勝手に最遊記

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Curse ―8―



“ニンゲン”――――――木や、動物以外の生物。

その知識は有ったものの。こうして見るのは初めてだ。


「アレレ~?この子、死にかけてるね?」男は親しげに近寄り、倒れている樹玲の額に手を当てた。

「なるほど・・・。」男はブツブツと呟きながら、樹玲の身体を調べ始めた。
その様子を、樹來は見守っている事しか出来なくて。

おもむろに男は立ち上がった。
「ね。この子を助けたい?」男が樹來に向き直る。漆黒の眼を持つ男は、卑しい笑みを浮かべていた。

『・・・このニンゲンは・・・・。』心で警報が鳴る。 だけど、「・・はい。」小さく頷いた。
樹玲を助ける為なら――――――「どんなことでも・・するから。」

「イイ心がけだねv」男が笑みを深くした。「どんなことでも・・・だよ?」男の言葉に、再度、頷く樹來。

それが、“どんなこと”をするのか・・・・・幼い樹來には、分かるはずもなかったのだ。


「・・・それから、男は色々な機材を持ち込んで来ました。私には分からなかったけれど、
治療する方法を探していると思っていたのです。」


――――何日も何日も、不眠不休の作業が続く。疲れ果てた樹來が、眠り込んでしまったある日・・・。

「お嬢さん、お姉さんは助かったよ。」男の声に、樹來が飛び起きた。

「樹玲!樹玲っ・・・・!」駆け出して、樹玲の姿を探した樹來の眼に映った姿は―――――――


自分達を産み落とした、古木の幹の中で眠っている・・・・変わり果てた樹玲の姿だった。

樹來の眼から、半透明の緑色の涙が溢れた。
「・・・男は、言いました。“コレしか方法はなかった”と。」
「コレしか方法は無かったんだよねぇ。」幹に縋って泣く、樹來に向けて言い放った。

「生きてるよ。ホラ。眼も開くし。」樹來の眼に・・・緑色の液体に浮かぶ樹玲の姿が映る。
男の言う通り・・・樹玲の意識が戻っているようで、眼を開け、僅かに口元が動いている。
―――――――何を伝えたいのか、何を考えているのか・・・触れることさえ、敵わない姿だけれど。

男が耳元で囁く。
「ね?生きているでしょ?僕は約束を守るヒトだからねぇ。」クスクスと嗤い、

「今度は、キミが約束を守る番だよ。」

「・・・約束・・・。」呆然と樹玲を見つめる樹來へ、「いつまでも、生きていて欲しいんだよね。」
麻薬のような男の言葉に・・・・樹來は頷いていた。


「何て言ったんだよ?その男は?」悟空の語気が荒い。その男に対して、かなり憤慨しているようだ。
こぼれ落ちる涙を止め、樹來が言葉を紡ぐ。
「・・・男は、説明を始めました。」


「この緑色の液体。コレ、お姉さんの命を繋いでいる媒体なんだv難しい話は省略するけど、
キミ達みたいな木の精霊の類が生きていく為の、栄養源みたいなモンだよ。」男が煙草を取り出した。
「で、コレもずーっと同じ液体ってワケにはいかない。腐っちゃうからね。」プカーッと煙を吐く。

この男が何を言い出すのか・・・予測の付かない樹來は、黙って話を聞いている。

「でね?この液体自体に栄養を注入しなきゃならない。ソレがキミの役目。判る?」
コクン、と頷く樹來に眼を細め
「・・・・その栄養を与えるための方法を、キミに教えてア・ゲ・ルv」可笑しそうに男は笑った。

「まさか、その方法が・・・・・。」桃花が自分の髪を掴んだ。

「はい。・・・他人から生命力を奪う。液体をかけて、呪詛のように相手から吸い取る方法を
あの男が私に教え込みました。」

悟空が椅子を蹴って立ち上がった。
「何なんだよ!ソレ!!その男も!お前もっ!自分さえ良けりゃいいのか!?自分の大事なモノさえ
守れれば・・・他人がどうなったってイイのかっ!?」
「悟空ちゃんっ!!」桃花が必死に悟空を抑える。
「離せよ桃花っ!コイツも・・その男も・・「この人だって、被害者なんだよ!!」
――――――――――桃花の言葉に、悟空がハッとした。

樹來は身体を震わせて踞っていた。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・。」顔に手をあて、小さく繰り返している。

樹來の肩に、桃花がそっと手を置いた。
「・・・あたしには、判るから。あたしだって、自分の姉を救う為なら・・なんだって出来た。
なんだってシタよ?・・・例え、血が繋がっていなくても。」

「・・・桃花?」悟空が戸惑う。『桃花が・・こんな淋しそうな表情(かお)するなんて。』
―――姉妹が居たのは聞いていた。でも、“血が繋がっていない”と言うのは初めて聞いた。

悟空に振り返り、笑いながら
「血の繋がりとか、種族の違いとか、どうでも良いことなんだよね。大切な“誰か”を守る為には。」

・・・・その笑顔が、ナゼカ切なくて・・・・悟空が目を伏せた。


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