勝手に最遊記

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Comouflage ―6―


この口の悪さは、普段、悟浄や三蔵からの影響を受けている賜物である。

「俺以外は、鬼みてーに強いんだよ。そんなムダに筋肉ばっかつけて!人を見る目もないってか?ああ?」

殊勝な態度だった桃花の豹変ぶりに、僧達も驚きを隠せない。


「なっ・・?なんだ、貴様っ!」
「いくら三蔵様の共と言っても許せんっ!」
「我らが僧正様も、そう仰っておられたのだぞ!?」

「僧正?・・・へえ~。あの不細工の筆頭株主みたいなヤツがかっ!?」大声で叫んだ。


この桃花の発言(と言うか絶叫)に――僧達が固まる――

ぶ・・ぶわっはっはっはっはっ・・!!廊下の影から、大声で笑う男が出てきた。

「ひっひっひっひっ・・く、苦しいっ・・!面白いな・・お前?」涙を滲ませながら近寄ってきた男を見て、

「そっ、草庵どのっ・・・!」僧達が慌てる。

「どうやらお前らの敵う相手じゃないらしい。・・・早く散れっ。」シッシッと犬を追い払うようにすると、僧達がそそくさと逃げ出した。

『他の僧達とは、雰囲気が違うなぁ・・。』

身長は高い。悟浄と似たような物か。年齢は20代後半ぐらい・・。
髪はある。黒く、短めの長さだが櫛を入れていないのか、ボサボサしていた。
精悍な顔つきだが、無精ひげが全体をだらしなく見せている。

着流した着物を身にまとっているが、逆三角形の体型が堂々と見せていて、だらしないのか、そうでないのか一目では判断できない。



『まぁ、男前だけどね。』心の中で付け加える。


「俺は草庵。・・・お前は・・「大桷です。」
あぁ、そうだったな、と一人頷き、
「広間で見たときにも面白い事になりそうだ、とは思ったんだケドよ。」

「広間に居たんですか?」見覚えが無い。この容姿なら、相当、目立つはずだろう・・。



「あー・・まぁ、表立って三蔵サマを拝めないからな。」ポリポリとヒゲを触る。
「・・・?」その理由を聞こうとした時、

「大桷さまっ・・どうされたのですか?」彗が顔色を変えて走ってきた。

「大声が聞こえた物ですから。・・・草庵・・どの?大桷さまに何かされたのですかっ!?」噛みつかんばかりの彗に、

「違うっ!俺が助けてもらったんだよっ。」慌てて説明する。
当の草庵は、
「・・・・。」無言でヒラヒラと手を振りながら、去って行った。


その草庵の背中を見ながら、彗は唇を噛みしめていた・・・



「彗君、あの草庵って言う人なんだけど・・。」
「大桷様、彗だけで結構です。」固い表情のまま、俯き加減で言う彗。

「んじゃ、俺の事も様は要らないからな。・・・あの草庵って言う人は誰?此処の僧達とは随分、雰囲気が違うけど。」

「あの人は・・・前・僧正の愛弟子です。法力・体術にも秀でており、特に“鬼槍の草庵”と異名を取るほど、
槍を持たせたら敵う敵なしと言われるほどの人物でございます。」

「あの人が・・・?」
腑に落ちない。それほどの人物が、なぜ三蔵法師を堂々と見られないのか?
「それで?」話を促す。

「・・・あの人は5年前、この金剛寺から出奔致しました。私がこの寺院に来たばっかりに・・・。」

「彗が来たから?なんで?」

彗は暫く言い淀んでいたが、顔を上げハッキリと言った。



「・・・私が腹違いの弟だからです。」













食事を終え、三蔵達は部屋でくつろいで居た。

「なー・・八戒。桃花、変じゃねぇ?」悟空がお茶を煎れていた八戒に問う。

「そうですねぇ。」
実は八戒も気になっていた。一旦、食事の最中出て行った桃花が戻ってきてからは上の空。生返事しかしないのだ。

窓際に座って、夜空を眺めている桃花の様子を窺う。



『草庵さんと・・・彗が腹違いの兄弟。』

出奔していた草庵が、妖怪が自我を無くして暴走し始めた後、ふらりと寺へ戻ってきた。
その実力を知る者が多い為、表立っては揶揄する者もおらず、居候のように金剛寺に居るのだという。


「・・・義兄は、私のことが疎ましいんです。だから出て行ったのに・・。」
なぜ帰ってきたのか?それすらも聞いた事がありませんと、自嘲の笑みを浮かべた
彗の顔が哀しそうで――――。



思いを馳せていた桃花には、周りの声など聞こえず・・・。

コトン、と目の前にお茶が置かれた。顔を上げると、八戒が微笑んでいる。

「どうしました?疲れたんですか?」
「うーん・・まーね。」
側に降りたジープをそっと撫でた。



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