勝手に最遊記

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Curse ―10―



樹來は、緑色の血飛沫をあげながら――――――――ゆっくりと土に、ひれ伏した。

「・・・このっ!」悟空が飛び出そうとしたのを、「・・お願い・・・樹玲・・だけは・・。」
顔を上げ、息も絶え絶えに―――――樹來が哀願した。

「・・・っ!なんでっ・・!?」悟空が歯がみする。
「だって・・・たった一人の・・・。」樹來の眼から、涙がこぼれ落ちた。

「・・・・?」桃花が古木を見ると、古木の中にいる樹玲が何かを訴えている。
声も聞こえず、僅かに動く口元を見ても・・・・なにを言いたいのか、判らないが。
『・・・でも!!』

「悟空ちゃんっ!かまわないから、叩き割って樹玲を解放してあげてっ!!」
「えっ!?」突然の桃花の声に、悟空どころか皆が驚愕した。

「や、止めて・・・。」弱々しく訴える樹來に、
「樹玲は・・あなたのお姉さんは、あなたの命を犠牲にしても、自分が生きたい願うヒトなの!?」
「そっ・・・それはっ・・・!」
「あなたが樹玲を想うように・・・樹玲だってあなたを想ってる!!」

桃花の言葉に、悟空が飛んだ―――――「うおおおおぉぉっ!!」

渾身の力で如意棒を叩きつけたっ・・・・ガアシャアアンッッッ―――――――
古木に填められていた硝子が、粉々になって砕け散る。

大量の液体と共に、樹玲の小さな体が流れ出て来た。「樹玲っ・・・!」樹來が悲鳴のように叫んだ。

「じゅ・・・ら、い。」弱々しく、それでも樹來の側へ・・・樹玲が歩み寄る。
「樹玲・・。」固く、抱き合う樹玲と樹來。

樹玲は・・・10歳ほどの子供の姿で。樹來は、成長した20歳頃の女性の姿で。
もはや、双子には見えない。それでも・・・・・流れ落ちる涙が、二人の絆を示している。

「ゴメン・・ね。あなたにツライ、思いをさせて・・・。」幼子の姿の樹玲が、樹來の髪を梳く。
「・・いいの。だっだって・・・樹玲が・・。」樹來が苦しい息の最中、言葉を紡ぐ。
「・・私は、とうに死んでいたの・・・・もう、枯れていくだけ・・・。」言いながら樹玲の体が
急速に変色し、ひび割れていく・・・・「樹玲っ・・・!」樹來がかき抱く。

「楽に・・・・なり、たい・・・。」幸せそうな微笑みを顔に浮かべ、樹玲が崩れ落ちる。
「あ・・・あぁ・・。」 やっと、樹來は悟った。

枯れていく生命(いのち)を繋ぎ止めることなど・・・誰にも、最初から出来なかったのだ。
なのに――――無理矢理、他人の命を奪い・・・生かし続けた。
どれほど・・・樹玲は心を痛めていたのだろう?木の中に封印され、人の生命を妹が奪う。
そして、その生命によって自分が生きながらえる―――――・・・。

樹來が、顔を上げた。
「ありがとう・・・・。」そう、にっこり微笑んで・・・・樹玲に折り重なるようにして倒れた。

「樹來・・・・・樹玲・・・・・・。」自然が産み落とした双子の姉妹は、土に還ったのだ。

「・・桃花っ!退がれっ!!」悟空が叫ぶ。
古木が。ザワザワと枝を揺らしている・・・・主軸の樹玲を失ったはずなのに、
まるで餌を求めるようかのように・・太い幹がウネウネと伸びつつあった。

キッと桃花が古木を睨み付け、「・・・っ!!」古木に向かい、猛然と走り出した。
「桃花・・・あぶっ・・」悟空の制止を八戒が止める。「大丈夫ですよ。桃花には・・。」
―――――八戒の言葉通り・・・・腕に付けている桃花のバングルが、紅く・・光った。

桃花に向けて、次々と放たれた幹を炎が襲う。火炎が渦巻き、古木を猛火が押し包む・・・・
ゴオオオォォッッ――――――風に煽られ、巨大な古木がアッという間に焼き尽くされる。

「桃花っ!・・ほら、もういいって!」悟空が慌てて桃花を連れ出す。
炎は桃花に決して近寄らないが、倒れてくる古木に桃花が巻き込まれては敵わない。

「・・・あぁ。」古木が倒れ―――――樹玲と樹來を巻き込み・・・・一緒に焼かれていく。

「救えなかった・・・・。」ポロポロと大粒の涙を零しながら、桃花が膝から崩れ落ちた。
―――――救えると思っていた。救えるはずだと・・・思っていたのに。

「・・・てめぇの命一つで、何でも救えるなんて思うんじゃねぇ。」
「三蔵・・・。」
燃えさかる炎を見つめながら、
「命張ったって、救えないモノは救えない。だからこそ、懸命に生きて行くんだろうが。」
でなきゃ・・・・・生きて行けねぇ。

ザッと三蔵が土に座った。
「魂は、救ってやったんだろうが。」そう言って、紫暗を閉じ・・・・・三蔵が経を唱え始めた。

――――――俺の経は、死んで逝った者の為じゃねぇ――――――滅多に聞かない、三蔵の経。

桃花は息を飲む。『・・・・初めて、聞いた。』・・・・・低く、だけど深く。

心に沁みいる三蔵の経――――――――強く、強く、高らかに。

『三蔵って・・・“三蔵”なんだ。』

誇り高く、唯一無比。       本当に、“太陽”みたいなヒト。

いつしか、桃花の涙も止まっていた。

樹玲・・・樹來・・・幸せに・・・・・・皆の周りを、風が吹き抜けていく。
あたかも、空へと昇る煙が――――――――――双子の姉妹を天へと昇らせていくように。


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