
さて生写朝顔話の後半
嶋田宿笑い薬の段(ハラハラドキドキするお話)
ここは嶋田宿でも一番大きい宿屋戎屋の店先で、掃除をしながら女中たちがおしゃべりをしている。
「うちの旦那さん、女芸人の朝顔さんにえらく肩入れしているよね。」
「うん、目が不自由だけどなかなかの器量だから、旦那さんもにくからずおもってるんじゃない。」
「ところで、今泊まっている大内藩のお侍、岩代様はいかにも意地悪そうな顔で、言い方も横柄だからいけすかないけど、もう一人の駒沢様は物言いもやさしくて、なかなかの男前だね。」
「わたしも精いっぱい気を引いてみたけど、全然相手にしてくれないのがくやしいわ。」
そこへ主の徳右衛門があらわれて、「店先で、お客様の噂話などみっともないこをしてはいけないよ。」と女中たちに注意しながら奥へ引っ込む。
そこへ、宿の客として泊まっていた祐仙(阿曽次郎になりすまして、深雪の婿になろうとして失敗した医者)が現れ、女中たちに「大内藩の人がとまっているそうだが、岩代様と言う人がいたら呼び出してほしい。」と頼む。
呼び出しに応じて岩代が登場
祐仙「岩代様へお渡しするようにと手紙を預かりましたのでやってまいりました。御機嫌はいかがですか。」
岩代「最近殿の近習となった駒沢のせいで、殿は真面目一辺倒、我々の出る幕がなくなった。駒沢というやつは我らの目の上のたんこぶだ、あいつさえいなければと思うのだが、お前にいい知恵はないか。」
祐仙「なるほど、実は私は秘伝のしびれ薬をもっておりまして、これを使えばどのようなものでも丸1日は身体が動かなくなります。どんな使い手でもやっつけることができますぞ。」
岩代「しかし、あいつは用心深いやつで簡単にその薬を飲ますことはできないだろう。」
祐仙「これには、解毒剤がありましてな、先に解毒剤を飲んでおけばしびれ薬はきかなくなりますので、これを上手く利用すればのませることは可能かと思います。」
岩代「そうか、それではその手でいってみよう。あとでお前を呼びだすから上手くやれよ。これは手付の十両だ。うまくいけばもっと金をやろう。」とふたりはそれぞれの部屋に戻っていく
祐仙は、言葉の最後にぐっと顎を突き出して見得をきったりして、いかにも山師という雰囲気を出している。部屋の茶釜にしびれ薬を入れながら、手に入れられる成功報酬をのことを思って、座敷でうろうろするなど、悪党だが軽い奴と言う感じ。
祐仙が部屋を出たすきに主人徳右衛門が入ってくる。さきほどから二人で怪しいひそひそ話。しかもなにやら怪しげな薬を茶釜に入れておられる。このことを駒沢様にお知らせしたいが、大げさになってもいかず。そうだと部屋の鉄瓶を入れ替え、その中には以前に買ってしまっておいた「笑い薬」をいれておいた。
岩代がいる部屋に、公用を済ませた駒沢が帰ってくる。
岩代「これはお疲れであろう、なんなら薄茶の一杯でもいかがかな。」
駒沢「いえいえ、岩代殿にそのような御造作をおかけしては。」遠慮する駒沢に強引にお茶をすすめる岩代。
岩代「いや、たまたま知り合いが同宿していて茶道具など持参しているのでそのものに点てさせよう。」
打ち合わせどおり祐仙が茶道具をもって登場する。(ここで感心したのは、人形のする袱紗さばき、茶巾の扱い、茶筅通しなどすべて実際の茶道のやり方通りにしているのだ。人形で袱紗とかを折らせるのは難しいだろうと思った)
いざ茶を点てようとした時、主人徳右衛門が割って入る。
「うちの宿でお出しするものは、間違いがあってはいけないと全て毒見をしたものをお出ししています。まさかとは思いますがそのお茶もお毒見していただきたいと思います。」
岩代「わしの知り合いが点てる茶を毒見せよというのか、まったくもって無礼千万。」
祐仙「ご主人のいうことも一理あります。私が毒見いたします。その代わり何事もなければ、そちらさまも御覚悟くださいよ。」(こちらは解毒剤があるので自信たっぷり)
そして、祐仙はそっと解毒剤を口にして、しびれ薬入りの茶(実は笑い薬入り)を点ててまず自分が飲んでみる。
岩代「徳右衛門よ、何事も起こらないではないか、さあ責任をとってもらおうか。」
祐仙「ほら、何事もアハハ、ヒヒヒ起こらないではフフフないですかへへへ。」
笑い薬によって、何もないのに笑いが止まらない祐仙
(この場面は(笑)を芸術にまで高めたと言われているシーン。義太夫の語りでの笑いも、止めるににとまらない笑い、我慢する笑い様々な笑いを演じ分ける。人形の方も、人が大笑いするときの、肩を揺する揺すり方、下を向いてこらえながらする笑い。全身での笑いなどまさにこのとおりという笑い方を様々に表現する)
岩代「こら祐仙、わしはさておき駒沢殿の前で、笑い転げるとは無礼であろう、少しは黙れ。」
しかし笑いを止める事ができない。
たまりかねた岩代にこれ以上笑うと手打ちにするぞと脅され、祐仙は笑いながら逃げ去っていくのだった。 岩代は徳右衛門に邪魔立てされて、企てが失敗したが、それをいうわけにもいかず。むしゃくしゃした顔で風呂に入りに行く。
PR
カレンダー
New!
MoMo太郎009さん
New!
ナイト1960さん
New!
ぬぅ123さん