〇《回想》8か月前・和室・中
T・文久4年夏
壬生の新選組屯所の中の山南の自室。
床の間に刀が置かれている。
山南と沖田が対座している。
沖田が床の間の刀をちらりと見る。
山南「総司、体の調子はどうだ」
沖田「なんとか稽古ができるくらいになりました」
山南「江戸に帰って養生したらどうだ」
沖田「私の居場所はここだけです。明日死んでも近藤さんや土方さんや山南さんのお役にたちたいのです」
山南「じゃあ、いい刀を持て。池田屋で何人もの長州勢をたたききって刀をぼこぼこにしたと聞いた」
沖田「たしかに、使い物にならないほどです」
山南「じゃあ、この刀を見てくれ」
山南が床の間の刀を沖田に渡す。
沖田「拝見します」
太刀袋から取り出して鞘を払う沖田。
細見造りの優美な姿の刀、沖田の手が震える。
沖田「あっ!ひょっとして御所構え!菊一文字ですか」
山南「そうだよ。鑑定書もある」
沖田「ど、どうしたんですかこれ」
山南「なじみの骨董屋で見つけた。池田屋依頼、剣の達人として名をなしたお前が持つのがふさわしい。君はもう長州勢に付け狙われる存在だ」
沖田「でもこの刀は私の所持金では無理です」
山南「池田屋討ち入りに参加できなかったのに配分金をもらうなんて後ろめたかった。お前の役に立ちたかったから、その金で頭金は払ってきた。あとの支払いはゆっくりでいいと承諾ももらってきた」
沖田「そんな、山南さんの金で私の刀なんていけませんよ」
山南「この名刀を使いこなせるのはお前しかいない」
沖田の目が刀にすいよせられている。
沖田「でも、この刀から離れられそうもありません」
沖田が刀を鞘に納めて立ち上がる。
沖田「局長に前借の相談をしてみます」
沖田の全身から活気がみなぎる。
(つづく)
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