同居序盤編
引越し日は「母の日」だった。いつもならば両方の母をうちの快適なマンション（これ強調！
四階の東南の角地で南にベランダ、駅近し！）に呼んで私のささやかな手料理でもてなしていたけど
これからはオンボロの（これも激しく強調！）潰れた店のくっついたローンのバカ高い家で毎日
「義母」と顔を合わせて暮らすのか。「実父母」も、もう呼べないな。と物凄く鬱になったのを憶えている。
後ろ髪どころか、全ての髪をひかれてつり目になりそうな私の想いを乗せて引越しトラックだけは元気に走る。
本当にきったない家に到着し、なんとか荷物も運びいれ少し一服した時「ケジメ人間」の私は正座をして、
三つ指をつき姑にこう言った。
「今日から同居させて頂く事になりました。何分ふつつか者で行き届きませんが、宜しくお願い致します」
家族でもお正月などは正装をして両親や姉妹に丁寧な挨拶を、という家で育った私はこう言えば当然姑からも
それなりの返事があるものだと思って待っていた。
すると彼女は「いらんいらん！そんな気ぃつかいな！かめへん！」と言った。
私はあまりに驚いて「はぁ？」という声が思わず口から出てしまった。
義弟は姑の後で、正座しながらうつむいて苦笑している。
姑のズズ～～～ッというお茶を飲む音と外の凄まじい車の騒音が入り混じった時、夫が怒鳴った。
「ぼけ～！！ちょっとはケジメつけ～よ！何がかめへんじゃ、ババァ！自分の置かれてる立場わかっとんのか！
ほんまやったら俺らがこいつに頭さげやなあかんねやろ～！！こいつはなんも関係なかったんじゃ～！！
誰の作った借金のせいで同居せなあかんようになったとおもとんのじゃ～！ええかげんにしとけよ～！！」
すると姑はハッとした顔をして慌てて正座をし、夫も頷くと座りなおし、義弟を含む三人が無言で私に頭を下げた。
早くも足が痺れそうになっていた私もまた居住まいを正し、深々と頭を下げた。
（えらいこっちゃ～こらぁ 嫁vs姑 どころとちゃうで～。まず 母vs息子 やんか・・）
と今まであまり知らなかった夫の違う顔を見て、とても不安になった記憶がある。
でも後々には、私の言いたい事を全部言ってくれる夫が頼もしくなったのだが、まだ綺麗事が思い付く初日は
そんな事に不安がっていたのだった。
そのあと、夫が三階で荷解きをし、私が二階の台所でダンボールをほどいていたら、姑が私の側にテケテケと寄ってきて
「ん゛！！」（←独特の発音だった。マネ出来ない）と言って何かを差し出した。
アゴがあがり、手は子供のようにまっすぐ伸ばして相手の目の前まで持ってくる。後にこれが姑の基本ポーズとなる。
何をくれるのかと思い、目の焦点を合わせて見ると「浴室用パテ」と書かれたものを持っていた。
私「へ？」 姑「風呂のタイルや！前から割れてて気になってたんや！これつこたらええわ！ ん゛！」
私（はぁ～？私がパテを塗って修理するのん？まだ一度も入ってないお風呂の？前から割れてて気になりながら・・
修理もせんとほっといて・・・・・来た早々の嫁にやらすってかいな・・・・・・ 上等やんけ！）
と確かに腹はたった。が、何せ初日である。今日は我慢しといてやろう。という気持ちだったと思う。
私「とりあえず、私はいま見ての通り食器をほどいています。優先順位はこっちですよね。それはどこかに
置いといて下さい」と淡々と言った。
同居直前に先輩から「本能のまま行動する人には冷静に理論的に言った方が効くよ。それから姑は嫁のことを給料
のいらん女中やと思ってるから覚悟するように」というお言葉を賜っていた。確かにその通りだった！ク～！！
私からパテを拒絶された姑は、意外にも大人しく言われた通りそこらへんに置いた。
結果的に私がその浴室の修理をする事は一生なかったのだが(笑)
もともとあまり忍耐強くない私は、たった数日でハッキリものを言う嫁になっていった。
しかし何故かこの姑、どこか憎めないものを持っていた。
何をさせても不器用で、要領が悪く、つい見ていられずに「貸してみぃな、私がやるわ～」と
私はしなくても良い雑事を増やしていた。そのくせ始めから「嫁にやらせる」という設定では拒絶をしていた私。
そんな私達を見て、夫が陰でこう言った。
「お前ら見てたら子供ん時、見た‘トム＆ジェリー‘ちゅうアニメを思い出すわ～。さっきまで仲よう二人でセンベイ
食べとったとおもたらもう、雰囲気ちゃうもんな～♪な・か・よ・く喧嘩しな～♪って」
「フン！何がトム＆ジェリーやのん。仲ええことありませんけど・でも陰ではジェリーって呼んだろかいね♪」
私・トム・身長１７０ｃｍ 姑・ジェリー・身長１３５ｃｍ
今後、お気楽エピソードの時は彼女のことをジェリーと書くことにしよう。
といっても更新の遅い私なので、続編はいつになるやら・・
っていうか、ここ見て貰えるのかな・・・？
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