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2
噴水の水が流れる音だけが鳴り響くフロア。
ヘスティアは呆然と立ち尽くしていた。
いきなり名前も知らなかった相手から衝撃の告白をされたのだから無理もない。
そんな彼女を先程からずっと見つめている青年、アルセウスが再び口を開く。
「教えてあげるよヘスティア、どうして死んだはずの君がこの世にいるのか、どうして記憶を忘れてしまっているのかを」
アラスタ王国の町は、いつも活気立っている。
強力な勢力、真闇との戦いからは至って平和なものだ。
国王ハルや王妃レナスなどの活躍にもより、生活も皆平等で暮らしている。
そしてそのレナス達も、幸せを満喫していた。
10歳になるレナスの第一児、ヘスティア・シルファーは幼馴染の少年といつも一緒に遊んでいた。
勿論お互い学校にも行っている。
二人とも成績は優秀で仲も大変良い為、周りからは最強カップルなどと言われてもいた。
ただヘスティアの方は、生まれつき体が良いとは言えない状態でもある。
時折風邪を拗らし寝たきりにもなっていた。
しかし症状自体は軽いもので、命に関わる程ではない。
今回もまた少し熱を出し寝込んでいた。
「大丈夫ヘスティア?」
「大丈夫だよ、またすぐに治る」
ベットで寝ている彼女の側で看病をしている少年、アルセウスが心配そうに尋ねたが、ヘスティアは笑ってそれを軽く返した。
まだ二人とも幼い顔つきで体も小さい、同じ黒く長い髪が唯一大人っぽさを少し見せている。
「・・・・・・ねぇアル」
さっきとは違い暗い感じでヘスティアは話始めた。
「なにヘスティア?」
「ごめんねいつもいつも……迷惑かけて……」
彼女のその言葉にアルセウスは
「良いんだよヘスティア、君は僕がずっと側にいて、幸せにするから」
さらっと、言い慣れているように言った。
ヘスティアの方もそれを聞いて赤面することなく
「じゃあ、成人したら私達夫婦だね」
そう答えた。
「そうだね」
そうした会話をしていて、その日は過ぎた。
そして次の日、アルセウスは我が目を、現実を疑った。
ヘスティアのベットの周りには、ハルやレナスを始め、多くの人がいる。
「・・・・・・迂闊でした・・・もっと早くにこの病気に気づいていれば……」
その中心、彼女の脈を手に取っていた男、ナルクが首を振ってその顔を下げた。
親であるレナスは、同じく親のロランにしがみついて泣いていた。
その側ではハルが唇を噛み締めており、ルミスは必死にもらい泣きしそうな涙をこらえている。
カムルの方は無表情で見つめているが、彼の場合表に出さないので内心はとても辛い。
最後にアルセウスは、静かに目を閉じ眠っている、もう二度と目を覚まさない少女の、もう片方の手を握っていた。
「・・・どうして……」
子供な彼は、泣くこと以前に訳がわからなかった。
死というものの意味は理解している、理解しているが、認められない。
彼女が、大好きな彼女が自分の目の前からいなくなり、笑わなくなったのが信じられなかった。
「何がいけないんだ・・・僕とヘスティアは、ただ普通に暮らしていただけなのに……」
混乱状態のアルセウスは、ハル達によって納まったが、彼はその後、ずっと彼女の墓にいたという。
そしてその後、彼の行方を知る者は誰もいない。
ただ誰も気付いていなかった。
ヘスティアの死体が、埋められたはずの棺より消えていたことに
「僕はただ、君の笑顔がもう一度見たかった、もう一度、君と生きていきたかった」
次々と話していく昔の事を、ヘスティアはただ黙って聞いていた。
「だから僕は……」
アルセウスの声が少し強張る。
「カオスに協力した」
「本当にヘスティアが生き返るの?」
「あぁ、僕の力を使えば、彼女は生き返るよ」
成長し、大人になったアルセウスは、目の前にいる男、カオスを前に目に輝きを取り戻しつつあった。
かつての、幼かった頃の自分の時の目を。
「ただし」
そんな彼を気にかけながらカオスは続ける。
「代償・・・と言った方が良いかな、生き返る際に、いくつかの副作用が発生するよ」
「・・・・・・副作用?」
落ち着きを取り戻し、彼の話に真剣になる。
「うん、まず一つに体を通常に維持するために生きるための生命エネルギー、寿命が少し減るね」
「・・・・・・」
カオスの発言にさすがのアルセウスも驚きを隠せなかった。
「そしてもう一つ、これが厄介かな」
だが彼は顔色変えず平然と続ける。
アルセウスの反応など今は気にしていない。
「生き返った時、彼女の生きていた頃の記憶はすべて消える」
「・・・・・・」
ヘスティアはようやく自分の事についてわかった気がした。
何故自分が死んで生き返り、記憶があやふやなのかを。
「つまり・・・私は・・・・・・」
「そう、君は記憶を忘れているんじゃない・・・・・・今の君は、記憶がないんだよ」
体は成長しているというのに記憶がない。
生まれたての赤ん坊のようだった。
歩く動作や物を食べることは、体が覚えていたのだろう。
「でもまさか、寿命が減るって事が、僕と同じまで成長するって意味だとは思わなかったよ」
口調が変わることなくアルセウスは続ける。
「ヘスティア、君の記憶、これはある条件で元に戻すことも可能だと、カオスは言っていたよ」
「・・・・・・?」
当然わからない彼女は、彼の次の言葉を待つ。
「その条件は、かつて君が愛した者、将来を誓いあった者、つまり僕を……」
アルセウスの声が悲しそうな雰囲気になった。
そしてはっきりと、耳に入るように呟く。
「殺すことだよ」
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