[黄金」その5



 「人の踏み入れたことのない奥地でないと黄金はない。」というのは昨今言うところの「ニッチ(すきま)をねらえ」となんら変わりがないことであります。

 強いて言えば英語で言っているだけです。

 メキシコの奥地の山林をさまよい、衣服も汗とほこりで文字通りずたずたになったドブスとホルトでした。ハワードは山岳キャンプに馴れているだけあって、かくしゃくとしています。

 岩山の坂で疲労困憊しひっくり返りドブスは叫びます。

 「もうあきらめよう。文明社会に帰ろう。」
 「ゴー・バック・トゥ・シヴィライゼーション」

 ドブスが転倒したところの土を、しゃがんで手にとって見ていたハワードはこれを聞くと呵呵大笑します。

 「ファー・ファ・ファー・ハー・ハー」そして踊りだします。

 いまDVDで再見しますと、ハワードの歓喜のダンスは祇園の芸妓の踊り、井上流と通ずるものがあるとつくづくわかります。
 舞台俳優歴の長いハワードことウオルター・ヒューストンは
踊り狂ってるように腰から上半身、両腕を振り回していますが、足は半歩も動いていないのです。

 祇園の茶屋での芸妓の踊りは狭い部屋で行なわれます。畳半畳しか自分のスペースはありません。それ以上動くと左右の朋輩にぶつかります。

 ハワードの喜びの爆発にドブスとホルトは顔を見合わせます。「ついに狂ったか」とドブスは吐きすてます。

 それに対してハワードもこう叫びます。
 「足下に金が埋まっているのも知らないで、狂っているのはお前たちだ。」
 「お前たちこそ間抜けも間抜け、大間抜けだ。お互いの間抜け面をよく見ろ。」

 確信を持って断言するハワードに気おされて、互いの顔を見合わせる二人でした。

 ついに金が含まれている砂を発見したのです。
 この山の上流に金鉱があって、そこから雨で流されてきたに違いない。

 実は黄金探しは、鉱山を発見したときからが、最も危険となってくるのです。

 私もかつてメキシコで鉱山には遭遇したものの、幾多の障害に遭遇したのです。(続く)



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