リアルに小説読んでみた。

リアルに小説読んでみた。

妄想の世界へ


 誰かが宏海という名称を呼ぶ。
「……今は夜中ということをわきまえての呼び出しか?」
「ゲームしようぜ」
 溜息。そして、
「どうせお前のやるゲームなんだから、18禁かギャルゲーだろ、帰る」
呼ばれた青年は帰ろうとする。何故か尻を隠す呼んだ者。
「頼む! 悠は寝ちゃって頼めないんだよ」
 三角オニギリに口がついたような物体は懇願した。滂沱するその姿は、なんとも哀れだ。見かねたのか、赤い髪を頭に持つ青年は、その部屋に腰を下ろす。
 どうやらメンドクサイながらも頼みを聞くようだ。ここは日本なのだが、イエスマンが存在するのなら彼みたいな人を言うのかもしれない。
「分かったが、何をやるんだ? 変なもんだったら即帰るぞ」
「これだ」
Fate/paranoia world。
英単語の繋がりと、色素の暗い表紙でそのゲームは表面を彩られていた。
「なんか聞いたことある名前だな」
「悠がくれたんだ、なんだかんだいっていい奴だよな」
「今のでそのゲームに対する不信感が募った」
「なんだビビったのか? そのトサカみたいに赤い頭どおりチキンなやつ――」
 顔にめり込む拳。スローカメラで撮っていたら面白い映像が取れたかもしれないほどの、顔面の歪む様。梅干を食べたマンガキャラの口みたいになってた。
「ふぁんでも」
「顔を戻してから話せ、小説では言えないんだが相当見るに堪えん」
 便所の詰りを取る道具のような音をたてて戻る顔。
 きゅぽん。
 なんとも無垢な顔が再び現れた。
「なんでも実界のゲームをパクったんだってさ」
「ゲーム版、俺達のマンガみたいなもんか」
 マンガの存在を暴露する宏海。マンガのキャラとしか考えられない三角オニギリ頭の持ち主、太臓。
「やるのはいいけどよ、お前の家パソコンなんてあんのかよ?」
 部屋を首の許す限り見渡す宏海。……その視線を受けるものにパソコンの姿は見えない。少し部屋が暗かったということもあるかもしれないが、それ抜きでもパソコンの存在は部屋にない。
「魔界をなめんなって。これは実際にこのゲームに入るんだよ」
 魔界の技術か、それとも魔術か。それが定かではないが、どうやら実界では考えられないことが起こるということだけは分かった宏海。
「ほぉ、凝ってるな」
「もしこのゲームが面白かったら、親父に頼んでその会社を大きくするさ」
「魔界が完璧に、色んな意味で腐るな」
 パッと出た意見を言う宏海。ゲームをやる魔界人というのが、どうも魔界にそぐわない気がしたからだ。もっとも、宏海が眼前とする魔界の王子は嬉々としてゲーム開封を試みている。
 将来、何もしなくても魔界は腐るかもしれない。宏海は眺めながら、そんなことを思った。
開封に成功したようで太臓は、
「よし、じゃぁ説明書読むぞ」
 などと言って大きな紙片を取り出していた
「意外にマメなんだな」
「宏海は読まないのか、説明書?」
「俺はまずゲームなんて普段やらないからな」
 淡々と言い返す宏海。それに対して、
「それ、人生の半分を損してるぞ。俺なんかパッケージや、説明書の立ち絵とかで興奮出来るようになったぜ」
「その性格の時点で、既に人生の大半を失ってるとは思うがな」
 思わず宏海は、目の前にいるオニギリ星人に呆れをとおり越した同情をしてしまう。そんな想いが届くハズもなく、太臓は「うぉ、これ妄想が?!」などと独り言を言いながら説明書を熟読していた。


 魔界のイメージは宏海の中で、太臓に会ってから大きく変わった。
 一概に恐ろしいだとか、怖いとかそういうものではなくなった。いや、おおまかに言えばそれは恐ろしいに入るかもしれないのだが。
 とにかく奇人変人しか彼の前には、現れないのだ。猫ミミをつけた狂人間に、ウサギに扮したオヤジだったり、トグロをまいた一見アレだったり。
 サディスティックな女性もいる。男性もだが。その二人はおそらくいま寝ている。
 一人は自分の家で祖母と一緒に。そして男性の方は、宏海と太臓のいる部屋からさして遠くない部屋で寝ているだろう。男性の方は、太臓の付き人としてやってきたのだがその役目をまるで果たしてはいなかった。
 むしろ太臓が困惑したりするのを本人が「ワクワクする」とまで言っていたのを宏海は聞いたことがある。


宏海が思案を巡らせていると、威勢がよく太臓は紙をしまった。
「読み終わったか?」
「大体な。凄いぞこのゲーム! 妄想したキャラが出るらしいんだよ!」
 興奮、というか狂喜な様子で語る太臓。
「行くぞ宏海! 女の子でブサイクなのはお前にやるから!」
「いざとなったら、お前を殺ってゲームオーバーするかな」

そういって二人は、ゲームから溢れる光に導かれ消えていった。


【説明書】
この物語は、ある物を奪い合う小さな戦争を趣旨としたゲームです。
アナタは、その戦争に参加するプレイヤーです。なんとかその物を奪ってください。
その戦争は二人一組という、いわばタッグ戦で行われます。
片方はマスター。片方はサーヴァントと呼ばれる奉仕者、マスターの護衛といっても過言ではありません。
このゲーム最大のシステムは、アナタの脳内に出てくるキャラを登場人物として出します。
なお、理不尽な妄想は通用せず。アナタの脳内に描かれたキャラをソフトが自動検索をかけ、本来の性格や思想を持ったまま、そのゲーム内に召還されます。
 言うなれば、その召還された人もプレイヤーとなるわけです。全員0からのスタートとなります。頑張ってください。
 特性などは、殆どがゲーム内に反映されますので注意、それと自分自身が持つ能力の把握が重要になってきます。
 運と共に、アナタの実力、妄想の力があることを祈ります。
 それでは、説明書をここまで読んでいただきありがとうございました。
 Fate/paranoia world
 その世界へ。妄想の中、暴れまわるのもアナタの勝手。
 さぁ、ゲームの始まりです。


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