はっぴぃ★ぶ~け

はっぴぃ★ぶ~け

『トリツカレ男』観劇報告

演劇集団キャラメルボックス『トリツカレ男』観劇報告

2007年12月1日 サンシャイン劇場にて

*配役*
ジュゼッペ:畑中智行 トト:岡田達也 ペチカ:岡内美喜子 ニーナ:渡邊安理 アンナ:坂口理恵  ビアンカ:井上麻美子 フィオリーナ:岡田さつき マルコ:左東広之 アメデオ:阿部祐介  イザベラ:温井摩耶 レオナルド:三浦剛 ロミオ:菅野良一 セルジオ:筒井俊作 アントニオ:小多田直樹  タタン:西川浩幸 オルガ:大森美紀子 ピエトロ:多田直人

*ストーリー*
ジュゼッペはレストランのウェイター。仲間からは『トリツカレ男』と呼ばれている。彼は何かが好きになると、寝食を忘れて没頭してしまう。 オペラ、探偵、昆虫採集、外国語。目下彼が没頭しているのは三段跳び。秋深まる道端のバッタが跳ねている様に感化され、自分も飛んでみたくなってしまったのだ。 ジュゼッペの幼馴染で、地元新聞のジャーナリストのイザベラは、彼の三段跳びの記録が、現在の世界記録を1センチ上回っていることに気づき、素人でも出られる 大会に出ることを強く勧める。
ある日、レストランの前を、風船売りの少女が自転車を押しながら通りかかった。少女の風船が自転車を離れ、ふわふわと空中へと舞い上がっていくところを、 ジュゼッペは三段跳びの跳躍力でキャッチする。片言で礼を言う少女に、ジュゼッペは一目ぼれしてしまったのだった。以前トリツカレた外国語で、 片っ端から挨拶を試みるジュゼッペ。その中のひとつが彼女に通じ、たどたどしいながらもお互いに自己紹介。そして、ジュゼッペは彼女・ペチカと 友達になりたいと言い、ペチカも言葉を分かってくれるジュゼッペに色々な話をして、二人は親しくなるのだった。
彼は親友のハツカネズミ・トトに頼み込んで、 彼女のことを調べてもらった。トトはかつてネズミを育てるのにトリツカレていたときからの相棒。彼の言葉は、ジュゼッペにしか聞こえない。贅沢なチーズに釣られて、 トトはペチカのことを調べ上げる。生まれた国はロシアで、お母さん・オルガの喘息を治すために暖かいイタリアでの転地療養を勧められて、この街にやってきたのだった。 お父さんはパン屋を営んでいたが亡くなり、お母さんの入院費などはペチカの恩師・タタンが負担してくれている。ペチカはインコのニーナと小さな部屋に住んでいたが、 生活は苦しかった。街の元締めのツイスト親分ことロミオから、借金が返せないなら自分の経営するキャバレーで働くように言いつけられていると。ジュゼッペは休むまもなく 働いて、夜も寝ずに働いて、彼女の借金を返そうとするが、利息がついた借金には到底及ばない。レストランのオーナー・フィオリーナに、お金を貸してくれと言うジュゼッペ。 フィオリーナはロミオの同級生だった。ジュゼッペはアタッシュケースを持ってロミオの下を訪れる。そして、ロミオが無類の昆虫好きであることをフィオリーナに聞いていた ジュゼッペは、滅多に見られない貴重な蝶の標本を差し出す。昆虫好きにとっては何者にも変えられないほどの、貴重な蝶。かつてジュゼッペが昆虫採集にトリツカレていた時に、 どうしても欲しくてやっと見つけた蝶だ。ロミオは二つ返事でペチカの借金を帳消しにし、 向こう50年は部屋代を無料にすると約束する。ジュゼッペを兄弟とまで呼ぶようになったロミオに、このことはペチカには言わないで欲しいと頼む。
借金がなくなって大喜びのペチカ。しかし彼女の目の奥に、微笑みの向こうに、まだ何か不幸の曇りを見たジュゼッペは、またトトに調査を頼む。トトの報告に寄ると、 喘息のお母さんの具合が良くないらしい。忙しくて、なかなか会いにいけないペチカに、主治医のピエトロから電話があったのだと。ジュゼッペは夜も休まずに 医学書を読み漁るが、どうしても良い治療法が見つからない。レストランのシェフ・アメデオの弟が喘息だったが治ったと聞いたジュゼッペは、その治療方法を聞きだす。 ペチカの母・オルガが入院している病院へ、さすらいの医師と名乗るサングラスの医師が現れ、歌を歌うことを勧める。歌えば気管支が開き、気分も明るくなって、腹筋が鍛えられて 喘息は快方に向かうのだと。最初は小さな声しか出なかったオルガが、段々と大きな、晴れやかな声で歌いだし、ついには車椅子から立ち上がって朗々と歌い、喘息は飛躍的に 良くなっていった。さすらいの医師。勿論、ジュゼッペの変装した姿だ。
お母さんの体調が良くなったと、嬉しそうにジュゼッペに報告するペチカ。でもまだ何か、彼女の笑顔に小さな曇りを見たジュゼッペは、トトに3度目の頼みごとをする。 実はトトはペチカの部屋に出入りし始めた頃から知っていた。彼女には愛する人がいると。彼女の部屋には、愛する人・恩師のタタンの写真が飾られていたから。お母さんと 一緒にイタリアへ発つとき、帰ってきたらお嫁さんにしてくださいと、ペチカはタタンに頼んでいた。面食らいながらも、タタンはそれを受け入れて二人を見送ったのだった。 イタリアに着いた初めの頃は、頻繁に届いていた手紙も、入院費の仕送りも、1年ほど前から途絶えている。ペチカの曇りはそれだったのだ。 ペチカの心を救えるのは、このタタンという人しかいないのだ。ジュゼッペはタタンの消息を必死に調べる。ロミオの側近・アントニオが、実はロシア人で かつてタタンの教え子だったことを突き止めたジュゼッペは、彼を通してタタンのことを調べてもらう。ホッケーの指導力を買われて学校を異動したタタンは、 ホッケー部のコーチとして部員たちとともに雪山に合宿に行った際、古いロープウェーのロープが切れ、子供たちを守る為、少しでもゴンドラを軽くしようと、 自らゴンドラから飛び降りて亡くなっていた。ジュゼッペは、仮面をつけてタタンに変装し、ペチカの窓へとハシゴで上がっていく。変装したジュゼッペを、 タタンと信じるペチカ。それから毎夜、寒い中をペチカの窓へ上がっていく、タタンのふりをしたジュゼッペ。昼は子供たちにホッケーを教え、夜はペチカと話をして、 冬の寒空の中、ジュゼッペは風邪をこじらせてしまう。高熱を押してまでペチカに会いに行くジュゼッペを、イザベラが詰る。結局、ペチカと出会った後の三段跳びの大会も棄権。期待されていた 仮面祭の仮面コンテストもパス。ジュゼッペには、何かを成し遂げられる大きな力と才能があるのに、そしてそれを応援する人もいるのに、全てを踏みにじるのかと。 自分はタタンだと言い張り去っていくジュゼッペ。たまりかねたイザベラは、窓の下からペチカを呼び出す。タタンは既に亡くなっていると。静かに、ペチカは頷く。 タタンがもうこの世にいないことを知っているのだ。それでも毎夜会いにきてくれるのは、タタンの魂だと。イザベラは、そんなものは存在しない、キチンと 現実を受け止めて、もうこの街から出て行ってくれと言い放ち、走り去る。
ペチカは、すっかり体調がよくなったお母さんと一緒に、ロシアへ帰ることにした。最後にジュゼッペに会いたいと、彼が勤めるレストランにやってくるが、 彼の姿はなかった。イザベラが取材用に撮っておいたジュゼッペの写真をもらって、仕方なく駅へ向かうペチカ。見送りに来たロミオが、借金を帳消しにした事情をとうとうペチカに話す。驚くペチカ。 そしてお母さんにジュゼッペの写真を見せ、さすらいの医師はこの人かと尋ねる。お母さんは、サングラスをかけたらこの顔だと言った。そして、毎夜部屋の窓に上がってきてくれたタタン・・・ 自分の今の幸福が、全てジュゼッペによってもたらされたことに気づいたペチカは、来た道を走り出した。
今夜も、ペチカの部屋へハシゴをかけるジュゼッペ。すると、タタンの魂・幻影が、その窓に浮かび上がる。ペチカの為にしてきたいろいろのことに、 タタンはお礼を言いたいのだ。そして、これから先は自分ではなく、ジュゼッペとしてペチカの前に立つように言って、彼は昇天していく。それを 見送り空を見上げたジュゼッペ。のけぞった拍子にハシゴが倒れ掛かり、ジュゼッペは背中から地面へ向かってしまう。そこへ、引き返してきたペチカが 現れて、彼を辛うじて救ったのだった。
そして、春。フィオリーナのレストランのとなりに新しくパン屋がオープンした。『ペチカのパン屋』。かつてお父さんが営んでいたパン屋を、いつか自分もやりたいのだと言っていたペチカが ジュゼッペと一緒に作ったのだった。長い間寝込んで生死の境をさまよったジュゼッペを、治るまではロシアに帰らないと看病し続けて、結局は二人でパン屋を始めることになったとか。
店の奥から、パン屋の主人になったジュゼッペが、焼きあがったばかりのパンを持ってきてペチカに見せる。顔を見合わせてさくっと割り、立ち上る湯気に笑顔がこぼれる。トリツカレ男と、 いつの間にか彼にトリツカレてしまったトリツカレ女の、ハッピーエンドの物語。

*感想*
初・キャラメルボックス観劇でしたが、まず、音響がかなり大きいな~って印象が最初でした。席が下手の端だったとか、そういう問題じゃなくて、何か大きいの。びっくりする、みたいな感じかな。
でも中身は面白かったです。原作を読み損なってますけど、これがキャラメルっぽいところなのかな?と言うユーモアセンスが新鮮でした。それから、客席に対して親切。借金の額とか、イタリア通貨で 言われてもピンと来ないんですけど、そこでトトが『あ~!なんだか突然日本円に換算したくなってきた!』とか言って、大体幾らぐらいって言うのを教えてくれたり、 ロシア語で話が弾んじゃっているのを、『ここからはみんなの分かる言葉でどうぞ』とか言ってスイッチ切り替えしてくれたりして。笑いとシリアスのバランスが心地良い感じでしょうか。 そして、ぴよりーぬの涙腺ポイントはタタン先生が子供たちとロープウェーに乗ってる場面。大きな音とともにロープの一本が切れて、子供たちが泣き出す。タタン先生は目を閉じさせて、 イメージトレーニングだといってホッケーリンクを思い出させる。初めて氷の上に立つように、ゆっくりと立ち上がって、そのままでいなさいと。「私をコーチと思ってくれるなら、ずっと黙ったままでいること。 でなければ私はコーチをやめるからね」と言って、子供たちが目を閉じたままゆっくり立ち上がるのを見届けると、そのまま、そのまま、と言いながら、ロープウェーの扉を開けて、背中から落ちていくんです。 その、子供たちに知られないように、密かに落ちていく様が、たまらなく切なかったです。
キャスト的に行くと、ペチカ役の岡内美喜子さんがキュート☆声とかも何か可愛くて、最初片言だからその片言っぷりが面白可愛い。ロミオさん、が言えなくて『ロミオッサン』って言ったりとか(そのたびに ロミオが「オレはおっさんじゃね~!」って怒る・笑)言葉の文法とかも分かってないから、借金してる相手に向かって命令形を発しちゃったりして、そのちぐはぐ感が面白可愛いのです。それから、ジュゼッペ役の 畑中智行さん。すごいヘナチョコジュゼッペで、何だか可愛らしい。フィオリーナさんとか大人の女性から見ると、何かに夢中になる情熱と頼りなさが可愛いんじゃないでしょうかね。 そうかと思うと、後半のタタン先生になるあたりで、すごく声を低くして、タタンになりきろうとしているところとのギャップがすごいなぁと思いました。だってほんとに別人なんだもん。 そして、以前、映画『アザーライフ』に出演されていた為に、お名前とお顔を存じていた岡田達也さん。いや~、ハツカネズミとはびっくり。『アザーライフ』では、妹が男に捨てられて自殺して、 その男に復讐するお兄ちゃんの役をされていたので(めちゃくちゃシリアスな役です)、今回、コメディ担当の(って言うか、この作品のキャラクターは皆、多かれ少なかれコメディ要素があるんですけど) でも、もっと若手さんがやったんじゃ成り立たないんだろうなって言うハツカネズミッぷりに乾杯です。
そういえば、2月の銀河劇場・Studio Lifeプロデュース公演『カリフォルニア物語』に出演されるのが、多田直人さん。ペチカのお母さん、オルガの主治医さんの役をされていましたね。 気弱そうな、君ほんとにそれで大丈夫なの?みたいな、少なくとも私はこの医者にはかかりたくないよ、みたいな医者(苦笑)。どんな方なのかな~と思って、オペラグラスを使用し拝見しました。 端から見ると多田さんのファンなのかって感じなんですけど(苦笑)。確かシャーロット、と言う役名だったから、女性役でしょう。楽しみなことです♪
個性豊かなキャスト陣が、バラバラな行動をしつつもひとつの軸にまとまっていっている印象を受けました。また、何か心惹かれる演目があったら拝見したいと思います。



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