月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第11話


ラクチェ「あ、目ぇ覚ました。」

ズキズキと痛む頭と首筋をさすりつつ上半身を起こす。
ラクチェとリエルは男を挟む形でしゃがみ込んで様子を見ていた。

男「・・・何が起こったんだ・・・?」
ラクチェ「さぁね。」
リエル「知らないにゃあ。」

白々しくそっぽを向く一人と一匹。
男は疑わしげな視線を向け・・・固まった。
リエルではなく、ラクチェに目を向けた時に。

男「お・・お前!なんでこんなとこにいやがるんだ!?」
リエル「知り合いかにゃ?」
ラクチェ「・・・・・アンタ誰?」
男「非道っっ!?城門でのこと忘れやがったのか!?」

『城門・・・?』と思い返す。

・・・・・10分経過・・・・・

ラクチェ「・・・あぁ!門番1だ!!」

・・・あー落ち込んでる落ち込んでる。
思い出す時間もそうだが、思い出された名前もそれでは落ち込みたくもなろう。

門番1「俺はそんな名前じゃないッ!」
ラクチェ「だって名前知らないもん。てっきりその他大勢の一人だと思ってた。」
門番1「・・・お前はホントに失礼な奴だな・・・。エロルドも何考えてんだ。こんなの城の中に入れやがって・・・。」
ラクチェ「失礼はアンタもじゃないのよ!だいたい門番1のくせに王子相手に何タメ口きいてんのよ!」
門番1「俺とアイツは幼馴染だ!それくらいいじゃねぇか!」
???「ダメだ。」

『へ?』と二人が振り向くと、そこには壮年の騎士が立っていた。
表情が厳しくこめかみには血管が浮かんでいる。
ラクチェはその顔に見覚えがあった。
先日酒姫が謁見した際、その場に立ち並んでいた武将の一人だ。
名は・・・確かラゼムといったか。
実直で剛健。何よりも義を重んじる、信頼の厚い武将だとカノアから聞いたことがある。
門番1は顔色を変え、一転して怯えた表情になる。

ラゼム「お前は王子の友人である前に臣下だ。立場をわきまえよと何度も言っておろう!まだわからんのか、レイナート!」
門番1改めレイナート「と、父さん・・・。でもさ・・・。」
ラゼム「王城では父と呼ぶでない!お前も国の武将の一人ならばそれらしくあれ!!」

口早にまくし立てるラゼムに口篭ってしまうレイナート。
ラクチェとリエルもあまりの迫力に口を挟めない。
厳格な父親そのもの、といった感じだ。

ラゼム「ラクチェ殿、リエル殿・・・この愚息が失礼したようだな。まだまだ未熟者ゆえ迷惑ばかり掛けてしまうだろうが、よろしくご指導願いたい。」
ラクチェ「あ、いえ・・・そんな気にされることでは・・・。」
リエル「そうそう、気にしないにゃ!」
レイナート「俺は何も・・・!」
ラゼム「まだ言うか!」

ラゼムの豪腕が唸りをあげ『ゴッ!!』とレイナートの脳天を強打する。
声も出せずに頭を押さえてうずくまり、悶え苦しむ。
(うわぁ・・・痛そう・・・。)
見ているだけのラクチェまで痛くなりそうな音だった。

ラゼム「ふんっ!その減らず口くらい剣の修練をしてはどうだ。今のままでは敵の兵と戦うこともままならんぞ!」

ラゼムはうずくまったままのレイナートに吐き捨て、王城へと歩いていった。
ラクチェはあっけにとられてしまい、激しい嵐が通った後のような感覚に陥ってしまう。

ラクチェ「・・・すごいお父さんね・・・。」
リエル「頑固親父って感じだにゃあ!」
レイナート「・・・・・あぁ。」

少し同情してしまうラクチェであった。

ラクチェ「あなた、ラゼムさんの息子だったの・・・。でもどうしてエロルドといいあなたといい、身分が高いのに門番なんかやってたの?」
レイナート「・・・最近城門付近で不可解な事件が続出しててな。監視兵の話では事件の前日にはモンスターがウロついているらしいんだ。関係があるかどうかわからんが、とにかく様子を見てみることにしたんだよ。」

ラゼムからシバかれたのが原因か、レイナートが少し素直になったように思えるラクチェだった。

ラクチェ「不可解な事件って・・・?」
レイナート「・・・兵士が姿を消すんだ。城門の警備についた者が忽然とな・・・。目撃者もいない。争った痕跡もない。」
ラクチェ「他国に逃げたってことはないの?」
レイナート「それも可能性としてはあるが、目撃者がいないと何ともな・・・。」
ラクチェ「ふぅん・・・。でもそんなの他の兵士に任せればいいんじゃないの?」
レイナート「言ったろ?モンスターがウロついてるって。実際モンスターの仕業だったとしたら、戦って勝てる奴でないといかんだろうが。」

それを聞いてちょっとした疑問が浮かんだ。

ラクチェ「エロルドはわかるけど・・・あなたも?」
リエル「そんなに強いようには見えないにゃ。」
レイナート「く・・言いたい放題いいやがって!俺はどっちかというと剣より魔術の方が得意なんだよっ!」

疑わしげに見るラクチェとリエル。
苦しい言い訳のようにも聞こえなくもないが、どうやら本気で言ってるっぽい。

ラクチェ「じゃあなんで騎士みたいな格好してるのよ。魔術師っぽくすればいいじゃない。」
レイナート「・・・代々騎士の家系なんだ。魔術師になることは許されない・・・。」
ラクチェ「お父さんから反対されてるってわけだ・・・。」

先程の剣幕を思い出して同情する。

レイナート「別に騎士が嫌なわけじゃない。代々伝わる剣技を俺の代で途絶えさせるのもどうかと思うしな。」
ラクチェ「・・・でも魔術を修行したいんでしょ?」
レイナート「それは俺の我が侭だ。国を・・・みんなを守れるんだったら方法はどっちでもいいだろう?」
ラクチェ「守る・・・。」
レイナート「あぁ・・・。目的は変わらないからな。だったら丸く収まる方を選ぶさ。」

少し寂しそうに笑って空を仰ぐように見るレイナート。
ラクチェは一人の男が下した決断に何も言うことはなかった。
と、いきなりレイナートが『あっ!!』と叫んだ。
その声にびくっとするラクチェとリエル。

ラクチェ「・・・っくりしたぁ~・・・。」
リエル「なななななんにゃ!?何があったにゃあ!?」
レイナート「・・・忘れてた。エロルドのとこに行く途中だったんだ。俺もう行くわ。んじゃなっ!」

言うだけ言ってダッシュで去っていく。
残された二人は呆然としたまま、リエルの腹の虫が鳴るまでしばらく立っていた。


太陽が沈みかけた頃、酒姫が再び王城へと現れた。
昨日と同じように謁見の間へと通され、フェンリル王より返答を受けた。
酒姫は自国の希望を了承されたことに礼を言い、早々にフェンリルを発つ為に宿へと戻った。
部屋の鍵を宿の女将に渡し、宿を出ると二つの影があった。

酒姫「やぁ。見送りかい==ノ」
ラクチェ「えぇ。餞別も持ってきました。」
リエル「城からくすねてきた極上モノにゃあ!」

差し出されたのはフェンリル王がイザという時に飲む為に隠していた高級葡萄酒『ラグーン』だった。
それを見た酒姫は目を光らせた。

酒姫「ほほぅ・・・これはこれは・・・。」
ラクチェ「眠り薬は入ってないので安心して下さいw」
リエル「そうにゃw眠り薬『は』入っていないにゃあ♪」
酒姫「・・・・・・・」

一瞬沈黙が場を支配する。

酒姫「・・・まぁ受け取っておくよ。ありがとう==w」

礼を言い、気を取り直して酒姫がラクチェに問い掛ける。

酒姫「それで・・・まだ戦場に出るつもりかい?==」
ラクチェ「・・・わかりません。まだ理由を見つけられずにいますから・・・。」
酒姫「そう・・・。昨日言い忘れたんだけど・・・もし戦場で私の前に出てきたら・・・。」

酒姫は一際鋭い目つきになる。

酒姫「・・・手加減はしないから。」
ラクチェ「・・・・・はい。」
酒姫「あ、そこの猫ちゃんも一緒だからね。覚悟しときなよ==b」
リエル「わちしも負けないにゃあ!」

負けじと見返すリエル。
迷いのない声だが、実際戦闘になったらどんな戦いになるのだろう・・・。
人間VS猫・・・うむ。緊張感のない戦いになりそうだ。

酒姫「それじゃ、私は行くから。」
ラクチェ「あ、酒姫さんっ!」

立ち去ろうとする酒姫を引き止める。
『何・・・?』と怪訝な顔で立ち止まる酒姫。

ラクチェ「・・・酒姫さんはどうして戦場に行くんですか?」
酒姫「・・・私にも戦う理由ができたから。それだけだよ。」
ラクチェ「一体どんな・・・!?」
酒姫「それを聞いたところで何も変わらないでしょ?戦う理由は人それぞれ。ラクチェさんが戦う理由にはならない。」
ラクチェ「・・・・・。」
酒姫「それじゃね==ノ」

商店街に立ち並ぶおみやげ屋に目を向けながら、酒姫は去っていった。
ラクチェとリエルはその背中が見えなくなるまでずっと立っていた。


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