劇団め組『鬼夜叉』観劇報告
2007年3月31日 吉祥寺シアターにて
*主な配役*
鬼夜叉:新宮乙矢 将軍:藤原習作 朝廷忠臣:野村貴浩 結城座座長(鬼夜叉の父):酒井尊之 鬼夜叉弟子:竹下圭一郎 上皇正室:八島未来 将軍正室:清水祐美子 他
*ストーリー*
武家政権下のある時代。将軍職に就いた男がいる。彼は武家の棟梁の座に飽き足らず、日本の頂点に立つ野望を抱いた。・・・帝の座を奪うことである。
将軍には寵愛する『鬼夜叉』と言う役者がいた。花の顔(かんばせ)と優美な舞姿を、世の人々は愛で褒め称えた。12の歳に将軍と出会い、以来ずっと心を通わせてきた鬼夜叉は、
将軍の野望を知り苦悩する。彼とその一座は、役者を隠れ蓑に朝廷の間諜を務める血筋なのだ。帝と朝廷を守ること。それが彼の中に流れる血の示す道。しかし鬼夜叉は、将軍の
強引なまでのやり方と野心を間違っているとは思いつつも、彼への想いを断ち切ることが出来なかった。
苦悩の鬼夜叉をよそに、将軍のやり方を快く思わない嫡男や大名も動き出し、将軍抹殺の謀が、秘密裏に進み始めていた。将軍の次男が、親王と同じ形式で元服を執り行うことになった前夜、
鬼夜叉の父を初めとする一座のものたちが、将軍の命を奪いに屋敷へ忍び込んでくる。己が尊皇の血と、愛する将軍の間で板ばさみにあった鬼夜叉は、自分の手で将軍を殺し自らも死ぬ事を決意する。
激しい戦いのさなか、鬼夜叉の父が斃れた。父は鬼夜叉に、何があろうと生きることを望み事切れる。鬼夜叉は暗殺者たちに、将軍の命を自分に預けるよう懇願する。鬼夜叉との間に、決して切れない
魂の愛を確かめた将軍は、彼の刃の元にその生を終えるのだった。
*感想*
まず、舞台下手奥に五色の垂れ幕。これは、役者が出入りするときに、ばさっと音を立てて上がります。最後の方になって、黒子さんが持ち上げてるのに気づいたんですけど(苦笑)。
それから、下手奥の壁に松の絵。能舞台なんかで見る、あの絵です。能面がそこかしこで、効果的且つ印象的に使われており、あの劇場の造りも作品の雰囲気に合っていました。
冒頭、困り顔の面をつけた貴公子風の身なりの男が、このところ夜毎通いつめているという寺の様子を窺うのですが、言葉を発することもないのに心情が滲み出てくるような様子で
感心しました。で、この男(とある源氏の血を引く殿で、無実の罪で流されてきているとの事)の家臣が二人、夜な夜な寺に通っている理由を問いただすと、この寺に最近やってきた
翁に惚れこんでしまい(笑)、一目でも逢いたいからとそう言う訳です。で、この翁はかつて都で名声を馳せた役者だったのが、何かの事情で島流されて来ている、その事情を語って聞かせる、
と言う趣向。翁の面をつけているのはもちろん鬼夜叉。面を外して若かりし日の鬼夜叉の姿が現れると、源氏の殿の面の男は、鬼夜叉の目には、かつて愛した将軍に映るわけです。
この、源氏の殿の家臣・二人組がね、面白い。そして、息ぴったり。息ぴったりだからこそ、余計面白いんですけど。そして、翁に会えると決まったときの源氏の殿のはしゃぎっぷりがまた、
カワイ面白かったです。
ぴよりーぬが面白いなと思った役者さんは、公家1と言う役をされていた、松岡史明さん。もともとお公家さんて、天皇側のヒトでしょう?
それが、権勢誇る将軍にひろひろ靡いて、そうかと思うと天皇側のご機嫌をとったりして、すっごく世渡り上手でずるい人。でもイヤらしく感じなかったのは、
そのいっそ見事な変わり身と、どんなに場が緊迫していても、マイペースにへろへろ~っと発言するところにあるかなと思います。この人、きっと一生辛酸舐めずに生きていけるよ(苦笑)。
それから、したたかで美しい上皇正室・八島未来さん。ヴィジュアル的にまだ少女の印象が抜けないのですが、だからこそ、今の帝の父が誰であるか(もしかしたら将軍かもしれないのだよ)なんて、
知っているのは自分だけです、なんて言い放つ、冷たい微笑みは素敵でしたね。同性には好かれないけど、異性から見たらさぞかし魅力的なんでしょうな。女性陣の『夫婦の間に、本当の恋がございましょうや・・・?』と
将軍に問う台詞は、何か印象に残ってます。
劇団め組さん、初めて拝見したのですが、出演者全員が舞台の上でキチンと生きているのを感じました。近かったからと言うのもあるかもしれないんですけど、
一人一人がちゃんと、常に役の感情を流しているのが感じられました。大きな劇団・大きな劇場になってしまうと、それが感じられにくくなってしまう様に、
最近思ったりするのです。
内容によりけりですけど、機会があったらまた拝見したい劇団さんになりました。


