小説喫茶・メル

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何もない大広間で静かに佇む二人。

ヘスティアとアルセウス。

「僕を殺す決心はついた?」

笑うこともなく、悲しむこともなく、ただ平然と話すアルセウス。

彼にとっては彼女がすべてなのか、死は恐れないのか。

それは目の前にいるヘスティアにもわからない。

「・・・・・・」

何も言わず、ゆっくりと扇を取り出す。

シャキンという音が鳴ると、それは二つにわかれた。

「・・・決まったようだね・・・・」

戦うことを示しているので、そう呟く。

その時少しだけ表情が変わったが、一瞬過ぎて彼女にはわからなかった。

両手に力を込める。

それだけで彼女の周りに風が舞い起こった。

「さあヘスティア、僕を殺して記憶を取り戻すんだ」

「・・・・・・」

何も言わない。

黙して彼を見つめる。

「初めは君と生きて行きたいと思ったけど、やっぱり僕は、君が記憶を取り戻して元に戻って欲しい」

自分の命はいらない。

彼はそう言っている。

「このまま記憶を取り戻せずに笑えないなんて・・・僕には耐えられない・・・・」

風が、彼女の扇を包み込んだ。

「僕は君に笑って生きていて欲しい、それが僕の・・・・・・願いだよ……」

言った途端、ヘスティアが一気に彼との間合いを詰め、両手の扇を彼の胸元に

「・・・・・・!?」

否、胸元で止めた。

静かに風が止み、周りの空気が和らぐ。

「なっ・・・どうして止めた・・・ヘスティア?」

彼自身信じられなかった。

心の中ではわかっていた。

無理矢理蘇生させ、その上記憶まで消す。

そんなことをした男を、いくら生前愛していたとは言え、許すはずがないと。

だから殺されても良かった。

それで彼女が幸せになり元に戻るなら。

だがそれは

「・・・・・・さっきから聞いていれば……」

当然、彼 一人の気持ち。

「記憶を取り戻して欲しいなど・・・笑って欲しいなど・・・生きて欲しいに耐えられないなど・・・・・・」

表情こそ彼に見せていないが、体全身から覇気が伝わってくるようだった。

「自分は・・・死んでも良いなど・・・・・・自分の意見ばかりではないか……」

下げている顔を勢い良く

「ふざけるな!!!」

怒声と共に上げた。

彼女の本気、心からの叫びに圧倒されるアルセウス。

彼の表情は驚いたままだった。

「そうやっておまえは・・・いつも自分の意見ばかり押し付け、私の気持ちは考えていなかったのか!?」

「えっ!?」

彼女の発言に唖然となる。

今の言葉は、記憶が戻っていなければ言えないことのはずだと。

そんな彼の心境を見透かしたようにヘスティアは続ける。

「頭で覚えてなくても・・・この体が、そう言っているのだ……」

言葉が出なかった。

なんと言えば良いかわからないからか。

彼女の話しをただ聞くしかなかった。

「・・・だが・・・私はそんなおまえを・・・愛していた・・・・」

考えて話していない。

彼女自身わからないまま言葉が次々と出てくる。

「だから、私の気持ちを言わせてもらう」

ヘスティアは顔をはっきりと上げた。

同じ背丈の彼の目を見るために。

「私と共に生きて欲しい、思い出なら・・・これから作れば良い……」

「・・・・・」

「それでは・・・ダメか?」

呆気、すぐには返答出来ずに黙り込む。

しかし、意外と早く答えは出た。

「ありがとう・・・ヘスティア」

不思議と涙は出なかった。

嬉しいはずなのに、今すぐにでも彼女を抱きしめたいはずなのに。

それでも

「・・・ははっ・・・・・・」

「ふっ・・・・」

お互い、笑うことは出来た。

ずっと見たかった笑顔。

ヘスティアは安心したのか、扇をしまう。

「侵入者め!!!」

「!?」

突如聞こえた声に反応し、背後を向くと

「カオス様の命令だ!!アルセウス様を援護しろ!!」

大勢の武装した兵が一斉に銃を構えていた。

その銃口の先は、ヘスティア。

「撃てー!!!」

「くっ!!」

安心して武器をしまっていたヘスティアは、すぐに動くことが出来なかった。

反射的に避けることが第一に浮かんだが、数が多いので本当に避けて大丈夫かと疑問に思う。

その一瞬の間に銃弾が迫る。





刹那、起こったことが信じられなかった。

「ッ!?アルセウス!!」

目の前にいるのは、全銃弾を受けた、血まみれのアルセウス。

「なっ!アルセウス様!?」

撃った兵達までも驚いていた。

何故彼女を庇ったのか、彼等には当然わからない。

ヘスティアは慌てて、倒れる彼を支える。

「おまえ!どうして!?」

彼女に支えながらも、彼はゆっくりと倒れていく。

そのため座り、彼の頭を自分の膝にやり寝かせてあげる。

「・・・ヘスティア・・・・・・怪我は・・・ない?」

弱々しい声、冷たくなっていく体。

「・・・どうしてだ・・・・・・共に生きようと決めた矢先に・・・どうして!?」

彼女の瞳より、小さな雫が落ちていく。

それが見えているのか、アルセウスはゆっくりと

「・・・・・・ごめんね」

微笑んだ。

今にも閉じそうな目を必死に開けている。

「カオスに・・・・・・頼んだ時点で・・・僕の死は・・・決まっていたんだ・・・」

元々死は怖くなかった。

彼女のため、大切な人のため。

「だからヘスティア・・・・・・泣かないで……」

自分の涙なのか、彼女の涙なのかもはやわからなかった。

ただそれでも、彼女が辛そうなのははっきりとわかる。

「僕は君の・・・笑顔が・・・笑ってくれることが一番の・・・・・・幸せなんだ」

数秒、黙り込む二人。

そしてヘスティアは涙を拭い

「この・・・大馬鹿者が・・・・」

笑った。

涙で塗れた顔で、必死に笑顔を作った。

「・・・・・愛してるよ・・・ヘスティア」

「・・・あぁ・・・私もだ・・・・」

言い合い、お互いの唇を重ねる。

再び数秒、彼女がゆっくりと離れると

「・・・・・・」

アルセウスは、静かに目を閉じ、動かなくなっていた。

血が止まった冷たい手を握る。

その時

「!?」

ドクン、と心臓のような音が鳴ったと思うと、ヘスティアは不思議な感覚に包まれた。





「君は僕がずっと側にいて、幸せにするから」

「何があっても君を守る、それが男だからね」

「ずっと二人で生きていこう・・・死ぬまで・・・ずっと……」





フロアは、沈黙に包まれていた。

「・・・はっ!?あの女だ!あの女を殺せ!!!」

我に返った兵達は、再び銃を一斉に構え、放つ。

無数の銃声が鳴り響く。

だがすべての弾は彼女に到達する前に

「なに!?」

勢いを無くし、地面に落ちた。

良く見ると渦巻いている。

凄まじい、嵐のような風が。

「・・・思い出した・・・・・・」

ポツリと呟く、小さいので兵達はあまり聞き取れなかった。

「両親のこと・・・アラスタのこと・・・自分のこと・・・・・・」

脳裏に次々と出てくるビジョン、懐かしき思い出。

それと同時に

「そして・・・・・・ アルの・・・こと」

涙が溢れ出る思い出。

「でも・・・・・・ こんな方法で・・・」

彼の、笑顔。

「思い出したくなかったのに!!!」

怒り、それを解き放つように激しい突風が巻き起こる。

「ひっ・・・ひぃ!!」

突然のことに兵達は怯え、腰を抜かす。

彼女はまるで、航海している船を飲み込まんとする嵐。

それほどまでに風が吹き荒れていた。

いつもの落ち着いた様子はなく、子供のように感情を解き放つ。

奥義!!

武器である扇が二つ重なり巨大化する。

そしてそれを勢いよく振るう。

「【 森羅万象】!!」

竜巻、風の弾丸、それらすべてに当てはまりそうな風。

その宇宙嵐のような風は

「・・・・・・ッ・・・アル・・・・・・」

彼女の周りすべての兵達を吹き飛ばしていた。

ヘスティアは力無く、その場に座り込んだ。
















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