しがないリーマンの徒然HobbyLife!

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「黎明の空へ」中編




 俺は、研究施設に異常がないか確かめるべく宿舎を出た。日中は心地よかった海風だが、今は肌寒く感じる。ざわめく木々も、人気の無い今は、不気味さを象徴する素材でしかない。

 俺はとりあえず、ムラサメのデータがリークしてあるマザーコンピュータ室に向かうことにした。場合によっては、まだ作業をしているスタッフもいるだろうと思ったからだ。
 加えて、何の用事もないのにこんな夜更けに辺りをふらついては、俺自身不審者と思われかねない。そのため、建前として飛行テストの報告書を記録したディスクを持っていくことにしたのだ。
 本来は、こんな物を持っていく必要は無かった。もっとも、明日に持ち越すのも不本意なので今日中に仕上げてしまったのだが。
 今日のテストで気になった点は、既にスタッフに口頭で伝えてあったからだ。スラスター出力は極めて頼もしいが、なかなか扱い難い、などである。しかし、彼らは俺の体調を気遣ってか、報告書の作成を急がなくてもいい、と言ってくれたのだ。
「さてと、行きますか。」
 俺は、スタッフ用のパーカーを着直し歩みを進めた。
後には、舗装されていない地面を踏み固めるサクサクという音だけが辺りに残った。

× × × × × × × × × × × × × × × × × ×

 いつも通りIDカードを差し込んだ後、生体認証を済ませると施設内に入ることができた。
建物の外観は、二階建てで特段変わった所は無い。ちょうど正面に位置する扉から、白壁が両脇に向かって伸びている。しかし、人の出入りを監視するためか内外を繋ぐ場所は限られていた。
 入り口に設けられた詰め所には、警備兵がいたので労をねぎらってやった。
彼らも俺と同じく、軍からの出向という形をとっている。昼夜交代での見回りは、俺以上に大変なのかもしれない。
(少々勘繰りすぎたか・・・・)
 本当に誰もいなかったなら、俺が侵入すれば赤外線センサーが作動することも考えられる。
そう考えると、今の自分の行動がいささか軽率であったように思えてきた。
しかし、ここまで来てしまっては仕方がない。
 俺は薄暗い照明に照らされた通路を進んでいった。

× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × 

 深夜ということもあってか、非常灯以外の明かりは見られなかった。

 俺は、自らの影だけがゆらゆらと揺れる足元に視線を落としながら、ほとんど凹凸のない空間を進んだ。使用目的故か、内部構造も極めて単純で飾り気がない。内装も、グレー調で一面が塗装されていた。そんな中を、俺は少し緊張した面持ちで歩を進めていた。

 先ほど俺が予期した通り、部屋の照明は煌々と灯っていた。
中からは、キーボードを打つ軽快な音が聞こえてくる。
 俺は、誰かいるのだろうと思い、扉に手をかけようとした―――――
だが、何か様子がおかしい。扉に設けられた小さな窓が視界に入った時、俺はそう思った。

俺はその目を疑った――――――  

室内にいるうちの一人は、机上に突っ伏しているのだ。もう1人の方はもっと酷かった。椅子から崩れ落ちたように地べたに寝そべっていた。
(疲れてお寝んねしたとはとても思えないが・・・・・)
見たところ外傷はなく、死んでいるようには思えない。眠らされているのだろうか?

―――残念なことに、俺の予感は的中していたのだ。

 作業を行っているのは例の男1人であった。
相手に悟れられないよう、気配を消して中の様子を窺う。
 モニターには、何やら英数字の羅列が次々に映し出される。おそらくは、ムラサメに関係するデータであろう。
 しかし、俺の脳裏には一つの疑問がよぎった。
彼が敏腕のスパイにしても、多少の徴候はあったであろうに。気付かない方が不自然だ。
それに、ヘリオポリスでのGAT-Xシリーズ強奪事件で辛酸を嘗めている以上、注意は万全であるはずと思っていたのだが。
俺は、相手の作業が終わる前に応援を呼ぼうと、その場を離れかけた。

 その時だった―――――――

「いやあ、マツカゼ二尉。こんな夜更けにご足労です。」
 サワダは別段焦った様子も無く、落ち着いた声で話し仕掛けてきた。
俺は直ぐに扉の後ろに身を隠した。

「なぜ分かった?俺がこの時間に来るとは一言も言ってなかったはずだが。」
俺はこちらの狼狽を悟られないよう、さも平然として対処した。
「簡単なことです。施設内の人の動きをチェックしただけのことですよ。」
(・・・・・・・なるほど。セキュリティシステムにアクセスしていたか。俺の動きも把握されていたことにも頷ける。)
「で、私に何か?」
サワダは態度を変えずに、左手人差し指で眼鏡を押し上げた。

「いや、今日のテストの件でちょっと用を思い出してね。」
俺は、一向に本性を現さない相手の心中を図りかねていた。
「そうおっしゃらずに。折角お見えになったのですからお話でもしませんか?」
「まあ、どうしてもとおっしゃるなら・・・・引きとめはしませんがね。」
最後の一言が気になった。

 俺は悪寒を感じて、背中越しに部屋の中を窺った。
そこに、投げ出された腕に握られた銃が見えた。
(・・・・・まずいな。)
今の状況では2人を人質に取られているのと同じだ。
ここは相手に従うことが賢明であろう。
「で、何から話そうか?」
「ほほう、物わかりのいい人だ。軍人は頭が固いと決め付けていたんでね。意外です。」
相手は、俺の提案に乗ってきた。
「それでは、まず一つ目の質問です。どうして私が今夜動くと分かったのです?完璧な芝居だったと思ったのですが。」
やはり、彼にとっても俺の行動は気にかかるらしい。
「まあ、軍人をやっていると第六感というのかな、そういうものが鋭くなるんでね。」
俺も、腰に携行している銃に手をかけながら応えた。
「ははははっ! なるほど・・・・・・ 実に興味深い。次回の研究テーマにしましょう。」
彼は、部屋に響き渡るほどの声を上げた。
(こいつ、何を考えている。)
「マツカゼさん、私と一緒に来る気はありませんか?」
「なに!?」
(俺を共犯者に仕立て上げるつもりか?)
相手の突飛な発言に、俺は余計に混乱した。
「あなたほどの優秀な人材は、然るべき舞台が必要だと思うのですよ。」
彼は構わずに話を続けた。
「勿論、もっと性能の良い機体を提供することをお約束しますよ。」
(これも時間稼ぎの一つだろう。キーボードを敲く音が先ほどよりも早くなっている。)

「こっちも一つ聞きたいんだが、何の目的でこんな行為に出た?」
俺は、お約束の問いを投げかけた。一応今後の相手の行動を予測したいという理由だ。
「詳しいことはお教えできませんが、ある方に頼まれましてね。」
(大体目星は付いている。おおかた大西洋連邦かザフトの何れかだろう。両者共に、自軍強化には余念がないことは明白だ。)
特に、オーブからザフトへの軍事技術の流出は激しいと聞く。恐らくは、オーブ崩壊後に行き場を失った人的資源が流れたのだろう。
「して、返答は如何に?」
俺は息を呑んだ。
「折角の申し出だが・・・・・断ると言ったら?」
俺は、銃を握ると安全装置を外した。
しかし返答は返っては来なかった。

「!?」
俺が身を捻ってかがむと同時に銃弾が頭上を掠めた。
俺は体勢を整え次の一手に備える。

突然―――――

銃弾に打ち抜かれた扉が不意に開いた。
それと同時に数発の弾も飛び込んでくる。
俺は、機を見計らって応戦した。無論、中で伸びている研究員に当たらないよう注意して、だ。

「愚行はよしたほうがいい。こちらにはモルモットが二匹いるのをお忘れですか?もっとも、私はこんなやり方は望みませんがね。」
「ちっ!」
(調子に乗りやがって!!)
「やはり、あなたは利口だ。こんな口車に乗っている様では、生き残れませんからね。」
「でも、惜しいですね。あなたという人材が欲しいのは事実です。ただ・・・・・・・サンプルとしてですがね。ははははははっ!!」
(やれやれ・・・・いちいち癇に障るヤツだ。今すぐに蜂の巣のしてやりたいものだ。)
俺は、頭に血が上りそうになるのを堪えた。
(落ち着け、ショウ。これではヤツの思う壺だ。)
 しかし、これほど饒舌なヤツだとは思わなかった。肝心なことはほとんど話さないくせに、口の減らない男だ。
 サワダは、銃を翳(かざ)しながらこちらに近寄って来た。
俺はその場を離れ、消火器具が備え付けられた比較的大きなボックスの裏に身を隠した。
(くそっ、なに余裕かましてんだ?アイツは。)
サワダは、ケースに収められたディスク状の記録媒体を取り出していた。おそらくは、ムラサメの設計図とテストデータが記録されているのであろう。
もっとも、試作機自体を盗まないのは、理に適っている。あんなモノを持っていっては直ぐに足がついてしまう。それに、横取りされる危険性もあるのだから。


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