勝手に最遊記

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Darling ―10―



『あ~・・・こーゆートコが、一人部屋の良いトコよね~。』ご満悦である。
普段は簡単にはいかない。

一人部屋を取れなければ、大部屋か三人部屋だ。着替えをするにも気を使う。
前に、悟空と八戒の三人部屋になった時・・・悟空の前に、バスタオル一枚で風呂場から出た。
当然、悟空は真っ赤に・・運悪く買い物から帰ってきた八戒とも鉢合わせになり、

「・・嫁入り前の、娘でしょう?」黒い微笑みを浮かべながら
“教育的指導”をみっちり喰らう羽目になった。

―コンコン―扉がノックされた。

「はぁ~い、ちょっと待ってて~。」慌てて、下着とパジャマ代わりのシャツを羽織る。
桃花が扉を開けると、「・・よっ。」軽い口調で―――傷だらけの悟浄が顔を出した。

「悟浄君っ?ちょ・・どうしたの?その顔っ!」悟浄を部屋へ招き入れる。
「・・あ~・・お仕置きを喰らってさぁ~。」情けない顔で笑う。

「なるほどねぇ。」簡単に想像が付いた。運が悪いことに、
皆の怒りが収まらないウチに・・帰ってきてしまったのだろう。

「悪りぃな、桃花。とばっちり喰らわせちまって。」ベッドに腰掛けた悟浄が、上目遣いで見た。
『・・・叱られた子供、ねぇ。』図体がでかいクセに、シュンとしている所が可笑しい。

「悟浄君だってヒドイ目にあったんだし?こんなの気にしてたら、皆と旅なんか出来ないって!」
アハハと笑い飛ばす。
「・・・ってさ~、お前、他にもこんな目に合ったコト、あんの?」悟浄が鋭く突っ込む。

「ヘッ?・・いや、無い・・「俺を誤魔化せるって思ってるワケ?」
珍しく真剣な口調の悟浄に、桃花が折れた。
「そりゃ~ね?悟浄君達って目立つから!一泊程度なら・・ともかく。
たまーに、連泊とかするでしょ?天候なんかで。そうするとさ~皆を目当ての女の子達に
意地悪されたり・・する事もあるのよ、たまに。」

たまにだからね、たまにっ!そうブンブン手を振る桃花を見て、悟浄は胸がチクリと痛んだ。
『・・コイツがこう言うんだから・・結構、痛い目に合ってンな。』

女の嫉妬は恐い―――慣れている悟浄は、その辺を良く弁(わきま)えている。

今回の女の件は、ちょっと予想外だったが・・大体は上手くあしらえているハズである。
八戒も問題ない。人当たりが良く、微笑みながら断っているだろう。
悟空は・・色気より、食い気優先だから、相手が呆れてしまう。問題は・・・・・・。

「三蔵、だろ。」悟浄の言葉に、桃花がウッと詰まった。
「あはははは・・・あの性格だから、ね。」しょうがないと、首を振る。

あの見た目。金糸の髪に紫暗の瞳。白を基調とした僧衣が
その端正で華奢な姿を引き立てている――――本人に、そのつもりは毛頭も無いのだが。

「アイツがなぁ。ヤンワリ断れる性格なら・・・。」そう言いつつ苦笑する。有り得ないから。

近寄ってくる女達を、バッタバッタと薙ぎ倒すように切り捨てる。
口で言っても判らないような女には、平気で銃で威嚇する。
そこまでされて、逆恨みした女の中には――・・・一行に混ざっている桃花に怒りを向ける女が居る。

「まっ、気にしないで?そんなタマじゃないから、あたし。」笑いながら、
「それよりさ~、悟浄君にはあーゆー女の人が良いと思うよ、あたしは。」悪戯っぽく覗き込んだ。

「はっ?ナニ、言ってくれちゃうの?桃花チャン。」突然話を振られて、マヌケ面な悟浄。
「だってね?あたしに意地悪してくるヒトって言うのは、皆が見ていない前でなのよ。絶対に。」
―――――――美形揃いの三蔵達。その中の一人にでも、悪い印象は持たれたく無いらしい。

「でも、あの人は皆の前で、あたしに麦酒をぶっかけた・・・。
思いこみが激しい人なのかも知れないけど、悟浄君だけを純粋に“好き”って思ってたからでしょ?」

ポカンとする悟浄に笑いながら、
「誰に何と思われようと、“好き”っていう感情をストレートに表せる・・そんな人が良いよ?」
そう言って、髪を拭き上げた。

『・・・俺にイイ相手ってさ・・・。』
「俺なんか、ストレートにスキスキって言っちゃうタイプなんだけど?」ハイライトに火を付ける。

「・・・でもぉ?ホンキじゃないでしょ?」ズバリ言ってのける桃花。
そんな桃花の顔をジッと見つめていた悟浄だが、
「―――――――あのさぁ、桃花。聞きてぇコトがあんだけどよ・・。」
ん?と桃花が悟浄に近づいた時、

―――――――――――――ガアッッシャアアアッッンッ・・部屋の窓が破られた。

咄嗟に、硝子の破片から桃花を庇う悟浄。  『・・・刺客かっ!?』その判断をする間もなく、
何かが窓から投げ込まれ、シュウシュウと煙が部屋を包む。

「ご・・・ごじょ・・・。」悟浄の腕の中で、桃花が意識を失う。
「・・・クソッ!」桃花を抱え、部屋から出ようとするが・・ガクンッ!膝をつく。

『・・・薬・・か。』甘い匂いが急速に体の自由を奪う。意識も朦朧として来た。
せめて・・桃花は・・・懸命に部屋から出そうとしたが・・・悟浄は桃花を抱えたまま、意識を失った。


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