勝手に最遊記

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Boys Meets Girl ―9―



突然だった。 突然、村人達が凶暴化した。

錯乱状態の村人が互いに殺し合い始める。

泣き喚く、子供達も殺された。 自分の父や母に。


河の様子を見に、村の外へ出ていた桃花が帰った時には、さながら地獄絵図の様であった。

「なん・・・で?」訳が分からない。村へ入ろうとした桃花を止めた手があった。

「・・大桷!」
大桷は傷だらけだった。頭や体のあちこちから血を流し、息も荒い。

「どうしたの?これは一体どういう事なの!?」
「分からない・・。大人達がいきなり暴れ出して、殺し合いを始めたんだ。
何がどうなってるのか・・・。とにかくココから逃げよう!!」

走り出そうとする大桷を止め、
「待って!大桷のお父さんや、お母さんも!?それに・・。」「・・・妹は死んだ。」

「父さんが・・父さんが殺したんだっ。」そう、吐き捨てるように言った大桷の悲痛な顔が、
村に起きた惨劇の様子を物語っていた。

「大桷・・・。」大桷の震えている肩をそっと抱き寄せたとき、
「人間だぁ~!人間が居るぞぉ~!」「喰ってしまえ!!」村人達が目の色を変えて走ってくる。
それは桃花が親しくしていた隣家の小父さんや小母さん達であった。

「逃げるぞ桃花っ!」大桷が桃花の手を引いて走り出す。

追いすがる村人の手を振りきり、逃げて逃げて逃げて・・・。

「・・・大桷が“秘密の道”って名付けていた麓の町までの道がなかったらもう、そこで
駄目だったのかも知れない。」

やっとの思いで山から下り、町へ辿り着いた桃花と大桷が目にしたのは・・・
妖怪に襲われて、燃えている町であった。

「・・・そんな・・。」ガックリと膝を落とした桃花に、「桃花、立って!」大桷が小声で叱咤した。

「この先に急流だけど河がある。そこに小舟があるのオレ知ってる。行こう!きっと大丈夫だから!」
桃花の顔に微笑みが浮かんだ。
「・・んっ!二人で頑張ろう!」そう言った桃花の顔を切なそうに大桷が見た。

「桃花・・・俺・・・。」言いかけた大桷の言葉を遮るように、
「まだ人間が居たぞー!!」「こっちだー!!」
妖怪達が襲いかかってくるのを、大桷が必死に抵抗する。

「大桷!!」「・・・先に行けぇっ!俺も行くから!早くっ!!」自分が居ては足手まといになると
判断した桃花が河へと走り出す。

大桷も何とか振り切って桃花を追ってきた。

河岸に着いた二人は目を見張った。

昨日からの雨で、河の水が溢れている。小舟が河岸に繋がれているが、濁流に呑み込まれそうである。

「・・・無理なんじゃないかな・・。」不安で胸が詰まる。
「でも、行くしかない!桃花、早く乗れっ!」

追っ手がすぐ近くまで近づいていた。

桃花が何とか小舟に乗り込んだが、木の葉のように心許ない。

河岸に繋がれている綱を掴み、「大桷ー!早く来て~!」そう叫んだ桃花に、

「ゴメン・・・俺、行けないや。」背中を向けたまま、大桷が言った。

「何?なんて言ったの?」河の音が煩くて聞こえにくい。

「・・・俺は行けないから!!」ハッキリ、大桷が叫んだ。

「何、言ってんの!?大桷、早くコッチに来て!!一緒に行こうよ!殺されちゃうよ!?」
「もう、駄目なんだ・・。俺、もう駄目なんだ!」「何を言って・・・。」

大桷が振り向いた。とても苦しそうな顔をしている。

「・・・頭の中、変な声が聞こえる。だんだん大きくなって・・・俺の心がなくなっちゃうんだ。
もう、耐えられそうにないから・・。」「・・大桷・・!?」

「俺、桃花のこと、ホントに嫁さんにしたかった!最後まで守ってやれなくってゴメン・・。」

大桷が石礫(いしつぶて)を飛ばす――――――小舟を繋いでいる綱が切れた。

「大桷っ!!」勢い良く流れていく小舟から桃花が叫ぶ。

最後に大桷は、切ない・・・とっても切ない、笑顔を見せて・・・

「うおおおぉぉっ!!」追ってきた妖怪の群に突っ込んで行った。


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