勝手に最遊記

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Position ―2―



今までにも、桃花のことを邪険にしたり、足手まといだと言って憚(はばか)らなかった三蔵だが、
其れは三蔵流の冗談や、からかいの類に過ぎなかった。・・・・だが、今は。

底冷えするような冷たい雨の中、射抜くように突き刺さる三蔵の視線。
冗談では無く、“本気”・・・・・。桃花は立ちつくしたまま、動けなくなった。

「三蔵!?貴方、一体・・・。」八戒が三蔵を伺う。そして三蔵の横顔を見て、口を噤んだ。
『三蔵が本気で桃花を突き放そうとしている・・・・。』


「・・てめぇが居ると、命が幾つ合っても足らねぇんだよ。」三蔵の口から出る、冷たい言葉。

その言葉が一つ一つ胸に突き刺さって、体の自由が奪われるような錯覚を桃花は覚えた。


「おいっ・・・どうしたんだ!?」大勢の刺客を退け、悟浄と悟空が近づいて来た。
いつもと違う雰囲気に、怪訝そうに三蔵と桃花を見る。しかし、三蔵は悟浄と悟空を気にする事もなく、

「聞いてるのか?てめぇが側に居ると、俺等の命が危ねぇっつってんだよ!」一際大きな三蔵の声。

雷に打たれたかのように―――――――――・・・桃花は走りだした。

「なっ?ちょっ・・待てよ!桃花っ・・。」悟空と悟浄の間をすり抜けて行く桃花。
捕まえようと、悟浄が手を伸ばしたが―――――ガウンッ・・・鼻先を銃弾が掠めていく。

「・・三蔵っ!てめっ・・・!!」悟浄が三蔵に掴みかかったが、
「―――アイツのことは、放っておけ。」いつもと違う三蔵の表情(かお)に、沈黙した。

アッという間に桃花の姿は、漆黒の闇へと消えていった。雨足が激しくなるばかりの山の中で。
ジッと・・・・・桃花が消えていった方角を見ていた悟空が呟いた。

「桃花・・・“ゴメンね”って言ってた。」側をすり抜けて行く時。耳に届いた小さな言葉。

悟空の呟きに、八戒と悟浄が苦い顔をした。・・・一人、無表情な三蔵を覗いて。




―――――――――――桃花は闇雲に走っていた。・・・雨が目に入り、視界も定かではないが。

『ゴメン・・・ゴメンね・・・』その言葉だけが、頭を駆け巡る。

足手まといは判っていた。負担になっているのも認識していた。  でも。それでも。

三蔵達の側に居たかったのだ。側に。 そして、何かの時には―――“盾になりたい”そう思っていた。

しかし―――――――・・・『盾にさえ、なれない』・・・なれなかった。

咄嗟に三蔵を庇った筈が、結果。 三蔵が身を呈して桃花を庇ったのだ。

こんなんじゃ・・非力な自分が悔しい。
このまま側に居たら、本当に三蔵達を死の危険に導くかも知れない。いや、確実にそうなるだろう。

「キューッ・・・!」桃花の頭上で、鳴き声が聞こえた。『・・ジープッ?』姿は見えないが。
飛び出した自分を心配して、付いて来たのだろう。・・・ダメだよジープ・・・

桃花はスピードを上げた。この山の中だ。ジープが自分を見失うのも、時間の問題だろう。

『・・・もう、帰れないから。』 三蔵達の所へは。


強く降りしきる雨の中を、桃花は駆けていく。一刻でも早く。少しでも遠く。三蔵達から離れる為に。


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