~ LAZY LIFE ~

~ LAZY LIFE ~

短編


まだ適当に思いついたものを書いているだけの状態ですので、
中身は本当にズタズタのボロボロです。
それでもよろしければ、何かの足しにでもどうぞ。

短編



ボクにはもう何も残されてはいない。
もう明日すらも。
けれど、ボクのしたことは間違っていなかった、そう今でも言い切れる。
ボクはあの時全てを投げ打ってでもなしたいことがあった。
…結果、全てを失うことになったけれども、そこから生まれた光もある。
それだけで十分だ。
その光がこれからどこへ飛んでいくのか、にはいささか気がかりを感じて得ないけど、それはきっとボクが関与することじゃない。


だから、せめて祈るよ
ボクがもう共に歩むことはないから
ボクの心がもう形なすことはないから
祈ることしか出来そうもないから――


そして、ボクはゆっくりとまぶたを閉じる
入ってくる陽光が何も気取らずにまた旅立っていけるように



いつものように目覚ましがウルサクがなり立てる朝。
「正弘! いつまで寝てるの! 学校遅れちゃうわよ!」
この目覚ましはボクが起きるまで、決してその主張を止めてはくれない。
止めるための停止ボタンも見当たらない。
いや、厳密に言えば、停止ボタンはあるし、停止させた人も知ってる。
ニュースによれば、そのボタンを押した人が結構いるそうな。
けれど、ボクはそれをしようとは思わない。
別に社会から逸脱することが怖いワケじゃない。
ただ目覚ましに対して怒りを覚えることもないし、
ボタンを押したらどうなるかにも興味がないだけだ。
普通にしていれば、周りはボクから関心を無くしてくれるしね。
だから、ボクはずっとしてきたように、今日も指定通りのブレザーを羽織ると、
いつも通りの時間に家を出た。


ボクの名は長田正弘(おさだまさひろ)。
さっきも言った通り、なんの変哲もない高校生。
学業も、スポーツも、友達との付き合いも程ほどにこなす。
全てにおいてソツがなく、それだから、他人からのボクに対する関心度はこの上なく低い。ボクから言わせれば、ここまで中間過ぎるヤツなど奇異の目で見られてもおかしくないと思うのだけど、世間ではこれを本当の意味で「そこそこ」というらしい。
まあ、労を要せず世間の好奇の対象から外れることが出来るのだから、何も文句はないんだけど。


ボクに心が存在しないと気が付いたのはいつからだろうか。
いや、きっと自覚したときにはすでになかったんだろう。
ボクには一般に言われる人が人足らしめる人格形成の要因「喜怒哀楽」が、どうやら甚だ欠如しているらしい。
ボクにとっては、何事にも心動かされることがないのが当たり前だし、むしろなぜ他人はそうも色んなことに関心がいくのか逆に理解不能なんだけども、どうやらボクみたいなヤツを世間一般では「心を持たざる者」と呼ぶんだそうだ。そう、テレビに出てた評論家が声高らかに宣告していたのだから、たぶん間違いないのだろう。だから、反論もなく、憤りもなく、そう納得することにした。「へぇー」
もちろん、そう認めたからといって「ボクはに心がありません」なんて告白してまわったりするハズもなく。ボクはそうであることをひた隠し、世間の平凡な高校生像をその場限りでトレースしつつ生きていたりする。
何でかって?
そうする理由は一つ。「異端」的存在として敵視・阻害されるよりも、どんな存在として定義付けられようが「身内」として扱われるほうが、今の社会では生き易さに天と地ほどの差が生じるからだ。さらに、身内として「何の面白みもないつまらない人」と認識してさえもらえれば、仲間意識の庇護を惜しみなく受けつつ、加えてくだらない干渉を全く受けない、という特典までもれなくついてくるのだ。だから、バカ正直に「みんなの言うことよくわかんないんだけど…」なんて告白して自分の立場を危うくするハズもなし。ま、運がよければ、それでも周りに溶け込めるのかもしれないけど、それすらも興味ないしね。
だからこそ、ボクはわざと一般人以上に凡人を演じつづける。そこに、友情や愛情、いや感情そのものすら微塵も存在することはないと思う。一種のロールプレイってやつに近いのかもしれない。「自分という心を持ちながらにして、別の人格を装う」のと「自分という心を持たざるから一つの人格を捏造する」という些細な違いしかないのだし。


いつも通り長い勾配を一頻り登り終えた後、今登ってきた勾配を一瞬振り返ってみる。これが唯一ボクが日課と呼べる行為。自主的にする唯一の行動。
この行為で瞳が映す光景は、開始より一年経た今でも何も変わらない。かなり緩急の入り混じった一本道。ただそれだけ。学校のヤツラはここを「魔の坂道」とか呼呼んでいる。朝登りきるのは地獄の苦しみを味わうからだそうだ。
だが、ボクに限ってはここは「魔の坂道」でも地獄の一丁目でもなんでもない。
ただの「学校へ続く道」だった。
ボクは生まれてこの方、息切れをした経験がない。
向上心やら焦燥感やら、切磋琢磨というものを知らないからだろうか。はたまた、身体が悲鳴を上げそうな一歩手前でセーブのかかる装置でも内在されているのだろうか。それとも、心のバランスの代わりにくれたものが、身体能力だったとでもいうのだろうか。よくわからないし、気にもならないのでどうでもいいと言えばそれまでだが、とにかくボクは息切れという生きてる証明とは無縁だった。
だからボクは、いつも他の人がこの道を登りきった所で息を整えるのを尻目に、ケロリとした表情(たぶん)でお先に失礼するのが常だった。

んだけど――。

今日においてはその限りにはなかったようだ。
正直驚いた。今まで一度として襲ってこなかった胸の動悸がこんなにも頭の中をいっぱいに満たすなんて。正直知らなかった。こんなにもただ息をすることが苦しいなんて。
傍から見たら、そんなに動悸息切れしていたワケじゃないかもしれない。けれど、ボクは初めての体験に真っ直ぐ歩くことすらできず、ヨロヨロと道端の壁に持たれかかった。
(ハァハァハァ)
やけに騒々しく息継ぎが頭に木霊する。
正直なんてやっかいなんだろう、動悸ってやつは。
ザマァねぇな。
自分を自嘲ぎみに嘲笑ってみる。自分には心がないとかなんとか言ってても、結局ボクは平凡な高校生で、ちょっとイタイ考え方しかできない奴で、それでもって、人並みに息切れもする奴だったってことだ。
ザマァないのは、どこかで自分だけは特別なんじゃないか、と思い込んでた自分。
ザマァないのは、特別な自分以外の人を見て、冷め切ってた自分。
そして、本当に「惨め」なのは、そんなちっぽけで単純なこと一つに、自らの考えの浅はかさを存分に思い知らされた自分だった。
結局、自分として、自分という個人として生きてくのが怖いから、心がないなんて逃げを作って、なんでも「そこそこ」で挑戦を諦めてただけじゃないか。

「そう、なの?」


――え?



気が付くと、目の前には――――――

      ――――――天使が舞い降りてた――――――





痛いほどのこんな視線を感じるのはいつぶりだろうか?
視線が合わさることが怖くて、隣にいる少女の顔がまともに見れない。
他人に対してこんな風になるなんて初めてだった。
この緊張からくる胸の高鳴りに比べれば、さっきの勾配での胸の動悸なんて比べ物にならないなって思った。

「……でしょ?」

どこからか、か細いけれど芯の強そうな声音が聞こえる。
一瞬頭の中の状況解析機能が停止し、すぐさま復活する。そしてようやく彼女がボクに向かって何かの意思疎通を投げかけてきたことを理解した。
もちろん、ボクはその質問の内容をほとんど聞き漏らしている。
何と応えればいいんだろうか?
まずい。とりあえず、何か言わなくちゃ。
焦りが募り始める。
そしてついに、焦りの極限にまで達したボクが導き出した応えは本当に陳腐な代物だったと言わざるを得ない。

「あ…。そだね、ボクもそう思う」


最悪だ。全くもって最悪だ。
一体何を「そう思う」というのだ。
無粋な相槌にもほどがあるだろ。
はっきり言って、心ここにあらずがばれてしまったのは否めない。
が、彼女の反応は想定外だった。

「ふふ。ほんとにほわほわしてるのね。
 ほっといたら、どっか独りでに飛んでいっちゃいそう」

広がる満面の笑み。
普通、こんな時は、
「何? 聞いてくれてなかったの? ちょっと信じらんない」
が定番ではないのだろうか?
そして、続いてボクの苦笑いで幕を閉じる。
たぶん、そういうシナリオなはずだ。人生ってやつは。

なのに、どうだろう?
目の前の少女はムッとした素振りを見せるどころか、相変わらずのその愛らしい、そして少し霞んだ笑みを変わらずボクに注いでいる。
ボクはその微笑を直視しつづけるのに耐え切れなくなって、ついにそっぽを向いてしまう。きっともうボクの顔は真っ赤なんだろう。
もう彼女にもこの恥ずかしく緩んだ顔を見られてしまったのだろうか?
それとも、彼女は自分の話に夢中で、ボクになんて興味すら持っていなかっただろうか?
「そ、そうかな?」
しまった…。
照れを押し隠そうとして、逆に声が妙に上ずった。
こんなことならクラスの女子ともう少しだけ打ち解けておけばよかった、と後悔するが始まらない。もう何もかも時すでに遅し。
さっきから、こんな感じの意味不明ぶりを幾度となく繰り返している。
人見知りの激しい人だと思われただろうか?
それとも、無愛想で失礼なやつだと思われただろうか?
何より、仏の顔は三度までだが、彼女の笑顔は何度までなんだろうか?
神さま、いるならどうかその方程式をボクに教えて下さい。
ああ、もうキャラまで違ってきた…。

「ほーら、また何か一人で楽しいこと考えてる」
「え、え、え??」
「ほら、焦ってる。やっぱり私みたいなのとじゃ退屈だったかな」

いえいえいえいえいえいえいえ。
そんなこと滅相もない。
何でだろう、色んなことしゃべりたいのに、彼女のこと少しでも多く知りたいのに、ボクの身体は石膏で塗り込められたかのように固まったまま動かない。喉はカラカラに渇ききって声を舌に浸透させてはくれないし、耳は落盤事故でも起こったかのようにその空洞を埋め立てた。
ふと先日テレビで見た『痴呆症の老人と介護のお姉さんの情景』が浮かんで消える。今の状況も恐ろしく似てるんだろうな、と思ってみる。頭はこれだけ冷静さを保っているのに、情報伝達の不行き届きでそうなってしまっている分、こちらのほうがタチが悪いかもしれない。

「否定してくれないんだね」
ちょっとだけ、寂しそうに彼女が笑う。
ボクの中で、今まで押し留めてた心の奔流が、その一瞬で溢れ出した。
もうナリフリ構ってなんていられない。

「あ、あの、た、退屈なんかじゃないです!
 すっごくお話聞けて嬉しかったし。
 むしろもっと聞きたいっていうか、なんていうか…、
 いや、だから、あの、だから」

もっと言いたいことなんて沢山あった。
なんでかわからないけど、もっと色々話がしたかった。
もっと幸せそうに微笑んで欲しかった。
この時間が永遠に続いて欲しい、なんて思ったことすら伝えたかった。
なんでこんなに想いが溢れちゃうのかわからないけど、
枯れることを拒むほど、気持ちが後から後から押し寄せる。

けど、呂律が回ってくれなかった…
伝えたいことは沢山あったけど、伝える術は限界だった。
なんて体たらくだ。
女々しいほどに、泣きたくなってくる。

「……!?」
そんなボクの頬に、突然彼女の手が伸びる。
ゴクリ。
そんな音が聞こえてしまいそうなほど、彼女との距離は縮まっていた。
動悸がもっと早くなり、心の臓を突き破らんばかりに激しく躍動する。
一抹の期待と不安が頭の中で乱雑に編み込まれ、やがて一本になる。
ボクは意を決して目を瞑る…


……
………

何も起きない…。
目を開けてみようか……。
でも、彼女の顔がすぐ近くにあったらどうしよう。
それはマナー違反なんじゃないだろうか。
支離滅裂、意味不明な言葉の羅列が頭を過ぎっては消え、過ぎっては消えた。


バチン


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