~RO Novels~   第五章 信頼のゲフェン編  突入

~RO Novels~   第五章 信頼のゲフェン編  突入

キルハイル編~悲しみの生み出ししキエル後

~ROクエスト小説~

キルハイル編~悲しみの生み出ししキエル~後編








 レンは後ろの怪しい気配に気づき、サイト(索敵魔法)を炊いた。すると、急な出来事で驚き顔をしたバーネットが現れた。

「気を感じ取るなんてすごいじゃないか。」

彼は笑ったが、3人は怪しい目で彼を見つめる。

「何か用ですか?」

コトが不機嫌そうに尋ねた。

「実は、君たちに協力してほしい事があるんだ。」

すると、3人の目つきが変わった。しかし、すぐに疲れが勝って眉をひそめる。

「悪いんだけど、明日にしてもらえます?今日はもうクタクタで……」

「どうしても今日から取り掛かってもらいたい。報酬はもう1億z出そう。」

「い、1億?!」

再び顔が精悍になる3人。バーネットはそれを見てにっこりと微笑んだ。

「俺はシュバルツバルトのある組織のメンバーでね。レッケンベル社について調べてるんだ。 あの会社を潰すために。

 それから3人は、エルメスプレートの岩山に腰掛けて彼の話を聞いた。

「この仕事に手を出したあたり、君たちはシュバルツバルトには疎いみたいだね?」

「どういう事?」

「キル・ハイルは20歳でレッケンベル社の生体研究部門に所属していた奴なんだ。」

「それってすごい事じゃ……」

「建前はね。レッケンベルっていったらシュバルツバルトで誰もが認める大企業だし、彼らの研究のおかげでガーディアンなどができたようなものだからね。でも、あの会社の本性は、 地下の秘密研究室で人間の生体研究をする恐ろしいもの なんだ。」

「それ聞いた事あるさね。でも、レッケンベルを妬んだ他企業の嫌がらせだったんさね?」

レンの言葉に、バーネットはチッチッチと人差し指を左右に振った。

実際にやってるんだ。 俺もこの目で見た。近頃発表した人工AIを持つペット"ホムンクルス"の研究も、人間の生体研究の賜物なんだ。」

「じゃ、じゃぁそれって神への冒涜でしょ?みんなで証言すればその企業はひとたまりもないんじゃないかしら?」

「それがレッケンベルの怖いところだ。 あの企業は莫大な金にものを言わせてジュノー政府に取り入っている。 今や政府はレッケンベルの操り人形でしかない。とは言っても……」

そこで言葉を切り、袖から一枚の写真を取り出した。そこにはライオンのようなヒゲをはやした凛々しい男の姿が映っていた。
ワイエルストラウフ

「あ、この人新しいシュバルツバルト大統領だ!」

「そう。今期の大統領ワイエルストラウフさんは、俺たち同様レッケンベルの破滅を狙う組織の一員なんだ。というか今の俺たちの資金は彼から出ているから、実質的な指導者ではあるんだがな。」

「じゃあその人に頼めば終わりじゃない?」

「そう上手くいかないのがレッケンベルの怖いところなんだ。できればより確実な証拠が大量にほしい。だから、今組織は方々に散らばって、レッケンベルの悪事に関係した者を証言させるように試みているんだ。」

「なるほど。でも、キル・ハイルさんは悪い事してたんですか?」

「そこなんだ。」

彼はお手上げと両手を挙げた。

「彼がどうやってレッケンベルと関係を持ったのか、全くわかっていない。でも、彼の20歳までの記録は、悉く抹消されてるんだ。何かあったに違いない。だから、俺はその事をジュノーで調べてみようと思うんだ。その間、君たちには頼みたい事がある。レッケンベル社に汚されていない人に協力してほしいんだ。」

「何をすれば……」

「エリーを覚えてるかい?」

頷く3人。

「彼女はここから西へいったところにある寮で生活している。彼女からも情報が聞きだせないか試してみてくれないか?部屋は2Fの一番左だ。」

「それだけ?」

「今はな。俺が調べている事の裏づけをとりたい。やってくれるかい?」

「1億zくれれば。」

「あぁ、終わったら必ず1億z渡すと約束しよう。」

 3人はバーネットと別れを告げ、エリーのところに向かった。日はもう完全に落ち、星が夜空を演出していた――



「コンコン。」

それから、エリーの寮についたのは1時間後だった。8部屋あるのだが、何部屋も使われておらず、声もほとんどしない。そんな寮の2Fの一番左の部屋の前で、アコルはドアをノックした。

「はーいはいはーい!」

能天気な声と共にドアが開くと、幽霊でも見たかのようなエリーが現れた。
「あなたたち…良かった!生きてたのね!」

そう言って一番前のアコルに抱きつくエリー。そして、コト・レンと順にハグした。3人は、彼女はさぞ罪悪感に苛まれているだろうと思い、言葉を考えていたが、そんな事はなさそうで安心した。

「エリー。ちょっと話があるんだけどいいかい?」

「どーぞ!」

客を中へ招きいれ、どこから持ってきたのか座布団を出すと、彼女はベットの上にちょこんと腰を下ろした。

「座っててー。飲み物は丁度切らしててないんだけど、下からもってくる?」

「あ、いやお構いなく。」

「そっか。それで、話ってなぁに?」

くりくりした目を輝かせる。こんな彼女に重い話をするのはいささか気が進まなかった。

「エリーの事について、話してもらえない?」

アコルがそう言うと、エリーはびっくりしたような顔で彼を見て、少し頬を赤らめた。

「ど、ど、ど、どういう事をは、話せばばば?」

どうやら意味を取り違えたらしい。

「あなた、機械人形なんですって?」

それを聞いた途端、彼女の顔が急にしょげた。

「誰から聞いたの?」

「キル・ハイルさん。」

「そっか……」

彼女は哀しそうに笑う。その表情はとてもじゃないが、機械人形とは思えなかった。

「私は 第三世代 って呼ばれる機械人形よ。おじいちゃんが造ってくれたの。」

「第三世代って事は1,2とあるんだ?」

「うん。第一世代はエリシアさんよ。考えて行動できるんだけど、感情がないの。第二世代はキルハイル学院の警備の人。人間の格好をして力がすごい強いの。感情はないわ。それで私が第三世代。基本的には第一世代と変わらないんだけど、感情を持つようになった。」

「キエルハイル邸にいたエリセルとエリオットは……」

それを聞いたエリーは、さらに哀しげな顔をした。そして、急に何かに怯えだした。

「そ、そんなの言えない!…い、言ったら……殺されちゃう!!エリー殺されちゃう!」

「落ち着いてエリー。誰に殺されるって?」

「そ、そんなの言えない!…い、言ったら……殺されちゃう!!エリー殺されちゃう!」

「わかったわかった!それは聞かないから落ち着いて!」

コトが立ち上がり、彼女をベットに横にさせた。「フーフー」と目を見開いたまま、エリーは荒い呼吸を続ける。

「私はただの機械人形。何の役にも立たない。友達も怖がる。どこまで行けば私は人間になれるの?怖いも痛いも哀しいも感じるのに。どうして……」

ポツリとそう言う彼女の頬には、涙が流れていた。

「彼女からはこれ以上聞けないな。」

 それからエリーをクールダウンさせると、3人は努めて明るい話題を話した。ルーンミッドガッツ王国の事や彼らの故郷の事、最近の流行などを話し、彼女を楽しませた。そのうち、3人もだんだん楽しくなり、バーネットとの約束などはしばらく忘れておこうと思った。



「あ、いけない。もうこんな時間!こんなに楽しかったのは初めてだよ!」

「外真っ暗だね。じゃ、俺たちはそろそろ帰ろうか。」

 そう言って立ち上がる3人をエリーが止めた。

「今日はもう遅いし……隣と隣の部屋が空いてるから、そこに泊まってけばー?」

「でも、なんか悪いよ。」

「そんな事ないよ!使われないよりはずっとマシ!使われる方がお部屋さんも喜ぶよー。それに下にはシャワーもあるし、食べ物も飲み物もあるし!」

話し合いの結果、3人は部屋を用意してもらう事にした。エリーは嬉しそうに部屋の説明をし、下の「お客様用」と書かれた棚から缶詰とリンゴジュースを持ってきた。

「お酒はないんだけど、これならいっぱいあるから我慢してね。」

「ありがとう。エリーも一緒に食べない?」

コトの急な申し出に彼女は顔を少し強張らせた。

「……でも、私飲み食いは形だけできるけど、意味がないんだぁ。機械だからねっ。」

哀しげに笑うエリー。

「何事も雰囲気が大事さね。」

「えっ?」

レンが起用に開けた缶詰を渡すと、彼女は反射的にそれを受け取る。

「そうだよ、エリー。機械とかなんて関係ないよ。俺たちはエリーと食事がしたいんだ。」

「さ、一緒に食べましょ。」

「……うん!」

彼女はまた泣いた。けれども、それは哀しい涙ではない。嬉しい時に出る涙なのだ。

 それからエリーは缶詰を7つもがっつき、楽しく話をした。そして、ひと段落したら、コトと一緒にシャワーを浴び、自分の部屋へと帰っていった。

「今日はありがと!なんか今日初めて会ったとは思えないぐらい楽しかったよ!おやすみー。」



 次の日、エリーに起こされ、缶詰とリンゴジュースをもらうと、彼女は学院へ向かった。

「さて、どうするかねぇ。」

うす暗い雲に遮られたわずかな日の光が入り込む部屋の中で、缶詰を食べながらレンが現実に引き戻されたと口をすぼめる。

「バーネットさんとどこで落ち合うか決めてなかったな。」

「とりあえず、もう一度キルハイル学院に行ってみましょ。バーネットさんがいるかもしれない。」

コトの提案に2人も賛成し、お昼前には寮を後にした。



 しかし、キルハイル学院につくと、入り口に警備の代わりにキル・ハイルがいた。彼は3人に気づくと、たったったと走ってきた。そのしっかりした足どりはとても62歳とは思えない。だが、顔だけは何かあったのかとても深刻な顔つきであった。

「まだこんなところにいたのか。だが丁度いい。 3人ともエリーを見なかったか? 今警備の者にも探させているんだが……」

「え?エリーなら朝学院に行きましたけど。」

「見たのか?!」

「昨日はエリーの寮に泊めてもらったんです。」

それを聞くと、彼はなぜエリーの寮に3人が行ったのか聞きたそうな顔をしたが、それよりも彼女の事が気になるようで、考え込んだ。

「ウウム……彼女の足なら1時間ほどで学院に来れるはずだが……まさか!」

一瞬悪夢が過ぎったのか、彼は細い目を大きく見開く。

「心当たりがあるんですか?」

キエルだ! あいつに違いない!あいつがエリーを誘拐したんだ!そうだ!おい!お前たち!エリーを連れ戻してきてくれ!頼む!金ならいくらでも払う!」

アコルの肩をぶんぶんと揺さぶる。

「落ち着いてください!どうして息子さんがそんな事を…それに、あなたもどうしてそんなに息子さんを……」

それは、彼が本当の息子じゃないからだよ。

ふと別のところから聞いた事のある声がした。そちらを向くと、傷だらけで腹の出血を抑えながら立っているバーネットの姿があった。

「バ、バーネットさん!」

急いで近寄る3人。キル・ハイルは彼を、幽霊でも見るような目で見ていた。

「そんな……どうして生きている…?」

「あなたがレッケンベルに告げ口したんだろ?夜中に奴らに襲われたぜ。この有様だ。」

「キル・ハイルさん……?」

彼は黙ったまま、膝をついた。

「どうしてだ……なぜワシの邪魔をする!?」

「別にあなたの邪魔をしたいんじゃない。レッケンベルという悪魔の組織を潰したいだけだ。」

「何を訳のわからない事を……」

あなたが19の時、

バーネットがそう言うと、再び驚いた顔でキル・ハイルが彼を睨んだ。しかし、何も言わない。

「あなたはある女性に恋をした。でも、その女性にはジェームズという裕福な画家の彼氏がいた。もちろん、金とは関係なく、ジェームズを愛していた。もう 婚約指輪 もはめていた。しかし、それでもあなたは彼女がほしかった。」

「やめろ・・・…」

頭を抱えて悶絶するキル・ハイル。しかし、バーネットは続けた。

「すると、どうだろう。ジェームズの親は違う女性と彼を結婚させようとした。これを好機とみたあなたは彼女に手紙を書いた。おそらく"ジェームズは君を愛してなどいない。違う女性と結婚するんだ。君を真に愛しているのは僕だ。会って話がしたい。"とでも書いたんだろう。彼女はその事を知らなかったから、さぞかしショックを受けたのだろう。」

「やめてくれ……」

「彼女は約束の場所に現れ、あなたと会った。あなたはきっと彼女は自分と婚約してくれると思っていた。しかし、彼女の口からは"それでもジェームズを愛している"と。あなたは怒りにまかせて彼女をその場で殺して、近くの湖に沈めた。しかし、次の日、運悪く彼女は湖で発見された。その時彼女を引きあげた漁師さん、今でも覚えているそうですよ。あの日、水揚げされた死体に、指輪がついていなかったかと聞いてきた男がいたと。漁師さんは指輪を見つけていたが、とても高価なものそうだったので見ていないと嘘をついた。けれども、あなたはその指輪を"いくらでも払うから譲ってほしい!"とすがりついた。そこで漁師さんが冗談半分に家が建つほどの金額を提示すると、あなたはそれに応じ、指輪を受け取ったそうですね。 死んでしまった彼女の形見にでもするつもりか、あなたの執拗な彼女に対する愛がそうさせたのでしょうね。 でも、あなたはそれで道を踏み外した。」

「……」

「あなたは全財産をはたいて譲ってもらったため、お金がなくなり、生きていくことさえ困難になってきた。すると、あなたは、こうなったのは 全てジェームズのせいだと錯覚し始めた 。奴がいなければ、今頃自分は彼女と結婚していると、そんな事を思うようになった。そして、あなたは悪魔に魂を売った。」

「それでレッケンベル社に……?」

その問いにバーネットはコクンと頷いた。

「あなたは自分が一人で研究していた機械人形のアイデアをレッケンベルに売り、その代わり、生活の保障とジェームズを破滅させる事を約束させようと思った。レッケンベルもあなたのアイデアを高く評価し、あなたに生体研究部門という最高レベルの研究室を与え、腐るほどの金を与え、そしてジェームズを破産させ、自殺に追い込んだ。こうしてあなたはレッケンベルの飼い犬にされてしまった。……これをジェームズの旧家から見つけましたよ。」

彼は日記帳の切れ端のようなものと一枚の絵を取り出した。日記帳にはこう書いてあった。


「"8月20日。 どうしよう。彼女が死んでしまった……きっと、僕のせいだ。他の女性と結婚するという情報を知ったんだろう……あぁ!なんて早まった事を!僕は君以外の女性と結婚するつもりなど毛頭ないというのに!19日の夜、湖で会って、駆け落ちをしようと君に言おうと思っていた!それなのに君は…別れ話をすると思ったんだね……ごめんよ。こんな僕を許しておくれ…… ジェームズ"」


そして、もう一枚、絵には驚くべき画がかかれていた――そこにいたのは エリシア だった。笑顔で白い花を持つ彼女の絵が描いてあった。裏には、 「愛するエリシア ジェームズ」 と書かれている。
エリシア

「それじゃ、エリシアさんって……」

「彼が機械人形を作りたかった大きな理由がこれだろう。彼はエリシアを愛し続けた。そうだろ、キル・ハイルさん?」

「……」

いつの間にか彼の目には涙がたまっていた。深い後悔を思わせるその苦痛の顔が、彼を歳相応の弱弱しさを演出する。

だから、キエルがあなたの息子だなんて事はありえない。あなたの唯一愛したエリシアは19の時死んでしまったんだから!

「キル・ハイルさん……」

「話してくれますか?……キエルの事。」

バーネットが強い口調を和らげ、優しく言うと、キル・ハイルはゆっくりと立ち上がった。

「あいつはエリー同様、 第三世代の機械人形 だった。ただ、第一号だったため、ワシの思い入れにも並々ならぬものがあってな。今までの悪夢を消し去るという意味も込めて、 エリシアの指輪をキエルの心臓部にしたんだ。 もちろん、キエルは動いた。数年間、ワシの研究を手伝ってくれた。エリーも一緒に造ったんだ。しかし、その内あいつは 暴走 を始めた…」

「暴走?」

「ワシのいない隙に自分の体を改造したんだ。あいつにはワシの42年間の研究が全てインプットされているから、改造などは容易な事。奴は第二世代のような、いや……それを応用して第二世代以上の力を手に入れ、どこかに行ってしまった。ワシはレッケンベルを辞め、キエルを探した。するとあいつは、ここエルメスプレートに機械工場を造っていた。」

「それが昨日の場所?」

「そうだ。そして、そこで恐ろしいものを造っていた。それがエリセルやエリオットのような殺戮兵器だ。人間の姿をしているが、恐ろしい力を持つ機械人形……そんなものが市場に出回ったら、世界は破滅してしまう。そう思い、ワシはキエルを監視するためにここに学院を建てた。だが、それが失敗だった……」

そう言うと、キル・ハイルはうな垂れた。

「あいつはワシがこうする事を待っていたかのように、ワシの学院の第三世代を奪い、改造した。エリセルもエリオットも、元はといえば、ワシの学院の生徒だったんだ。そこでワシはあいつを破壊するためにキエルハイル邸に乗り込んだ。しかし、あいつを破壊する事はできなかった……エリシアが…エリシアがいるんだ……あいつの中にはエリシアが……そして、今度はエリーが。……頼む。息子をとめてくれ……」

「キル・ハイルさん。あなたのした事は許される事じゃない。けれども、あなたのエリシアに対する愛は本物だし、エリーも本当にかわいがっている。キエルの事だって、本当は好きだろう。だから、一つお願いがある。少しでも罪の意識を感じているならば、ジェームズの事も含めて、レッケンベルの事を裁判で証言してくれないか?」

「キエルを止めてくれたら……ワシはきっと証言しよう。だが一つだけ君の話に間違いがある。」

キル・ハイルがバーネットの目をみつめる。

「ワシはエリシアを殺していない。あの夜、ワシとの婚約を断った彼女は自ら湖に飛び込んだんだ。ジェームズと結婚できないぐらいなら、死んだ方がましだと……」

その言葉に嘘はないように思えたので、バーネットは頷いた。

「わかった。……それで、どうすれば彼を止められるんだ?」

「あいつは他の第三世代と違い、心臓部に制御装置ではなくエリシアの指輪が入っている。それが動きの源だ。すきをついてそれを外せば、自動的に止まるだろう。」

「わかった。」

そう言ってバーネットはキエルハイル邸へ向かおうとした。

「バーネットさん!私も行きます!」

びっくりして振り返るバーネット。

「これは任務外だ。1億zは大統領に言っておいたから、ジュノーで受け取れる。」

「でも、エリーが……」

「エリーを助けないと。」

「そうさね。友達を助けないと。」

友達 ……その言葉の響きが、とても澄んでいて美しいものだった。頷くバーネット。

「では友達を助けに行こう!」

 4人は走ってキエルハイル邸へと急いだ。



 真っ赤な空間は相変わらず気味の悪い雰囲気をかもし出していた。長い廊下を注意深く歩いていると、奥から2つの人影が歩いてきた。
エリセルエリオット

「キエル様の言うトオリ、お客さんが来たネ。フフフ…」

「しかも、この前私たちを壊した奴らじゃない?ふふふ…」

エリセルとエリオットだ。機械人形なので、壊しても直せる事はわかっていたが、それでも首だけで話していた姿を想像すると、背筋が凍りつく思いがした。

「エリーはどこだ?!」

その問いに2人の含み笑いは大きくなった。

「エリー?あぁ、あの子ネ、ホゥラ、ここにいるジャナイカ。」

エリオットが自分たちの後ろを指差すと、そこには下を向いたまま腕をだらんと下げたエリーがいた。

「エリー!大丈夫!?今助けるからね!」

コトが突進していく。不気味なことにエリセルもエリオットも手を出さなかった。

「エリー!エリー!しっかりして!……ぐっ!」

次の瞬間、エリーの手にはナイフが握られ、それがコトの体に伸びていた。徐々に彼女の衣服が血に染まっていく。

「エリーに…何を……」

薄れる意識の中でエリーの顔を見た――瞳はなくなり黄色く光り、口元はかすかに微笑んでいた。

「キエル様恐ろしい人!エリー改造シタ!エリー改造シタ!自分で作ったエリー改造シタ!フフフ……ン?」

ガインッ!エリオットの懐に入り込んだバーネットが彼の胴をカタールで切り裂こうとした。が、思った以上に硬く、傷一つつかなかった。

「無駄よ。キエル様がエルニウム鉱石で私たちの体を作り直したの。そんな武器じゃびくともしないわ。」

「これはまずいな……」

「でも、魔法は関係ないさね。」

レンはずっと詠唱していたようだ。エリセルとエリオットに狙いを定める。

「サンダーストーム!」

しかし、魔法は出なかった。

「フフフフ……無駄無駄。エリーのオカゲ。エリー魔法使わせナイ。使いたければエリーを殺さなくチャ!」

「ヒールも使えねぇ…」

アコルにも焦りの色が見えた。

「ふふふふ……私たち、人形だけど痛いのよ?痛いけど死ねないのよ?その苦痛がわかる?今教えてあげるわ。」

エリセルが手のハサミを鳴らしながら、楽しげに近寄る。エリオットもそれに続いた。

「死ネェェェェェェ!」

背中のハサミで3人に襲い掛かるエリオット。しかし……

「グアッ!……何ダ?!」

彼の背中にいたのはナイフを持つエリーだった。彼女のナイフがエリオットの間接部分に突き刺さっている。

「ト…モダチ……」

それを素早く抜くと、隣のエリセルに襲い掛かった。素早い動きについていけず、エリオット同様、その場で動かなくなった。

「エリー。元に戻ったのか?!」

3人が近寄ろうとするが、ナイフを振りかざし、それを止める。

「元ニハ…戻レナイ……殺シテ……私ヲ殺シテ……」

「エリー……大丈夫だよ!きっと直す方法が見つかる!」

「早ク!モウ自分ヲ保テナイ!マタ、アナタタチヲ襲ウ!ウワアアアアアアア!」

そう言って彼女がナイフを振り上げた。

「ザシュッ!」

その状態で静止するエリー。その後ろにはナイフで彼女の胴体を突き刺したコトの姿があった。

「コトさん……」

彼女は黙ったまま、ナイフを抜いた。

「あ…りがとう……」

エリーはふっと笑ってそのまま動かなくなった。3つの動かなくなった機械人形を無言で見つめる。

「キエル……絶対に許さない!」

「おや?やられてしまったようですね。まぁ、また後で直してやればいいですが。」

すると、どこからともなく声がした。高い声だ。

「誰だ?!」

「この状態で、私がキエル・ハイル以外の誰であり得るのですか?まったく、不要な質問は避けていただきたい。」

「キエル!どこだ!」

「いちいち叫ばなくても聞こえてますよ。そこからまっすぐ進んでください。奥の部屋でお待ちしております。」

アコルのヒールで回復した4人は駆け足で奥の部屋に入った。



 そこは、赤く広い部屋だった。高い天井は吹き抜けを思わせる。そして、中央にはキエルがいた。白く染められた髪にメガネをかけた、大人しそうな少年だ。しかし、その後ろには気色悪いものがモヤモヤと蠢いていた。黒いガスのようなものが彼の背中を包み、般若面のような仮面と無数の目玉が動いている。
キエル・ハイル

「ようこそ、我がキエルハイル邸にいらっしゃいました。僕がキエル・ハイルです。ご用件は何でしょうか?」

にこやかに挨拶するキエル。そこには余裕の色が見て取れた。

「不要な質問は嫌いじゃなかったのか?」

アコルがそう言うと、彼は笑い出した。

「はっはっは。面白い事言いますね。不要ではないと思いますよ?だって、あなたたちの生死に関わる問題ですから。」

「キエル!お前と戦いにきたんじゃない。大人しく指輪を渡してくれ。」

バーネットの言葉にも、キエルは再び笑った。

「それは君、僕に死ねと言ってるのと同じですよ。あれがなければ動けないですからね。」

「ならば力ずくで奪うまでだ!」

俊足で近づくバーネット。カタールを構え、そして放つ――しかし、それは無残にも空を切った。

「わからないですねぇ。父に頼まれてここへ来たんでしょうが、あなたたちにそのリスクを犯すほどの理由は見当たりませんが?」

キエルは黒いガス共々空中に浮遊して止まり、ニコニコ笑っている。

「よくもエリーを……」

今まで黙っていたコトが静かに怒りで震え、地をけりキエルのところまでジャンプした。

「おや、人間にしてはすばらしい脚力ですね。ですが、その程度では僕には適いませんよ。」

一瞬でコトに近寄り、回し蹴りを当てると、彼女は吹き飛んだ。

「ぐあっ…!」

口から血を吐いて倒れるコト。一撃が凄まじい威力だ。

「エリーをなぜ執拗に?たかが機械人形じゃないですか?」

「サンダーストーム!」

今度はレンがキエルに稲妻を浴びせる。しかし、全く効いていない様だ。
「この程度の魔法じゃ、僕は倒せませんよ。」

そう言って右手をレンにかざすと、彼は壁に叩きつけられた。

「ヒール!」

すぐさまアコルの右手が光る。すると、レンとコトの傷が回復していった。それを見てキエルは満足げに笑う。

「そうですとも。そうやって回復してもらわないと、楽しくないですからね。」

今度は彼の方から4人に向かっていった。そして攻撃を仕掛けようとしたその時。

「うっ……な、なんだ?」

心臓辺りを押さえながら苦しみだしたのはキエルだった。

「熱い…溶けてしまいそうだ……ぐああぁぁぁ。そうか……エリシア……あなたですか。」

苦痛と快楽を同時に味わっているような顔で独り言を言うキエル。

「しかしどうしてですか?キル・ハイルが憎くはないのですか?僕はあなたの夫の残留私怨のままに動いているだけですよ。」

(もうやめて…… ジェームズ 。キル・ハイルはもう嫌という程地獄を見たはずよ。)

ふと、4人にも聞こえる声が聞こえてきた。エリシアの声だ。

「何を…ジェームズはいませんよ。彼の悲しみと憎しみが残っているだけです。」

(いいえ、キエル・ハイル。ジェームズはあなたの中にいるわ。あなたがジェームズに動かされていると気づかないの?)

「おかしなことを言いますね。僕は僕の意思で動いているんです。誰の意思でもない。」

(あなたはもうキエル・ハイルじゃないのよ。ジェームズに動かされているただの機械人形。)

「黙れ!」

初めて、キエルが感情を露にした。

「僕はキエル・ハイル!偉大なキル・ハイルに造られた第三世代のキエル・ハイルだ!」

(ジェームズを返して!もう彼もボロボロなのよ!)

その瞬間、キエルの心臓部が強く光りだした。

「ぐああああああああああ!」

彼の心臓から何かが落ちた――金色の指輪だが、熱で真っ赤になっていた。それでも、指輪の形は崩れない。そして、そのままキエルは動かなくなった。

「あれが、エリシアの指輪。」

(その指輪を、キル・ハイルに渡してあげてください。私と……ジェームズの形見として)

声はどうやら指輪からしていたようだ。

「キエルは…ジェームズさんはどうなったんですか?」

(ジェームズは大丈夫。本当はすごい素敵な人なの。学生時代の友達で、キル・ハイルの事もすごく好きだった。だから、彼に裏切られた時の衝撃がすごかったのでしょうね。キエルを洗脳してしまうほどの悲しみと憎しみ。でも、もう大丈夫。さぁ、早くこれをキル・ハイルに。)

アコルは冷めた指輪を拾い上げると、大事にポケットにしまい、外に出ようとした。しかし……

「おや?ジェームズが負けるとは想定外ですね。」

入り口で微笑んでいるのは――なんと キエル だった。しかし、後ろに黒いガスのようなものはなく、エリー同様普通の第三世代に見える。

「キエル?!」

「びっくりしましたか?では改めて……僕が オリジナルのキエル・ハイル です。」

あいた口が塞がらない4人。それを見てキエルは再び微笑んだ。

「いったいどういう……」

「僕は、早くから指輪の残留私怨に気づいていました。ですから、それを取り出す技術を必要としていたのです。それで父を手伝い、その技術を学びました。そして、ある日。僕は指輪を取り出すことに成功しましたが、ここである事を考えたのです…… 自分と全く同じ第三世代を造って、それに指輪をはめる。

そう言って彼はおもわず、思い出し笑いをした。

「指輪を取り出してしまうのは容易い。しかし、それでは指輪の残留私怨は思いを果たせない。そこで何をするべきか。そう考えた結果、自分と全く同じものをつくり、それに指輪をはめて、成り行きを見守る。これで両者は思いを果たすことができるので。そして今、残留私怨は消え、ジェームズとなったもう一人の僕も役目を終えた。しかし…」

キエルが眉をひそめ、4人を見つめる。

「実際冷や冷やしていましたよ。最初のうちは父の悪態をつくだけなのでまだ良かったんですが、どんどんエスカレートしていき、ついには学院の子をさらって改造までしてしまうんですからねぇ。」

それを聞いた途端、コトがキエルの胸倉をつかんだ。彼女の声は怒りで震えていた。

「じゃぁ、エリーが改造されるのを指を咥えて見ていたんですか!!」

びっくりしたキエル。しかし、彼女に微笑みかける。

「でも、手を出すという事は僕の今までの行動を無駄にするという事になってしまいますからね。ですが、それでは彼女の存在意思を踏み躙ってしまう。そこで僕は考えました。どうすればいいか。すると、アイデアがすぐ浮かんできました。 それはつまり、同じものを造ればいいんだと。

「え?」

「ですから、エリーと全く同じものを造り、それを身代わりとしてもう一人の僕に改造させるという事です。そうすれば、彼女は傷つかないし、もう一人の僕も満足する。」

「じゃ、じゃぁ……」

コトはキエルの胸倉を離した。

「えぇ。 彼女は生きていますよ 。もちろん、エリセルやエリオットも。オリジナルの方は私が世話をしています。」

「どこ?!どこにいるの?!」

「慌てない慌てない。彼女はあなたたちがここに入ってから寮まで運んでおきました。もう目覚めて、学院にいるんじゃないですか?」

「行ってみよう!」

4人が歩き出すが、キエルはその場で手を振った。

「キエルさんも!お父さんに今までの事を説明しなくちゃ。」

しかし、笑って首を横にふるキエル。

「いいえ。僕は結構です。今更父に会う気にはなれません。とんだ親不孝ものですからね。僕は死んだとだけ言っておいてください。あなたに散々悪態をついてたともね。」

「では、君はどうするんだ?」

「まずここを片付けないと。いくらもう一人と言っても僕は僕ですからね。それが終わったら、やりたい事があるのでそれをします。あ、安心してください。僕は変なもの作りませんから。」

嘘を言っているようには聞こえなかったので、バーネットも了承し、4人は再びキルハイル学院へと向かった。



 どんよりとした空。いつもより雲が濃いような気がした。

「エリー大丈夫かな?」

その下を会話しながら4人は進んでいく。コトの質問にみなが頷いて見せた。

「さて、後はキル・ハイルさんに指輪を渡して、証言してもらえば完璧だな。」

 しかし、キルハイル学院についた時、何やら様子がおかしかった。門の前にはエリーがいたが、泣いているようで、その隣のエリシアが慰めているようだった。その前には何かが横になっている。

「エリー!」

それでも、嬉しさを堪えきれず、大声で彼女を呼ぶと、気づいたのか、少し笑顔になって手を振った。

「みんな!丁度いいところに…私を探しておじいちゃんが…おじいちゃんがぁ……」

そう言ってまた泣き出すエリー。エリシアが彼女の頭を撫でてやった。

 4人が近寄ると、横になっていたのは腰辺りから血を流しているキル・ハイルだった。

「ど、どうしたんですか、キル・ハイルさん!」

「や……奴らに……それより指輪は?…キエルは……?」

アコルはポケットから指輪を取り出すと、キル・ハイルに渡した。

「おぉ…これだ……懐かしい。エリシアよ。」

「何でしょうか、キル・ハイル様。」

目の前のエリシアが声に反応すると、キル・ハイルは笑った。

「して、キエルは?」

「キエルは…死にました。」

それを聞いたキル・ハイルは「そうか」とどこか寂しそうな顔をしてそのまま黙ってしまった。

「グフッ……」

「キル・ハイル様。動かないでください。傷口が開いてしまいます。」

「おじいちゃん!」

「そうだ!ヒール!」

しかし、全く効き目がない。

「無駄だ…奴らは見た事もない呪いの武器を使う。ヒールでは治せん。」

バーネットが残念そうに首を垂れる。

「バーネットさん。すまん……やはり奴らは気づいていたようだ……でも、ワシはエリーが心配で心配で……」

「わかってる。だから、今は治る事を考えるんだ。」

「あぁ、エリシア……ジェームズ。ワシを許してはくれぬだろうな。いや……ワシは地獄に堕ちるから出会うこともあるまい。」

そう言う声はどんどん小さくなっていく。

「おじいちゃん!死んじゃやだよ!おじいちゃん!」

「キル・ハイル様!」

「キル・ハイルさん!」

しかし、彼はそのまま動かなくなった。機械人形のように、ぴたりと動かなくなった。

「行けるさ……天国に。」

エルメスプレートに、エリーの泣き声が響いた――






 ――それから半年後。

「エリー!早く起きなさい!もうだらしがないんだから!」

「ふあぁぁ……もうちょっと……」

「早く起きなさい!」

「わぁ!布団をとらないでよ、コトさん!」

「コトさんじゃないわ。 コト先生 でしょ?」

「はーい…コト先生。」

2人はしばらく見つめあったが、どっと笑い出した。





「はい、はい。すいません。今我が学院は定員をオーバーしておりまして。はい…はい、すいません。」

キルハイル学院長室では、電話がひっきりなしに鳴っていた。それをとるのは、アコルである。ふと、一人の女性が彼の部屋に入ってきた――エリシアだ。

「失礼します、 アコル学院長 。お客様がお見えになりました。」

「なに!?今は電話で忙しいんだ!レン先生を回してくれ。」

「ですが、彼はつい先ほど、ジュノーの教育委員会に講演しに出て行かれましたので。」

「くそ…タイミングが悪いな。で、客は誰だ?」

「匿名を希望される方です。」

微かにエリシアは微笑んだように見えた。

「はぁ?すぐ追い返せ!」

再び電話が鳴り始める。

「こちら、キルハイル学院です。はい?えぇ、すいません。今我が学院は定員をオーバーしておりまして…」

「忙しそうだな、アコル。」

部屋に入ってきたのは、なんとバーネットだった。

「バーネット!どうしてここに!あ…はい、何でもございません。こちらの事でございます。はい…はい、それでは…ガチャリ」

「随分と上手にしゃべるじゃないか。」

ニヤニヤしながら見ると、彼は頬を膨らませた。

「全然顔を出さなかったけど、組織の事で忙しかったのか?」

「まぁそんなところだ。お前たち3人がキルハイル学院を継いで半年ぐらいか。景気はよさそうだな。」

「んで、何の用だよ?」

「あぁ、すまんすまん。これを見てくれ。」

そう言って取り出したのは新聞だった。一面には大きく事件が載っていた。
「ん?今朝のか。なになに…… "恐怖!爆弾魔、次々とレッケンベル社関連の建築物を爆破!不振な男の横顔を激写!犯人逮捕なるか?!" ほー。バーネットの組織も派手だねぇ。」

「いや、うちの組織はこういう事は絶対にしない。その隣の写真を見てみろよ。」

「む?」

そこには黒い帽子を被っていたが、白い髪でメガネの、見た事ある男が載っていた。

「これは… キエル か?」

その問いに頷くバーネット。

「あぁ。あいつ、ここ数ヶ月現れる爆弾魔の正体のようだ。」

「マジかよ!でも何で……」

「父への罪滅ぼしじゃないか?彼のやった事は結果としてキル・ハイルを苦しめたわけだし、最後に親不孝者と言ってたしな。まぁ、もっとも、あいつの考えはよくわからないからな。」

「まぁ元気ならそれでいいじゃないか。それより、久しぶりに来たんだ。夜にはレンも帰ってくるから、みんなで飲もう!」

「あぁ…そうさせてもらおう。ひさしぶりにゆっくりしようと思ってな。」

 バーネットはエリシアの出した茶を啜った。









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