勝手に最遊記

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Promise ―13―



「さて・・と。」桃花は金蝉の部屋を出た。

悟空が昼寝をし、金蝉が仕事に集中している時にはする事がない。
生憎、天蓬も捲簾も軍の会議やらで部屋には居ない。

頭痛に襲われれば意識を失ってしまうので、“一人で出歩かない”という条件を
出されてはいるが、小一時間ほど前に頭痛で倒れたばかりである。
今なら大丈夫だからと、金蝉を無理矢理説得して出て来た。

「・・金蝉って心配性よね。」しょうがないけど・・と呟く。

自分の存在は、天界では公に出来ない。
自由気ままに出歩いて、倒れでもしたら・・身元がばれてしまう。
もし見つかったら、関わっている金蝉や天蓬達に、多大な迷惑が掛かるだろう。

それでも・・・一人になりたい事もある。
桃花の気持ちを察してか、金蝉も首を縦に振ってくれた。

ほんの少しだけ―――――桃花は廊下を歩きだした。

てくてくと歩いていると、いつの間にか立派な廊下に出て来た。

『・・エライ人が住んでるのかしらん。』呑気に眺めつつ、そのまま進む。

最低限の礼儀作法は、天蓬から教えてもらった。
誰かと出会(でくわ)しても、言い抜けられる自信はある。

廊下の角を曲がろうとしたとき、
・・・・ぱたぱたぱたぱた・・軽い足音が、小走りに近づいてくるのに気付いた。

『んっ?』ヒョイッと顔を出すと【ドシンッ】胸下あたりに、何かがぶつかる。
「・・っ!」桃花は踏みこたえたものの、ぶつかった相手はひっくり返った。

「わっ・・君、大丈夫?」慌てて助け起こす。
ひっくり返った相手は子供で・・悟空と同じ年頃だろうか。
可愛い顔をしている。

「って~!気を付けろよなー。」ぶつぶつ文句を言いながら立ち上がった。

可愛い顔の割りには態度がビックよね、桃花がそう思っていると
何やら人のざわめきが聞こえてきた。

「ヤベッ!」子供が駆け出そうとするのを、首根っこを掴んで止めた。
「ナニナニ?追われてるの?」
「んだよ!・・だったらどうなんだよ!?」
桃花はニコッと笑い、
「オネーサンに任せなさいっ。」そう言って、子供を近くの部屋へと押し込む。


「・・様は、一体・・?」「何処へ行かれたのだっ!」
苛立ちの声を上げながら、男達が4人、小走りに走ってくる。

廊下に佇んでいる桃花を見付け、
「おい!ソコの女!・・・御子を見かけなんだか!?」無遠慮に聞いてきた。
桃花は曖昧に微笑みを浮かべ、目を伏せて、
「・・・今し方、向こうの方へ走って行かれましたが・・・・」と答えた。
「そうか。・・よしっ!行くぞ。」
桃花の前を、男達が通り過ぎていく――と、最後尾の男が、
「・・見かけん顔だな。何処の女官だ?」

「わたくしは、金蝉童子様にお仕えする女官で御座います。
西方軍・天蓬元帥の血筋にあたりますが、何か問題でも御座いますでしょうか?」
淀みなく答えながら、すぅっと眼を開いた。

「・・・そうか。いや、何でもない。失礼した。」
男が慌てて立ち去る。

天界人は、やたら身分や血筋に拘(こだわ)るらしい。
何かの時には、
「僕の親戚だって言っちゃえば、大抵のヤツは引き下がりますからv」
そう天蓬に言われていた。
裏を返せば、天蓬が天界に於いて“高い地位”のヒトだと言う事が判る。

『んなヒトを“天ちゃん”呼ばわりしてイイ訳?』
思わず悩んでしまうが、本人がそう呼べと言うのだから・・「あっ。」忘れてた。

「・・もーいーよー。」扉を開けると、ムスッとした顔で子供が立っている。

「余計な事、しやがって。」言い捨てて走り出す。

「うわっ・・ムカツク!ちょっと、待ちなさいっ!!」
追って駆け出そうとするが、裾がまとわりついて上手く走れない。

「・・こんにゃろっ!」裾をまくり上げ、腰に結んだ帯に巻き付ける。
そして、細くは無いふくらはぎを全開にして走り出した。


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