伊坂作品の中で登場人物たちはよく人間についての定義を口にしている。彼らは自分自身が人間であるにもかかわらず、人間の悪い部分を鋭く客観的に見つめ、深く理解している。伊坂幸太郎は、人間を絶対的な存在として描かない。人間を「動物の中の人間」という相対的な立場に置き、決して特別扱いをしないのだ。『オーデュボンの祈り』では、伊藤の祖母が「人間の悪い部分は、動物と異なる部分すべてだ。音楽なんて聴くのは人間くらいのもんだ」と言う。これを聞いただけではまるで音楽否定者のように思えるかもしれないが、そんなことはない。伊坂作品には、楽器・名曲・ミュージシャンなど多くの音楽が登場する。それは、音楽を「人間の象徴」として捉えているからである。例えば『オーデュボンの祈り』では静香がサックスを吹いて自らの存在を確認しようとし、『ラッシュライフ』では豊田が「HERE COMES THE SUN」を繰り返し聴いて心の不安感を取り除こうとした。『死神の精度』に登場する死神がミュージックを好んでいるのも、天使よりも死神の方が人間の生きる姿に近いところにいるからなのかもしれない。