『福島の歴史物語」

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2011.11.02
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 やむを得ず半分に割って「天皇の叛乱 1−2」を新たに作り、2011/11/2にアップしました。「天皇の叛乱 1」には修正した部分を含む前半が載せてあります。
 読みにくいことになり申し訳ありません。田村さん、ありがとうございました。

—————————————————————————————

 そのような時に起こった津軽大乱の鎮圧に手こづっている鎌倉幕府にその非力を見た後醍醐天皇は、具体的そして積極的に討幕運動に動きだした。
「近ごろ無礼講なるものがひんぴんと開かれておられます。集まる顔ぶれは大納言兼弾正尹、藤原師賢、四条中納言隆資、洞院左衛門督実世、蔵人右少弁日野俊 基、伊達三位房遊雅、聖護院庁の法眼玄基、足助次郎重成、多治見四郎次郎国長というそうそうたるもの。さらにこの集まりは驚くべきもので、盃をさす順序は 身分の上下を問わず、男は烏帽子を脱ぎざんばら髪になり、僧侶は衣をつけずに白衣になり、そこには見目うるわしく肌の清らかな十七、八の美女二十余人が加 わっておるそうでございます。女たちには皆な薄く透けるすずしの単衣だけを着せて酌をさせておりますので、まるで裸のようだということでございます。宴席 には山海の珍味が並べられ、美酒は沸き出る泉のように尽きず、歌舞の遊楽が続けられているという話でございます」
 修験者はさらに話を続けた。
「そんなところを幕府軍に攻められて、土岐頼貞、多治見国長が自害。さらに日野資朝、俊基は捕らえられ、俊基は許されましたが資朝は佐渡へ流されました。 後醍醐天皇は事の発覚に驚き、『事件(正中の変)には無関係である』という告文を書き、使者として万里小路宣房を鎌倉に差し向けたそうにございます」
 輝定は修験者に尋ねた。
「ん・・して、以後は如何相なると思うか?」
 修験者は答えた。
「とは申しましても・・・、もし幕府が告文を認めるとすると、後醍醐天皇としては臣下に許しを得た形となり、不快感が残りましょう。それに後醍醐天皇は後 嵯峨天皇の遺詔に基づき、亀山天皇の裔である自分の系統で天皇の位を継承して皇統の統一をなさろうとしておられます。その上で後醍醐天皇は、自分の方針の 邪魔となる幕府制度の廃止を考えておられます。そうなれば両統交代で仲裁をしたにもかかわらず、幕府は後醍醐天皇に戦いを挑まれたようなものとなりましょ う。いずれ火を噴く、と思われます。そうなれば、問題はどちらが勝つかでございましょう」
「うむ・・・」
「理はどちらとも言えませぬ。たしかに後醍醐天皇の考えによりますれば、後嵯峨天皇の遺詔に基づいたことであり、また皇室の一本化にはなると思われます。 しかしそれは、以後の皇位を後醍醐天皇御自身の子孫のみで独占するということでございますから、天皇家の内部でも反対が出るのは当然でございましょう。そ れを防ぐためには、幕府が仲介をしてきた今までの両統交代に問題があったにしても、すでに過去何代かに渡り実施されてきたということを考え合わせてもう一 度幕府を仲介に立てて話し合われることが肝要かと思われまするが・・・」
「うむ。しかし今までの話からすれば、両統交代では後醍醐天皇が納得すまい。さすれば両統が対立することとなり、ことは天皇家だけの問題では治まらぬことになるのではないか。さすれば幕府はどちらに付くか? 花園上皇か?」
「結局幕府は、皇室の邪魔になる幕府制度の廃止という点だけでも後醍醐天皇と対立することになりましょうから、そうなるのは必定かと思われます」
 修験者、断定的に答えた。
 輝定は軽くうなずいた。それは自分もそう思ったという意思表示でもあった。その上で輝定は尋ねた。
「それではまた問題を前に戻そう。どちらが勝つか?」
「軍事的には幕府が決定的に強力でございまする。後醍醐天皇はそれを知っていたからこそ陰に回ったやり方になったのでございましょう。とは言っても悪党共 の動きによっては状況が変わる、ということもあり得ましょう。奴らの動き次第によっては、幕府は難しい状況になるかとも思いまする」
 悪党とは今使われる意味とは違っていた。悪には強いという意味もあったから、単に悪者の集団という意味だけではなく強者の集団という意味も含まれていたのである。
「悪党共の動き次第か・・・。で、奴らの動きは如何か?」
「はい。悪党共に限らず、幕府に対する不平不満は意外に大きゅうございます・・・。殿とてご不満がございましょう?」
「さあ、それはどうかな?」
 輝定はそう言うと、大きく笑ってごまかした。
 もちろん輝定とて、不満のない筈がなかった。三十年も前、父の代に蒙古襲来の戦いで兵を派遣したものの恩賞も貰えない内に打ち切りになってしまっていたし、周辺の領主たちとは境界を巡って小競り合いを続けていた。幕府の検断は、得るべくして得られなかったのである。
 修験者はそれらのことを踏まえての上で言った。
「そこのところでございまするが殿。遺詔に従ったとは言え、後醍醐天皇の行動は余りにも身勝手。それに対して幕府は、天皇の継承問題にかかわりたくないも のの、立場上妥協策を出さざるを得ませぬ。とは言ってもこれはもともと天皇家内部の問題。幕府としては受け太刀にならざるを得ませぬ。その上この頃は、内 密のうちに後醍醐天皇の側につく悪党共も少なくないようでございます。このような時に戦いともならば、両者ともに自己の存在を賭けることになりましょう。 それなれば遠慮はいりませぬ。殿も自己中心で良かろうか、と思われまする」
 それまでを告げると、修験者は帰っていった。 
「修験者は、『後醍醐天皇と幕府は、政治的にはともかく軍事的には幕府が優勢?と言う。しかしわしにはそうとばかりは思えぬ。上方ではともかく、幕府が安 堵してくれている筈の我が所領も我が手のみで守っているのが実情ではないか。幕府の力は、修験者が言うように落ちているのではないか。』
 輝定は、彼の重用している浅比久盛に尋ねた。
 久盛は答えた。
「仰せの通りと思われまする。幕府の力が当てにならず、周囲の領地が侵食されている今の状況では、対抗上我が方の軍事力を強めねばなるまいと思いまするが・・・?」
「うーむ。ところで修験者は自己中心と言っておったが、あれはどういう意味と思うかの?」
「あれは恐らく・・・、『殿が勝手に領地の拡大をしてもよい?という意味かと思いまする。ともかく領土が増えれば富が増え、また軍備の拡充が出来ましょう』





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最終更新日  2011.11.05 07:52:48
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