Studio Life新人公演『WHITE』観劇報告
2007年10月20日 ウエストエンドスタジオにて
*配役*
正治:政宗/仲原裕之 岩波:神野明人/谷屋桃威 坊:石井昭裕/原田洋二郎 三角草太郎:緒方和也 マドンナ:三上俊 向井=ウィンディ:堀川剛史
教頭=ティンク:冨士亮太 用務員=ハクション:荒木健太朗 桜子=バオバブ:藤原啓児
*ストーリー*
良くある、高校の風景。廊下に立たされている3人の男子生徒。正治は遅刻したため。坊はいびきがうるさいから。岩波は、正治の代返をしたのがばれたため。
そこへ、最近転校してきたマドンナ、通称『姫』が通りかかる。実は正治と岩波は、姫に恋をしているのだ。先生の用事で図書室へ向かった姫を追って、
3人もこっそりと廊下を抜け出していく。
図書室では、三角草太郎がひっそりと本を読んでいた。所謂ネクラで、人付き合いが苦手な三角。姫を追って図書室にやってきたものの、当人を見つけられない
正治たちが、三角を引き込んでなぞなぞ合戦を始める。・・・正治は、自己主張をしない引きこもりがちの三角に、もっと打ち解けたらいいのにと実はおせっかいを焼いているのだ。
そのうち、なぞなぞの本を探しに行った坊が、真っ白な大きな本を持ってくる。開いてみても中は真っ白、何も書かれていない。疑問に思うまま本を閉じると、
埃で坊がくしゃみを連発した。と、返事と共に、正治が廊下に立たされたときに持たされたバケツからもうもうと煙が立ち昇り、辺りにはサンバのリズムが流れ、
けったいな出で立ちの男が現れたのである。ハクション大魔王の見習いだと言う彼を筆頭に、知識の妖精で活字になっているものは何でも暗記できると言うティンク、
破壊の魔王のオチコボレ、ウィンディたちが次々と現れる。
出てきたものの、元の世界に帰る方法を知らないハクションたち。ふと、図書室の机に置かれた真っ白な本に目を留め、大声を上げた。自分たちの住む魔界の、
持ち出し禁止の魔法の書、これに専用のペンで願い事を書けば、どんな願いもかなうのだ。きっと、誰かが盗み出して空間移動中に、坊が見つけてきたのだろうと。人の気配に、
机の下に身を隠す正治達。すると、姫が現れて机の上の白い本を見つけた。開こうとした途端にチャイムがなり、姫は自分のノートと一緒にその本を持っていってしまう。
突如、空間のどこからか『だるまさんが転んだ!』と言う声がして、正治達は動けなくなってしまった。その間を、一人の男が何かを探しながら通り抜けていった。
動けるようになったハクションが、今の男が悪魔バオバブで、白い魔法書で世界を自分の思い通りにしようと目論んでいると、そしてバオバブの首から下げられていたのは
この魔法書専用のペンだったと言う。後を追おうにも、バオバブが図書室に結界を張った為、外に出ることが出来ない。やむを得ず、机を裏返して船を作り、
時間の流れを縦に遡ることになった。魔法書が盗まれた瞬間まで遡って、事態を未然に防ぐ為に。
ところが、誰かの怨念が風となって時空をゆがめ、一行は物語の世界に紛れ込んでしまう。そして、一度船から降りたものは、もう船に戻れなくなってしまうことに気づく。
日没までに親友が帰ってこないと、代わりに処刑されてしまう男。真冬にたった一匹の蝶を探す娘。どちらも、白い服や白いショールを身に纏った姫の姿をしていた。そして、
それに対峙する存在に姿を変えたバオバブ。姫の姿をした者こそ、魔法書WHITEの化身であることに、三角は気づく。
誰しも自分の命が一番大事で、他人を信じることなどできやしない。しかし、どんなにバオバブに追い詰められても決して諦めない姫の姿に、三角は自分の考えが揺らぐのを感じる。
ついには、船に一人残されてしまった三角の耳に、汽笛が聞こえてくる。「切符を拝見いたします」。車掌の姿をしたバオバブが、正治たちから白い紙を受け取ってはポケットに
納めていく。最後に少年の姿をした姫が現れ、白い紙をバオバブに渡した後、三角のいる船の上にやってくる。自分に『ジョバンニ』と呼びかける姫の言葉に、
三角はこの物語の結末を思い出す。ジョバンニを残して死んでしまうのだと。しかしハクションが、死んでしまうのは三角の方だと言い、切符を持っていないからとバオバブが言う。
切符を取りに行くには、船を降りなくてはいけない。船を降りたら、もう戻ることは出来ない。三角は皆に助けを請う。しかし皆は、自分を守ることだけに必死で、望みも、主張もせずに壁を創っていた
三角を、どうやって助けたらいいのか分からないと突き放す。死にたくない。まだ自分は何もしていない。自分が生きた証が、どこにも残らない。三角は船を降り、バオバブに対峙する。自分だけの
物語を、自分で書いていかなくては。三角はバオバブからペンを奪うと振りかざした。
図書室で、姫を探している正治と岩波。書架の奥のほうから、坊が読みたかった本をごっそりと持ってくる。机に置かれた本の中に、『星の王子様』を見つけた正治に、書架の影から
三角が現れて自分の本だと告げる。授業中なのに何故図書室にいるのかと尋ねる正治に、三角は体育をサボったといたずらっぽく笑う。書庫で作業していた姫も現れ、三角が手伝ってくれていたことを告げる。
そこへ体育の教師・向井や化学の教師・桜子らが現れ、更にはのんびりとした校長や教頭も現れ、教師たちが話し込んでいる間に、三角達はこっそりと図書室を抜け出していくのだった。
*感想*
作品の内容としてはちょっとマニアックなのかなとは思いますが(笑)、日常の中のファンタジー、みたいなのが好みのぴよりーぬとしては大変面白かったです。
そして、ただファンタジーなだけじゃなくて、一人の人間(三角)の心の成長なんかが精密に描かれていて、今まで観てきたライフの舞台の根底にあるもの・香りみたいなものが、
かなり全面に出てきて濃厚になっている感じ。オリジナル作品の上演から原作物上演に変わったライフにおいて、今でも新人公演に使われる倉田先生の脚本は、
やっぱりライフの根っこっぽい作品なんだな~と思いました。
前半は、正治君たちと妖精(・・・?)たちとのやりとりとかが爆笑で、美人はトイレに行かないとか(笑)、そんなおバカな会話も連発だったりするんですが、
後半、三角君の心の動きに焦点が合ってくる辺りからぐぐ~っと引き込まれます。はい、この作品、所謂主役は三角君なんですね。周りのキャラクターが個性的過ぎる分、
スタンダードなネクラ(?)さんは、かえって浮き立つのかな。まあ、自分の心の葛藤が生んだ物語に皆を引きずり込んじゃうような人がスタンダードかどうかはさておき(笑)。
キャスト別だと、まず正治君。勉強は苦手だけど前向きで明るくてリーダー格。そして、表立ってはみせないけど、実はおせっかい焼きの情の厚い人です。
政宗さんの正治君は、ほんと、面白い!いえ、『Daisy Pulls It Off』のマドモアゼル役でも、すごく個性的で面白い人だなと思ったんですが、
正治君のはじけっぷりは圧巻。えらく高いテンションでかっ飛ばしつつも、暴走してる感じはあんまりないと言うか、あれが素ですと言われたら納得するような(おいおい)。
ちょっと王道の雰囲気ではないのですが、これからも注目したい役者さんになりました。
仲原さんの正治君は、もうちょっと理性的。『決闘』のスケリーをもっとおバカにしてテンションを上げたような正治君です。リーダーシップの面のほうが
強く出てたかな。実は正治役の方は、自分が正治をやらないほうのチームでまったりした校長先生の役をされるんですが、仲原さんの校長先生はお気楽お公家さんみたいな(どんなん?)
雰囲気で、ぴよりーぬ的にはポイント高かったです。
岩波くん。読書家で、でもちょっとマニアック。頭はいいんだけど運動は苦手で、ちょっと気が弱くて、正治君に引っ張りまわされている子です。
神野さんは姿からして小柄で、運動より勉強の方が出来そう。スーパーハイテンションな政宗正治君に振り回されつつも、知識面や理性的な面で彼をフォローする、と言う立場。
真面目な言動が笑いを誘う系の岩波君でした。
谷屋さんの岩波君は、もっとおおらかで柔らかい印象。仲原正治君とも対等と言うか、ちょっとお母さんぽいと言うか(笑)。根っこはそれほど大真面目な
勉強の虫なわけじゃないんだけど、わざとそういう振りをしている風でした。余談ですが少女漫画と可愛いものが大好きだそうです(笑)
坊。マイペースでのんびり屋さん。廊下で立たされてても眠ってしまったり、宙に浮いてるからなぞなぞの本だと思った、とか言っちゃう、天然系の子です。お寺の息子だとか。
石井さんの坊は、ほんとにぼ~っとしてて、正治君や岩波君にくっついて行きながら、絶対話が分かってないでしょ、君、って感じです。声の出し方、話し方からして、
のんびりした子なんだな~と。これまた、これが素ですといわれたら納得(笑)。この坊役の方は、別のチームでプレイボーイと言う、マドンナにちょっかいを出す
役をされたのですが、この坊のぼ~っとした感と、プレイボーイ役のはじけっぷりとの差が面白かったです。
原田さんは和み系でしょうかね。和み系天然くんです。で、ちょっと甘えたさんかな。谷屋岩波君がお母さんみたいだから尚更そう思ったのかもしれないんですけど(笑)。
って言うか、多分、素で和み系天然なんじゃないかと・・・。プレイボーイ役のときに、かっこつけて足を椅子にかけたら踏み外してガクッとかなってたあたりから、
そんなことを思いました。
三角、緒方さん。ネクラっぷり、おどおどっぷり、人見知りっぷり、そしてちょっと不気味に笑う辺りが板についていて(・・・それはいいことなんだろうか?いや、
役者的にはいいことなのか)、でも後半の自分の感情が爆発するに至る経緯とか、各場面でキチンと創ろうとしていらしたかな。時空をゆがめてしまった怨念の風の正体が
三角くんだと言うのが、かなり早い段階から薄々分かっちゃうのですが、これが演出の意図なら彼は見事な演じ方なのでしょう。ラストシーンで、自分を開放した三角君の
態度が爽やかで、かつちょっとコミカルで、観ている側としては「ああ、良かった、明るくなって」と思いますね。
マドンナ・三上さん。・・・いえ、素敵でした。セーラー服も、セリヌンティウスの真っ白も、ショールの少女もカムパネルラの少年姿も。それほど台詞がないんだけど、
特に物語の世界の中で発する台詞はどれも重要で、三角君を動かす引き金になるものばかり。静かな、凛とした佇まいは美しかったです。同性から見たら、
こんな完璧な女の子いないでしょって思うんですけど(笑)、男の子のアコガレのマドンナですから(笑)。
用務員・ハクションの荒木さん。本公演や若手公演で主役をやっている人ですが、盛り立て役も上手。自分より後輩の出演者たちを、見守るように、尚且つ
自分も全力で個性的な役どころを好演。落ち着いた舞台姿でした。
教頭・ティンクの冨士さん。羊さんみたいな耳と尻尾の姿がラブリーです。ハクションに尻尾を引っ張られて『いや~ん』みたいな顔をしたのが、ぴよリーぬのツボ(苦笑)。
また、ダンスがシャープで、踊れる方なんだな~と発見。几帳面に本を片付けたりする仕草が、これまたコレが素ですと(以下略)。
向井・ウィンディの堀川さん。体育教師向井先生は、竹刀片手でこれぞ暴力教師なんですが(今時いませんね、こんな先生)、大きな体とちょっと擦れ気味の
個性的な声とがマッチ。また、破壊魔王オチコボレのウィンディでは、暴れまくった後にイキナリ子供のように座り込んでわらべ歌(あぷく立った煮え立った~とか)
歌いだすギャップがツボ。ワイルドだけど繊細なお芝居もできそうです。
桜子・バオバブの藤原さん。言うまでもなく、ライフの大黒柱です。おかっぱ頭に眼鏡の桜子先生から一転して、バオバブの威圧感、存在感。そして時折混ぜ込まれる
お茶目のセンスが、さすが。・・・しかし、火の精の赤いドレスは、一考の余地があるかと思われ・・・(笑)。
Studio Life第9期生のスタートライン、しっかりと見届けさせていただきました。全体的に、凄く個性的な方が多いなと言う印象のフレッシュの皆さん。そして、
ちょっと先輩のJr.8、Jr.7の出演者、及び藤原さん。それぞれのチームの個性が見えつつ、まとまって行こうという意識も見えつつ、これからライフの舞台で
活躍されていくのが楽しみです。