勝手に最遊記

勝手に最遊記

Comouflage ―4―



「だよなー。なんで坊主ってあんなのバッカリなんだ?」悟空がウンザリした様子で、
「長安の寺院だってさ、大僧正以外は嫌なヤツばっか!みーんな俺の事を嫌な目で見て・・。」ぶぅっとむくれる。



悟空の言いたい事は良く分かる。
桃源郷で神に仕える者達――――僧侶達は、特別意識が高い。妖怪と平和に共存していた時でさえ、“下賤な者”として妖怪を見下していた。
それは妖怪だけでなく、人間に対しても同じで、素性の定かではない者や生まれの卑しい者・・・それらの者達を蔑んでいた。


三蔵も苦い経験をしている。
生まれてすぐ、揚子江に流され・・・拾って育ててくれたのが、前・三蔵法師――光明三蔵法師であった。

まだ幼い・・・幼名・江流の名で呼ばれていた時には、さんざん僧達から嫌がらせ・陰口を叩かれたものである。

それが“神の座に近き者”――玄奘三蔵法師――の称号が与えられた途端、手のひらを返すように、媚び・へつらい、
上辺だけの世辞を繰り返す・・・。
三蔵が同じ“僧”という立場なのに、旅の途中、寺院へなるべく寄りつかない様にしているのは、己の経験からだった。


「・・・今回だけ、我慢しよっ?」
その辺の事情を大体聞いている桃花が、みんなに言い聞かせるように言った。

「しゃーねぇよな。」悟浄が諦めたように顔を振る。
「・・ですね。明日には此処を発つ訳ですし。」八戒が穏やかに三蔵の顔を見る。
「判ってる・・。」三蔵が不機嫌なまま頷く。
「俺は・・・腹減ったんだけど!?」
まったく前後の話の雰囲気を読まない、悟空のいつもの発言に

スパーンッ 「この馬鹿猿!死ねっ!!」
いつものハリセンの音と三蔵の怒声が響き、いつもの騒ぎが始まった。


食事の用意が出来たと、呼びに来た彗の案内で、三蔵達は廊下を歩いていた。
先に進む彗の後ろで、悟空達が歩きながらヒソヒソと会話する。
「桃花って言っちゃ駄目ですよ、悟空・・。」
「悪りぃ・・八戒、つい・・。」

彗が部屋へ入って来たとき、騒ぎの真っ最中だった為、悟空が思わず桃花と呼んでしまった。
しかし、三蔵法師が拳銃を持って暴れている姿にショックを受けた彗は何も耳に入らなかったようなので、大事には至らなかった。

「でもよ、名前どうすんだ?・・ミニ悟浄にすっか?」
「・・・んなモン、呼べるか・・。」
「三蔵、その意見には賛成。えっとね、大桷って呼んで?」

「あ・・大桷って・・・。」悟空が立ち止まる。
「ん。いいよね?」
桃花を助けて、死んでしまった妖怪の少年の名前・・・。


『忘れたくないから』――――――――――――大桷のことを。


自然と眼を伏せてしまった桃花を、悟空が心配気に見やった。「桃花・・・あの、さ・・」

立ち止まってしまった悟空に、「・・・悟空ちゃん?・・って、ちゃん呼びはダメ・・だな。悟空。早く行かないと食いっぱぐれるぜ?」
慣れない喋り方に苦労しつつ、悟空を促した。


桃花の背中を見つめながら、悟空が密かに息を吐いた。






「・・此方に皆様の夕食をご用意しております。」

彗に案内された部屋には、大きなテーブルが一つと、小さいテーブルが一つ用意されている。
どちらのテーブルにも山盛りの食事が用意されていた。

「うわああ・・すっげぇ~っ♪♪」
ここ数日、ろくな物を食べていなかった悟空は、嬉々としてテーブルに着く。

「あ、申し訳ありませんが、お供の方々は此方のテーブルでお願いします。」彗が指したのは、小さなテーブル。

「・・・じゃあ何か?コッチの小せぇテーブルで、4人座れってことか?」悟浄が剣呑な声を出す。


「俺は構わんが。」期待どうり(?)アッサリと言ってのける三蔵。

「いえ、其方のテーブルには3人様で。三蔵様と、お世話係の方は、此方の大きいテーブルで、お願いしたいのですが。」

「「「「・・・お世話係?」」」」」
三蔵・八戒・悟空・悟浄が一斉に見た先には・・・・桃花が居た。




「へ?」―――――――――お、お世話係って・・・・ナニ?自らの顔を指したまま、桃花が固まった・・・・


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: