勝手に最遊記

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Promise ―10―


詫びながら、天蓬の部屋の扉を開けた桃花は――――雪崩にあった、本の。

「うっ・・痛い・・。て、天ちゃん・・?」
自分の体に覆い被さった本をどけつつ、部屋へと踏みはいる。

『・・・・魔境。』この言葉を反芻する。
一昨日、捲簾と一緒になって天蓬の部屋を整理整頓したのに、足の踏み場も無い。
すでに、人類未踏の地と化している。

「なんなのよっ!この有様はっ!!」桃花の怒声に
「・・・・はい?」間の抜けた返事が聞こえた。

狭い空間を苦労して移動しつつ、机の下で座り込んでいる天蓬を発見した。

「~~~天ちゃんっ!!何やってるの!?」
「あぁ、桃花。前に読んだ本なんですけどね、下界の歴史について書かれているんですよ。
下界の歴史と、天界の歴史とを比較検討してみますと・・」
延々と続きそうな天蓬の講釈に、
「だぁーっ!んなのはイイからっ!時空鬼について、何か判ったの!?」
無理矢理割って入る。

「・・・ええ、まぁ。」
「えっ?マジでっ!?」
歯切れの悪い天蓬の返事に、気付かないまま小躍りする。

「・・とりあえず、金蝉の部屋で。皆の前で・・。」
その言葉に、素直に金蝉の部屋へ向かう。

部屋には、不機嫌な顔の金蝉と、捲簾がいた。

「悟空は寝室で寝かしてあるから。」少しほろ酔い加減の顔で言う。
その捲簾をチラリと見つつ、
「全く。いいご身分ですねぇ、捲簾大将?」早速、皮肉を言う天蓬。

「天ちゃんっ。そんなのはどうでも良いからっ。判ったこと教えて?」
桃花がウズウズと急かす。
「・・そんなのって。」複雑気分の捲簾。

「では・・よく聞いて下さいね。」
天蓬の言いにくそうな態度に、金蝉が気付いた。『・・・マサカ、な。』

「時空鬼について・・。時空鬼の一族は、確かに時の流れを操ることが出来ます。
只、特殊能力の為、その力の作用はとても小さいモノなのです。」

「小さい力・・だと?」金蝉が睨み付けるように、
「小さい力で、この女が五百年先の未来から・・
しかも天界に飛ばされたって言うのか。」言った。

「ええ、ソコが今回の特殊な所なんです。」眼鏡を掛け直しながら、
「時間を操る。それは“時空軸”をある程度、歪ませる・・と言う事なんです。」

「センセー。ちっとも判りませーん。」捲簾が手を挙げた。ついでに桃花も。

「時空軸というのは、僕らがコノ世界に存在している時間の軸。
例えば捲簾の時空軸が、仮に0.0000000・・・・・・でもずれてしまったとしたら、
この世界に存在する事が出来なくなります。」

「・・・はぁ?・・俺が生きてても?」イマイチ理解できない捲簾と桃花。

「生きていて、同じ場所に居たとしても。・・時空軸がずれている捲簾は、
僕らの目にも入らないし、声も聞こえない。存在しないのと一緒なんです。」

「・・透明人間?」
「ちょっと・・カナリ違いますねぇ。」天蓬が苦笑する。

「・・・で。時空軸を弄るだけの妖怪が、何故こんな真似が出来たんだ?」
金蝉が苛ついたように、先を促す。

「それは・・僕の憶測になるのですが。」天蓬がチラッと桃花を見る。
「・・・死ぬ間際に、時空鬼が術をかけました。死ぬ間際というのは、人間でも
妖怪でも、強い思い――――多大なエネルギーを出す事があります。」

「蜂の一差し・・か?」その言葉に頷き、
「彼の持っている力が・・潜在能力が、死ぬ間際に発動されたという事が推測されます。
しかも、術は最後までかけられず・・中途半端に終わっている。」

「・・・と言う事は?」

「・・・どうすればいいのか判らない――と言う事が判りました。」


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