勝手に最遊記

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Position ―8―


「ああ。・・顔も大分増しになったな。」テーブルにコーヒーを用意している紅孩児。
桃花を促し、ソファへと座らせた。

「・・・お前は、これからどうするんだ?」紅孩児の問いに、
「独りで、生きていくよ。元々そのつもりだったし。」サラッと答える桃花。
紅孩児はやや眉根を寄せ、
「あてはあるのか?生きて行くのに、必要な物は沢山有るのだぞ?」
「あてなんて無いよ。でもね?人間は生きて行ける。気力さえ、あればね。」桃花は笑って、

「・・でも、お願いがあるんだけど。あたしを近くの村か町にでも、連れて行ってもらえると嬉しいな・・。」
ソコから再出発をするからっ!紅孩児の前で、握り拳を振りかざす桃花。その握り拳をそっと掴み、


「・・・お前さえ、良ければ。 此処で暮らさないか?」真剣な眼差しで、紅孩児が言った。




―――――――――随分と、山道を進んで来た。

「・・こりゃ~・・思ったより、手こずるかもな。」何本目かのハイライトに火を付ける。

昨夜の強力な妖気は、大体の方角を教えてくれたものの。正確な場所までは判らない。
しかも山の中である。夜の闇こそないが、鬱蒼(うっそう)とした木々が、行く手を阻み、視界を遮る。

八戒も神経を集中させるが、ジープの妖気も掴めないでいる。『もしかすると・・結界の中にでも?』
思わず不安が込み上げてくる―――結界の中だとしたら・・自分達には探し出せない・・「――こっちだ。」

三蔵がスタスタと歩き出す。慌てて後を付いていく悟空達。

「三蔵!・・なんで判るんだよ?なーっ?」悟空が追いすがりながら、三蔵に問う。
「いちいち煩せぇな・・。カンだよ、カン。面倒くせぇだろうが。」言い捨ててドンドン先を行く。
『・・・カン・・って。』唖然とする悟空。

「大丈夫ですよ、悟空。」八戒が立ちつくしている悟空の肩に、手を置く。
「そうそう!なんてったって、最高僧の三蔵法師様なんだからよ!?」悟浄が揶揄する。

「・・・そう、だよなぁ。」思わず青空を見上げる悟空。『・・・桃花。』それでも、不安は消えない。

汗ばんだ額に手をあてる。眩しい日差しがすこしだけ恨めしい。 無事で、有りますように。




「ココで?暮らさないか・・って?」桃花は困惑を隠しきれない。まさかそんな誘いを受けようとは。

「この屋敷の周りには結界を張ってある。暴走した妖怪共も入っては来られない。食料や生活に必要な物は調達しよう。
たまには俺も顔を出すし、独角や妹も来させる。どうだ?」

「・・どうって・・・。」思わず小首を傾げる。「どうして紅君は、あたしに良くしてくれるの?」
桃花の問いに、少し考え込んだが

「―――――俺は、“償い”をしたいだけなのかもしれない。」苦い顔で言った。

「・・償い?」「そうだ。自分の為に、罪もない人間や妖怪を巻き込んでしまった・・その罪に対する償い。」
「そんな事は・・「あるんだ、桃花。」些(いささ)か、強い視線をぶつける。

「以前、お前に“自分の為にする事に迷いも戸惑いも持つな”・・そう言われて随分、楽にはなったが。」
桃花の手を離し、軽くため息をつきながら
「それでも不幸な人間を見たくはない。俺の勝手だが、お前に対して出来うる限りの事をしてやりたい。」

テーブルに肘を付き、額を押さえる紅孩児。 その表情(かお)は、とても辛そうで。

「・・・紅君。でも、あたしは・・。」言葉を切った。顔を上げた紅孩児の眼に見つめられて。
「お前の目的は判っている。・・其れを俺に任せてくれないか?」
「な・・何を言ってるの?あたしの目的は、桃源郷を元に戻す事なんだよ?」

―――――――――――桃源郷を、元の妖怪と人間が共存できる世界へと戻す・・・
混沌と破壊をもたらす紅孩児側とは、立場と目的が違う。


「確かに俺は、牛魔王蘇生の為に動いている・・・自分の目的のために。だが牛魔王が復活し、
目的が遂げられた暁には・・・・この俺が、牛魔王を倒してみせる!」

「だっだって!牛魔王って、紅君のお父さんでしょ?」「アレは父親などではないっ!断じてっ!!」

私利私欲のまま人間を喰らい、破壊の限りを尽くし・・・羅刹女をないがしろにして、あんな女狸と・・。

桃花はマジマジと紅孩児を見つめた―――――――『本気・・なんだ。紅君。』
牛魔王を倒す―――目的のために復活させ、また倒す・・・出来るのだろうか?そんな事が。

でも、目の前の紅孩児は真剣で・・本気。彼は命を賭けて、やり遂げようとするだろう。

「・・・紅君。あたし、紅君が本気だって判ったから。信頼してるよ?」
「そうかっ・・それなら・・・「でもね!?」

桃花は紅孩児の手を取った。

「でもね・・・あたしも命、賭けているんだよ。紅君に負けないぐらい、命張ってるんだよ。」
そう言って、笑った。


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