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~RO Novels~ 第五章 信頼のゲフェン編 突入
第三章~モロク編2~
Ragnarok Memories
第三章 ~孤高のモロク編~
六節:~ピラミッド・古代石像神(アモンラー)~
中はフェイヨン同様壁に規則正しく明かりの蝋燭がかけてあり、埃っぽい匂いが充満してい
た。外からみたピラミッドはそんなに大きくは見えなかったが、中に入ってみるとその大きさ
がよくわかる。レンガよりも少し大きい石を幾重にも積み重ねて迷路のようになっている道。
十分ほど歩いて、一行はようやく案内役が必要という意味が大いに理解できた。先頭はもちろ
んバーネット。このくねくねとした道をまるで機械のように正確に進み続けている。後の5人
は固まってバーネットの数メートル後ろを歩いたが、ハワードがルナとオワゾーネを守るよう
に歩いたのは言うまでもない。ハワードは歩きながら小声で4人に聞こえるようにバーネット
の話をしていた。彼とは幼い頃(といっても十代前半ではあるが)からの友人である事、彼があ
る理由から昔ユミルの旅を決心してオシリスに挑んだ事、しかしそれがうまくいかずに、こう
して今のような護衛稼業をやっている事、いろいろ彼について教えてくれた。それが聞こえ
ているのか、バーネットは不機嫌そうにハワードの方を見て目隠しの裏から睨みつけた。それ
にはさすがのハワードもすまんという顔をして、それから彼については触れなくなった。
しばらくして、バーネットが口に人差し指を立てて止まった。どうやら「静かにしろ。」
という意味らしい。その言葉に従い、一行は押し黙った。すると、前からカランカランと何か
が進んでくる音がした。すかさず戦闘態勢に入る。音はどんどん大きくなっていき、ついに姿
を現した。それは青白い光に包まれた両手にサーベルのようなモノを持つ骸骨と、弓を持つ骸
骨だった。それを見てバーネットは少し後ずさりし、一行に聞こえる小声で話しかけた。
「剣を持っているのがソルジャースケルトン、弓を持っているのがアーチャースケルトン。彼
らはオシリスのいる部屋への案内人だ。いいか、よく聞け。ここからが大事なところだ。」
そう言って一呼吸置く。
「奥のほうに階段が見えるだろう。そこから先上りきった所に"アモンラー"というでかい
怪物がいる部屋がある。まあ、オシリスの番兵というところか。奴は死者に対しては何の行動
してこない。だが、生者に対してはオシリスの部屋への道を閉ざしてしまう。では、どうす
るべきか。」
「俺たちが死ななきゃいけないって事か?」
ニケがバカバカしそうに天を仰いだ。
「ええ~。わたしはまだ死にたくないですよぉ~。」
それにつられてオワゾーネも真似る。
「あのなあ、どうしてそう真正面からいく事しかできないんだ、お前は。」
呆れ顔でニケを見つめるハワード。それにソレーユとルナが顔を合わせて笑った。
「……」
ほおけている一行に、バーネットは静かに殺意の篭った空気を押し出した。それを感じ取り、
とたんにみなは無言となる。
「死者と同じ条件ならいいんだろ。だったら……」
ハワードがそこで言葉を切った。どうやら彼もわからないようだ。
「死んでる人って呼吸してないよね。だったら息を止めるとかは?」
ソレーユが恥ずかしそうにモジモジしながら言った。しかし、バーネットを除く他のみなはし
っくりこない顔をした。
「ご名答。」
バーネットのその言葉に一行は言葉を失った。死者と同じ=息をしない。あまりに端的な結び
つきだ。しかし、みなのその表情を読み取ったようにバーネットは続けた。
「何を渋い顔をしている。バカ正直な考え方も思いつかなければ何の意味もない。"コロンヌ
スの卵"という話を知っているだろう。」
「コロンヌスの卵」とは、かつて、グラストヘイムとジュノーを結びつけた偉大な男の話で、
何でも幼い時に意地悪な友人と「卵を縦に立たせられた者の勝ち」というゲームをやったらし
い。あのつるつるの表面で覆われている卵を立たせる事などどう見ても不可能で、仲間はどん
どん投了。そしてコロンヌスの番になると、彼はいきなり頭で卵の底を潰し、そして地面に
それを置いて立てた。その場に居たみなが唖然として、「卑怯だ。」だの何だの言ったが、彼
は一言、「条件の中で一番効率の良い方法を見つける事が成功
への近道なのだ。」
と高らかに言い放った。そして彼は数十年の月日を経て、グラストヘイムとジュノーを結びつ
ける偉大な男になったのだ。
この話はかなり有名な話で、親あるいは学校が子供教育の時に第一に教えると言っても過言
ではなかった。だからもちろんここにいる全員はその話を知っていた。
「すごいね!もしかしてソレーユも偉い人になっちゃうかも。」
満面の笑みでそう言ってくれるルナ。オワゾーネも肩をポンと叩いてグッドと親指を立てた。
ハワードは何も言わず、言葉通り舌を巻いた状態だった。
「偉くなったら俺にたらふく食いモン食わせてくれよ。」
ニケが嫌味交じりにそう苦笑した。ソレーユもそれに合わせる。
「話が逸れたな。」
ぴしゃりとそう冷たい声がして一行はすぐにそのホンワカした雰囲気を引き締まらせた。
「つまり次の階段を上りきったら息をしないで行けという事だ。」
「ちょっと待てよ。」
ニケがさっきのコロンヌスの話の引きずっているのか、わざと大げさに考えたように両腕を組
んで怖い顔をした。
「生者を入れないんだろ?だったらこの骸骨共の前でもそうしなきゃいけねえんじゃねえの?
こいつらもあっち側の奴らなんだし。」
言われてみれば当然の問いであった。アモンラーだけが生者を嫌い、後は好んでいる。おかし
いような気がした。
「さっきも言っただろう。彼らはオシリスの部屋への案内人だ。」
「だったらなおさら……」
次の言葉を言う前にバーネットが納得のいく答えを導く。
「精霊は人間が来るのを嫌っているのではない。――来る人間を試しているだけだ。」
その言葉に全員が納得し、顔を緩めた。そう……月夜花同様オシリスも人を試している。
彼らがユミルの旅を成功させる力があるかどうか。それを見極めてくれる。
彼らに認められる度に一行は一歩ずつ確実に前進できる。それがたまらなく嬉しいのだ。たと
え……自らの身が滅びようとも――
「よし、止めろ。」
バーネットの合図で全員はぐっと息を止めた。カランカランという乾いた骨の音を響かせ
前を歩く二匹の骸骨の後をゆっくりと着いて行く。今は埃の匂いも、汗の匂いもしない。し
てはいけないのだ。
歩くこと数秒、目の前に突如現れた巨大な石像に一行は思わず声をあげてしまいそうにな
った。それは、もはや石像と呼んでいいのだろうか、とても精巧にできていた。スフィンク
スの帽子を被った男が玉座に座っている様を石像にしたようである。さらに、驚くのはそ
の大きさ。人間の手で作れる大きさではなかった。ロード・オブ・デスに勝るとも劣らない。
そして、その大きな石像・アモンラーが自分たちを吟味するように見つめているような感覚
を覚える一行。まさに番兵にはぴったりの石像である。
出口の扉も見えてきた。何事もなく通過できる、全員が確信したその時……急に前を
歩くソルジャースケルトンとアーチャースケルトンの足が止まった。それに合わせてバーネ
ット、他の者たちが止まる。それを確認したかのようにピッタリのタイミングで、ゆっくり
と二匹が後ろを振り返った。そして、その顔を見た一行は一種の恐怖を感じた。
――笑っている。この表現が果たして正しいのか、それはわからない。ただ、その肉も皮
もない骸骨の顔から、何かわからない乾いた歓喜の意が伝わったのは確かだ。
「カラカラカラ……ズシャーン!」
その顔のまま崩れ落ちる二匹の骸骨。青白い光も消え、ただの屍になったようだ。
「なっ……」
と、思わずニケが声を出してしまう。もちろん、声を出すには空気を体内に取り込む必要が
ある。そう、それが呼吸である。そして目の前の扉がぐっと閉まった瞬間、
バーネットが
叫んだ。
「全員伏せろ!」
その言葉とほぼ同時かちょっと遅れて、一行たちの立っていた顔にあたる高さほどにぼっ
と炎が現れた。それはくるくると回り始め、やがてアモンラーの体内へと消えていった。
この炎に触れたらアモンラーの体内に入ってしまっていたというのか…それを見ながら
ニケが申し訳なさそうに頭をうな垂れた。
「わりぃ、みんな。」
「……来るぞ。」
それを無視してバーネットが戦闘態勢に入ると、他もすっと辺りを警戒し始めた。
「ドドドドドドド……」
ゆっくりと地面が揺れる。そして、ついにアモンラーが動いた。
「我、汝に問う。常の旅人、駆け巡るは炎。最も気高き場所にて我らを見下ろす物はなに
か。」
意味不明の謎かけ。
「バーネット、どうすればいいの?」
不気味にその場でガタガタと動くアモンラーに警戒しながらバーネットはソレーユの方を
向いた。
「わからん。とりあえず奴の動きを止める。」
そう言って目にも止まらぬ速さで動き出すバーネット。ハワード以外、その場の全員が全く
追いきれないスピードであった。アモンラーは近寄ってきたバーネットに両手を拳にして追
い返そうとするが、それは彼の影を掠めるにすぎなかった。どんどん間合いをつめていく。
そして、肩の辺りまで上ったところで急に宙を舞った。
「ソニックブロー。」
美しい婉曲を描きながら誰に言うわけでもない小さな小さな声を発し、その瞬間バーネットは
完全にアモンラーの視界から消えた。そしてその数秒後……!
「ザザザザザザザザザザン!」
石を砕く鈍い音が十回したかと思うと、アモンラーの顔辺りからぱらぱらと細かく砕けた石(も
はや砂と同類である)が落ちてきた。えぐったのだ。
「さてと……」
と不意にさっきまで見ているだけだったハワードが動き始める。
「ハワード……さん?」
ルナが問う。その片手にはいつの間にか、先に直径30cmぐらいの大きなトゲ付き玉が装
着されている鈍器が握りられていた。
「ゲフェンで手に入れたモーニングスターの威力、試させてもらおうかー!」
ルナとオワゾーネの頭にポンと手を置きニコっと笑うと鈍器片手にそのまま走り、アモンラー
に向かって行く。バーネットによって顔面を砕かれたアモンラーは、声を上げずになりふり構
わず両腕をじたばたと動かして攻撃していた。しかし、そんな攻撃が当たるはずもなく、彼も
すんなりとアモンラーの間合いに入る事ができた。そして、足元の辺りで大きく鈍器を振りか
ぶる……
「メルトダウン!!」
今度はバーネットの時とは異なり、爆発音にも似た音がアモンラーの足元から鳴ってきた。そ
れと同時に、大きな石の固まりがいたずらにそこらじゅう散らばる。文字通りの粉砕であった。
攻撃を終えた二人は素早くアモンラーの間合いから抜け、ソレーユたちの前に逞しく立った。
「すごい……」
「つ、つええ……」
その間ほんのわずか、ソレーユとニケはあまりのスピードについていけず、心から感嘆の声が
あがる。
「ちょっとは惚れ直しました?ルナ様、オワゾーネ様。」
ニヤリと厭らしい笑いをしたが、この時ばかりは誰も何も言えず、二人はうんうんを頭を縦に
振った。
「下らん事を言っているな。奴には効いていない。見ろ。」
冷静にバーネットが右手のカタールを先ほど砕いた顔面の方へ向ける。そこにはなんと、砕
いたはずの顔があった。心なしか先ほどの顔より怒りが増している。今度は左手のカタール
をハワードの粉砕した足元へ向ける。そこには何事もなかったかのように無傷のまま足が残
っていた。周りに砕けた破片は残っているが。
「さすがに精霊の番人だけある。倒すのは不可能みてぇだな。」
けっと鼻を鳴らすハワードを尻目に、バーネットは続けた。
「だが、奴はあの場所から動かない事はわかった。動けるなら真っ先にお前たちを殺しに来
るだろうからな。」
きつい一言だが、確かにその通りだと思う。今の戦闘で一歩も動かなかった一行は確実にい
い標的になっていたはずである。
「つまりだ。こちらから仕掛けなければ何もしてこないわけだ。だが倒すこともできない。
どうするべきか。」
「最初に言ってた謎かけみたいなのはなんか意味があると思うよぉー。」
オワゾーネが呑気な声で助言した。その場の全員がそれに頷く。
「常の旅人、駆け巡るは炎。最も気高き場所にて我らを見下ろすモノ……」
とりあえず先ほどの言葉を復唱してみる。
「常の旅人ってどういう事だろう。」
「駆け巡るは炎だから炎に包まれてるって事?」
「最も気高き場所……」
「見下ろすってんだから高い場所じゃねえの?」
「旅人みたいで炎に包まれて高い所から見下ろしてるモノ……」
「あっ!」
みなが思い思いの事を述べている中、ソレーユとルナが同時に叫んだ。
「太陽!!」
呪文のような魔力を持ったその言葉が静かなピラミッドの中にこだまする。それは山びこの
ように反芻された。
「ゴオォォォォォ……」
すると急に大地が揺れ始めた。大きな地鳴りと共にアモンラーの頭上の岩盤にひびが入り始
める。やがてそれは崩れ、天井から線のような光が差し込んできた。それがアモンラーの頭
上で反射している。鏡のようなものがあるのだろう。そして……
ガラガラガラ……!!
その日の光を受けてアモンラーは無残にも砕け散った。その衝撃で辺り一帯に砂埃が巻き上
がる。一行は口元を押さえながらその様をじっと見つめていた。
「すげえ仕掛けだな。」
砂埃がいったん収まったのを確認して、ニケがのろのろとアモンラーの元いた場所へと歩
いていった。それにルナ、ソレーユ、オワゾーネが続く。足元は大きな岩盤が不規則に並ぶ
かたちになっており、みなの足元がふらついていた。
「っきゃ!」
突然ガクっとルナが座り込んだ。どうやら足を挫いたらしい。その声にバーネットと話して
いたハワードが素早く反応した。
「ルナ様!」
駆け足でルナの方に寄ってくるハワード。しかし、それをソレーユとニケが羽交い絞めにし
て、ルナの近くへ寄るのを止めた。オワゾーネはルナの近くでなにやらぶつぶつ言いながら
手を動かしている。
「おい、お前ら、ルナ様が!俺が応急処置を!」
「しー!大きな声出すなって!」
「何を訳のわからん事を!はなせ!……」
と、ハワードが二人を振りほどいたその時、彼は前を見て硬直した。そこには、少し申し訳
なさそうな顔をしているルナと、いつものタレ目をぐっと吊り上げて怖い顔をしているオワ
ゾーネがいた。
「うるさい、黙れ。」
たったそれだけ、それだけ吐き捨てるように言って、オワゾーネは再びルナの足首と向き合
う。
「は、はいっ!」
冷や汗混じりに短く声を出し、オワゾーネの邪魔をしないよう音を立てずにソレーユとニケ
の方へと後ずさりした。
「おい、これはどういう事だ。」
ハワードの質問に、右手の人差し指でこめかみを撫でながら「何とも言えないんだ。」とい
う微笑の表情をするソレーユ。
「まあとりあえず、女は見かけによらねえって事だな。」
ニケの言葉にうんうんと顔を縦に振る二人。
「あの女、憑きモノか……」
その後ろで、バーネットがぽつりと呟いた。その声は誰にも聞こえないぐらい小さな声だっ
たので、ピラミッドの空洞がその言葉を飲み込んでしまった。
「さぁ、終わったですよぉ~。」
両手をぐんと上に上げ、いい仕事しましたという晴れ晴れとした表情で立ち上がるオワゾーネ。
「またありがとー、オワゾーネ。」
ルナはその後ろでゆっくりと立ち上がり、はにかんだ笑顔でそうお礼を言った。オワゾーネ
がその言葉に「いえいえ」と顔を横に振る。
「治療は終わったのか。さっさと行くぞ。」
冷たい声が一行のほんわかした雰囲気を再び砕く。バーネットは一人で開いたドアの方へ歩
いて行った。
「ああ、バーネット待てって!」
ハワードが慌てて追いかける。
「ったく、いつまで経っても愛想のねえ野郎だぜ。」
その言葉に最初は一緒に笑っていたソレーユだったが、不意にニケの顔を見つめた。
「でも、そうでもないかもよ?」
「どういう意味だ?」
「だって、ルナの治療が済むまでは、一言も言わずに待っててくれたじゃ
ん。」
はっとなるニケの横で、ソレーユは先ほどの崩れた岩盤を見上げた。暗いピラミッドの中を
照らす一筋の光。それを見てソレーユはふっと笑う。
バーネットさんに似てる――冷たい厳しい事を言うも、ちらりと見せる無愛想な優しさが―
七節~独りじゃない~
歩くたびに乾いた砂を踏む音が暗いピラミッドの空間に響き渡っている。アモンラーを打ち破った一行は照明に照らされながらバーネットを先頭にして、長い長い階段を上っているところだった。奥に精霊がいるからか、一行は戦闘の緊張が解れた後だったにもかからわず、みな無言で歩き続けていた。
それから数分歩いただろう。階段は終わり、目の前に狭い空間とその先へと通じる木でできたドアがあった。最近空けられた形跡はなく、ノブには蜘蛛の巣が張ってる。
「……ここから奥が、オシリスのいる部屋だ。」
薄々感じてはいたが、バーネットの一言によりさらに現実味が増す。この扉一枚向こうに精霊がいると思うと、妙に胸がドキドキした。
「開けるぞ。」
その言葉に全員が一呼吸置いてから頷く。バーネットは蜘蛛の巣を払い、静かにノブを回した――
ドアを開けた瞬間、中からひゅっと強い砂埃が吹き、一行を襲った。それはまるで生きているように一行の近くを彷徨い、そしてまるで解放されたように意気揚々と階段を下って行った。それをあっけにとられて見入るソレーユたち。
「今の風は"セト"と言ってな。なに、一遊びすれば戻ってくるから安心せい。久しぶりの外に少々浮かれ気味なだけじゃ。」
中から低い濁した、それでいてどこか優しい声がした。振り向くとそこには、全身を白い包帯(腐っていて所々が黒く腐蝕している)で覆った者がポツリと立っていた。スケルトンたち同様青白い光に包まれている。そして頭には、包帯の腐蝕具合から異質とも言える金色の冠がピカピカと輝いていた。
「オシリス様……ですか?」
その問いにコクリと頷く。緑色の目が微かに優しく微笑んだ。
「私たちは、"ユミルの旅"を遂行する者たちです。どうか、私たちに力を貸してください。」
ルナが手を合わせて跪いた。それをみなが倣う。
「ここに来るのは巡礼者ぐらいしかおらんが……しかし、実に珍しい。ここ数年ぱたりと見なかった。」
オシリスはそう言って、ルナたちを楽にさせ、ある事に気づいた。
「おや…お前は確か……」
どうやらバーネットには見覚えがあるらしい。バーネットはオシリスを目隠しの下から無言で見つめていた。口は少し震えている。
「あの時の子供か。いや、大きくなったものだ。」
「……」
「バーネットをご存知なのですか?」
「うむ。」
ルナの言葉に、ハワードがみんなに聞こえるぐらいの小さな声をあげた。
「さっき話した通り、バーネットは一度オシリスに敗れております。」
「あれは十数年ほど前か。そのバーネットとやらがここを訪れた事がある。正直驚いた。まさか、あんな子供がアモンラーの試練を破るとは思っても見なかったのじゃ。」
「……」
「じゃがまぁ、子供にワシの試練はちと厳しかったようでな。そのせいでこの者は……」
「……永遠に光を失った。」
バーネットがそう付け足すと、オシリスが言葉を飲み込んだ。
「え?」
思わず声を同時に出してしまったソレーユとニケ。ルナとオワゾーネもびっくりした顔をしていた。
「……俺はオシリスの試練に失敗し、永遠に光を失った。」
しかし、思いの他バーネットの声は落ち着いている。
「……だが、後悔はもとより恨んでもいない。むしろ感謝している。永遠の闇は俺に拒絶する事を教えてくれた。光が無ければ、無駄な感情を抱く必要もない。光のないところでは力こそが全て。力を追い続ければ、光など必要なくなる。」
珍しく饒舌になるバーネット。それを黙ってみなが聞いていた。
「ふむ……お前の言う事はもっともじゃがな。」
不意にオシリスは口を開いた。
「じゃが、それが真実では無い事も同時に分かっておるはずじゃ。」
その言葉に、ピクリとバーネットの顔が動く。
「闇の中で力を追い求めれば求めるほど、光は必要なくなる……と言ったか。本当にそう思っておるか?」
少し間を置いてから、素直に首を横に振った。
「……力を求めるほど、闇を恐れる。その闇を振り払うため再び力を求める――その繰り返しでしかない。だから俺は今日ここに来た。」
バーネットはそこまで言って深く深呼吸した。
「俺がするべき事は何だ?!どうすればこの闇を退けられる!?……俺は怖くてしょうがない。気を許せば深い闇に囚われる。どうすればいいと言うんだ?!」
急にいきり立って大声を上げる。そのあまりの剣幕にオシリスを除いてみな、ハワードすらもぎょっとしてしりもちをついた。
「よいか、バーネット。」
「お前の古い心の傷は、簡単に癒せるものではない。じゃが、癒す方法は必ずある。それを本当にわかるのは……バーネット。お前自身しかおらんのじゃよ。」
オシリスは静かにそう言った。この狭い空間を通して、言葉の重みがひしひしと伝わってくる。
「ワシにできる事はお前さんに助言をする事ぐらいかのう。そうじゃな……」
腕を組み考える姿勢をとるオシリス。
「ワシにも長い事理解できなかった事がある。ワシは昔、人の生死を看取る役目があったのじゃが。その度にいつも考えておった。"人はなぜ死ぬとわかっていて生きるのか。"ワシには全く理解できなかった――」
「ほんの数十年生きるだけなのに、なぜ人は生きようとする?500年前、ロード・オブ・デス出生の秘密は未だに謎のままじゃが、ワシはロード・オブ・デスの考えがどうであれ、人が滅ぶのは何の問題もない事じゃと思っておった――ユミルと出会うまでは。」
そこまで言ってオシリスはおかしくなったのか、ふっと笑い遠い目をした。運命の皮肉を感じているのだろう。
「彼女は一度死にかけてワシの元へやってきた。その時は驚いたよ。死ぬ者というのは万物変わりなく青い光を纏い、天か地へと還って行く。その悲しい青光を人は"人魂"と呼ぶらしいが。……じゃが、彼女には青い光がなかった。死してもなおまるで生きているかのように白い光を放っておった。」
「――それからワシは彼女と話をした。何故だかはわからんが、彼女ならあるいは、ワシの長年の疑問を解いてくれるかもしれない……そう思ったのじゃ。彼女はワシの問いを聞いたとたん、笑い出した。そして、あまりにあっけない一言でワシの疑問を片付けた……」
「"その答えを求めてみんな生きるのよ。"……思わず苦笑いしてしまったよ。なるほど、答えを見つければそれは自ずと真実へと向かって行く。滅ぶべきが人の定めなのか、はたまた大義あって人は生き続けるのか――ワシは無性にその真実を見極めたくなった。そして、それを成し遂げるにはユミルの力も必要だと確信し、彼女を蘇らせ、ワシも彼女とその仲間と共に旅をした……」
気がつくと、オシリスの緑の目からは一筋の涙が流れていた。それは綺麗な青色をしている。
「いかんいかん、年寄りは涙脆くていかんの。」
ずずずっと鼻水をすするような音を立てて、包帯の奥から軽く笑う声がした。
「まあワシはこうしてユミルたちと共に旅をする事により答えを見つけたというわけじゃ。」
「……"答え"を見つけた?」
バーネットは静かにオシリスに尋ねた。
「見つけた…と言えば嘘になるかもしれんが。少なくとも、"感じる"事はできた。それはいつものユミルの口癖だったのじゃがな。」
「その"感じ"られたものはどんな事ですか?」
ルナも好奇心からそう聞いた。
「言っても今はわからんじゃろうが、まあ彼女の言葉を借りるなら……"どんな事が起きようと、意味のないものは無い。"という事じゃ。言葉にしてはちともったいないがな。これはあくまで"感じる"事じゃから。」
「え?」
それを聞いたソレーユは思わず声を上げた。ルナが「どうしたの?」と尋ねたが、何でもないと首を振る。
「……」
そんな中、バーネットは右手を顎に当てて考えた。オシリスの言いたい事がよくわからないのだ。
「まあつまり、一つの解決策として、旅に出て世界をめぐる、という事もあるのじゃよ、バーネット。」
「俺が……旅をする?俺が……?」
何度かその言葉を繰り返し、彼は何がおかしかったのか、急に笑い出した。
「俺はとある男に家族を皆殺しにされた。家族以外に身寄りのない俺は、一人で"ユミルの旅"に出る事にした。そして、オシリスのところへ来て、俺は光を失った――」
やがて、笑うのをやめたバーネットが、両手のカタールを見つめた。
「どうやら初心を忘れていたようだ……"ユミルの旅"に出る事が目的だった俺は、オシリスの試練に破れて光を失い、闇に囚われていた。光を失えば目的を見失う。俺はただがむしゃらに強さを求め、闇を遠ざけていただけだった。だが、オシリス。俺はいったいどうすれば――光を得られる?」
「ふむ……お主はもう光を見つけておると見えるが。」
そう言って、オシリスは静かにソレーユたちの方を指差した。
「……どういう意味だ?」
「自らの光が無くても、お前は目的を見失うことはない。同じ意思を持つ仲間がいれば、彼らがお前を導いてくれる。進むべき方向へ。」
「仲間……?」
ふとバーネットが振り返ると、そこには5人の人間がいた。ハワードは別にしても、彼らの目的は"ユミルの旅"の遂行。そして不意に彼の家でルナが言った事を思い出した。
("たくさんの人からたくさんの勇気をもらいました……だから何としてもこの旅を成功させなくちゃいけないんです。")
「そうですよぉ、バーネットさん。」
オワゾーネの声に、再び現実に戻されるバーネット。
「わたしも家族を殺されて、しかもフェイヨンでロード・オブ・デスの襲来を受けて友達を失ったんだょ。でも、わたしにはこんなに素敵な仲間がいるから、怖くない。……独りじゃないもん!」
珍しく抜けた声ではなく、どちらかと言うとルナを介抱する時に近い声でオワゾーネはそう言い切った。それでも顔はいつもの穏やかな彼女である。その言葉にルナもソレーユもニケもハワードも力強く頷いた。
「いい子たちじゃないか、バーネット。後はお前が心を開くだけじゃ。」
そう言ってオシリスはポンと彼の背中を押す。つんのめる形になってバーネットがルナたちの前に行った。
「ああ…んん…何というか……オホン。お前たちは、俺を何だと思う?」
ややモジモジしながら尋ねる。みんなはオワゾーネの時同様、最高の笑顔で声をそろえた。
「素敵な仲間!」
その瞬間、バーネットから強い光があふれ出した。そして頭上に、輝くヴァイオリンが現れる。本人もびっくりした様子だ。オシリスの方を振り向くと、彼は笑っていた。
「ワシの神器はバーネット、お前を選んだ。人一倍闇を知り、そしてそれに打ち勝ったその強い心なら、ワシの神器も操れる。この"孤高のヴァイオリン"をな!」
「一緒に行きましょ、バーネットさん!」
ルナが手を出すと、バーネットはその手をとった――
――それから一行はオシリスに別れを告げ、新たにバーネットを仲間に加え、一同ピラミッドを後にしていった。別れ際にちょうどセトが外を楽しんで帰ってきた。出ると、いつしか時は夜になっていた。
今日は満月。散りばめられた星が美しく光る夜の闇、どこからともなくヴァイオリンの音が聞こえてきた。まるで闇を包み込むような音が――
八節~最後の晩餐~
八節:~最後の晩餐~
チャリンチャリン……「悪人大歓迎」という張り紙のあるドアをくぐったのは、真夜中の事だった。乾いた鈴の音と共に、酒臭い匂いが一行を迎える。みんなは、その匂いに安堵の表情を浮かべた。すると、ガヤガヤと話していた中の人々の顔が凍りつく。手に持った酒や肉をそのまま止めて、みながみなまるで死人でも見るかのような目でソレーユたちを見つめていた。そして数秒の沈黙の後。
「帰ってきたー!!」
シュレンがそう叫ぶと、酒場は一気に活気を取り戻した。
「おかえり!オシリスに会えたのか?!」
「珍客のバーネットもいるぞ!がはは、まあここに座れよ!」
「おい、サマンサー!ハワードたちが帰ってきたぜ!」
その声にドタドタと奥から走ってくる音がした。そして、ゼエゼエと息を切らせ、両手に血のついた包丁と三枚におろした魚を持ったまま、サマンサが厨房から現れた。顔は鬼のような形相をしているが、赤い目は優しく一行を見つめている。
「遅いじゃないか!あたしゃ心配で心配で……」
包丁を振り回して目の辺りをゴシゴシこすると、酒場は笑いに包まれた。
「サマンサは今日ずっと『まだかしら、まだかしら。』ってお前たちの帰りを待ってたんだぜ?ハワードと絶対一緒に帰ってくると思ってな。」
「女の勘をナメんじゃない!ほらほら、みんなそこをどきな!"ユミルの旅ご一行様"の席だよ!!さぁどきな!やれどきな!」
そう言って、近くにあったテーブルの客を追いやり、一行をそこに座らせた。しかし、バーネットだけは、
「……俺はこういうのは好かん。街から出る時は俺の家に寄れ。」
と言って早々に立ち去ってしまった。
「まあ。あいつはああいう奴だ。」
酒場も彼を無理に引きとめはしなかったが、サマンサは刺身をのせた皿一枚と酒の入ったビンをバーネットに渡した。そして山のようなご馳走をテーブルに運び、初めてサマンサは一息ついた。
「さあ、どっさり作ったから食べておくれ!」
「これ、全部食っていいのか?!」
半日以上飲まず食わずだったニケはよだれを拭きながら上機嫌に皿の上のフォークをとった。
「当たり前だよ!まだまだあるからね!」
「いっただきまーす!」
しばらく男共は食べる事のみに集中した。
「ニケー。もうちょっとゆっくり食べなよー。」
入るだけ口に食べ物をくわえ込んだニケを半ば呆れ顔でルナが諭した。
「ソレーユさんもぉ、味わって食べなきゃ~。」
トマトのスープを口に運びながら、ちょんちょんとソレーユのこめかみをつつくオワゾーネ。思えばこの世界に来て、ソレーユはろくにものを食べていなかった。一番大きかったのは疑心だが、ルナたちとの旅を通してそれが徐々に薄れてきたらしい。
「お前たちにマナーってもんはねぇのか?」
そういうハワードも口にかなりの量を詰め込んでいる。
「おあえおあお!(お前もだろ!)」
「ゴフッ!」
ニケがハワードにつっこみをいれ、次の品に手を出そうとした瞬間、ソレーユの喉から悲鳴が聞こえた。どうやら詰め込みすぎて喉に引っかかってしまったようだ。
「ほら~、言ったでしょぉ~。」
オワゾーネも呆れるが、ポンポンと背中を叩いてあげる。しかし、繰り出されるその威力は叩いていると言うよりは、擦っているというほうが正しいほど弱かった。当然そんなもので彼のつまりは解消できない。それを横で必死に応援しながらルナは声援を送っている。
「ソ、ソレーユ!大丈夫?!」
「ミ…ミズ……」
「お兄ちゃん、大丈夫かい?」
近くにいた男が水をサマンサに注文した。
「ほーはへえはふはあー。(しょうがねえ奴だなあー。)」
そう言って、ニケは口の中のものにいったん整理をつけると、大きく手を振りかぶった。そして……
「バチイインッッッ!」
彼の手はソレーユの背中にクリーンヒットした。ソレーユの時間が止まる。一瞬固まって、その後ゴクンという鈍い音がしたかと思うと、今度はソレーユが背中を押さえて立ち上がった。
「痛ええええ!何すんだよ、ニケ!」
「つべこべ言うなよ、飲み込めたじゃねえか。」
――それから賑やかな食事はひと段落し、みんなのお腹も満腹になった。消化に良い緑ハーブのお茶が振舞われ、それを飲みながら話しは今日の出来事に流れていった。
「なるほど……やはりモロクの精霊には誰も会いに来てなかったんだな。」
オシリスが巡礼者が来たのは久しぶりだという言葉を真剣に受け止めているこの男は、現在のモロクの市長であり、元ギャングスターパラダイスのメンバーでもあるモックである。完璧な白髪で少々老けて見えるが、体はすらりとしていて、その周りに頑丈な筋肉がついている。目は獣のようで、常に獲物を狙うその目は、古くから盗賊をしていた由縁なのだろうか。
「まあ、こんな盗賊のうじゃうじゃいる街に来ようなんざ思わんというわけだ。」
シュレンも腕を組んでウムと唸る。
「冗談じゃないよ。まるであたしらがユミルの旅を邪魔しようとしてるみたいじゃないか!」
いきり立ってサマンサが抗議した。
「でも、おれたちが来た時も追い返そうとしたよな。」
冗談交じりでニケがそう言ったが、それを真に受けてしまったサマンサはそれ以上何も言わなかった。
「ちょっとニケ!少しは言葉を選びなさいよ。」
「悪りい、ほんの冗談で……」
ピシャリとルナに注意されて申し訳なさそうにサマンサに謝った。
「だが、まあそういう訳だ……」
自分に言うように小さな声でモックが不気味に呟く。それとタイミングを計ったように店のドアががちゃりと開いた。夜明け前の日の光ともに入って来たのはなんと、バーネットだった。
「おう、なんだ、バーネット。食い物ならもう……」
「グラストヘイムの軍がモロクに向かってきている。」
「?!」
一瞬凍りつく酒場。しかし、ルナが誰に言うわけでもなく尋ねた。
「でもグラストヘイムの軍が来る事はおかしい事なの?別に戦いにきたわけじゃ……」
「あたしらの素性が割れたんだろうよ。今は解散したとはいえ、元ギャングスターパラダイスだったって事は事実だからね。」
「くそ!とにかく俺たちと一緒にいたんじゃお前らも危険だ。俺たちは一度街からずらかる。探してもいないとわかれば軍もおとなしく引き上げるだろう。」
シュレンが酔った顔を引き締まらせて、サマンサの手を借り立ち上がる。
「さあモック、あんたもだよ。おそらく素性が割れたのは市長のあんただ。奥の抜け道へ!」
「その必要はない。」
その言葉の後にズドンズドン!と銃声が二発聞こえた。そして、サマンサとシュレンは足を抑え、その場に倒れた。酒場の空気に緊張がはしる。
「モック…?」
両手に持った煙の出ている銃を二人に向けているのは、なんとモックであった。
「まさかお前が……俺たちをグラストヘイムに売ったのか?」
「てめぇ何しやがる!!」
モックの近くにいた男が彼に殴りかかった。が、再び銃声が別のところからして男は倒れた。頭から血と出てはいけないものが出ていた。脳を打ち抜かれ即死したようだ。
「わたしがこんな愚かなマネを一人ですると思うか?」
その言葉に誘発され、酒場にいた人間の役半分が銃を取り出し、残る半分につきつけた。それはもちろんソレーユたちにも向けられた。ハワードにも……
「待ってくれよ、モックさん。これは一体……?」
「お前らは黙っていればいい。子供の出るまくじゃない。」
ハワードの言葉を制するモック。
「貴様……だけ罪を帳消しに…してもらう気だな!」
「ほほう、さすがに察しがいいな、シュレン。気にくわん男だ。」
徐々に憎悪に満ち溢れていく。サマンサとシュレンは足を抑えながらそれを悲しい目で見つめていた。
「だが、わたしを悪者呼ばわりするのはやめていただこうか。この廃れた地モロクに新たな歴史が刻まれるのだ。安全な場所として生まれ変わり、そしてわたしは永遠の権力を得る!!」
「あんたは…権力がほしいだけだろ?」
「ふはははは、その通りだサマンサ!考えられるか?お前たちと一緒に臭い飯を食らい、共に汗水流して戦った愚友が、権力を得るのだ!光栄な事じゃないか?」
「この……裏切り者!!」
「ふはははは……は?」
高笑いの途中、モックは突然口から大量の血を吐いて自分の腹の部分を見下ろした。剣のようなものが貫通しており、血がプシュップシュッと音を上げて吹いている。
「バ、バカな……何も…見え……な…」
そして倒れて動かなくなった。そこに新たに立っていたのは――バーネットだった。血のついたカタールを静かに見つめている。
「この野郎!」
モック側の男三人が同時にバーネットに襲い掛かる。しかし、次の瞬間バーネットはサマンサたちの近くに移動していて、三人はそのまま元バーネットがいたところに倒れた。
「今だ!」
シュレンの一声で酒場のサマンサたち側の人間がモック陣営に襲い掛かった。銃を奪い、床に押さえつけ、ある者は絞め、ある者は刺し、ある者は殴った。ソレーユたちも近くにいた奴の銃を奪いとる。かくして、酒場は血の匂い仄かに香る大乱闘となった。
「こっちにおいで、ルナちゃんたち!」
この乱闘の最中、サマンサはルナたちを酒場の奥に呼び寄せた。そして、床になぜかついている取っ手をとると、そこには薄暗い地下通路のある階段があった。
「ここから、ゲフェン地方へ道が繋がってる。あんたらはここから逃げな!グラストヘイム軍にあたしらといるところを見られたら何かと厄介だ。」
「でもサマンサさんとシュレンさんは?」
「もうこの足じゃ逃げられやしないよ。いっそ素直に捕まっちまおうと思う。そっちの方が楽だろ?」
「でも、そしたら……」
「大丈夫だ。モロクは俺たちがいなくてもやっていける。見ろよ!俺たちのために戦ってくれる仲間がこんなにいるんだぜ?!みんな根はいい奴ばかりなんだよ。ただ……ちょっと不器用っていかな。グラストヘイムにそこんところはきっちりと教育してもらえば、モロクも安全な町になるだろうよ!」
「とにかく、早く!あとルナちゃんにオワゾーネちゃん!」
「は、はい!」
「はあぃ?」
サマンサはルナとオワゾーネにポケットから出した指輪のようなものを手渡した。小さい綺麗な赤い宝石のついたものだ。
「綺麗……」
「これは"セイフティリング"って言ってね。昔とある男から奪ったものだ。形見と言っちゃなんだがね、女同士であるあんたらにあげるよ!いい相手見つけな!」
その言葉にカァっと赤くなるルナ。オワゾーネはありがとうと何度も言ってサマンサの頬にキスをした。
「それと……これは身勝手なお願いかもしれないが……」
「ハワードをあんたらと一緒に連れて行ってくれないかい?もし何かしたらすぐほっぽり投げていいから!」
「な…・・・?!おばさん!俺はここに残るぞ!!」
「あんたがいたらモロクは女づけの町になっちまうよ!あんたは一箇所に留まるより世界をかき回す方がよっぽど世界に貢献できるんだよ!」
「おばさん……」
ハワードはその言葉の真意に多少気づいているようだ。サマンサの目にも涙が溢れていた。
「いいかい?お前さんたち?」
「俺からも頼む……」
シュレンも力を振り絞ってお願いした。みんなは返事に困っていた。サマンサの気持ちもわかるが、ハワードの気持ちも痛いほどわかるのだ。
「来い、ハワード!」
その心の迷いを振り払うように、ニケはハワードをつかんだまま地下の道へダイブした。
「ゴホゴホ…!てめぇ!何しやがる!!」
「ちょ、ちょっと、喧嘩してる場合?!」
二人の喧嘩を仲裁しにルナが、それを追ってソレーユ、オワゾーネが飛び込んだ。最後のバーネットは飛び込む前に捨て台詞のように一言。
「今日の刺身…うまかったぞ。また食いにくる……」
――サマンサは静かに隠し戸を閉じた。そして、近くの壁にシュレンと一緒に寄りかかった。
「なあ、サマンサ、泣いてもいいんだぜ?本当は……引き止めたかったんだろ?」
「何言ってんの……あんなバカな子…いない方がマシさ!」
その後、しばらくしてからサマンサは大声を上げてシュレンの肩で泣いた。それを慰めながらシュレンは天井を仰ぐ。
「行ってこい、ハワード……」
そう小さく呟くと目から零れ落ちるものを必死に堪えた――
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