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全農チビリンピック
JA全農チビリンピック2001親子マラソン完走記
三島駅7時25分発の新幹線が新横浜駅に着いたのは、8時5分だった。ワールドカップサッカー会場である横浜国際総合競技場へ足早に向かう人たちの流れに乗りながら、殆どジョギングになってしまった。
7万人以上の観客席を持つ競技場への階段を登りながら、ようやくレースに出場する気分になる。100mに出場する夏緒里、親子マラソンに出場する和己の二手に分かれて受け付けを済ませた後、係員から昨年の優勝タイムを聞き、7分23秒に耳を疑う。1キロ3分41秒だ。4分を切って走れば優勝できるだろうと、高をくくっていた。緊張が走る。朝の10kmジョギングを悔やむ。
11時スタートを確認し、9時からストレッチング、その後競技場の周りを1kmほどゆっくり走る。観客席に戻ると、夏緒里はすでに9時30分からの入場行進に出かけていた。ヴァームを飲んで、マラソンゲートへ向かう。入場行進と開会式の後、親子マラソンの試走、そして競技開始という流れを係員に確認し、開会式が始まってから列の後ろに並ぶことにして着替えに戻る。
「高橋尚子どこにいるんだろうね。」
和己の疑問が、素晴らしい形で解けた。数人で運ばれた聖火が、小出義雄監督から高橋尚子に渡った後、点火されたのだ。開会式後、二人に先導されてゆっくりトラックを走る。
「勝てそうだよ、速い人いないもん。」
ウォーミングアップでゆっくり走る親子を気分良く抜きながら(抜かしては行けないと言われたプラカードを持った係員も平気で抜いて)、自信満々の和己であった。
5年生が、56年の部の優勝インタビューを受けているのを見て焦る。4年生にも勝たなくてはならないのか。
スタートラインに並んだが、4コーナーの少し内側だった。一緒に走るために現れた高橋尚子に、二人して握手してもらう。
「今日は、お風呂に入れないね。」
いつも通りピストルの音と同時に前に出るが、2kmの距離を考慮して少し力をセーブしたため、7、8人からなる第2集団の後方になってしまう。流れに乗って暫く走ろうとしたが、ペースが遅いので、トラックで抜くことにする。しかし、親子で併走しているため抜くのに手間取る。スピードも殺され、だいぶ時間をロスした。1週半で、ようやく第二集団を抜け出し、自分のペースで走る。おろし立ての「アシックス ターサー スピーバ エキデン」が、しっくり足になじんで、久しぶりにスピードに乗って気持ちよく走る。
「手を離すから、腕を思いっきり振って走れ。」
すると、和己はみるみるうちに後方に下がってしまう。慌ててスピードを緩め、手を握り、強く引く。
マラソンゲートを抜け、カーブの手前で3年生女子を抜く。ここから1km外周、更にトラックを100m走ってゴールだ。10mほど前に3年生の親子、さらに20mほど前方に4年生が二組いるのを確認する。3、4年混合レースであると思いこんでいたので、3年生親子を一気に抜く。幸い後方につかれることなく、第一集団を目指す。
「あと、運動場3週だ。全力でいくぞ!」
何度か檄を入れる。しかし、和己はいっぱいいっぱいで、いくら手を引いてもスピードが上がらず、前との差は広がった。総合3位、3年生1位に照準を切り替え、後方を確認したが、周回コースであるため、見えなかった。数日前から風邪を引いている和己を気遣い、ペースを安定させる。マラソンゲートへのカーブ手前で不意に後ろから気配を感じ、あわてて握る手に力を入れる。
「来てるぞ、ラストスパートだ!」
坂を上って競技場に入っても、全く歓声が聞こえなかった。
「3年生は、左に行ってください。」
そうか、3年生で優勝できるんだ。その時、気配が迫った。3年生が追っていた、まさか。初めて必死で腕を振る。しかし足の回転がついていかず、抜かれると、抜き返す力は残っておらず、初めて親子マラソンで後塵を拝してゴールした。
脱力感と後悔でいっぱいになった。和己を1位にしてやれなかった。最初から第一集団で走ればよかった。手を離さなければよかった。負けた原因は、すべて私にあった。それは、和己のために走っているという思い上がりと、息子によっていい思いをさせてもらっている引け目である。自分が生きていないから、全力を出すことがなかった。余裕を持って観衆に答えながらゴールテープを切ることだけを目標にしていた。清水町レベルではそれもできた。しかし、優勝できるのなら、目標を記録更新に切り替えるべきだったのだ。清水町親子マラソン4連覇のうちの、6歳よりも5歳の方が、2年より、1年の方が記録がよかったことがそれを物語っている。
しかし、気持ちを切り替えて、優勝者に握手を求め、その栄誉をたたえる。2002年ワールドカップ Korea Japan と同じであろう表彰台に登りながら、小出義雄監督に握手してもらう。銀メダルをかけてもらい、副賞にずっしりと重い農産物を頂く。
高橋尚子選手と小出義雄監督に握手してもらった右手を使わず、銀メダルをかけたまま遊ぶ和己の姿を見て、ようやく喜びに満たされた。
親子マラソン〈3年生〉
第2位 杉山茂彦・和己 記録 7:23 / 2km
2002年5月5日 横浜国際競技場
全農チビリンピック完走記
ゴールラインで夏緒里と別れ、ヴァームを一口飲んでスタート地点へ向かうと、和己が前列で手を振っていた。よし、いけるぞ。最後尾からスタートし、惨敗したS&Bひのやちびっ子健康マラソンを教訓としていた。
「全速力で飛び出しますから、危ないですよ。」
最前列のランナーたちが、ゲストの岡崎朋美さんに呼びかけた。400人(3,4年生とその親)が、一斉にトラックを1周半するのである。
インコースからスタートした3年生2組と、マークしていた4年生親子の後ろについて、押さえ気味に気持ちよくトラックを1周する。最後の直線で3年生親子を抜き、マラソンゲートを出て右折したところで、先頭に出る。
「左手で父さんの右手をつかめ。」
トラックでは左手でつないでいた手を離し、右手でつかみ直すことにより、和己をインコースで走らせた。その間、ペースがまったく落ちなかった。そういえば、腕に和己の重さをほとんど感じることがなく、しっかり両腕を振ることができた。しかし、全力で走らなければならなかった。1週間前のチャレンジ富士五湖117kmのダメージが残っていたのである。競技場を支える柱に書いてある番号が、マラソンゲート付近の柱の番号に近づくのを励みとして、必死で走った。和己に声をかける代わりに、自分自身を叱咤した。
「手を離すから、持ち替えろ!」
1位でトラックに入れば気持ちよく走れると思ったが、更に苦しくなった。2位との差を確認すべく振り返ったが、見えなかった。しかし、ゴール前でかわされ1秒差で2位になった昨年を教訓にして必死で腕を振る。
「危ない!」
フィールドからかなりのスピードで転がってきたサッカーボールをまるでスローモーションビデオを見るように飛び越えて、声を上げる。
もう一度振り返り、かなりの差があることを確認する。最後の直線で、気持ちよくラストスパートして二人でゴールテープを切った。喜びに浸る父親は、係りの人たちにお礼をする息子を誇らしく感じた。日刊スポーツの記者の質問に、しっかりとした受け答えをする息子を頼もしく思う。
表彰台への階段を上り、2ヵ月後、優勝チームがワールドカップを受け取る場所で、金メダルをかけてもらった。目を上げると、横浜国際競技場の空は、どこまでも澄み渡っていた。
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