決戦の幻想などどこにもない戦艦の有効活用です。 真珠湾攻撃とマレー沖海戦で、日本の航空機が敵の戦艦を沈めました。真珠湾内に停泊して動かない戦艦だけでなく、航行中のイギリス海軍のプリンス・オブ・ウェールズとレパルスを撃沈した。それも双発の機体が大きい一式陸攻と九六式陸攻が。 戦艦は航空攻撃にはかなわないということを自分たちが立証しながらも、それでも艦隊決戦の夢を見続けて、戦艦を大切に温存しようとした日本海軍です。 真珠湾攻撃を機動部隊だけでなく、戦艦部隊を繰り出してハワイの施設に艦砲射撃をくわえていたら。 ミッドウェー海戦のときに、機動部隊を上空護衛に専念させて、戦艦部隊を前面に出してミッドウェー島を艦砲で吹き飛ばしていたら、歴史はどうなっていただろうか? そんな無謀なことをしてもし敵が出てきて沈められたらどうするんだ?と云われるかもしれないけれど、それこそ海軍が夢見ていた艦隊決戦の好機到来ではないか。戦艦を前面に出して敵艦隊を誘い出し、敵艦隊との戦いで思う存分に主砲を撃ち合って雌雄を決してこその戦艦ではないか。
2016年01月23日
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外国のミステリや冒険小説ばかり読んでいると、突然に正反対の日本の時代小説を読みたくなったりします。 そんなわけで読み始めたのが柴田錬三郎さんの代表作「眠狂四郎無頼控」で、新潮文庫の全6巻。 本棚の奥深くにあって、取り出すのは10年以上ぶりだろうか? 開けてビックリ玉手箱ではありませんが、茶色い染みが各所に着いている。何年もほったらかしにしていた自分の管理が悪いのですが、大切な本にカビが生えたり染みが出たりすると、悔しいというかガッカリです。 そんなわけで、古い本で活字が小さいこともあり、改版された新しいのがほしいと思って本屋へ見に行きました。 ところが、眠狂四郎シリーズどころか柴田錬三郎さんの本が一冊も置いてないではないか。近年はこのような時代小説は流行らないのでしょうか。 ネット通販でみると品切れで注文できない品となっている。新しく再版されるまでは購入不可のようです。 そんなわけで、古本屋へ行ってみると、シリーズ全部ではないけれど置いてあって、何冊かを手に入れることができました。表紙カバーも新しいイラストになっており(写真)、活字も大きくなっていて読みやすい。「眠狂四郎無頼控」は昭和31年5月から「週刊新潮」に連載された作品で、全100話。続30話が加わり、文庫本で全6巻です。 その後、「独歩行」50話、「殺法帖」50話、「孤剣五十三次」55話、さらに「虚無日誌」、「無情控」、「異端状」と続く。 老中水野越前守忠邦の側頭役 武部仙十郎の密命をうけて行動する眠狂四郎の活躍を描いた作品ですが、悪役としての備前屋をはじめとして、数々の事件と、狂四郎の前に現れる刺客と公儀隠密団。そして、狂四郎を慕う清楚可憐な美保代、静香。狂四郎の子分となる掏摸の金八や常磐津師匠の文字若、読本作者の立川談亭老人など、娯楽時代小説としては定番キャラクターの人々。 水野忠邦が斬落とした将軍家拝領雛の男雛女雛の首を、失脚の材料にしようと暗躍する政敵一派。狂四郎の祖父松平主水正の配下戸田隼人の豪剣。 眠狂四郎の陰惨な生い立ちからくる虚無感と厭世観。円月殺法の前に血煙上げて倒れる刺客や隠密。剣戟の魅力と登場人物の魅力。面白い小説です。 文庫本の数としては大長編のように思われるかもしれないけれど、週刊誌連載の連作短篇の形をとっていて、たいへんに読みやすい。一日に一話ずつ読んでいってもOKです。 いま私は夜、寝る前に布団の中で1~3話ずつくらいを読んでいて、就寝前のちょっとした楽しみです。
2016年01月04日
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書店で新刊コーナーに並んでいるのを見て、迷うことなく買ってしまう本というのは、近年では少ないのですが、その少ないうちの一冊。「アラスカ戦線」ハンス・オットー・マイスナー著 松谷健二訳 ハヤカワ文庫 定価1060円+税は文庫本にしては高いが、冒険小説ファンとしては、これは買わずにはいられない。 というのは、40年くらい前に読んだことのある本で、その後ずっと絶版になっていました。それが装丁が新しくなって再刊。懐かしさもあっての購入です。 1944年、日本軍がアリューシャン列島のアッツ島に極秘裏に飛行場を建設し、アメリカ合衆国本土爆撃を計画。しかし、合衆国への長距離飛行には、途中の不安定なアラスカ上空の気象情報が不可欠である。そこで人跡未踏の荒野へ潜入し、敵の目を避けながら気象情報を送るという困難な任務を与えられたゲリラ戦のプロ 日高大尉以下11名の精鋭が選抜されアラスカの大地へ降下する。 一方、日本軍の潜入を察知したアメリカ軍は、捕捉殲滅するべく、アラスカの地を熟知するスカウトからなる捜索チーム14名を送り込む。 敵味方が持てる知識と知恵、技術と体力のかぎりを尽くす死闘が展開し、大自然の脅威の中、狩りと野営のサバイバル。装備を失い、部下を失い、やがてリーダー同士の対決となる。 著者のハンス・オットー・マイスナーはその名前のとおりドイツ人です。ドイツ人の作家がアメリカ人と日本人を主人公にした冒険小説。どちらに肩入れすることもなく、公平な視点で描いている。 主人公の日高大尉を始めとする日本人の描写はステレオタイプ的ではあるけれど、名誉ある武士といったキャラとして描かれていて、けっして悪くはない。「ヤンキーは女子供でも容赦なく爆撃で殺す」という日高大尉の発言は、ドイツ人としての著者の発言でもあるのでしょうか。 日高大尉とアメリカ追跡チームのリーダー アラン・マックルイアのお互いに敵同士でありながら、お互いの力量を認めて尊敬心をいだく。 こういう男同士のカッコ良さは冒険小説の醍醐味です。そして彼らの前に立ちはだかる大自然の猛威。 原題は「ALATNA DUELL IN DER WILDNIS」 は英語ではなく?ドイツ語?「アラトナ 野生の決闘」という意味だろうか?「アラトナ」はヒロインの名前で、日高大尉と結婚することになるアラスカ少数民族の娘さんですが、そのロマンスがさわやか。日本とアメリカの戦争が、このようなアラスカで平穏に暮らす人々まで巻き込んでしまう。 ラストは敵味方を越えた男同士の交流であり、気持ちの良い読後感を得られます。 この小説を映画化するというニュースを40年くらい前に新聞記事で読んだおぼえがあるのですが、たしか、クリント・イーストウッドと石原裕次郎さんが共演するとかで。この企画は実現しなかったようですね。
2016年01月03日
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日本のミステリ小説で最も名前を知られている私立探偵は江戸川乱歩の明智小五郎と、横溝正史さんの金田一耕助だというのは異論のないところかと。 金田一耕助は主人公ではなく、横溝正史さんが描く、地方の因習や血縁関係の因縁が生み出すドラマの傍観者でしかない。事件は解決するが次々と起こる殺人を事前に防ぐことが出来ない頼りない探偵である。 横溝ワールドは怪奇的猟奇的な血の惨劇であり、それが魅力なので、読者は誰もやがて起きるだろう殺人を未然に防ぐことなど期待していません。金田一耕助は読者と同化して惨劇を傍観しているだけです。 金田一耕助見たところ、どこにどうといって取り柄のない、いたって風采のあがらぬ男。三十四、五の、平凡な顔つきの男。くたくたになったセルの着物に、時代ものらしいくたびれた袴をはき、薄汚れたソフトの下にはもじゃもじゃの蓬髪がはみ出している。どう見ても立派な風采とはいえぬ。柄も小さく、平凡というよりは、平凡を通り越して貧相な男だ。 小説の描写では、だいたいこのようなキャラクターです。 年末からこの1月にかけて、日本映画専門チャンネルやTBSチャンネル、ファミリー劇場で金田一耕助の映画やTV化された作品を次々と放送しています。 劇場映画 石坂浩二さんが金田一耕助を演じる「犬神家の一族」(76)「悪魔の手毬唄」(77)「獄門島」(78)「女王蜂」(78)「病院坂の首縊りの家」(79)の6本。「八つ墓村」は野村芳太郎監督の1977年松竹版ではなく、1996年の東宝版で豊川悦司さんの金田一。監督は「犬神家」以下すべて市川崑。この「八つ墓村」は映画化・TV化ではいつも省略されている(重要な役なのに)里村典子が出ているのが特徴。 TVシリーズ「横溝正史シリーズ」の古谷一行主演で長門勇さんの日和警部が好演。「犬神家の一族(全5回)」「悪魔の手毬唄(全6回)」「本陣殺人事件(全3回)」(1977)「八つ墓村(全5回)」「真珠郎(全3回)」「不死蝶(全3回)」「黒猫亭事件(全2回)」(1978) 同じく古谷一行主演の単発作品がTBSチャンネルで放送されて、これはサスペンスドラマの時間帯に1983年~2005年に放送されたもので、全部で32作品がある。 そしてファミリー劇場では片岡鶴太郎さんの金田一耕助が放送されていて、常連出演者として平幹二朗さんと牧瀬里穂さんが出ている。こちらは1990年~98年にかけての、やはり単発作品で全部で9作品。これまでにいくつかを見たのですが、自分的にはTVドラマではこの片岡鶴太郎さんのがいちばんだと思います。 磯川警部の加藤武さんが東宝映画版と同じで、豪華な感じがするし、全体に丁寧に作られているようです。金田一耕助の人なつっこいキャラとしては片岡鶴太郎さんが良いのでは。 絢爛豪華な傑作である東宝映画版の石坂浩二さんは役になりきっていて素晴らしく、金田一耕助のイメージとしては第一等の不動の存在ですが、テレビ版では鶴太郎さんのが一番で、物語も丁寧に作られていて良い感じです。
2016年01月02日
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「金田一耕助の帰還」と「金田一耕助の新冒険」という文庫本を古本(108円)で買いました。 共に短篇集で光文社文庫。古本ですが傷みも汚れもないきれいな本です。 「金田一耕助の帰還」 2002年4月30日 初版2刷発行「毒の矢」「トランプ台上の首」「貸しボート十三号」「支那扇の女」「壺の中の女」「渦の中の女」「扉の中の女」「迷路荘の怪人」 の8篇 「金田一耕助の新冒険」 2002年11月30日 初版2刷発行「悪魔の降誕祭」「死神の矢」「霧の別荘」「百唇譜」「青蜥蜴」「魔女の暦」「ハートのクイン」 の7篇 どこかで目にしたようなタイトルばかりなので、角川文庫版に収録されている短篇を再編したものかと思って買ったのですが、そうではないようです。 これらの作品はすべて角川文庫には収められていないもので、この光文社文庫でしか読めない珍しい作品なのだとか。というのは、横溝正史さんは短篇を元にして中篇や長編に書き直すことが多かったそうです。角川文庫に収められている作品の、これはその原型ということで、この光文社文庫の2冊は横溝正史ミステリのファンには貴重な本ではないかと。知らずに買ったのですが、得したような気分がする。「金田一耕助の帰還」の巻末には横溝正史さんによる「金田一耕助誕生記」という文が載っているし、「新冒険」のほうには、金田一耕助登場作品の全リストが載っている。これらもファンには嬉しい内容です。 金田一耕助について、つづく。
2016年01月01日
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