勝手に最遊記

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Position ―6―



「ありがとう・・。」桃花は差し出されたカップを受け取り、素直に飲み始めた。


―――――泣き出した桃花をリビングに運び、涙が止まるまで紅孩児は辛抱強く待っていた。
早く理由を聞きたいのは山々だが、先ずは気持ちを落ち着かせる事が先決だと、判断したのである。

ソファに座った桃花の傍らにはジープが踞(うずくま)り、安らかに眠っている。

「・・そのジープとかいう白竜が居なければ・・・お前に気が付かなかった。」
向かい合わせに座った紅孩児が、眼を細めてジープを見た。

「うん・・。ジープはあたしを守るようにって、八戒ちゃんに言われてるから・・。」
―――――そう。いつもいつも。 あたしを守ってくれている。

「では、何故―――――・・・お前は一人で居たんだ?死ぬところだったんだぞ?」
紅孩児には解せなかった。以前の三蔵達の様子を見た時には、大事な存在だと確信したのだが。

「・・っ・・ソレは・・。」グッと出て来そうになる涙を堪えて、


         「あたしの存在が、三蔵達の為にならないから。」――――笑顔で言った。


眠った桃花の布団を掛け直して、紅孩児はリビングへと戻った。

――――簡単に、三蔵達の元を離れた経緯を語り・・「しょうがないよね?あたしって弱いんだモン。」
笑って見せた桃花。 その笑顔が痛々しくて。


『・・・俺の所為・・でもある。』 おもむろにバングルを取り出す。前に桃花に贈った物。
ちゃんと身に付けてくれていたのが嬉しかった。 

ソファに座り、深くため息を付く。
三蔵一行抹殺の任務から外れているとは言え―――――――牛魔王蘇生実験に加担しているのだ。

其れは、母上を―――羅刹女を救いたい、ただそれだけ。その願いを叶える為・・仕方なく。 
しかし、何の関係もない人間や妖怪が巻き込まれていく―――――・・・今の桃花のように。

それでもアイツは・・桃花は俺を責めるような事は一切言わない。

「自分のしたい事を真っ直ぐに貫く。あたしはそう言う人間になりたいし、紅君にもそうあって欲しい。」

・・・三蔵達にも、そう有り続けて欲しい。あたしが居ない方が、彼らの為になるのなら――――――。


紅孩児は手に取ったバングルを眺め、目を瞑る。

『お前には・・・辛い笑顔など、見せて欲しくない。』・・・妖力を集中し、高めていく―――――


「―――――っ!?」八戒が飛び起きた。

岩穴で、眠っていた訳ではない。

桃花への心配と、三蔵への怒りから、ずっと起きていたのである。

『・・・この、妖気はっ・・・!』巨大な妖気。先程までは感じ取ることが出来なかった。

「なぁ八戒。良いのか?悪いのか?」八戒が振り返ると、座り込んで岩肌に体を預けている悟浄が居た。

“良いのか・悪いのか”――――――悟浄も判っている。この妖気が紅孩児のモノであると言う事を。

「・・以前も、紅孩児は桃花を助けてくれました。恐らく今回も・・・。」多分、大丈夫・・そう思いたい。

「紅孩児なら、大丈夫だ。」ずっと口を利かなかった悟空が、立ち上がり雨空を眺めていた。
「・・・悟空?」八戒と悟浄が悟空を見る。

「アイツは、卑怯な事はしない。」だから、大丈夫――――――断言する悟空。

「そうですね。僕もそう思います。」「・・・だな。」八戒も悟浄も悟空の隣に並び、雨空を眺める。

「・・・・紅孩児、か。」 木の下で、三蔵が呟いた。

以前は桃花を助けてくれた――――――気を付けろとも忠告してきた。・・・大丈夫なのか?
前の事を考えれば、桃花の身の安全は保障されているだろう・・・恐らくは。


「――――――チッ。」雨空を見上げ、睨み付けた。


夜が、少しずつ更けていく――――――それぞれの想いを抱えたまま、朝が早く来るように、と。


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