勝手に最遊記

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Darling ―11―



悟浄は、手首の冷たい感触に意識を取り戻した。

静かに眼を開くと、己の手首に鉄枷が噛まされている。

『・・・捕まえられたワケ、ね。』

なるべく体を動かさないように。辺りを見回す。妖気は感じられない。

『桃花っ。』自分より、少し離れた場所に横たわっている桃花の姿が見える。

体が微かに上下しているのが見て取れた。『気ぃ、失ってるだけだな。』ホッと息を付く。

改めて、自分達が捕らえられている空間を見る―――――『・・山小屋か?』

小さな、8畳ほどの小屋。荒れ果てて、随分と長い間人の出入りが無かったように思える。
床や柱は朽ち果てかけており、今にも小屋全体が崩れ落ちそうだ。

悟浄は、胸の前で組まされている自分の腕に力を込めた。  ギヂィッ・・ジャラッ・・。
『外せそうもねぇ・・な。』薬が体に影響を及ぼしているのだろうか。普段の力が出ない。

「・・・ん。」桃花が寝返りを打った。   薄く、眼を開く。「ごっ・・ごじょ・・!?」

慌てて起き上がる桃花に、悟浄はシィ~ッと指を唇に当てた。

「だ・・大丈夫?悟浄君・・。」声をひそめて、悟浄に近寄る。桃花には鉄枷が付いて無い。

「おー。なんとか、な。」いつも通りの笑顔を浮かべて見せる。
「なんとか・・って!何、この鉄枷っ!!」ムキュ~ッと桃花が鉄枷を引っ張るが、ビクともしない。

「無駄だって、桃花。・・俺様が本調子だったらなぁ。」あ~あ、と首を振る。
「・・未だ、薬の影響が残っているの?」あたしは全然、残ってないのに。

「どうやら俺目当ての、敵サンらしいな。」“対妖怪用の薬”んなトコだろう。
ドアを窺う・・「今なら逃げられるかも知んねー。桃花、お前一人で逃げろ。」
桃花が仰天した。
「んなっ!?何、言ってンのよっ!悟浄君?手枷が付いてたって、逃げられるでしょ?」

「悪りぃ・・足腰にも力が入らねーんだわ。・・桃花が抜け出せば、助かるチャンスも生まれるし?」
悪戯っぽく笑う悟浄に、桃花が合点した。
『・・なる。三蔵達を呼んで来いってコトね。』意地でも“助けてくれ”とは言わないだろう。

『・・オトコって、さぁ・・。』思わず苦笑を漏らす。文句を言いつつも、三蔵達は助けに来るだろう。

「判ったっ!・・大人しく、お利口にしてんのよ?」グリグリと悟浄の頭を撫でる。
「はぁ~いっ!わかりまちたーっv」戯(おど)けて言う悟浄に笑いながら、
「じゃ、早く戻ってくるからっ。」

ドアへと向かい、取っ手に手を伸ばした瞬間―――――ドオンッ・・ドアごと桃花が吹き飛んだ。

「桃花っ!!」人形のように床に転がった桃花。「・・った・・い・・。」呟きに悟浄が胸を撫で下ろす。

「逃げようったってぇ~。そうはイカね~よ?」やや間延びした、男の声が聞こえた。

「・・・あ?お前・・ら?」悟浄は目を見張った。

ゾロゾロと山小屋に入ってくる男達に見覚えがある。「・・・賭場で・・?」
そう、入って来た5人組は、悟浄が賭場で叩きのめした男達だった。

ニヤニヤと自分を見下ろす男達・・・『なんだ?コイツら・・・。』異様な雰囲気だ。
目は血走り、息づかいも荒い。それに・・・微かに漂う妖気。『人間、だよな?』
凝視する。確かに人間・・だった。賭場で喧嘩した時は。でも今は―――――――――。

「ヂロヂロ見てんじゃねぇ~っ!!」ドゴオッ――「・・ぐっ!」男が悟浄の腹に、蹴りを喰らわせる。
体を折り曲げて、咳き込む悟浄に下品な笑い声がかかる。
「ひゃっははははは・・イイ様じゃねーかよ?色男サンよぉ!!」

ガンッ・・別の男が、悟浄の後頭部を踏みつけた。
「―――――・・て・・めぇら・・!」床に這わされても、必死に顔を上げる悟浄。
「・・・・ぶっ殺すっ・・!!」怒りに燃える悟浄に、男達は怯える素振りも無い。

「殺れるモンならぁ、殺ってみな?」イヒヒと嘲笑を浮かべ、
「“禁忌の子供”のクセによぉ!!」

                     男の声が、悟浄の胸に   突き刺さった。


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