勝手に最遊記

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Promise ―14―


子供を追いかけ、城の中庭まで走ってきた桃花は、息も絶え絶えである。

「・・・もっ・・ダメ・・。」バタンッと芝生に倒れ込む。
子供の姿は見失ってしまった。可愛い子だったのに・・「あの、クソガキ。」

「誰がクソガキだってー?」上から声が振ってきた。
頭上を見上げ、
「・・・君のこと、言ってんのよ。」ニコッと笑った。

「へー?」子供がヒョイッと木から飛び降りる。
「アンタ。名前、なんて言うの?」桃花の傍に立ち、問いかけてきた。

「桃花って言うの。・・君ね、ヒトの、しかも女性に名前聞く時は、
自分から名乗らなきゃダメよ?」桃花がしたり顔で言う。

「・・・・俺の名前、知らないの?」呆れたように言う子供に、
「そーねー。こんな可愛い子の名前、一度聞いたら忘れないと思うんだけど?」
つい、ふざけた口調で言ってしまってから、
『コレじゃあ、悟浄君のナンパと変わんないじゃん。』・・コッソリ反省する。

「俺は、ナタク。ナタク太子だ。」子供が、ナタクが射るように見ながら言った。
「へー。ナタク。・・ナタクってあのっ!?」思わず跳ね起きる。

ナタク・・・“闘神・ナタク太子”その名前ぐらい、桃花でも知っている。
五百年前、大妖怪・牛魔王を封印した人物だ。
尤も、今の時点では未だ、封印していないが・・・。

『・・ナタク太子が、こんな子供だったなんて・・・。』マジマジと見る。
桃花の視線を避けるように、俯いて、
「俺、そろそろ・・。」立ち去ろうとしたナタクに、

「スッゴイねー!ナタクってこんな子供なのに、ムチャクチャ強いんだっ!!」
グリグリと頭を撫でまくる。
「わっ・・止めろよ!止めろって・・!」暴れるナタクに構わず、
「ほんっと、感激だよっ!マサカ逢えるなんて・・・。」ハグまで強要する桃花。

桃花にしてみれば、“ナタク太子”は歴史上の重要人物―――英雄である。
そのヒトに逢えるとは・・・しかも、可愛らしい子供であった事に感激しているだけなのだが、
ナタクにすれば迷惑以外何でもない。いや、それより理解出来ないのだ。

“殺人人形”―――――影でそう呼ばわれている事を、ナタクも知っている。

“不殺生”が大原則な天界に於いて、自分だけが殺生を許され、
―天界に仇をなす者―を殺戮している・・・。それは結局、自分の存在も“不浄”と
見なされていると言う事なのだ。
“畏怖の存在”・・・そうでなければ、忌み嫌われるだけの存在。
その自分を・・『・・この女!?』

「止めろって・・なんだよ、お前!?」桃花を引き剥がし、睨み付けるナタク。

「・・あのねぇ、名前。教えたでしょ?あたしは、も・も・かっ♪
お前じゃないの。・・何なら“美しいオネーサン”って呼んでも良いけど?」
桃花の言葉に、
「誰が“美しいオネーサン”なんだよっ!?」
「ヒデッ!・・良く言われるけど。」
「あははっ・・お前、面白いヤツ・・・・。」ナタクが吹き出した。

のんびりと二人で芝生に寝そべる。
最初とは違い、ナタクも打ち解けてくると子供らしい表情を見せた。

「・・・でさ、今度な、牛魔王ってヤツを退治しろって言われてさ。
やんなるぜ、全く・・俺以外は戦いもしねぇし。」
「んな奴ら、その牛魔王ってヤツの口に放り込んじゃえば?
少しは役に立つんじゃない?」
「お前・・・恐ろしいこと言うな。・・でも、ソレもありかも。」

二人でバカな話で笑い合う。日頃のウップンを晴らすかのように、ナタクは笑った

「・・・あ。もう、戻らないと。」日が陰ってきたのを見て、桃花が腰を浮かす。
「だな。・・・俺もだ。」


「それじゃーねー。」桃花が手を振り、ナタクに背を向けた。
「――――・・オイッ!」
「ん?なーにー?」歩みを止め、ナタクへと振り返る。

「お前・・桃花、また、逢えるか?」やっと桃花の名前を呼んだナタクに苦笑し、
「・・ったりまえじゃーん!またね~っ!」大きく手を振った。


しかし、桃花が天界でナタクを見たのは、コレが最初で最後であった。

再び桃花がナタクの姿を見るのは―――――――――五百年以上も先の事となる。


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