michiのぽらんぽらん

michiのぽらんぽらん

コラム2


「ある日の出来事」
coram2
緊張すると、トイレが近くなる人がいる。赤面する人がいる。
はたまた貧乏揺すりなんてのもある。

私の場合は、口腔内の分泌量が盛んになる。
恥ずかしいから、漢字ばかりで体裁を整えてみたが、
アリテイにいうと、トドのつまり。

「よだれがたまる」のである。

この癖といおうか、体質といおうか、
ああ、もう、この際、呼び方は何だっていいのだが、
とにかく「よだれ」では色々と辛い思いをしてきた。

小学生の時、大好きな伊藤君とお話できるチャンスに恵まれた。
ウブな私はもちろん緊張した。彼の目と私の目が合った。

今だ!話しかけるんだ!

「伊藤く…ん」細い目をバシバシとしばかたせながら、
小学生なりの恥じらいを匂わせつつ、かわゆい声で呼びかけたその時だ。

落ちた。

開いたノートの上に隠しようのない、液だまりができている。
その部分が、じわりとふやけていくのを、妙に冷静に見ている自分。
目の前にいる伊藤君の視線がノートに注がれる。

「今、大地震が起きたらこの事実は無かったことになるのに」

小学生ながら恐ろしいことを考えたその時の私。
「その場逃れの考え」とはああいうことを言うのだろうか。

そして、今日またやってしまった。

幼稚園で7月のお誕生会があった。

クラスで7月生まれの子供達とその母6組がみんなの前に出てイスに座り、
母親が、我が子の産まれたときの様子だの、子供が今、
頑張っていることなどを話すのだ。

私は、割とそつなく息子が小さいときの様子などを言い終えた。
目の前に座る園児達も楽しそうに聞き入っている。

膝元にいる息子が振り返り「えへへ」などと、かわゆく照れてみせる。
そこで「ほら、前向いて♪」と頭をなでながら、とどめの優しい母を
決めたかった。別に、大それた事は望んでいない。

「michikoおばちゃーん、美人ー!」なんて大喝采を園児に望んだりしていない。
ただ、そこで普通に次の方にすんなりバトンタッチしてその場を
終えたかっただけなのだ。なのに。

私が話している間にも、お口の中では着々と唾液が分泌され
その時、私が口を開くという行為は、大洪水のダム決壊と同じ事だった。

そして、満を持してダムは決壊した。


「ママー!!!」


悲鳴にも似た息子の声が遠くで反響している。

「おばちゃーん、よだれーーー!」
一番近くに座っているマナちゃんの声が聞こえる。
「ぶわははははは」数名の園児が大爆笑する。

自分の足の指をいじくっていてこの事態に気づいていない園児3人。
あんたらえらい。

先生がこちらを一瞬見て、大変なものを見てしまったというように
目をそらす。

今回は、手の甲に落ちたので急いで、もう片方の手に持っていたハンカチを
当て、何事も無かったかのように息子の背中をぱんぱんとはたいた。
「これ、あんた、背中がなんだか汚れてるわ。どうしたのかな」

「え?どこどこ?」と息子。あんた、相変わらずだまされやすいね。
園児達の注意がそこに注がれた。

そして6歳児達の頭の中で、先ほどの事件が、瞬時に他の対象物に
上塗りされていった。

相手が6歳児で本当に助かった。
7歳だったらちょっとやばかったかもしれない。

度重なる決壊に私もだいぶん処理に慣れてきている。

しかし、よだれと私の濃密な関係は今後も続いていくのだ―。





© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: