勝手に最遊記

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Curse ―7―


椅子に腰掛け、か細い声で淡々と話し始めた樹來。その眼はやはり悲しげで。

「その森で・・・・百年近くも前に、私と姉が産まれたのです。」


人も通わぬ森の奥深く

ひっそりと  


人間のように 父 母もなく


ただ 静かな 


自然が 木々が


産み落とした


双子の姉妹


「姉の名は樹玲(ジュレイ)・・・死にかけています。」樹來の緑の眼から大粒の涙が、零れた。






「・・・・これは・・・。」八戒が、呟いた。

森の奥深く。
木々が密集していて、人が容易には近づけなかった場所にポッカリと空間が広がっている。

その空間の中央に、大きい古木が生えていたが・・・・その幹の中心に、穴が開いている。
穴は楕円形で、くり貫かれたような形状をしていた。そしてその穴の中に・・・・

「・・・少女?」
小さな女の子が入っているのだ。穴には蓋をするように透明な板が填(は)められていて、
中には緑色の液体が一杯に詰まっている。
少女は液体の中で、ユラユラと揺れながら眠っているかのようだ。


「死んで・・・いるのか?」悟浄が伺う。
「それは・・何とも。ですが、この中に詰められている液体。
悟空と桃花にかかった液体じゃないですか?」八戒が慎重に古木に近づく。

三蔵が懐からマルボロを取り出し、火を付けた。
「・・・どっかで見たような光景だとは思わねぇか。」

ハッと八戒が悟浄を見る。
「あっ・・。成る程・・・そう言う事ですか。」深く頷く八戒に、
「あんだよ?俺の顔見て・・説明しろっての!」悟浄が苛立ちの声を上げた。

「悟浄。カマキリ女の栄養源として、カプセルに閉じ込められた時の事、覚えていますよね?」
「んあ?イヤな事、思い出させんなっつーの。ソレとコレとどーゆー関係・・「あるんですよ。」
「そっくりなんだよ、この状況がな。」紫煙を吐きながら、三蔵が古木を睨み付けた。




「私達姉妹は・・・森の奥深くで、静かに暮らしていました。」

父や母はなくても。森の自然が、育ててくれた。
木の声を聞き、動物たちの感情を心で感じ、風に謳う――――――――そんな平和な毎日。

「・・・貴方にも、判るでしょう?大地の力を・・・豊かさを。」樹來が真っ直ぐに悟空を見つめる。
「お前・・?俺の事、知ってるのか?」悟空の問いに、ゆっくりと首を振り
「知らないわ。でも、感じるの。貴方から・・大地の力。オーラーを。」樹來が薄く微笑む。
「そんな日常の中で・・・・姉が倒れたの。」


―――――――――――突然、姉が倒れた。「・・樹玲!!」

悲痛な叫び声を上げる幼子。

同じ顔をして、同じ声音を持つ、たった一人の双子の姉が・・・・意識を失い、倒れた。

倒れた樹玲の身体が・・・どんどん変色していく。白い艶やかな肌が薄茶色に染まり、ひび割れていく。
呼んでも返事もなく、ただ、枯れていく木のように・・・・「樹玲っ!」樹來は空を仰いだ。

木々に問うても・・・・動物達に心を通わせても・・・・誰も。誰も、応えてはくれない。

「樹玲・・・樹玲・・・・。」幼い樹來は、手を握って名前を呼ぶことしか出来なくて。
このまま樹玲が死んだら・・・・自分も一緒に死ぬしかない。そう、幼心に決めたとき、

「こんな所で・・・・可愛いお嬢さん。どうしたのかな?」 
聞いたことのない、人間の男の声が降って来た。


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