Romance夢紀行

Romance夢紀行

Archangel's Sun(後編)/ナリーニ・シン あらすじ

2022.11.12 更新




タイタスはスーインについて尋ねます。イリウムの親友のアオドハンがスーインの副官として中国に赴任しているため、シャリーンに事情を聞いたようです。アオドハンは、現地は戦争で破壊しつくされ、主要なメンバーはリージャンによって変化させられるか戦争に送られ、かの地には悲しみが深すぎると感じているようで、シャリーンはキャリエーンの領地へ出かけて知り合いと顔を合わせ、気分転換をしなさいと助言したようです。タイタスは、本人が望めば、一時的ではなくずっと副官として勤めたらよいのではと言いますが、アオドハンとイリウム、ラファエルの関係は家族だからそういうことにはならないだろうとシャリーンは考えているようです。

疲れてしまって、これ以上飛べないとシャリーンが言うと、タイタスが俺が運んでやると申し出ます。落としたりしたら、リボーンの血をあなたの寝室中に塗りたくるから、とシャリーンが言うと、それなら外で寝るまでだ、俺は大天使なんだから落としたりしないとタイタスは言い返しますが、信用されず内心傷つきます。つべこべ言うなら置いていくぞと言いますが、二人ともそんなことはしないとわかっていました。彼女は翼をたたむと、彼の腕のなかへ収まりました。彼女が腕を首に回してきて、たたまれた翼が彼の腕に押し付けられると、状況が前より厳しくなったと気づきます。温かい身体が腕のなかにあり、見下ろすと彼の胸の丸みが目に入ります。ハミングバード、彼女はハミングバード。これは女性ではなくハミングバード。偉大な芸術家、天使の宝。呪文のように唱え続けます。

第24章 私は自分を見失っていたときも、聴力を失ったことはなかったから、いろいろ聞こえてきていたわ。あなたの寝室のドアは回転式だってことも。私の寝室が君になんの関係があるんだ?とタイタスは言い、パンツの中は固くなっていました。幸い彼女からは見えない。いや、ハミングバードに俺は欲情したりしない。偉大な芸術家に欲情しない。芸術品には手を触れてはならない。「もう十分だ!」そんなに大声で言われなくても聞こえますと怖れをみせないシャリーンに言い返され、君は正気か? 大天使に逆らおうとは。と口では言いつつ、タイタスは彼女は正気ではなかったことは絶対になかっただろうと確信していました。そんなのくそくらえ。これって素敵な台詞じゃない? 彼は彼女の口から下品な台詞が出てきて、ゾクゾクしてしまい、一瞬翼が止まり、落下しかけてしまい、彼女の指が首に食い込んできました。「集中して」彼のものは更に固くなり、脈が早まります。どの女性も尊敬していたし、絶対に約束はしていない。そのことを女性たちは理解していた。

シャリーンが黙り込み、タイタスは怖がらせてしまったかと身体の血が冷える気がしましたが、口を開くとアシュタッドのハーレムの女性のことを心配しています。アシュタッドがいない今、後任の大天使チンの助言役として宮廷にとどまっているようがだ、おそらくリーダー役のメレが交渉し、ハーレム全体の女性の落ち着き先を見つけるだろう、とタイタスは教えます。アイガイオンが眠りについたときには、ハーレムの女性たちが争い、醜いことになってしまったようで、シャリーンはリヒュージにいて巻き込まれなかったものの、アシュタッドに残されたものたちを心配していたようです。

第25章 シャリーンが動く指のミイラをみつけた近くまで来ると、間もなく暗くなるから明日明るくなってから現地を確認しようとタイタスが言い、着陸します。同じ姿勢で固まった筋肉を伸ばそうと散歩していると、タイタスが何かが争ったあとを見つけます。引きずった跡が天使の羽のようだということで、シャリーンは携帯を取り出し、ライトでその部分を照らします。さらに注意深く探すと、天使の羽がみつかり、さらに彼女の発見物の周囲をタイタスが吟味すると、そこには骨がたくさんあり、遺体の頭は落とされて、違う角度からみてみると、胸や背骨の骨格から天使のものだとわかります。

天使がここで亡くなったのね、とシャリーンが言うと、タイタスはリボーン化した天使が亡くなったんだと厳しい声で訂正します。

第26章 天使は伝染病にはかからないはず、あり得ない。とシャリーンは言いますが、タイタスはカリセムノンは病気を作り出す能力をもつ大天使だった。NYでの天使が落下した事件を覚えているか? あれを引き起こしたということは、彼はすでに一線を越えていたということだ。天使の出生率はかぎりなく低く、もしも伝染病が伝播し始めたら、あっという間に天使は滅亡してしまうと思い、シャリーンは暗澹とした気分になります。

二人で2回、村をくまなく見て回りますが、何も手掛かりはありません。科学者たちをこちらにも調査に来てもらえば、もう少しなにかわかるかもしれない。もし世界が十分に幸運なら、感染した天使は一人きりで誰にも感染させていないかもしれない。そういう事態は自分の元の領土では起こっていないが、カリセムノンの領土だった地域は連絡が行きとどかなかったり、隠されたりして連絡が来ないことはありうる。天使はおそらく、自分が違うものに変化していくことに気付いていたはずよ。人間やヴァンパイアよりゆっくりと感染が進んでいったはずだから。すぐに領民に連絡して、こういった案件がなかったか確認し、他のカードレにも警告しなければ。

その場を立ち去る前にもう一度と思い見回ると、店の床に落ちていたカリセムノンあての封筒を見つけました。シャリーンが読み上げると、手紙は村人からのもので、リボーンの襲撃がひどくなってきていて、収穫や食べ物が尽きてきて持ちこたえられなくなってきたところに、病気にかかった天使がやってきました。他の方同様におもてなししましたが、どこか様子が変で、肌が変色していました。給仕していた女性に突然激高し、彼女の身体を切り裂き、切り裂いた場所から血を啜りだしました。力のある男たちは戦争に出払っていたので、卑怯なやり方ですが、彼に燃料をかけ、火を放ち、首を落としました。お許しください。そうするしかなかったのです。天使は背が高く、肌は白く、左頬に稲妻のような傷のある方でした。我々は、北北西の方角にある村を目指します。

彼はカリセムノンのスパイの一人と言われていたスカルドだ、頬の傷は大天使の不興を買って炎にかすめられたと言われていたとタイタスは話します。

天使が病気にかかったり、弱い存在だと人間が知ったら抹殺するか、記憶を操作しないとならないのがルールです。二人は村人たちから話を聞くために北北西の方角へ向かいます。

村に着くと、タイタスは隣村から逃げてきたものはいるかと声をかけ、一人の細い女の子が出てきました。10人で逃げてきましたが、2人は傷が重く死に、その後も高熱で亡くなるものもいて、残っているのは子供ばかりですと話します。怯える彼女をシャリーンが慰め、タイタスには、あなたを知れば彼らの態度も変わる、あなたはそれまで彼らの怯えに耐える強さがあるはずよ、と心話を送り、タイタスは彼女の篤い信頼が自分にどれだけ意味があるかを実感し、身震いします。少女を離れた場所に連れていき、二人で話を聞きますが、手紙に書かれていた通りでした。彼の指はかぎづめになっていて、舌は緑色、唇は真っ赤でした。このことを誰かに話したか?とタイタスに聞かれ、少女はこの村の人たちに話しました、危険に備えて欲しかったのでと言います。

第27章 サイエ、500年間お仕え出来て幸せでした。でも別の宮廷、別の世界を探検してみたいのです。山登り競争のために、たびたび帰国しますね。あなたの若さを維持させるのは私の務めなので。母のことをよろしくお願いします。彼女は第一将軍で私よりタフではありますが、私の母でもあるので。頼んだことは秘密にしてください。何を言われるかわかりません。私は決して今までのあなたの教えを忘れません。・・・タイタスから大天使アレクサンダーへの手紙

第28章 タイタスは少女を送り返すと、村人すべての記憶から変異した天使の記憶を取り出しました。そうしないなら殺すしかないのです。タイタスの握りしめた拳に、シャリーンは優しく手を置きました。厳しい選択だけれど、世界のバランスがそうやって維持されている。危険な知識は人間を滅ぼすわ。この出来事は彼らの勇気を示す行為だったのに。シャリーンは事情が許せば、このことをジェサミーに話して、天使の歴史に記してもらう。これは名誉ある行為だもの。忘れ去られてはいけないわ。

砦に戻ると、急いでカードレを招集しました。シャリーンは同席するか?と聞かれ、出席したいといいますが、アイガイオンは聞いてくれたことすらなかったと思います。ただし彼女は非公式な立場なので、画面には写らない場所にいてほしいと言われ、疲れ切ったシャリーンは床に座り込みます。アイガイオンが画面に現れたらナイフを投げつけないようにしないとと言うと、タイタスは笑って、君は気を強く持てば大丈夫だ、投げナイフのシャーリ。

第29章 画面上に現れた大天使たちも、同じように埃にまみれていたり、疲れた様子をみせていて、変異した天使の情報に驚き、対処を話し合います。スーインの中国の領土では子供のリボーンの群れが現れ、対処したようですが、みんな心を痛めます。

アイガイオンが話す様子を見て、大天使としての責任をきちんと果たそうとする姿勢にシャリーンははじめ惹かれたことを思い出しましたが、イリウムの心を傷つけたことは一生許せないと思います。どうして彼が成長する数十年、待てなかったのか。ラファエルが兄替わりに剣を教え、人生の教えを諭し、飛翔スピード競争で勝った時に抱きしめてくれました。アイガイオンはイリウムを自分の宮廷に誘って断られたと言って怒っていたとエレナが嬉しさを隠し切れずに教えてくれましたが、イリウムは自分の忠誠心の価値を十分に知っていて、アイガイオンはそれに値しないとわかっていました。

アレキサンダーとタイタスは国境沿いの警備について話し合いますが、シャリーンはイリウムが衛星のことを話していたことを思い出し、心話でタイタスに偵察に活用することを提案し、飛行隊が傷つくリスクを減らせると、アレキサンダーも同意します。

アレキサンダーが画面から消えると、タイタスの肩から力が抜け、額をもむ姿からは疲れが見えました。こんな風に弱みを見せてくれるということは、彼の信頼を表していると感じ、シャリーンは衝撃を受け、自分のなかに優しい気持ちがわいてくるのをかんじます。あなたは眠らなくては。短い時間にあり得ないほど長距離を飛んだんですもの。旅行中、食事もせず。限界よ。タイタスは、俺はベッドに送り込んでもらわなければない幼児ではないと睨みつけてきます。それなら顔から倒れたらいいわ、私はお風呂に入って休みますとシャリーンは言って、部屋を出ます。後ろで「女ってやつは」とタイタスがつぶやいているのが聞こえました。

シャワーから出てきて、クローゼットを覗いてみると、出かける前のままでドレスばかりでした。誰かに動きやすいものを借りなければと思いながらひとまずローブを羽織り、居間に出てくると、飲み物と軽い食事、そして新品ではないものの綺麗にたたまれたチュニックとズボンが2着ずつ重ねて置かれていました。タイタスからの心遣いに違いありません。彼女は服を抱きしめると、そのうちの一着を身に着け、バルコニーに出ました。

第30章 サイエ、お別れの挨拶は済ませましたが、最後にもう一度メッセージを送らずには眠れませんでした。もう眠らないとなりません。私の子供は決してあなたの敵にはならないでしょう。必要であれば、いつでもお声がけください。またお会いできるその日まで。サイエ。・・・第一将軍アヴェリーナから大天使アレキサンダーへの手紙

第31章 時間の余裕ができたので、シャリーンはバルコニーからイリウムに電話することにします。

瓦礫を撤去していたんだ、と息切れした様子で電話に出てきます。まだアオドハンと仲たがいしているの? 人生は何があるかわからないわ。意固地にならないようにねとシャリーンが助言すると、イリウムは頑固なのはあいつのほうだと、小さいころと変わらない口ぶりです。二人とも頑固なのはよく知っているわ。でも彼は今危険な状況にいるわ。それに愛する人たちからも遠く離れている。気を配ってあげると約束してとシャリーンが言うと、もちろんそうしてる、彼が好きなものばかり詰めた箱も送ったんだけど、何も言ってこない。たぶんスーインと分け合ってるんだよ。

シャリーンは普段は心の広い息子がそんなことを言い出したので彼女が嫌いなのと驚きます。彼女のせいじゃないんだ。アオドハンは、ずっと親友だった。彼がようやく殻から出てきて、翼を広げたんだけど、置いていかれそうで怖いんだ。

私の息子はそんなに心が小さい子ではないはずよ。親友が幸せを見つけるのを邪魔したりしないしないはず。何が本当に辛いの?

自分のなかに閉じこもっている間にも俺が彼を気にかけてあげていたことを恩にかんじて、友達でいてくれるんじゃないか。俺がそばにいることで、彼に辛い過去を思い出させてしまっていて重荷になっているんじゃないか。義務感の友情なんていらない。もし友情を終わりにしたいなら、距離を保つんじゃなく、すっぱり断ち切って欲しいと怒りと痛みに満ちた声で言い切りました。シャリーンは聞いていて胸が潰れそうな思いでした。

ルーミアで会ったアオドハンは、そんな風には見えなかった。彼は初めて自分自身でいる感じがしたわ。新しい彼が自分を必要としなかったどうしよう?と聞かれ、シャリーンはそれなら行かせてあげなさい、それまでは全力で愛してあげるのよと助言します。彼はいつかあなたの心を砕いてしまうかもしれないけれど、初めて翼を伸ばしているの。彼は友人の助けを必要としているわ。

シャリーンはアオドハンに電話します。アオドハンが「イーマ!」と嬉しそうに応答します。アオドハンは夜のパトロール中でした。背中をひっかかれるような予感がしてというと、シャリーンはあなたは第6感が優れているから、無視しないように。イーマ、どうしてますか?と聞かれ、タイタスという試練を生き延びているわ。というと笑われます。遠慮がちにイリウムとは話しましたか、と聞かれどこまで話すか迷いますが、二人の間に立ち入らないことにします。いま話したところ、元気そうだったわ。まだ仲たがいを続けているの?と聞くと、彼は自分の知る一番頑固な人間だ、と言います。友情を断ち切るつもりの様子が感じられず、シャリーンの心はすっかり軽くなりました。彼女は双方から相談を受けられるように、中立の立場でいることにして、それ以上追及せず、彼が話したい出来事に耳を傾けました。リージャンがなにか置き土産を残していたとしたら、アオドハンはまさにその震源地にいることになります。彼女は彼が心配でした。

「シャーリ! 何か食べたか?」上半身裸のタイタスがバルコニーの下から声をかけてきて、夕食に誘われました。タイタスの部屋は温かみのあるインテリアと、彼の領土の風景の絵画が飾られ、眺めていると、来い、覚める前に食べようと呼ばれます。

彼を見つめていると、彼女を歓迎するような雰囲気になり、自分が背伸びをして口づけても彼は拒まないだろうと思います。一緒に過ごしたこの数日で、彼らの間の何かが変化していました。彼を人生に招き入れたら、彼は印を残すことになるだろう。それだけの価値があるだろうか。

第32章 彼らはなごやかな雰囲気で、お皿のごちそうをとりわけながら食べています。眠ったの?と聞くと、だから言っただろうと言うなよ、姉たちの小言で間に合っているからとタイタスが言い、シャリーンは姉たちに興味を惹かれます。たぶん年が離れすぎているのであまり関係が深くないと思われているのかもしれないが実際には仲がよいんだ。母のことは尊敬しているが、眠ってくれていて助かるよ。男は1000年おきくらいには休みをもらわないと。もっとも姉たちは始終トラブルを起こしてくれるが。絶対に言えることは、母には俺の軍隊には入って欲しくないということ。あっという間に軍を掌握して、俺の戦略を片っ端から否定していくに決まっているからな。

父は俺が700歳のときに眠りについたが、彼は母の家の隣に家を買って、両親の恋人関係が終わった後も、家族としての交流は続いていて、俺は愛情と家族に囲まれて育った。父も戦士だったから、飛ぶよりも前に剣の使い方を覚えたよ。ズーリとナーラはアレキサンダーの飛行隊長で、チャロは語り部。フィーニーはハーピストだ。大きくなるまでにどれだけハープの曲を聞かされたことか。あなたのお姉さんたちに会ってみたいわ、とシャリーンが言うと、タイタスは彼女たちはシャリーンを愛するようになるだろうと思います。

タイタスは彼女に触れたくて仕方がありませんが、彼女はみんなから愛され、崇敬される古天使だ、と自分に言い聞かせます。彼女への欲望が制御できないほど高まるのを感じ、タイタスは突然「パトロールに行ってくる」と言いだします。私は明るくなったらカリセムノンの宮廷に行って、残された資料を探ってみたいとシャリーンが言います。それなら国境沿いの居城の可能性が高いとタイタスは教えます。

夜が明けると、タイタスはシャリーンに同行する戦士を手配したと話します。ハミングバードが保護下にあるときに危険にさらしたと責められたくないと言うとシャリーンが、私は隠される遺物ではないし、誰のものでもないわと怒ります。つま先を付き合わせ、目をのぞき込んでくる彼女にいつ近づいたのか思い出せませんでしたが、いつの間にか彼女とのキスにのめり込んでいました。

第33章 「やめて」 タイタスはなかなか言われていることに気づけませんでしたが、なんとか身を引きます。それは今はやめてと言うことか、それとも二度としてほしくないということか、と返事を恐れながら聞くと、シャリーンは今はやめてっていうことと恥ずかしそうに話します。私は結婚相手を求めているわけじゃないけれど、あなたもそうでしょう?と確認すると、タイタスも俺も伴侶を探しているわけではなく、欲しいのは恋人だと言い、それなら落ち着いたらこのことについてもっと話しましょうと言います。俺たちの間には燃えるものがある、シャーリ。炎で燃え尽きるのが待ちきれないと言い、それなら二人で燃えあがりましょう、気を付けてと言って彼の羽を愛撫し、シャリーンは見送ります。タイタスは彼女に刻印をつけられたように感じました。

タイタスの部下で国境警備隊の隊長キアマが迎えにきてくれ、二人でカリセムノンの旧城塞に出立します。心話でタイタスに連絡を取り、彼女が信頼できる人物か確認をとり、彼が信頼している人物だというため、これからカリセムノンの実験の証拠やノートなどを集めにいくと話します。

キアマは両親がカリセムノンに仕えていたことから、始めの2百年はカリセムノンに仕えていたようですが、少女を上納させたり、残酷な仕打ちが目に余り、タイタスの宮廷に移ったそうです。両親は最後までカリセムノンのそばに残り、亡くなったそうです。彼女は自分を愛してくれた両親を道づれにしたカリセムノンを死ぬまで恨むと話してました。普段はタイタスに信用され、そば近くで戦っているようですが、1週間の期限でここの城塞警備を行い、兵を休めて、傷を癒しているところのようです。

カリセムノンの城塞は、孤立した山のなかにあり、すでにツタなど緑が浸食を始めていました。カリセムノンの手勢と戦い、簡単に後始末したあとは手が回らず、場所によっては乱雑なままになっています。キアマは死体の場所などを細かく説明し、砦の中を案内します。キアマが軽く死体をつつくと、中から緑色のような液体があふれ出し、ものすごい匂いがただよい、身体の中にはウジがわき、巣を作っていて怖気をふるう光景だったそうです。タイタスが同行していて、すぐに炎で浄化してくれたと話してくれます。

第34章 また実験部屋を見回すと、彼女がラーンと訪れた街の絵が飾られていました。そこにはラーンと彼の友人の天使が描き込まれています。タイタスはこの絵がこんなことをする場所に置かれていたことに激怒したようですが、感染のリスクがあり、この絵はその場から動かせなかったと言われます。彼女はこの絵を描いた時の幸福感を思い出し、この場にいた人がこの絵で癒されてくれたならそれでいいと話します。ラーンが、この絵をこの土地でもてなしてくれた天使にプレゼントしたいと言うので喜んでプレゼントしたんだけれど、なにかの機会にカリセムノンの目にとまって、その天使が献上したのかもとキアマに話します。私の力では無理かもしれませんが、いつの日かあなたの絵が欲しいものですとキアマが言い、シャリーンはあなたを描いてみたいから、あなたがモデルになってくれたら、その絵をプレゼントするわと申し出ます。彼女は恐縮しますが、シャリーンにとってお金はずっと問題ではありませんでした。ラーンが遺産を遺してくれ、彼の友人がずっとサポートしてくれ、ラファエルも実務的なことは引き受けてくれていました。彼女の最新の秘密の仕事は、ルーミアの倉庫で進行中で、ラファエルとエレナ、セブンたちが摩天楼で飛んでいる絵画でした。おそらく50年ほどはかかるかもしれません。

第35章 ラファエルやイリウム、そしてキャリエーンが教えてくれた情報から、NYで天使を墜落させたあと、カリセムノンはバックファイアで寝込んでいたということをシャリーンは聞いていて、もしも空気感染するものなら、カリセムノンはその時に死んでいたはずだから、キアマのみた死体の状況を考えると、おそらくカリセムノンの血液から作り出した菌は虫などを媒介するタイプのものだとシャリーンは推定します。

シャリーンは、カリセムノンが人体実験を行っていた部屋を検分して、壁についた血の汚れなどから、どうやら監禁されていた天使の一人がここから逃げ出したのではないかと推測します。遺体でみつかった感染した天使と同じようなスパイのような人材であれば、広いアフリカ大陸でまだ生き延びている可能性もあると考えます。

シャリーンは書斎で彼の長年書き溜めた日記を見つけます。歴史家がみたら雄たけびを上げるような量です。最新のものを手に取ると、意味が読み取れません。シャリーンはゆっくりと記憶を探り、ラーンの声を思い出します。彼は沢山のことを教えてくれました。今はもういなくなってしまった彼の一族の言葉も。カリセムノンはそこに住んでいたには若すぎるけれど、ひょっとしたら祖父や父から教わったのかも。

彼らは俺を愚か者だと思っている。いまにみてろ。リージャンは残りのカードレよりもはるかに進化した。戦争に打ち勝ち、この世の社会構成を塗り替え、大天使は二人しかいなくなる。戦争の生き残りは二人の大天使に仕えるのだ。

彼は権力志向ではなかったはず。どこで変化があったのか。彼女は日記から探ることにします。

第36章 大天使タイタス、あなたと私の父の長い友情からこの手紙を書いています。父は眠りに入る前にあなたとの数千年に渡る友情に言及しました。その友情に免じて、祖父譲りの戦士の素質をのぞかせている息子ザンダーを預かっていただけませんでしょうか。あなたの翼の元にお預かりいただければ大変な名誉です。・・・大天使アレクサンダーの息子ローハンより大天使タイタスへの手紙

第37章 ローハン! お前が赤ん坊のころ裸で走り回っていたのを覚えているぞ。俺のパンを分けてやったこともあった。かしこまる必要なんてない。アレキサンダーの孫息子を送ってくるがよい、我が子同様に面倒をみる。・・・大天使タイタスより大天使アレクサンダーの息子ローハンへ

第38章 タイタスが潰したリボーンの巣には、子供が含まれていて心が痛みました。彼らは毒されていて、成長もせず、治ることもないのです。タジズは彼らの腐敗の度合いが軽度で、新しいリボーンだと指摘します。今日は自分たちの軍に犠牲者はいませんでしたが、疲れ切っていました。そのうち疲労からミスがでるでしょう。タイタスはギルドの長ンジャルに会いに行きます。彼が不死の者なら、タイタスはとっくに友人になっていたでしょう。何度も人間の友を見送っているうちに、タイタスは次第に人間とは心理的に距離をとるようになっていました。タジズはンジャルと付き合いがあるようで、タイタスはンジャルがいなくなったら、タジズは深く悲しむに違いないと思っています。タイタスは、リボーンの追跡をして巣の場所などを確認したら、感染の危険を高めないために、はぐれリボーンだけ駆り出してほしい、そして情報を集めてほしいと命じます。

タナエから嬉しい連絡が入ります。大天使アレクサンダーの国境を越えて、飛行隊7名が飛んできています。ズーリとナーラを隊長として、ザンダーもメンバーに含まれています、彼らはここから3日の距離ですが、ズーリから、リボーンを掃討しながら進行したいと連絡が入っています。という報告です。

タイタスはカリセムノンの城へ向かい、カリセムノンの日記を読むシャリーンを見つけました。「わたし、見つけたと思うの」

第39章 シャリーンを見つめながら、彼女はチタン製で、空を真っ赤に染めるほど激しい気性の持ち主だと誰が知っているだろう、とタイタスは思います。シャリーンが震え、つま先立ちになってタイタスがかがむと、二人の唇が重なり、彼の手は彼女のお尻をしっかりつかみます。彼女をそのまま持ち上げると、彼女は彼の腰に両足を巻きつけてきて、タイタスは彼女をきつく抱きしめ、飢えた男のようにキスをむさぼります。彼はうめいて彼女を机の上に乗せますが、現実が戻ってきました。ここじゃだめだ、敵の家では。あなたは私を若返らせてくれて、向こう見ずにさせるわ、とシャリーンが言って胸にキスをして離れると、タイタスのそこの深い場所が痛みました。彼は自分の反応で気持ちの深さを知り、そのことを認めました。

日記の気になる箇所を読むので意見を聞かせてほしいとシャリーンは頼み、読み始めます。「わたしはリージャンの贈物から傑作の建物を造り出すことに成功した。この成功は、私たち種族にも何億年かけてもなしえないことだろう。私たちの身体の中の毒がヴァンパイアを造り出す理由のヒントは、原始の病の罹患によってではないか。だが私はもっとよい手段を生み出した。彼は天使を感染させたかもしれないが、制御できなかった。だが私は制御できる。このことにより、永遠に私の名は記憶されるだろう。私は誰が生き、誰が死ぬか決めることができる。リージャンでさえも、私に逆らおうとすれば、私には武器があるのだ」戦争後はやつらは共食いしていただろうと言いタイタスは大笑いします。カリセムノンは何をしたのかしら? とシャリーンが言うと、タイタスはおそらく解毒剤を作り出したのだろうと予想します。おそらく解毒剤はどこか秘密の場所で作り出されたに違いない。日記には簡単な図が描かれていましたが、具体的な場所に結び付く手がかりはありません。タイタスはスパイマスターのオジアスを呼び出し、尋ねますが、思い当たる場所がないようです。大きな施設を作れば、建材や職人などの出入りが目立つため、タイタス側に知られないということはなかっただろう、とすればすでに廃墟となっている施設や地下施設はどうだろうと検討します。

第40章 疑わしい施設を見に行こう、というとシャリーンが日記を元の場所に戻してくるとその場を離れます。オジアスは、あの方は思っていたのとは違う方でした。確かに宝物のような方ですが、まるで小柄な身体のなかに星をかかえているみたいと感嘆しています。タイタスは頭のなかの霧が晴れた後のシャリーンはまるで小さくて明るく輝く太陽のようだと思っています。観察力が鋭いオジアスは、タイタスの濡れた髪や彼らのやや乱れた服装、話し合いの間に触れあっていた羽など見逃していませんでした。タイタスが彼女に手を出すなということか、と聞くと、逆です、世の中の悪から守ってあげるために、彼女を盗んでこなくてはと言い、タイタスはバンバンと彼女の肩をたたきます。オジアスもタイタスもシャリーンが守られたくないことを実はよくわかっていました。

高速で飛行しても疲れた様子をみせないシャリーンにオジアスは内心驚いたようで、タイタスも若いイリウムが自分より速いのは大天使の息子だからかと思っていたが、何のことはない証拠は目の前に転がっていた。彼女はおそらく大天使より早く動けるだろう。彼の理屈を裏付けようとニックネームの由来はなんだ?と本人に聞くと、ラーンが呼び出したの。ここにいるかと思えばあそこにいて、動きが素早すぎるから、空にうかぶ色のすじみたいだと言って。私、バカみたいとオジアスが言うと、みんな気が付いていなかったんだとタイタスが言います。ずっと前に死んだ男にタイタスは腹の底から嫉妬していました。

目星をつけた施設にやってくると、まずはタイタスは空中から観察し、その後建物の前にやってきます。建物に入ると、蜘蛛の巣が顔にまとわりついてきます。シャリーンが後ろからついてきたので、外で待っていろというと、あなたの石頭の上に建物が落ちてくるかもしれないのに?と言い返され、肩越しに振り向くとシャリーンの顔は心配そうでした。俺はカードレだぞ。もし崩れても数分で回復する。シャリーンは気を付けて、無茶はしないでねと言って、手を握りしめてきたので、タイタスは自然と彼女にキスをして約束する、と言うとシャリーンは外に出ます。

埃だらけの場所を進むと武器庫のようなところがあり、武器箱の後ろに埋め込まれたドアを発見しました。タイタスはカリセムノンとの戦闘時に地震を引き起こしたのですが、おそらくそれが壁にヒビを入れていて、隠し扉を露呈させてしまっていました。

小さな足音が下りてきて、外で待っていろと言っただろう!と言いますが、シャリーンは建物は今にも崩れそうよ、あなたはカードレなんだから何かあれば私を守ってくれるでしょう、と言い返し、手を引いて安全な場所へ連れて行こうとします。タイタスは驚きのあまり石のように固まってしまいました。心配のあまり、自分の身を差し置いてきてくれたのだとわかります。ヒビの入った隠し扉をこじ開けると、中では埃がもうもうと舞い、奇妙な臭いにおいがしてきて、何かがタイタスに体当たりしてきました。

第41章 タイタスは戦士の本能で相手の喉首を掴みますが、シャリーンが手に光を灯すと、リボーンのようでいて腐ってはおらず、羽は切り取られ、目は赤く、肌は緑色に変色していて、タイタスが見たことのない状態のリボーンでした。彼は即座に彼女の首を切り落とそうとしますが、シャリーンが「だめ、やめて!」といって彼の腕に手を置きます。シャリーンは弱々しくもがくリボーンの腹部を示して、彼女が妊娠していることを示唆します。タイタスの腹はよじれ、吐きそうな気分でした。リボーンの妊婦が生んだ子供は生き延びられない、拷問は長引かせない、約束すると言うと、シャリーンはわからないの? 彼女は癒しを宿しているのよと告げます。

部屋の電気をつけてみると、他にはリボーンはおらず、薄いマットレスに毛布があるだけで、壁から伸びた鎖が彼女につけられていました。彼女は弱り切っていて、カリセムノンが死んでから食事を与えられておらず、たまたま地震でできたヒビから侵入してきたネズミなどを食べて生き延びてきたようです。

オジアスが、地面のヒビがサイエたちのいる方向へ伸びています、退避してくださいと心話で連絡してきました。タイタスは倉庫をみつけ、中を確認すると、天使の女性たちばかりの死体がみんな翼を切り取られ、誰かに腹を切り裂かれ、よじれた緑色の胎児は部屋の隅に打ち捨てられていました。近づいてくるシャリーンの気配に、母親の君は、この中は見ない方がいい。俺を信用してくれといい、シャリーンは受け入れます。シャリーンは研究内容を記したらしきカリセムノン本をすべてかきあつめ、箱に入れて持ち上げ、タイタスはリボーンの天使の女性を誰にも見せないよう毛布にくるみこんで抱き上げ、3人で脱出し、カリセムノンの旧砦にむかいます。

その途中、陣痛が始まってしまいます。シャリーンが出産を介助できるといい、感染を防止し、秘密を守り、部外者を立ち入らせないため、彼らで子供を取り上げることにします。タイタスは彼女を顔をみて、誰だかわかったようです。リフュージにいた、200歳になるかならないかの若い娘だ。まだ赤ん坊をもつべき年齢に達していない若さです。おそらく彼女の両親も眠りについていないだろう年齢で、おそらくこのことは彼らの世界をバラバラにしてしまうでしょう。

砦に入ると、一番近い寝室に死にかけた彼女を運び込み、シャリーンは毛布を外してあげますが、タイタスは手首をしばります。シャリーンは足首を縛ろうとするタイタスに、下半身は自由にしてあげたほうがいい、といい彼女の牙からは慎重に距離をとりながら、悲鳴を上げ始めた彼女の髪を優しく撫でます。これは不思議と彼女の気を静めたようでした。「押し出すのよ!」シャリーンが声をかけると、彼女は悲鳴を上げながら、いきみます。また大きな悲鳴を上げると、瞳には正気が宿り、恐怖を感じていて、小さな声で「お慈悲を、お願い」とささやきます。シャリーンはベッドを降りて、彼女のベッドの下部部分を下げて、赤ん坊を受け取める体勢になりますが、タイタスが何が出てくるかわからないからといって彼女を優しく押しのけます。

あの声が聞こえた? 自分が感染していて、死にかけているのに自分はなにもできないという彼女の痛みは想像もつかないとシャリーンは心を痛めます。

悲鳴がガラスを振るわせるほどになり、緑色の血液と胎児が彼女の体内から押し出されます。彼女の呼吸は劇的に変化してしまいました。シャリーンは爪を立てられる危険を理解していましたが、彼女の手の中にそっと自分の手を差し入れると、優しく握られ、彼女の目は瞬間、真の平穏が現れていて、最後の息をすると、亡くなっていました。一筋の緑色の涙が目からこぼれていました。

赤ん坊を抱いたタイタスを振り向くと、赤ん坊は緑色の血液で汚れていて恐怖を覚えますが、布で拭かれた部分は赤ん坊の手が見えていました。タイタスはかぎ爪がはえていないかチェックしてくれと言い、シャリーンは丁寧に手足をぬぐいチェックしますが、普通の赤ん坊です。湯あみをさせますが、奇妙なほど落ち着いた赤ん坊で、シャリーンには見覚えのある深い金色に茶色という眼差しで見つめてきました。彼女が最後にその瞳を見たのは、驚くべきハンサムで、魅惑的な唇をもち、マホガニー色の髪をもつ大天使でした。

第42章 私は自分の種を使わなければならない。それこそが鍵だ。・・・大天使カリセムノンの日記より

第43章 赤ん坊の暗い金色の肌の色は父親そっくりでした。汚れをすっかり洗い流すと、粉を取ってきてとタイタスに頼みます。躊躇しますが、牙もかぎづめもないから大丈夫と言い、ためらいながら探しに行きます。大泣きしはじめた赤ん坊をシャリーンはあやしますが、泣き止まず、タイタスが抱き取って背中をやさしく叩いてあやすと、しばらくぐずぐずいっていたものの、眠ってしまいました。誇らしげなタイタスをみて、私も泣くなら彼の肩を選ぶわとシャリーンは思います。

赤ん坊を新しいタオルでくるむと、母親の遺体は見せないように部屋の外へ連れ出します。タイタスが追いかけてきて、背中の後ろでドアを閉めると、科学者たちに遺体を検査させ、カードレたちに報告しなければならないと言います。また赤ん坊の血を感染者に血清として投与させ、様子を見たいとも。もしかしたら、感染者かもしれないのだし、検査は必要だと伝えます。

タイタスは赤ん坊がカリセムノンの子だと気づいていましたが、もしも危険がないと確認されたら、俺はこの子を他の孤児の子供たちと一緒に宮廷で育てるつもりだと告げます。彼女が大きくなったら、赤ん坊を生かすために戦った勇気ある母親のことを伝えよう。

2日後、シャリーンは抵抗を感じつつも赤ん坊の血液を採取させ、むずがる赤ん坊をタイタスは抱き上げ、殺さなければならなくなる可能性はゼロではないから情が移るようなことはしないほうがよいと思いながら、慰めるために抱き上げ、ポンポンと背中をたたきます。絆がなくても心が張り裂けそうになるだろうに。でもか弱く小さな彼女への愛情をコントロールはできません。カードレたちが赤ん坊を処刑するように言わせない理由を見つけるために、タイタスは科学者による血液検査を許可しました。時々大天使でいることは嬉しいことではなくなると話し、シャリーンは、あなたが羨ましいとは思わない。でもあなたが下す決断は、名誉あるものだと信じてる。この子はあなたを保護者にしたことで一番のチャンスをもらっていると思うわと言い、タイタスは彼女の信頼に応えられることを願います。

科学者たちが調査している間、カリセムノンの砦で赤ん坊は育てられ、すでに感染の危険のあるタイタス、シャリーンそしてオジアスが交代で彼女の面倒を見ていました。シャリーンはリボーン掃討にも交代で出かけていき、以前よりもなめらかにパワーを使いこなせるようになっていて、タイタスはひそかにいま現れている能力は氷山の一角ではという印象を持っていました。タイタスの部下たちは最初思っていたのと違う姿にショックを受けていましたが、今では彼女を熱愛していました。バンパイアの指揮官のひとりは「サイエ、いつもあなたが誰を脅しても私は何も言ったりしませんでしたが、レディ・シャリーンだけは駄目ですよ」と牙をひらめかせていってきました。

次第に、シャリーンの力はタイタス軍の2番手であるツァディクよりも強いことが明らかになってきました。ツァディクはタイタスに、彼女は自分が将軍になれるとわかっているでしょうか?と言ってきます。人々は彼女に従い、力もあり、知性もある。でもあなたには将軍はもう十分いるが、ハミングバードはこの世に一人ですね。

タイタスは、今日、シャリーンにオジアスとアレクサンダーの飛行隊に合流してリボーン掃討を手助けして北側の領土からリボーンを一掃してほしいと頼みます。「覚えておいてくれ、俺の姉たちが俺についていうことは一言も信じてはいけない」赤ん坊は科学者のひとりと絆を結んで可愛がられているようで、その人物に預けられることになります。大天使だからといって、無茶はしないで。仕事が終わったら会いましょう、といってキスをして飛び立っていきました。タイタスは今までにない胸の痛みを感じながら南側の守備隊と一緒に飛び立ちます。

第44章 タイタスはそれから戦闘を続けていきましたが、シャリーンの顔をみながら通話したいばかりに、ツァディクに指示して携帯を持ってこさせ、操作の方法も学んでいきました。シャリーンは誰かに縛られたくないと自分の気持ちをはっきりさせていたので、自分が傷つく可能性があることはわかっていましたが、タイタスは自分の気持ちを隠すようなことはしませんでした。ただ彼女がいつまでもそばにいてくれるわけではないと考えると、身体のなかがよじれるような痛みを覚えました。

タナエがやってきて、あなたのために喜んでいるんです。私にはすばらしい息子がいますが、彼は私とは口をきこうとはしません。私が話そうとすると、間違ったことばかり言ってしまって、彼を遠ざけるばかり。タイタスは、タナエが悩んでいたことに驚きます。タイタスはタナエやツァディクよりもガレンと一緒にいてあげるように心がけていましたが、大天使をもってしても両親の穴は埋められなかったようです。タイタスはシャリーンに相談することにします。シャリーンは私は母親として失敗したこともあるけれど、イリウムに愛情だけは注いできた。成人し、愛する女性と家族を得た今、ガレンには拒絶する権利があるわ。でもタナエに話してみるように勧めてあげてと助言され、タイタスは死んでしまったら話し合いの可能性はなくなる。ガレンに謝ってみたらどうだ。シャリーンは親として失敗する経験をしているから話してみたらどうだと提案します。3日後、タナエは了承し、タイタスはシャリーンにバトンを渡しました。彼女と協力しながら物事を解決するのはいいかんじでした。

シャリーンからの連絡でタイタスの背がこわばりました。新しい天使の感染者が見つかったわ。小屋の中で具合が悪くなっている天使をオジアスが見つけ、羽が沢山抜け、高熱でうなされ、なにも見えていないようで、肌には緑色のシミができていました。そばのテーブルには頭蓋骨があり、どうやら一緒にいたヴァンパイアを天使が食べてしまったようです。

もしこの天使がリボーンに感染したのではなく、カリセムノンがリージャンから与えられたリボーンの血で作り出した病気に感染しているだけなのか、オジアスは意識のない彼の手を少しだけ切りつけ血液を採取し、科学者に持っていくことにします。赤ん坊の血が血清として使えるか、彼で試すことになりそうです。

小屋の外にでるとすぐにタイタスに連絡をとり、オジアスに賛成するか彼は聞いてきて、シャリーンも赤ん坊を理解する鍵が彼にあると告げます。

街で殺人犯の話を聞きつけ、オジアスが捜索に向かいます。感染して怯えた天使が見つかりましたが、彼女は正気を失っていて、全身が変色し、オジアスにかぎ爪で襲い掛かってきたため、彼女に感染のリスクを負わせたくなかったシャリーンは雷撃で天使の命を絶ちました。

第45章 タイタスがシャリーンからの電話にでると、画面に映っていたのは笑顔の双子の姉たちでした。シャリーンたちと合流し、北部のリボーンの群れたちをアレクサンダーの飛行隊を率いて退治してくれていて、あと1週間くらいすればおよそ根絶でき、ネルハに帰還できそうだという見通しを報告してきました。タイタスのほうは南部の群れを根絶するのに向こう数週間はかかりそうな見通しです。家族同士の気楽な会話のあと電話をかわったシャリーンは、北部の退治を終えたら、これ以上はルーミアを留守にできないので戻ると話し、タイタスはがっかりします。シャリーンをみるたびに、太陽の光があふれて彼の血流を逆流して、彼の肺からは息が押し出されるような気分になります。彼女は彼の太陽のような存在になっていました。自分でも気持ちの強さが怖いほどですが、タイタスは臆病者ではありません。事態が落ち着いたら、君のところへ飛んでいく、そうしたら一緒に火のなかで踊ろうと告げます。

タイタスの化学班から連絡があり、シャリーンたちが見つけた感染した天使に、赤ん坊の血清が聞いて快方に向かっていると知り、急遽ネルハに戻ると、ちょうど北部を鎮圧していた飛行隊も帰還したところで、シャリーンは部屋でルーミアへもどる支度をしているということでした。

カードレを招集しなくては。この件について証人になってもらうため、俺の隣にいてほしいとシャリーンに頼みます。カリセムノンがもう一つ残した遺産があったと集まったカードレたちに知らせます。彼の娘で、奇跡の存在なんだ。生きている感染した天使が見つかったが、彼女の血液が感染者の血清になることがわかった。彼女自身はいたって普通の赤ん坊で、もうすでに里親は決まっていて、カリセムノンの旧城塞に置いて自分が見守ると告げます。彼女の名前はザワディ、希望と名付けたいと言います。


第46章 タイタスと会えなかった2週間。でもルーミアに戻ってきた判断は正しいものでした。タイタスの甲冑やNYで一番最初に修繕されたシンボルのタワーのように、彼女の存在は天使の遺産の守護者としてシンボルなのです。とはいえ、タイタスのそばに飛んでいきたいと感じる心は強く、強い彼を心配するのは無駄と思いつつも、彼の姿を求めてアフリカ方面の地平線を眺めるのはやめられませんでした。

トレースが手渡してきたのはアイガイオンからの訪問を告げる手紙でした。アイガイオンは許可を求めている風でいて、自分のやり方を通していますが、彼には聞きたいこともあり、二人の関係を終わりにする頃合いだと思い受け入れることにします。

イリウムが連絡をしてきて、母上とタイタスのことを聞いたんだけれど本当?と遠慮がちに聞いてきます。本当だとしたらショック? とシャリーンが聞くと、タイタスは好きだけど、母上に傷ついて欲しくないと言います。私は生きているから、痛みからは逃れられない。間違いを犯すこともあるかもしれないけれど、大空に翼を広げたいわと話します。母上は変わったね、タイタスは本当の母上がどんなだか知っているのかな? と言って微笑みます。もちろん知ってるわ。彼には何も隠していないから。彼は私のことを頑固で、最高にイライラさせるヤツと思ってるわ。イリウムは噴き出すと、それなら自分の問題に集中して、タイタスのことは心配しすぎないようにするよといいます。

アオドハンに電話すると、彼も噂を聞いていて、あなたに傷ついてほしくない、イーマと心配してくれました。

タイタスは数か月続いたリボーンとの戦闘が、ほぼ終結に近づいてきました。彼の領土では感染は流行しておらず、また農耕が再開し、家を再建し、生活を取り戻すことができそうです。勝利の雄たけびを軍隊に叫ぶと、軍隊を平時のものに近い形に再編し、領土が荒れ果てた今、食料の輸入が難しくなってしまいました。自分たちで食料を育てていくようにと命じられ、カリセムノンの兵士たちは戸惑っているようでした。ヴァンパイアは血液で生きていけるかもしれないが、天使と人間には食べ物が必要だ。戦争後、土地を荒らしてしまって、その後どうやって生きていくつもりだったのだとカリセムノン陣営をタイタスはけなします。

タイタスは砦に戻ると彼が留守の間宮廷を守り、取り仕切ってくれた副官のタジズに礼をいい、肩をたたいでねぎらいます。そして手配を頼んでいた品を受け取ります。求愛を受け入れてもらえるといいなとタジズに送り出され、身ぎれいにして、品物を箱から取り出すと、シャリーンの元へ向かいます。

第47章 タイタス! 彼の姿を空に見つけたシャリーンの声は喜びにあふれていました。空を飛ぶアイガイオンをみかけたタイタスがあのロバはここで何をやっている?というと、この件は私が片をつけるから。私の心話をあなたに解放して、会話を聞けるようにするわね、とシャリーンに言われ、タイタスは近くに降りて、見守ることにします。

アイガイオンは着地すると、シャリーンに微笑みかけますが、彼の翼の色は彼が捨てた息子のイリウムを思い出させます。タイタスが途中で進路を変えたようだが、私たちが個人的なディナーで親密さを楽しむと理解させられてよかったと言って手を伸ばそうとしてきたので、私は稲妻を生み出せるようになったの。手首を切り落としてもよいかしら?と嬉しそうに話すと、アイガイオンは手をとめ、心話からタイタスの吹き出す笑い声が聞こえてきます。

急ぎ過ぎたようだ、君の怒りはまだ収まっていないんだな、愛しい人。シャリーンは、彼が飽きて捨てたおもちゃが他の人に取られそうになって戻ってきたのだと、どんな父親も誇りに思うような息子を取り戻したくなったのだとわかっていました。でもなぜ? アイガイオンは、自分がなぜあのような形で眠りに入ったのか説明させてほしいと弁明します。正直、自分自身が腹立たしい。君を愛しすぎていて怖くなって、君を遠ざけようとあんなことをしてしまったんだ。臆病者だった。でも償いをするから、俺への愛に免じて許してくれないかと言います。シャリーンは、言い訳は、それだけ? 本当のことを話して。なにがきっかけだったのと追及します。私は大天使だ! 嘘などつかない! とアイガイオンが睨みます。客観的な意見を知りたくて、タイタスに聞くと、長い沈黙のあと、君の中には稀な光がある。彼は自分しか愛せないヤツだが、彼はその部分が君の影響で変化していくのを恐れて、拒絶したんじゃないかとシャリーンにとっては意外なことを言います。

アイガイオンは、もう一人子供がいてもいいと思うようになって、その母親は君しか考えられなかった。イリウムは明るく、勇気があり、野性的で好奇心いっぱい。これは君の資質だ。君が私の喜びだったのだ。彼が計画的に彼女を追いつめたのは、彼が自分自身の感情を逃れるためだったということがシャリーンにも伝わります。なんて臆病者なの。アイガイオンはシャリーンに殴られたように身じろぎします。あなたにはもう怒りすら感じない。愛も、興味もない。でももしもイリウムを傷つけるようなことをしたら、必ずあなたを見つけ出して殺す。大天使が殺せるのは大天使だけだけれど、かならず成し遂げるわ。あなたが安全だと思っているときに忍び寄り、首を切り落とし、誰も知らない洞穴へ放り込んで、あなたの悲鳴を聞きながら再生できないように刻み続ける。アイガイオンはむき出しの恐怖の表情を浮かべ、後ずさりします。私は大天使から、あなたの宮廷の召使に至るまで尊敬されている。私を殺せば、あなたは永遠に村八分になる。これはパワーゲームではなく、二人の男女の終わりよ。

アイガイオンは、これが私の贖罪か、君が私の人生とは関わらないと知りながら輝くのを見守ることが、といって大天使としてはありえないことに深々と腰を折ってお辞儀をし、「さようなら、シャリーン」と告げ、去っていきました。

第48章 この件に観客はいらない。人目のない地域にタイタスたちは降り立ちます。タイタスは寂しかった、心に君の形の穴が開いて痛いよというと、シャリーンは今までにもそういうことがあったでしょう。沢山の美しい蝶たちも、と言うと、君みたいな人は他にいない。いいことを思いついたから君に話したいと思ったり、起きたときにキスしたいと思ったり、君が俺を舌で切り裂いて欲しいと思うこともあるほどだ。タイタスは膝をつきます。君の恋人になりたいのはもちろんだが、俺の伴侶になって欲しい。握った手を開き、琥珀製のハミングバードのチャームのついた金のネックレスを差し出します。

伴侶になって欲しいなんて。シャリーンの頭は真っ白になります。彼女はかがみこみ、タイタスに情熱と愛をこめて口づけします。彼女の計画にはなかったことでしたが、この大天使に恋に落ちていました。あなたのネックレスを身に着けるわ。あなたも鎧に琥珀をひとかけらを埋め込んで頂戴。愛しているわ、アフリカの大天使。

でもあなたの伴侶の地位にはまだつけないわ。政治的な駆け引きが必要だけれど、私にはまだ準備ができていないの。ルーミアにも目を配らなくてはならないし。シャリーンとして完璧な自分に戻れたら。タイタスは、君が俺の琥珀を身に着けてくれているなら、公式な立場がどうあれ、構わない。ただし俺は君が俺の伴侶だと感じる自分の心を隠したりしないから、まわりも君が俺にとってどういう存在なのか知るだろう。

ダンスをしましょう、シャリーンはタイタスを誘い、タイタスは自分たちをグラマーで覆うと、空高く二人で舞い上がり、手足と羽を絡ませ合い、空中を乱高下します。シャリーンの翼からエンジェルダストが輝き、粉が彼の肌につくと、彼も彼女の肌に粉をふりかけ、粉は月と星の光に反射してキラキラ光ります。固く結びついた身体は落ちていき、冷たい湖に落下し、そこでまた朝まで絡み合いました。

エピローグ 親愛なるキャリエーン 携帯電話は本当にすごくて、このごろ夢中だけれど、カリセムノンの日記が役立ってくれてくれたように、古いやり方にも良さがあると思うので、この手紙をあなたに届けてもらうよう、次にここに来た宮廷人に託します。

若いスーインとネハをあなたが助けてくれていることはわかっています。でもあなたが言っていたように、ネハは疲れで限界ね。子供のリボーンを倒さなくてはならず、心は粉々で、タイタスによれば彼女の双子でさえ彼女の腕に手を置き、彼女と戦うことを拒否したらしいわ。おそらく平和が戻ったら、彼女が眠りに入ることを止められないと思う。リボーンの子供たちの件は貴女の古傷を思い出させてしまったのではないか心配です。いつでも連絡して。

アフリカのリボーンの状況は改善していて、人々も秩序を持って撃退できています。幸い天使の感染者は出ていませんが、抗体は大切に保存されています。ザワディは元気よ。里親に愛され、みんなに甘やかされています。私もタイタスも、たびたび顔を見に行って甘やかしているの。彼女の人生には暗いことばかりだったから、未来は明るいものにしてあげなくては。

タイタスがネルハや他の砦に行ってしまうと、本当に寂しくて、彼も私がそばにいないと寂しいと心を開いてくれる。それに私がルーミアで成し遂げたことを誇りに思ってくれていて、私は賞賛してもらう必要はないけれど、恋人がそう耳元で囁いてくれる嬉しさは言い表せないわ。彼の愛する心は本当に非凡なほどなの、キャリエーン。

彼の愛は予期していなかったけれど、彼とイリウムへの愛は私への贈物だわ。イリウムは最近タイタスを義父と呼び始めていて、そのたびにタイタスに生えかけの羽を引き抜くぞと脅されるんだけど、笑い飛ばしているわ。タイタスは彼の力が強大化していると言っています。心配で仕方がないけれど、最近のイリウムは私のことを心配しなくなり、家族のあるべき姿に戻ったのかも。

そうそう、タイタスの4姉妹がある日押し寄せてきたの! なんでタイタスの声があんなに大きくて、乱暴なのか分かった気がする。たぶん生存のためね。私も四人の襲来を生き延びたわ。

気を付けて過ごしてね。そしてアオドハンをよろしく。私にはスーインを助けようとするあなたとアオドハンを止めることはできないけれど。あなたたちから次の連絡が来るまで、心配していると思う。 愛をこめて シャリーン(終)


前編
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