勝手に最遊記

勝手に最遊記

キリ作―ACCIDENT



・・・もぅ、嫌になっちゃう・・・ため息と共に、涙が滲んでくる。

満足にデートすら出来なくなって、何ヶ月。
それでも我慢していた。仕事が忙しいのを知っているから。
でも・・・


                      「休みが取れたんだ。」
とても嬉しかった。
                      「潤、旅行に行こう。」
夢みたいだった。


だから、とてもとてもとても・・・・・楽しみにしていた・・・のにっ!!


「ゴメン。」聞きたく無かった。   「仕事が・・・・。」そんなの分かり切ってる。

楽しみにしていた分、落胆が大きくて・・・また、ため息が出る。情けなくって、目をこすった。

愛用のパソコンを立ち上げる。気分転換しよ・・そう思いながら、ボストンバックの中を探る。
MDを取り出して机に戻す。一緒に聞こうと思って、セレクトしていたのが悲しい。

「・・・あ。レス、しなきゃ。」日記に浮かれまくって書いちゃったからなー。
みんなに“行ってらっしゃーい”なんて掲示板に書かれてたっけ・・・最悪・・・。

ボストンバックを抱えたまま、机の上に突っ伏す。書けない・・・こんな気分じゃ。
逃避したいよ~・・・なんも考えたくない・・・。ウダウダ落ち込んでいると、急に眠気が襲う。

『・・うにゃ・・』眠い。もーのーすーごーくー・・・眠い。ワクワクしすぎて、眠れなかったんだよね、昨夜。

強力な睡魔に抵抗できないまま――――・・・潤は、バックを枕に眠りへと引きずり込まれていった。


『・・・・んあ?』何だか・・・・体が痛い?潤は薄く眼を開いた。

「ほえ?」思わず気の抜けた声が出る。

見渡す限り―――――――『・・草原?ってゆーか・・荒野とかって言うの?』見慣れない光景。

荒れ果てている・・とまではいかないモノの。所々、草とか木が点在してて。岩なんかも転がってる。
いや、そんなことより・・・“地平線”なるものまで見えるってのはどうよ?私の人生で見た事あった?

暫く―――ボ~~~~ッと、座り込んでいた。「・・・アレ?私、家に居たんじゃ・・。」
ガバッ!!思わず立ち上がる。あわわわわ・・どうしようっ!?って、ドコなの、ココっ!?

夢じゃない――――そりゃ寝てたけど。体に吹き付ける風の匂い、感触・・・。大地を踏む、足の感覚。
五感が、“現実”だと教えている。・・・あっ!私、裸足だっ!!慌てて見回すと、バックも転がっている。

良かったよ~。旅行に行くための荷物が入ったまま。履き替え用のサンダルまで入れて置いて正解v
・・・ソレもコレも、智嗣君との・・・・あぁ、止めよう。考えるの。落ち込んじゃうし。

とりあえず、サンダルを履いて歩き始めた。
「・・・淋しい。」呟いてみる。

街の雑踏を歩いている時とは違う――――絶えず流れている音楽や、人の話し声は聞こえない。
聞こえて来るのは風の音と・・遠くから獣?(恐いって)の声と、ドッドッドッ・・ジープの音・・ジープっ!?

音のする方向を探す。「・・・あっ!!」車が、ジープが走ってくるっ!潤はジープへと駆け出した。
『・・普通ならヒッチハイクなんてしないんだけど。』状況が状況だ。
とにかく今、自分がどんな事態に巻き込まれているか確認しないとっ!

「すみませ~ん!すみませ~んっ!!」なんで謝るんだろ?何て思いつつ、ジープの前に立ちはだかる。

キキキィッ・・・「どうかしましたか?お嬢さん。」
「えっと・・、道に迷ったみたいで・・ココがドコか分からないんですけど?」
何か丁寧な人だなぁ。片眼鏡(モノクル)って言うのも珍しいし・・片眼鏡っ!?

「・・・どうかしたのか。」「あ、三蔵。起こしちゃいましたか?いえ、この方が・・。」
さささささ三蔵っ!?・・・き、金髪・・よね?この片眼鏡のお兄さんは・・緑色だよ!目がっ!!

『とゆーことは・・・。』潤は後部座席を窺った。
「へーっ!?こんな荒野で、美人さんに出会えちゃうなんてねーっv」・・悟浄だ。
深紅の髪と眼を確認するまでもない。

「・・・なんだぁ?もう、町に着いたのかぁ?」悟空が眠そうに目を擦りながら体を起こした。
『うわっ!生悟空だっv・・・金鈷ついてる!・・きゅ~っv可愛いなぁ!ヤッパリ!!』

一人興奮する潤。『・・そっかー。私ってば「最遊記」の世界に来ちゃったんだ!良く分からないけど。』
きっと哀れな私の為に、神様が導いてくれたのよねv何て喜んでいたら・・・ガチャリ。「・・は?」

「・・・貴様。何者だ?」剣呑な目で睨み付けながら、三蔵がピタリと銃口を向けている。
「わっ!?私は、普通の人間ですっ!怪しい者じゃないですよっ!!?」思いっきり青ざめる。

・・そうだ・・三蔵って、無闇に他人を信用するような人じゃないんだよ・・でも、きっとココで!!

「三蔵~。女の子に向かって何て事スンだよ~。」ああ悟浄!男前v
「人間だろ?妖怪の臭いなんかしねぇもん。」いやーんvきゅーとな悟空v
「事情をお聞きしたらどうですか?三蔵。」くーっ!紳士だねぇ、八戒!

「バカか、てめぇら・・・こんなご時世に、女が一人で荒野をほっつき歩いている訳、ねぇだろうが。」
・・・いや、あるんですけど。三蔵さん。てゆーか、銃口は向けないで~っ!!

「さ~んぞ~!止めなってばぁ?女の子一人に目くじら立てなくても。」・・・へっ。この声・・・。

「・・チッ。起きたのか、バカ女。」・・・三蔵に“バカ女”呼ばわりされる女の子って・・。

「大丈夫だよ?撃ったりしないからv」起き上がって、私に微笑みかけた、この女(ヒト)は・・。

「もっ・・桃花ちゃん・・・。」 

“最遊記”は“最遊記”でも・・・・“勝手に最遊記”の中だあああっ!!・・・潤は、心の中で悶絶した。


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