月下美人の語り草

月下美人の語り草

らぐなlock 第22話


若干の痛みは残っているが、動きに支障が出るほどではない。
足場を確認する。
乾いた土でできているが、多くの兵たちにより踏み固められている為動きやすい。
これなら足を取られることもないだろう。
目の前の色黒の大男に目を向ける。
・・・何故か腕を組んでこちらを見たまま、攻撃を仕掛けてこない。
ディスとエンの戦いの間ずっと、である。

アイラ「何故仕掛けてこないの・・・?」
須佐之男「・・・傷は癒えたか?」
アイラ「・・・・・は?」
須佐之男「傷は癒えたか、と聞いているのだ。」

アイラは面食らっている。
それはそうだろう。戦場で敵の傷の心配をする武将など今まで聞いたことがない。

アイラ「・・・変わってるわね、貴方。なんでそんなこと聞くの?」
須佐之男「闘うからにはお互いに全ての力を出し切って闘いたい。ただそれだけだ。」
アイラ「騎士道精神ってやつ?大した信念ね・・・。」
須佐之男「ふ・・・そうでもない。儂のはただの我が侭だ。」

ふっと表情を和らげ、アイラの言葉に答える。

須佐之男「それで・・・どうなのだ?」
アイラ「ええ。もう大丈夫よw十分貴方に勝つことができるわ♪」
須佐之男「ふ・・言ってくれるな。ではそろそろ始めようか・・・。」

口調が一変して、重く静かに言い放った。
しかしその物言いとは対照的に彼から感じる力は深く激しいものであった。
一瞬気圧されたが、気を引き締め対峙する。
二人の間の距離は5mほど離れている。
須佐之男の武器はその肉体のみ。
その豪腕から繰り出される一撃は巨木をも破壊するといわれている・・・。
おそらく一撃でも喰らえばただでは済むまい。
一瞬の気の緩みが死を招く。

アイラ「・・・・・。」
須佐之男「・・・行くぞ。」

ドンッ!!!
地を蹴る音。いやむしろ踏み潰そうかという音である。
その音が聞こえたかと思うと、その姿はすでにアイラの目の前にあった。

アイラ「・・・ッ!?」

とっさに横に跳ぶ。その一瞬後を拳が通り過ぎる。
ぶわっ!
風が巻き起こり、アイラの髪が乱れる。
慌てて距離をとるアイラ。

アイラ「は・・速い!?」
須佐之男「力だけだと思うと怪我するぞ・・・。」

動きを止めずに言い放ち、再び間合いを詰めてアイラに連撃を浴びせる。
2連、3連・・・まだ止まらない!
アイラはよく捌いているが反撃を仕掛ける隙がない。

アイラ「くっ・・こうなったら・・・ッ!!」

須佐之男が放った右の正拳突きをかわし、すれ違いざまにその手首を極めて腕をひねる!
大きくバランスを崩したところを、すかさず逆にひねり投げる!

須佐之男「む・・ぬおッ・・!?」

少しの間耐えていたが、関節を極められている為たまらず投げられる須佐之男。
今のは・・・小手返し?
確か合気道の技の一つのはずだ。
なるほど、合気であれば力の差など関係なく相手を倒すことができる。
しかも勢いがあればあるほど相手のダメージも大きくなる。
これほど有効な手はないだろう。
・・・しかしアイラは合気の技をも身に付けていたのか。
打撃技だけだと思っていたぞ。

アイラ「・・・昔、ちょっとね・・。」

顔を曇らせて答えるアイラ。
・・・何か苦い思い出でもあるのだろうか。
まぁ今突っ込んで聞くほどの時間はない。

須佐之男「く・・くく・・・くはははは!」

むくりと起き上がり、心底楽しげに笑い出す須佐之男。
右の肘を押さえているということは、先程の投げで痛めたか?

須佐之男「面白い!面白いぞ、娘よ!それでこそ我が相手にふさわしい!!」
アイラ「無理しない方がいいわよ。さっきので肘のじん帯を痛めて使い物にならないわ。踏ん張らずに素直に投げられればそんなことにならなかったのに・・・。」
須佐之男「ふふ・・・これくらい大したことはない。腕をもがれようと闘いつづけるさ。」
アイラ「・・・まだやるのね。これくらいじゃあきらめてくれないか・・・。」
須佐之男「無論っ!さぁ行くぞっ!!」

左拳で突いて来る須佐之男。
しかしアイラはそうくると読んでいたのか、死角である相手の右側に回りこみわき腹に膝蹴りを繰り出す!
ドカッ!
その一撃が効いたのか、少し顔をしかめる。
続けてアイラは拳を、肘を、膝を須佐之男に叩き込む。
だが一向に倒れる気配はない。
と、その時彼の眼が光った。
アイラは危ういものを感じ、後ろに跳んだ!
そして眼前に迫る須佐之男の裏拳!

アイラ「うぐっ・・・!?」

避けきれず吹き飛ばされるアイラ。
受身をとり起き上がる。ガードした腕が若干痺れている。
跳んで衝撃を逃がしたから良かったものの、まともに受けていれば骨の1本や2本は折れていたかもしれない。

須佐之男「ふむ・・・お前は確かに強い。だが攻撃は軽い。打撃ではこの儂は倒せんぞ。」
アイラ「・・・ッ!?」

攻撃が軽い・・・。それは以前からアイラも考えていたこと。
その為に『発剄』を修行していたのだが、とうとうこの戦争までには会得することができなかった。
確かに今のままでは打撃技で大きなダメージを与えることはできないだろう。
しかし・・・とはいっても合気道ではとどめをさすことは厳しい。
また、警戒されている為に間接をとることも難しくなっている。
・・・やはり打撃でいくより他ない。

アイラ「・・・・・。」
須佐之男「・・・それでも打撃で勝負、か。よかろう。」

構えるアイラに倣い、須佐之男も構え直す。
しばらく睨みあったままであったが、先にアイラが動いた!
正面から突っ込み攻撃を誘う。
その思惑通り須佐之男は鋭い蹴りを放ってくる。
それを跳躍してかわし、回し蹴りを放つが左腕に防がれる。
動きの止まったアイラに左の正拳が繰り出される!
しかしそれはアイラの狙った通りであった。
正拳のすぐ横を通り過ぎ、やはり死角である須佐之男の右側に回る。

アイラ「・・・はぁぁあああッッ!!」

渾身の力を込めた右拳を突き出す!
ドグゥッッ!!!
拳と肉体が激突する音が響いた。
二人は動かない。

そして・・・
ずるりと崩れ落ちるアイラ。
そのわき腹にめり込むのは・・・須佐之男の右拳。
痛めたのは嘘だったのか・・とも思ったが、痛みに歪む表情と額に浮かぶ脂汗がその考えを否定している。
もう動かなくなった右腕を押さえながら、倒れたアイラを見下ろしている。

須佐之男「・・・ここまで楽しめたのは久しぶりだ。あと少し出会うのが遅ければ儂が負けていたかもしれんな・・・。」

アイラに背を向け本陣へと向かおうとする須佐之男。
しかし背後で何か物音が聞こえた気がして振り向いた。

須佐之男「・・・ッ!?」

そこにはアイラの立ち上がった姿があった。
口の端からは血が滴らせているのが見える。
おそらく折れた肋骨が肺に突き刺さってしまい、血を吐いたのだろう。

須佐之男「まだ生きておるとは、大した生命力だ・・・。しかしもはや闘えまい。おとなしく寝ていることだ。」
アイラ「・・・・・。」
須佐之男「・・・なッ!?」

アイラは須佐之男の言葉を無視し、彼に向かって駆け出した!
須佐之男は慌てて迎撃しようと左拳を突き出した。
アイラはその拳に向けて自分の拳を繰り出す!
馬鹿なっ!?そんなことしても力の差で自分の拳が砕けるだけ・・・!
ドグァッ!!

須佐之男「グぁッ・・!?」

須佐之男の方が弾き飛ばされた!?
彼は砕けた自分の拳を見ながら『信じられない』という表情をしている。

アイラ「ぅ・・ゲホッ!ゲホッ!!」

咳き込むアイラ。その度に血が吐き出される。
何故・・そんな身体でここまでの力が・・・。
その思いは須佐之男も同様のようだ。
はっきりいって危険な状態だ。

須佐之男「止すのだ!そのまま動けば確実に死ぬぞ!!」
アイラ「・・・・・。」

やはり無視し、須佐之男に襲い掛かる。
その眼は虚ろな感じがする。まさか・・・意識がないのか!?

須佐之男「闘争本能のみで闘っているというのか・・・。しかしこのまま放っておいては・・・。」

アイラの攻撃をかわしつつ思案している須佐之男。
やがて覚悟を決め、足を止める。
動きを止めた須佐之男に右拳を突き出すアイラ。
その拳を・・・まともに腹に受けた!

須佐之男「ぐうッ・・!!・・・むぅぉおおおお!!!」

激痛に苦しみつつも左手をアイラの頭にかざす。
そして・・・二人は白い閃光に包まれた・・・。


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