ひとつの言葉







      ひとつの言葉

  かつて たったひとつの言葉が言えずに
  大切な人を苦しめた

  ウソでもいいとその人は言った
  一度でいいとその人は言った
  簡単だろうとその人は言った
  だから一言欲しいとその人は言った

  言葉の本当の意味を知ろうとした私
  責任が取れるのかと自分に聞いた私
  そして
  言葉にも変えられないものを探した私

  それでも言葉がないと
  何もわからないとその人は言った
  遊びなのかとその人は言った
  不安の中の毎日は苦しいとその人は言った

  何度たった一言を言ってしまおうと
  考えただろう 
  そんな言葉で救えるのならと
  考えただろう

  それでも言えなかったひとつの言葉
  誤魔化しの言葉で
  心を手に入れたくなかった
  言葉に変えてしまうと
  それはまるでウソのように響くから

  誰もがあまりにも簡単に
  そんな言葉を使うから
  私にはどうしても言えなかった
  たったひとつの言葉

  そして溢れるほどたくさん
  その人がくれた言葉

  「愛してる」








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