『福島の歴史物語」

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2008.05.17
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 三月、富造は初期の目的であるハワイへの移民募集のため、帰国の準備をはじめた。そのために菅原伝を通じて彼の関係していた熊本移民会社のライセンスを利用し、故郷の福島県に支店を開設し、移民を募ろうとしたのである。福島県庁には、「熊本移民会社の社員、安●敬●に熊本移民会社の福島支店の設置届」を提出させて、下段取りをしていた。やがて熊本移民会社の小山雄太郎から、許可が下り、事務所を福島の万世町(いまの稲荷神社の北側)に開設したとの知らせが富造に入った。
   (注 ●は判読不能)
 戊辰戦争後、賊軍とされた東北や福島県民は不作などもあり、決して恵まれた立場にはなかった。その一方で長いアメリカの生活を経験していた富造は、努力によっては経済的には恵まれるようになることを知っていた。それであるから、ハワイへの移民を薦めることは、天与の聖職、とも思えた。
 ──ハワイへの移民は、貧乏な日本を救うための民族の大移動だ。
   (注 ハワイ島移民資料館長・故大久保清氏談)
 富造はそう信じていた。その上、ハワイの移民官になったことで生活の安定は計られたし、ついて来てくれるかという心配はあったが、妻子を一緒に連れてくる絶好のチャンスとも思えた。思い起こせば富造が渡米してすでに十年になる。これから日本に戻ってする移民募集の手順も、一応済んでいた。
 ──アメリカに来てから産まれた克己も、もう十歳になるのか・・・。
 準備が整うと、急に故郷の山河が思い起こされた。
 ──あれから日本も、随分変わっただろうな。
 この思いと家族へのみやげの準備が、さらに富造の気持ちを日本へと駆り立てていた。嬉しくて眠れない夜が続いていた。
 富造の乗った船が太平洋を日本に向かったのは、それから間もなくであった。
 ──とにかく俺は、貧乏な福島県から移民を募り、彼らがハワイで働いて得た外貨を日本に送金をさせて、お国のためにならなければ・・・。
 富造は胸の中で自分の仕事についてそう再確認していたが、生まれた日本と、アメリカが併合を目論でいるハワイ共和国、そして市民権を有するアメリカにどういうスタンスで対応すべきか、その微妙な立場に困惑もしていた。
 出発直前の四月十九日、アメリカの国会では上下両院で対スペイン宣戦の合同決議がなされた。五月一日、香港に停泊していたアメリカ艦隊がスペイン領フィリピンに出撃、直ちにマニラ湾を制圧した。戦火が、日本の近くでも燃え上がったのである。

 東京に住んでいた親兄弟に再会を果たした富造は、この戦争に対して思った以上に日本が平静なのに安心した。むしろたどたどしくなってしまった自分の日本語に、いささか慌てていた。さすがに十年の空白は、大きいと思っていた。
 五月三日、上野から東北本線の汽車に乗った。駅や汽車の中で耳に入る東北弁に、一挙に故郷に戻る喜びが溢れ出た。これから妻や子に逢うことを思うと、つい頬がほころんだ。途中に停車した赤羽停車場は、五分停車であった。汽車が開通してから開けた町だと聞いたが、一筋町で裏町がなかった。
 次に止まった大宮は、賑やかな町であったがやはり一筋町であった。
 小山の町は、思ったほど賑やかではなかった。その手前の間々田停車場には、これから出荷されるらしい薪が、山のように積まれていた。その薪の山に、富造は何か日本らしさを感じていた。
 宇都宮の停車場に着いたとき、富造は子どものころに聞いた、「宇都宮の吊り天井」の話を思い出した。栃木県の県庁所在地でありながら、県庁所在地とは思えないような田舎田舎した町であった。人口は三万であるという。宇都宮を出てしばらくすると、汽車の左窓に雲の間から山が見えてきた。那須連峰である。乗客たちの話を聞くともなく聞いていると「何十遍も通っているが、いつも雲に隠れていて見たことがない」などという話が聞こえてきた。
 ようやく白河に着いた。白河には白河の関があり、昔から奥州の玄関とされてきた町である。富造は泉崎、矢吹、須賀川、笹川(安積永盛)と食い入るように窓外を見ていた。それら流れていく景色は、富造が故郷を出て行ったときと、少しも変わっていないように思えた。
 ようやく着いた郡山の町は、目を見張るほど立派になっていた。今では人口が一万二千人で、福島、会津若松に次いで三番目に賑やかな町であるという。郡役所、中学校、アセチレン瓦斯会社、煙草会社などがあり、また付近には田村、安達などの蚕業地を控えている上に開削された安積疎水の水を利用した製糸会社が多いという。停車場を下りた真っ直ぐな通りには、三春に通う馬車鉄道のレールがついていた。
 ──おう、馬車鉄道が出来ていたか。しかしサンフランシスコのそれより小振りだな。
 富造はそう思った。駅舎に入ってよく観察してみると、サンフランシスコの馬車鉄道が二頭立てなのに対して、三春のそれは一頭立てであった。

マウナケアの雪
(筆者が復元した三春馬車鉄道の客車・郡山歴史資料館蔵)


 やがて富造が乗った馬車鉄道は、賑やかな北町、大町などの中央市街を北に向かって進んで行った。大重町、久保田、福原を通り、阿武隈川の橋を渡った。女房子どもに会えるという思いが気を急かしていたのであろう、それから先の道のりは、いやに遠く感じられた。
 四~五人しかいない相客の一人が声をかけてきた。
「あんた、もしかして加藤木さんの三男さんじゃないですか?」
 先程から様子を窺うとはなしに、窺っていた男である。富造は戸惑いながらも、首を縦に振った。
「ああ、やっぱりそうかい。俺もどこかで見た顔だな・・・って思っていたんだ」
 別の男が相槌を打った。
 最初の男が言った。
「アメリカさ行ったとは聞いていたが、それにしても立派な形(なり)して・・・、魂消(たまげ)たな。俺を憶えてないかい? 俺は北町の御歯黒屋の長男だよ」
 御歯黒屋の長男と名乗った男は珍しい物でも見るかのように、富造の頭の天辺から足の爪先までじろじろと無遠慮に眺め回した。富造もそう言われれば、子どもの頃に見た顔だと思った。そう思いながら話をしているうちに、その顔が昔の顔にピントが合ってくるかのように思えた。しかし「御歯黒屋・・・? あヽ、御歯黒屋の・・・」とは言ったが先が続かなかった。近所にあった御歯黒屋の店や名は思いだしたが、肝心の息子の名前が思い出せなかったのである。







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最終更新日  2008.05.17 05:41:40
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