9：LA編・悪夢 2 ～銃声～

9：LA編・悪夢 2 ～銃声～

とりあえずフリーウェイを降りて
（あっちの高速にはサービスエリアがない。
だから、電話、ガソリン補給などは高速を降りなければならないのだが）
Yに電話して道を聞こうと、一番近い出口でとりあえず高速を降りる。

道はしっかりしている。
荒野ではない。しかしあきらかに町でもない。

しかし、その出口を降りた車は俺だけ・・・・

前にも後にも車はない・・・・

またかよ。

しかも、今度は夜だ。おまけに周りは真っ暗。
ガラガラ蛇も毒蜘蛛も、こちらから攻撃さえしなければ反撃はしてこないであろう。

でも、この世で一番怖いのは人間なのだ。
何もしなくとも、あちら様から勝手に襲ってきてくれるのだ。

しばらく進むと建物らしき物が遠くに見えてきた。
なんとなくベイブリッジを渡っている時の横浜に景色が似ている気がした。

遠くに虹の形をした半円状のアーチの様なとても大きなオブジェが見えた。
恐らく東京タワー位はあるだろう。

スピードをやや落とし50キロ程で慎重に進む。
高速を出たのはいいが、出てからも道は一本。
もう、道の続く限り直進するしかないのだ。Uターンも出来やしない。

そして、自分が走っているのは海の近く、
しかし観光地ではなく本当に埠頭だという事がわかってくる。

夜の埠頭と言えば、倉庫がつき物。
映画でよく悪者が取引に利用したり、
人が拉致されて鎖で吊るされていじめられるのに決まって利用される場所だ。

治安の悪さで言えば荒野よりも、ぶっちぎりで埠頭の方が悪いに決まっている。
だって、こんなにひとけがなくて真っ暗なとこ、どこにある？

犯罪者は暗闇が大好きなのだ。

おいおい・・・勘弁してくれ・・・・

しかも、道の途中には車を止めるスペースも電話ボックスもありゃしない。

なんてとこで降りてしまったんだ・・・

遠くに見えた虹の様な半円状のアーチがだんだんと近づいてくる。
このオブジェ、本当に半円状に近い形をしており～
その下を船がくぐる門の様な物だと思っていたのだが・・・・

道は確実に虹の門に向かっているのだ。

まさか・・・・・橋？

こんなむちゃくちゃな形の橋ってありなのか？
と考えてるうちに、
本当に道は虹のオブジェに繋がっている事がわかってしまう・・・

そして、あっという間に車は橋を登り始め・・・
ジェットコースターか？！
って位に車は真上に進む。
（実際は違うのだろうが、車であの角度を経験した事はかって俺にはなかった）
そしてようやく登り終え東京タワー並の高さから俺が頂上で見た物は・・・・

地平線の彼方まで真っ暗な海。

・・・まるで地獄に引きずりこまれていく様な気分だった・・・

そして急な下り道が始る。
ウワッーて声は出なかったけど、
絶叫マシーンに乗ったら必ず叫ぶ子がもし助手席にいたら、
間違いなくあれは叫んでいただろう。

そして坂を下り橋を無事に降りた俺を待ち受けていた物は、

さらに真っ暗な闇だった・・・・

車のスピードを落としライトで周りを照らす。駐車場らしい事がわかる。
あまりに暗くてよくわからないのだが、行き止まりっぽい。

電話ボックスを見つける！

壊れてない事を祈る・・・
（アメリカの公衆電話の半分以上は壊れていて当たり前なのだ）

電話は生きていた！

Yに電話する。
俺が今どれ位怖いか説明する。
Yも夜の埠頭はやばすぎるからと、脱出を俺に勧める。
現在地を説明するが、海と虹の橋を説明してもYにはどこだか検討もつかないらしい・・・

とにかく来た道を戻って教えた道を行けば行けるから！
道が分岐しても同じ名前のフリーウェイを進めば行けるから！
Yはそう言う。

なるほど。あっちのフリーウェイの名前は全部番号なのだが、
分岐する時には右に行けばルート5号、
左に行けばルート710号とか書いてあるはずなのだ。

よ～し、これでもう平気だ！

地図に出ている番号の高速に戻れば良いのだ！！
こんな犯罪の臭いのプンプンする埠頭など、とっとと脱出して遅れを取り戻さねば！！

そして電話を切り、車に乗ろうとしたその瞬間だった。

俺は、あの瞬間を今でもスローモーションの様に覚えている。

パッン

て遠くで音がしたのだ。

銃声？

体中の毛穴がぎゅっと閉まった気がした。

一目散に車に飛び乗る。
ダッシュでエンジンをかけて、また来た道を戻る。
またあの橋を登る。今度は帰り道、方向は逆。

頂上に近づく・・・さっきは背にしていた景色を正面から見る事になる訳だ。

その瞬間・・・ロサンゼルスの夜景が一望できた。

皮肉な事に人生史上一番に綺麗な夜景だったのだ。

が、頂上は一瞬。

そこで車を止めて夜景を眺める勇気は、その時の俺にはなかった。

生まれて初めて聞いた銃声。

狙われたのは、俺なのか？

その直後に見た人生史上最高の夜景。

頭が混乱する。

とにかく俺はアクセルを踏めるだけ踏んで逃げたのであった・・・

数分後・・・だ～れもいない埠頭から俺は脱出！！
もとのフリーウェイに無事に戻れたのであった。。

今でもあれが銃声だったのか、
聞き違いなのか、
俺が狙われたのか、
人がどこかで撃たれたのか・・・

事実はわからない。

本物の銃声を聞いた事がないのだから、基準がないのだ。

全ては神のみぞ知る・・・

しかし、人生史上最悪の1日はこれがハジマリだったのだ・・・・・

＜つづく＞

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