Studio Life若手公演『TAMAGOYAKI』観劇報告
2008年7月6日 恵比寿・エコー劇場にて
*配役*
時男:奥田努/仲原裕之 翔:小林浩司 蟻巣:三上俊/青木隆敏 時男2:神野明人/緒方和也 翔2:原田洋二郎/石井昭裕
蟻巣2:谷屋桃威/堀川剛史 真似木:大沼亮吉 堤先生:冨士亮太 百合子先生:吉田隆太 稲葉君:下井顕太郎 博士:藤原啓児
*ストーリー*
何の夢も希望もない生活を送るキャバレーの従業員、時男・翔・蟻巣。彼らはひょんなことからタイムマシーンを開発した博士と知りあい、
現状から逃げ出す為にタイムスリップを決意する。そして彼らは、小学生時代にたどり着き、その頃の自分と出会う。子供時代の
生意気で甘えん坊で要領のいい自分たち。憧れていた先生。いじめられっこの同級生。段々と、その頃の気持ちがよみがえる。しかし、
そこで思い出したくないできことまで思い出すことになる。遠足の日、時男たちは禁止されていた川へ立ち入り、自分たちについてきたいじめられっこの真似木が
川に落ちたのだ。助けようと飛び込んだ、担任の百合子先生は、真似木を岩にしがみつかせ、そのまま帰らぬ人となった。責任から逃れたくて、真似木を強く責める、
子供の頃の自分たち。やがて、先生がいつも弾いていたオルガンの前に座り、遠足で歌うはずだった曲を弾き始める真似木。皆で大合唱した後で、
子供時代の自分たちは翔の家でご飯を食べようということになる。仲良く帰っていく子供たちの中には、誘われた真似木の姿もあった。
そして、現在。博士の研究室に集まった3人は、それぞれ異なる道へ進もうとしていた。小説を書き始めた蟻巣。写真家を目指す翔。ジャーナリストとして歩き始めた時男。
真似木の現在の所在を突き止めた3人は、あの子供の頃のことを昇華し清算し、新たな道へ進もうと歩み始めるのだった。
*感想*
日常の中のファンタジー、みたいな、ぴよりーぬ好みの作品です。でも単なるファンタジーじゃなくて、そこにいろんな、きゅんとくるテイストを降りかけて
仕上げるのが、これぞ倉田淳(演出家)、なんでしょうか。ほら、まだそれほどライフとの付き合いが長くないので、明確には語れませんけど、
今でもぴよりーぬの心のツボをついてくる作品世界が、やっぱりオリジナルだと凝縮されてるな~って思います。前半は軽快にストーリーが進みますが、
後半の遠足の辺りから、ずず~っと引き込まれる、その引き込み方、涙腺のつつき方がまた、役者陣の芝居と相まって絶妙なんですよね。
んで、タイトルのタマゴヤキはと言うと、遠足の場面でチビ翔君がお弁当に持ってくるわけです。翔くんのお母さんのタマゴヤキ、美味しいって評判なんだよ、と、
大人の方の翔くんにお弁当箱を差し出すんですね。食べてみないか、って。大人の方の翔くんは、勿論小さい頃に散々食べてた味だから、美味しいのは分かってるんだけど、
今食べてみるとまた、何だか泣けてくるわけです。この場面も大好きでした。・・・その後で、慰めてくれてた時男くん(大人のほう)のシャツで涙の顔を拭いて、笑顔を見せる
ところがまた、ほこっとできるんです。また、遠足に持っていくおやつの話で盛り上がったり、バナナはおやつに入らないとか、スーパーの価格で300円でいいのかとか(笑)、
しかも今回は、ダブルキャストのチーム名にお菓子の名前がついていて、チームによって時男君の買ったお菓子が違うの(笑)。パックンチョチームの時男君(神野さん)は、パックンチョを買って、
翔くん(原田さん)が、おっとっととどっちにしようか悩んで買わなかった、って言う。逆におっとっとチームの時男君(緒方さん)はおっとっとを買って、翔くん(石井さん)はパックンチョと悩んで
買わなかった、って言う。こんな細かいところがまた、ツボです(笑)。そんな、楽しいことばっかだったような子供に、担任の先生の死と言う重い記憶が
戻ってくる。その対比がまた、後半の涙腺決壊につながるんですね。
で、キャスト的に見ると、ピカイチは真似木くん。前半、キャバレーの悪徳店長(一袋200円の柿の種が、皿に盛ったら5000円!とか言う・笑)で、かなり
アクの強いキャラクターなんですけど、後半の真似木くんはそれほどしゃべらないのに、そして、目立つことをしてるわけじゃないのに、気にかかるですよ。
ラスト付近、号泣してオルガンにすがる様、泣きながらオルガンを弾く姿、そして、翔くんのウチのご飯に誘ってもらったときの、信じられなさそうな、でも
嬉しそうな様子が、なんだか愛しかったです。大沼さん、期待の役者さんです。
時男(大人のほう)のお二人。前回『夏の夜の夢』のダブルディミートリアスです。奥田さんにしては(失礼)、すごくスタンダードな役作り。
一番その辺にいそうな、SFとか鼻で笑ってる、ストレスの多い青年。でも、奥田さんってかっこいいんだ(また失礼)、と思ったのも事実です。特に、
後半くらいからね。ほら、私の奥田さんの印象って、初演『夏夜』のディミートリアスが染み付いてるから(おかしいなぁ、『トーマの心臓』のユーリ、観てるはずなんだけど・・・?)。
仲原さんは、持ち前のパワーが全開。そして、物事に対する考え方が柔軟な印象を受けました。正直、前回のディミートリアスは、「・・・?」だったんですけど(失礼)、
時男君は良かったと思います。合ってた、というか。
翔の小林さん。3人の中で一番マイペースで、時男くんと蟻巣くんに引っ張りまわされているのかと思いきや、自分のペースは崩してない、ほっこりするタイプです。
ちょっとスレ気味の特徴的なお声と性格との対比がまた、ぴよりーぬ的にはツボでした。
蟻巣のお二人は、本公演でも女性役をよくされるお二人。要領がよくて女性にもてる役どころです。三上さんはヴィジュアルからして女の子ウケの良さそうな青年。
でも、要領のよさそうな部分はあんまり見えなかったかな?確かに女性にももてるけど、誠実そうでしたよ。
青木さんは3人の中でも大人ぴた雰囲気。時男くんと一緒になってバカやってる感じはしなかったです。落ち着いてる、というのかな。その大人っぽい雰囲気のせいもあるのかもしれませんが、
確かに世の中を巧く立ち回っている印象はかすかにありました。
子供たちですが、このダブルキャストは全員フレッシュ諸君。登場からして、リコーダーもってわ~~~とか騒ぎながら、先生の周りをグルグル回るわ、言葉の揚げ足は取るわ、
え~い、うるさいわい、このガキどもがっ!!みたいな(これ、褒めてます)、いたいた、こういう子、みたいなね、子供特有のパワーと、
若手中心の公演だから、って言うパワーとが巧くマッチしていたんじゃないかな。個別に、この人の子供時代がこうなわけ?的な、役作り上のツッコミどころはありますけど、
今回の作品ではそこはあまり問題じゃないと思うので。
何故か目が行ってしまう、堤先生・冨士さん。熱血体育教師です。で、密かに(・・・いや、かなりおおっぴらに)百合子先生に想いを寄せているらしい様子。
子供たちに見せる、厳格なんだけどどこかコミカルな部分と、川に落ちたという真似木君を助けに行くときの真剣な表情とのバランスが素敵。そして、百合子先生のいなくなった
オルガンで、真似木君の演奏で子供たちが歌うのを、よく歌えてるって褒め、抱きついて泣く子供たちを慰め、そして誰もいなくなった教室で、
そっとオルガンのフタを閉じる、その辺の作り方がもう、絶妙。・・・あれ?私って、冨士さんファンなのか・・・?
その、みんなの憧れの百合子先生・吉田さん。これぞマドンナ、憧れの先生。優しくて優しくて、更に優しくて、上品で可憐。そして、堤先生の気持ちを、
戸惑いつつもまんざらでもなさそうに思っている様子が、何だか観ている方が気恥ずかしい感じです(笑)。そんな素敵な先生を、日頃から女性役を多くされている
吉田さんがされました。とっても素敵でした。雰囲気の作り方、仕草、語調。ほんとに、憧れの先生でした。事故にあわなかったら、堤先生と結婚されていたんでしょうかね?
稲葉君。この方は、博士の助手です。うっかりタイムマシンのスイッチにぶつかってしまい、一人でタイムトラベルして、あちこちで元に戻るスイッチを探しています。
その途中の時空間で、遠足の途中(真似木君が川に落ちたとき)の世界から逃げ出してきてしまった時男くんたちに出会う。あの続きの世界に戻るのはイヤだけど
ここにずっといることも出来ない、と悩む時男君たちに、キミたちの出なきゃいけない出口は、あそこしかないんだよ、と示す。チラシとかに書いてあった、
「キミたちの世界に、よろしく!」って言うのは、実はこの稲葉君の台詞なんですね。すごくさらっと、キミたち、あそこにいくしかないでしょ!って言うんですけど、
実は大事な場面なんですよね。そのさらっとした稲葉君は下井さん。『夏夜』のスターヴリング・劇中劇では『月』をされていた下井さん、実は密かな楽しみでありました。
白衣、素敵なんですよ、この方。研究室で博士とコーヒー飲んだりして、ほっこりしたお顔がまた、こっちもほっこりします。でも、ちょっとうっかり屋だけど賢い人なのが、
コミカルな中に見える稲葉君でした。ストーリーラスト、どうやって戻ってきたかは分からないんですけど(苦笑)、また博士の研究室でコーヒーを飲みながら、
またうっかりタイムマシンのスイッチにぶつかってしまう彼・・・そんな幕切れに相応しい、ほっこり稲葉君です。
博士・藤原さん。若手を引っ張る大黒柱。物理学者なので、キャバレーで酔っ払って種々の理論を解説しはじめちゃうんですけど、もちろん聞いてても分かりません(苦笑)。
あの小難しい長台詞のオンパレードを流暢に、且つコミカルに述べる件はもう脱帽です。そして、若手たちを見守りながらも、
自分も一緒になってテンション上げて舞台に立っていらっしゃる姿。お芝居、本当に好きなんだな~って思います。このところ、コミカルな役を多く見ている気がしますが、
シリアスな藤原さんはダンディです。
『TAMAGOYAKI』。これを、なぜ若手公演に選んだのか、実際に拝見して分かる気がしました。いえ、通常公演のメンバーでやっても面白くはなると思いますけど、
若手さんが何かを得るのに、何かの引き出しを増やすのに、適しているんじゃないかなって思います。そして、倉田さんのオリジナルに出演しているって、
Studio Lifeでお芝居をするなら、絶対強いと思うのです。
最近は原作モノの上演ばっかりですけど、倉田さんのオリジナル作品を拝見できる機会が、もっと増えたらいいな、と思います。


